次の休日…俺――兵藤一誠は、とある場所へ向かっていた。
朱乃さんに呼び出されたんだ。部長も用事が終わり次第、向かうと言っていた。何の用事だろうか?エッチな妄想が膨らむが、部長が後から来ることは…エッチな展開は皆無に等しいだろうな。
ライザー戦以降、朱乃さんが
――その後、朱乃さんは部長とよく火花を散らしている。俺の取り合いになって、魔力のぶつかり合いなんて日常茶飯事になっていた。何でも「幼馴染を取られたくない」だそうです。部長なんて「私のかわいいイッセーを朱乃に取られたくない」と言っていた。幼馴染冥利と下僕冥利に尽きる!男としてかなり複雑なんだけどね。
「(今度、朱乃さんのお父さんとお母さんに挨拶に行かないといけないな……ん?今から朱乃さんに会うんだから、家にいるってことだよね?それなら、挨拶を兼ねてお邪魔するのかな?)」
なんて思いながら町のはずれに足を運ぶ俺……って、よく考えたらその時点でエッチなことはできないじゃん。
視界に入ってきた石段。その石段が伸びる先には――赤い鳥居が大きく構えていた。
そう!俺のいる場所は神社の前なんだ。
「(そういえば、朱乃さんのご自宅って神社だったな。幼いころよく遊びに行っていたのを覚えている。場所は忘れたけども)」
あ~、神社って
行けないじゃん!って、朱乃さんが入れるんなら俺も平気か。
俺は決心して石段を一つずつ上っていく。――っと、半分ぐらいまで上った時、俺は鳥居の下にいる人影をとらえる。目を凝らして見ると――その人影は見知った顔だった。
「いらっしゃい、イッセーくん」
「あ、朱乃さん?」
そこには巫女衣装を身にまとった朱乃さんの姿があった。
俺は石段を上りきり、朱乃さんの横に立った。
「ゴメンなさいね、イッセーくん。急に呼び出してしまって」
「あ、いえ。俺もやる仕事がなくてヒマだったりしたんで。でも、何の用でしょうか?それと、部長が後から来るそうなのですけど……」
「ええ、知ってますわ。リアスは会談の件でサーゼクスさまと最終的な打ち合わせをしなければいけませんから」
大丈夫なのかな?朱乃さんは部長の『女王』なのに――。
「だいじょうぶですわ。あちらはグレイフィアさまがフォローしてくださるでしょう?それよりも私は本殿でお待ちしておられる方をお迎えしなければならなかったものですから」
俺の思考を読み取ったように教えてくれる朱乃さん。そんなに俺は表情に出ていたのかな?
俺はその『お方』がいるという本殿を見た。
「(ん?記憶と違うような――)」
俺は疑問に思ったことを朱乃さんに訊いてみた。
「あの、ここに朱乃さんは住んでいるんですよね?」
「ええ、先代の神主が亡くなり、無人になったこの神社をリアスが確保してくれたのです」
「……ここって実家じゃなかったんですか?」
「あらあら、実家は向こうですわ」
朱乃さんは俺の後ろを指さす。
その方向を見ると、全く逆方面で遠くに神社がぽつりと見える。
「彼が赤龍帝ですか?」
その時、第三者の声がした。そちらへ振り向くと、そこには――。
「初めまして赤龍帝、兵藤一誠くん」
端正な顔立ちの青年は豪華な白ローブに身を包み、頭の上には金色に輝く輪が漂う。
「え~と、あなたは?」
俺の問いに青年は答えた。
「私はミカエル。天使の長をしております。――なるほど。このオーラの質、まさしくドライグですね。懐かしい限りです」
青年――天使長のミカエルさんの背中から金色の一二枚の翼が出現して、輝く金色の羽が宙を舞った。
部長から聞いてたんだけど、頭の上にある輪と白い翼は天使の証だ。ミカエルさんは金色の輪と金色の翼を持っているってことは……チョー大物じゃん!!天使長って言ってたし。
朱乃さん先導のもと神社の本殿内に入る。
かなり広めの本殿内は、でかい柱が何本も立っている。すると、中央から言い知れない力の波動を感じ、俺の肌をピリピリと刺激してきた。この感じは…コカビエル戦の時、兄さんが持っていた二本の大剣に近いものだろうと思う。
「実は、あなたにこれを授けようと思いましてね」
ミカエルさんが指さす方を見ると、そこにあったのは聖なるオーラを放つ剣が一本宙に浮いている。
「――聖剣、この感じ……まさか、『
あの時、兄さんから『お前は
「よくご存知でしたね。これはゲオルギウス――聖ジョージといえば伝わりやすいでしょうか?彼の持っていた『
ゲオ……何?聖ジョージとか言われてもなぁ。兄さん辺りなら知っていると思うけど、俺は名前自体聞いたことないぞ?
『有名な
聖剣で
『あぁ。悪魔と龍の属性を持つ相棒が掠りでもしたら、激痛を通り越して死ぬほど痛いぞ?』
やめて!想像しちゃうじゃないか!できないけども!
「ご安心ください。特殊儀礼を施しているので、悪魔でドラゴンでもあるあなたでも扱えます。あなたが持つというよりは、『
「同化…ですか」
『できないことはないぞ?』
俺の中でドライグがそう言う。
『おまえ次第だがな。神器は想いに応える。おまえがそれを望めばできるだろう』
そう…なのか?やってみる価値はあるけど、その前に気になっていることがあるから訊こう。
「何故、この剣を?貴重な
俺は悪魔であり、中にいるドライグは大昔の戦争で大きな迷惑をかけている。最悪な存在のはずなんだけど……ミカエルさんはそんな俺に微笑んで答える。
「私は今度の会談、三大勢力が手を取り合う大きな機会だと思っています。すでに知っているようですから話しますが、我らが創造主――神は先の戦争でお亡くなりになりました。敵対していた旧魔王たちも戦死。堕天使の幹部たちは沈黙。アザゼルも戦争を起こしたくないと建前上は口にしています。これは好機なのです。無駄な争いをなくす為のチャンスなのです。今まで通り小競り合いが続けば、いずれ三大勢力は滅びます。そうでなくても、他勢力――龍介たちが黙ってはいないでしょう。家族を守るために龍介は三大勢力を粛正します。そうならなくても、他の神話体系、その他の組織などが横合いから攻め込んでくるかもしれません。その『アスカロン』は私から悪魔サイドへのプレゼントです。もちろんですが、堕天使側と龍介の『
今の会話の中に訊きなれない単語が出てたので、質問してみる。
「…すみません。『暁』って何なのでしょうか?」
「そうですね。龍介が最近設立した組織みたいですね。少数精鋭部隊だそうです」
「…そうですか。兄さんも会談に出席でした」
俺は少し納得する。
「話は戻りますが、私たちは過去に一度だけ手を取り合ったことがあります。あの時のように再び手を取り合うことを――赤龍帝であるあなたに願いをかけたのですよ?日本的でしょう?」
あ~、そうだった。暴走ドラゴン二体のおかげで、三大勢力は一時的に手を組んだんだったな。
『……暴走ドラゴンで悪かったな』
ドライグが拗ねた声音で言う。
皮肉なものだな……まあ、天使長さまが笑顔で言うのだから、本音なのだろう。
さっきミカエルさんが言った『同化』するために俺は聖剣『アスカロン』を握ろうとしたけど、怖くてなかなか手を出しにくい。
「その聖剣は、この神社で最終調整をしました。サーゼクスさま、アザゼルさま、ミカエルさまの各陣営の術式と龍介さんが特殊な術式を施しています。イッセーくんの意志によって聖剣が力を発揮できるように仕上げられていますので、イッセーくん次第でダメージを与えることもただの剣撃にすることもできますわ」
そこに朱乃さんが補足を加えてくれた。
「……兄さんが!?いつの間にそんなことを」
正直驚いた。魔王さま、アザゼル、ミカエルさまが調整してくれたのは納得いったけど、兄さんがねぇ……。
宙に浮くアスカロンを恐る恐る握ってみる……言われた通り、何も起こらない。聖なるオーラは感じているけど、ダメージはないっぽい。
『相棒、ブーステッド・ギアに意識を集中させろ。あとは俺がフォローする。――手に持っている聖剣の波動を『
難しことを言うなよ。
そう思いつつも、俺は
すると、嫌なオーラが流れ込んできたが……すぐに心地よいモノへと変化してドライグの力と混ざり合っていく感覚がした。
パァァァァ!!!
赤い閃光とともにアスカロンと
「……マジで合体しやがった」
俺の
「と、時間ですね。そろそろ私は行かねばなりません」
俺の
俺は慌てて思い出したことを質問した。
「あ、あの。俺、あなたに訊きたいことがあるんです」
「会談の席か、会談後に聞きましょう。必ず聞きます。約束しましょう」
そう言われて、光包むミカエルさんを俺は見送った。
D×D
「お茶ですわ」
「あ、ありがとうございます」
ミカエルさん帰ってしまった神社。俺は朱乃さんが生活をしている境内のお家にお邪魔している。中に入ると…廊下はフローリングだけど、室内は立派な和室だった。
湯呑に入れられた温かいお茶を受け取って少し飲む。
「朱乃さんは、ミカエルさんとここであの
「はい。イッセーくんが来る少し前まで、龍介さんも一緒にアスカロンの仕様変更を行っていたのです」
部長も朱乃さんも忙しいのに、俺のために時間を割いてもらっている。頭が上がらない思いだな。
「あ、朱乃さん。一つ質問してもいいでしょうか?」
「ええ、もちろんですわ」
俺は前から気になっていたことを、さっき思い出したので訊いてみることにした。
「…朱乃さんのお父さんは、堕天使幹部の方でしたよね?」
「……そうよ。私は堕天使の父と人の母の間に生まれた者」
朱乃さんの声のトーンが低くなって、表情が暗くなった。
朱乃さんはすぐに元の表情をして、俺を見つめて話す。
「イッセーくんは知っていると思いますが、母はあの神社の娘です。ある日、傷ついて倒れていた堕天使の幹部である父を助け、その時の縁で私を身籠ったと聞いています」
カミュの言っていた通りだ。俺は転生後にそのことを聞いたんだ。
俺は話を続けるかどうか迷ってしまい黙り込んだ。その時、朱乃さんが巫女衣装をはだけさせ、背中から翼を展開させる。
「堕落した天使の翼。悪魔と堕天使、私は両方の翼を持っています」
俺は朱乃さんのその姿を見たとき、見惚れてしまっていた。
「……イッセーくんはどう思います?堕天使は嫌いですよね?あなたとアーシアちゃんを一度殺し、この町を破壊しようとした堕天使にいい思いを持つはずがないわよね」
俺は正直に答えようと思った……偽ったら朱乃さんを余計に悲しませると思ったから。
「……堕天使は嫌いです」
それを聞いた朱乃さんは、悲しそうな表情をして瞳には薄ら涙を浮かべていた。
しかし、俺は構わずに言葉を紡ぐ。
「でも、全ての堕天使を嫌いになったわけじゃありません。俺は朱乃さんのことは大好きです」
「――っ」
その言葉を聞いた朱乃さんは……驚いている様子だった。
「……すみません。俺、無神経すぎますよね。あの事件が起きた後、朱乃さんとバラキエルさんが疎遠になっていることをカミュから聞いています。やっぱり、余計なこと聞いたかなって……今、後悔しています。本当にすみません」
「そうではなくて……悪魔に転生しているとはいえ、私は堕天使の血を引いているのよ?――私はイッセーくんに嫌われるのが怖くて、あなたにあんな風に近づいたのかもしれないのよ?いいえ、きっとそう。私は……最低な女だわ」
俺は朱乃さんの言葉に首を横に振って、正直に……自分の気持ちを言う。
「そんなの関係ないっ!さっきも言った通り、俺は全ての堕天使が嫌いじゃない。朱乃さんの翼は、俺とアーシアを殺したあいつらと違い、穢れていない。――さっき、朱乃さんの堕天使の翼を見たとき、俺は見惚れてしまったんですよ?……小さいころもよく一緒に遊んでいたし、俺が悪魔に転生した後……カミュから朱乃さんの出生のことを聞いた時も全然嫌いになりませんでした……というよりも、その真逆です。俺は朱乃さんのことが好きです………って、俺って何言っているのかな?すいません。訳のわからないことを言ってしまって」
正直に言うはずだったのに、自分でも訳が分からなくなって……フォローどころか、朱乃さんを泣かせてしまった。
「(ど、ど、ど、どうしよう!?女の子を泣かせたなんて男……の前に、兄さんから
慌てている俺の眼前に朱乃さんは座り、涙を拭って微笑みを見せた。
「……殺し文句、言われちゃいましたわね。そんなこと言われたら、もっと本気になっちゃうじゃないの……」
……うん?最後の方は聞き取れなかった。しかも「殺し文句」?俺、悪いこと言ってしまったのか?
眼前に座っていた朱乃さんが、いきなり俺の方へ――傾れかかるように抱きついて押し倒してきた。
「あ、朱乃さん?」
反応に困っている俺をよそに、朱乃さんが耳元で囁く。
「イッセーくん、リアスのこと好き?」
「え?は、はい。もちろん好きです」
「……そうよね。あちらも本気でしょうから……それに、アーシアちゃんや白音ちゃんたちも本気でしょうから――」
はて、何のことでしょうか?って、何故にアーシアや白音ちゃんのことが出るの?
「ねぇ、イッセーくん」
「は、はい!」
「私と同じ堕天使の翼を持つレイナーレ達のことはどう思っているの?」
もっと斜め上の質問が飛んできた。
「え?え~と……好きですよ?初めて会った時にしようとしていた計画は許せませんでしたけど、根は優しいと思います。アーシアと仲直りできましたし、ゼノヴィアとも仲良くしていますよ」
「そうよね……一位と二位を取るのは難しいわね」
一位と二位?朱乃さんが考えていることが全く読めない。
「三番目で構いませんわ。少し難しいでしょうけど、割といいポジションだと思いますわ。何より、浮気って感じで燃えますもの。うふふ、イッセーくん。もっと甘えてくださらないかしら?部長の代わりに膝枕をしてあげますわ」
「マ、マジ?」
「はい、マジですわ」
膝枕きたっ!!他のことはわからなかったけど、膝枕だけは理解できたぞ!
「ねぇ、イッセーくん。私のこと『朱乃』って呼んでくれる?」
「え?いくら幼馴染でも、先輩と後輩だから……」
「じゃあ、一度でいいから。お願い」
「あ、朱乃……」
俺は朱乃さんの涙目に折れて、一度だけ名前で呼んだ。
「……うれしい。イッセー」
ギュッと抱きしめる力を少し強くしてきた朱乃さん。いつもと違い、幼いころとまた違う……普通の女の子の声になっていた!
「ねぇ、これから二人の時は朱乃って呼んでくれる?」
俺の頭が沸騰して、ショートしかけた。
甘えるような声……そこにいたのは、いつも凛とした『副部長の姫島朱乃』ではなく、一人の女子高校生になってしまっていた。
それに、俺の胸へ押しつけられたおっぱいの感触がやわらかい!
朱乃さんは起き上がると、俺を膝の上へ誘導して膝枕の体勢へ。
そして、朱乃さんが俺の頭を撫でてくれる。もう、心地よくて眠気が……。
「こんなところを部長たちに見られたら――」
俺は目を瞑り、何気なく囁いた。
こういう時に高い確率で登場する部長のことを完全に忘れていた。
「部長が……何かしら?ねぇ、イッセー?」
「…………」
まさかね?うん。そのまさかだよ。
俺は顔を部屋の入口へと向ける。
体が凍りついた。入口に立っていらっしゃる部長から……膨れ上がった紅色のオーラを全身に解き放つ様子が見て覗えたから。
「(――殺されるッッ!!)」
俺は直感でそう思った。
「油断も隙もないわ……。私以外の膝で膝枕なんて……ッ!」
「(え?私以外?そっか。部長は俺がアーシアたちに膝枕をしてもらっていること、知らないんだ……。って、これ以外の膝枕がばれたら……死刑執行だよね?今もそうなりつつあるけど……)」
ぎゅっ!
「
痛い!俺の頬が部長に思いっきり引っ張られる。
そして、低く凄味のある声音で部長が俺に訊いてくる。
「例の聖剣は?」
「も、もらいました!」
「ミカエルは?」
「か、帰りました!」
「なら、ここに用はないわ!帰るわよ!」
踵を返して出ていく部長に急いでついて行く。
殺されたくないもんッ!
「一番候補の
後ろから呟いた朱乃さん。声も態度もいつもの朱乃さんに戻っていた。
前を歩く部長は一度立ち止まり、俺の腕を引っ張って再度歩き出す。
「……何が一番候補よ。私だけ名前で呼んでもらったことなんて……ないのに」
神社の階段を下りる部長がぼそりと呟いた。
全く聞こえなかったが、ただこの時の部長は……普通の女の子の声音をしていた。