俺――兵藤一誠は、早朝にギャスパーと一緒に旧校舎裏にある開けた場所で時間停止の修業をしていた。
「ぐふぅぅぅぅぅ……。つ、疲れました~。イッセー先輩~」
「弱音を吐くな!兄さんの修業に比べたら、こっちの方が楽なんだぞ!」
両目をこするギャスパーに俺は喝を入れる。そして、容赦なくボールを投げ込む。
「イッセーさん、ボールです!」
隣で手伝ってくれているアーシア。早朝からゴメンね!
宙に浮いたまま停止しているボール。二十回に一回はできるようになった。
最初なんか、兄さんが教えていたもんな。全く停め切れてなかったけど。というより、全部避けてたっけ?
何としてもギャスパーに神器を使いこなしてもらわないと、俺の目的が叶えられない。
俺は時間停止を自在に使えるようにして、時間の停まった女子の体を触りたいんだよ!
ギャスパーに神器を使いこなしたら…の話をしているとき、兄さんが部屋に入ってきて聞かれてしまった。その時、兄さんは『男としてはわからなくもないが、兄としては複雑な気分だ』と少し落ち込んでいた。この頃、俺は兄さんを困らせてばかりいる。でも!俺は何としても時間の停まった女子の体を触ってみせる!
うん?腕にあの違和感を感じる。見ると、見事に右腕を停められてしまっている。どうやら、ギャスパーが間違えて停めてしまったらしい。
「ひ、ひい!ゴ、ゴメンなさいぃぃぃぃ!!」
「だから、俺を停めても気にするなって。修業中の身なんだから、失敗はいくらでも許せる。まあ、全身ごと意識を停められたら困るけどな。その回数も初めより減ってきてるじゃないか。この調子だ」
俺は地面に屈んで縮こまってしまったギャスパーを叱らず、フォローしてやる。
「ぼ、僕は、神器を持つ人間としても、ヴァンパイアとしても、半端ものだから皆さんに迷惑をかけてばかりです。も、もっと自分の力を使いこなせれば……。グスッ」
ギャスパーは複雑な顔をした後、泣き出してしまった。
そうだな。考えてみれば、こいつも朱乃さんと同じハーフ。俺にその『背負っているもの』と『苦しみ』は理解してあげられないけれど、言えることは――。
「ギャスパー!俺はおまえが好きだぞ!気にすんな!くよくよする前に俺にぶつかってこい!同じ部員同士で、リアス部長の眷属で仲間だ!ドンときなさい!」
これぐらいのことしかない。でも、何であれ堂々と構えているといいと思う。兄さんもああ見えて堂々としているもんな。思えば、ギャスパーの方が悪魔の先輩だな。
「イッセー先輩、ぼ、僕、頑張りますぅ……っ!!」
「よし!学校が始まるまで、残り百球いくぞ!」
「わ、わかりました!では、この紙袋を……」
「やめろ!すれば落ち着くと思うが、うちのアーシアが怖がるからっ!」
「?」と疑問符を浮かべたギャスパーとアーシア。
こうして、学校が始まるまで俺たちは旧校舎裏で時間停止の修業をした。
D×D
「――さて、行くわよ」
部室に集まるオカ研と遠山家の面々。遠山家の人数が少ない……どうしたものだろうか?
「あ、あの。黒歌さんたちの姿が見えないのですけど……」
アーシアが俺の代わりに疑問に思っていたことを質問した。それに答えたのは――。
「――龍介さんと
アーシアに丁寧(本人にとって)な敬語を使って説明する夕麻ちゃん……黒歌姉さんのこと完全に呼び捨てでしたけど?言わないでおこう。言ったら、何されるかわからないもん。こう見えて夕麻ちゃんは怒ると怖い……つい最近なんか、光の槍をお見舞いされたもんな……俺悪魔なのに。
――『
その『暁』の長である兄さんが、この『三大勢力トップ会談』の進行を務めるみたいだ。
『ひ、ひぇぇぇぇぇぇぇ!!』
話を聞いていたギャスパーが、怯えて例の段ボールハウスへ籠ってしまった。
「無理もないわね……」
この光景に部長が溜息をつく。
兄さんと理恵先生はあんなに強いのに、一割も出していないそうだ。花楓ちゃんと奏さんもまだ奥の手を持っているらしい。聞いただけでゾッとしてしまった。
その兄さんが進行を務める会議が決裂することは、まず無いそうな。悪魔、堕天使、天使の三大勢力は兄さんたちを敵に回したくないらしい。それに、兄さんから聞いた話だと『妹を巻き込みたくない』とサーゼクスさまがおっしゃられたそうな。
もし、もしもだとする。この会談が決裂して、兄さんが悪魔と戦うことになると……俺はどっちの味方に付けばいいんだろうか?兄さんの家族で部長の眷属――。
「(いやいや!今はそんなことを考えても意味はない!)」
俺は悲観的思考を、頭を振って打ち消した。
会談はきっと……いや、絶対成功する。戦争なんて嫌だ!俺は、平和な生活をずっと送りたいんだ。
「……ギャスパー。俺の携帯ゲーム機を置いていくから。寂しくなった時は紙袋をかぶってもいい、春奈ちゃんが一緒にいてくれるから」
「は、はい!イッセー先輩」
俺の言葉へ応えるように、段ボールから顔を出したギャスパー。
俺は部屋を出る前にギャスパーを勇気づけ、春奈ちゃんに持ってきたお菓子の袋を預ける。
「イッセーくん、やっぱり面倒見がいいよね……僕も…そうしてほしいかな……」
「?…任せろ!男の後輩一人ぐらい何とかしてやらー」
祐奈が言った言葉の最後は小さすぎて聞き取れなかったが、俺は気にせずに自信満々に答えた。男の不安ばかりを女の子に見せるわけにもいかねぇ。祐奈は『
D×D
俺――遠山龍介は、会場である職員会議室の窓際にいる。
俺が創設した精鋭部隊『暁』。その構成員の面子は、『
俺は窓から外を眺める。その光景に俺は心を痛めていた。
天使、堕天使、悪魔の各陣営による軍勢が三方よりお互いを牽制し合っている。
「(はやく、この会談を成就させないとな……失敗は許されない。こんな大役を任せられているんだ、無様な恰好だけは見せられないな)」
俺は心の中で呟いた。
コンコン――。
『失礼します』
扉がノックされ、中に入ってきたのは――ソーナ率いる『生徒会』の面子だ。
「ソーナちゃん、座って座って☆」
ソーナたちも軽く会釈をして、グレイフィアに案内されて席に着いた。
「先日は悪かったな、うちのコカビエルが迷惑をかけちまって」
豪華絢爛としたテーブルの一角にある椅子に座っていたアザゼルが、ソーナたちに詫びを入れる。
「――いえ、私たちは結界を張り、外へ被害が出ないように努めていただけです」
謙遜した態度でアザゼルへ返答するソーナ。
「そうよ!あの時は大変だったんだから!もう少し被害が大きくなっていたら、私が煌めいて滅していたんだから!」
頬を膨らまして言うセラフォルー。
「お、お姉さまが煌めかれたら、あの時の結界ごと町を破壊していました」
「ちゃんと手加減はするつもりなのよ☆」
「うむ。シトリー家は今日も平和だ」
そんなやり取りをサーゼクスはにこやかに見守っている。
あぁ、だんだん頭が痛くなってきたぞ。
コンコン――。
『失礼します』
そのやり取りが終わって三分後、会議室のドアがノックされてリアスたちが入ってきた。
「私の妹と、その眷属だ」
「俺のところの家族もな」
サーゼクスがリアスたちを紹介したので、俺も一応紹介をしておく。
「そこに座りなさい」
サーゼクスが指示を出し、グレイフィアがソーナの眷属の横にある椅子へと案内する。
「お前たちもだ」
俺も家族へ指示を出して席へ座ってもらう。
「改めて、リアス眷属とソーナ眷属がコカビエルの襲撃に活躍してくれた」
俺は席に着くと、早速だが始めさせてもらった。
「報告を受けています。改めてお礼を申し上げます」
ミカエルが両眷属と俺の家族に礼を言う。
それに対して、代表であるリアス、ソーナ、カミュが会釈をする。
「悪かったな、俺のところのコカビエルが迷惑をかけた」
先ほどとは違い、少し真面目な雰囲気で言うアザゼル。
「(まぁ、少し真面目にしていても……あまり態度は変わらないんだよな)」
その証拠にリアスだけ、口元をひくひくさせていた。
俺は
「さて、全員が揃ったところでの確認だ。会談の前提条件が一つ。ここにいる者たちは、最重要禁止事項である『神の不在』を認識している」
俺の確認に全員が黙認した。
「では、それを認知しているとして話を進める」
こうして、俺の進行によって三大勢力+暁の会談が幕を開けた。
D×D
「まずは、各事後報告から……ミカエル」
「はい。天使側では先日、護送された『バルパー・ガリレイ』の身柄について……一度烙印を押された身ですが、堕天使側からの判断によりこちら側で処理いたしました。神罰という形での処刑により、冥府送りとなりました――」
その後、サーゼクスが事後報告をしていく。悪魔側の事後報告にはリアスとソーナが説明していき、コカビエルの戦闘の終結のことを、俺の代わりに奏と花楓が説明していく。
「さて、アザゼル。この報告を受けて、堕天使総督の意見を聞きたい」
サーゼクスの質問に、アザゼルは不敵な笑みを浮かべて話し始める。
「先日の事件は我が堕天使中枢組織『
アザゼルの返答にミカエルが嘆息する。
「説明としては最低の部類ですが、あなた個人が我々と大きなことを起こしたくない――それに関しては本当なのでしょう?」
「あぁ、俺は戦争なんて興味はない」
ミカエルに続き、今度はサーゼクスが質問する。
「アザゼル、ひとつ訊きたいのだが――どうしてここ数十年
「そう、いつまで経ってもあなたは戦争を仕掛けてはこなかった。『
「はぁ……俺は
は、話がこっちに飛んできたぞ!?
「ん?いるぞ……の前に、会議を終わらせろ」
俺はすかさずに返してやった。
「おっと、そうだったな。――おまえら、神や先代のルシファーよりもマシかと思ったが、面倒くさい奴らだ。こそこそ研究するのも飽きたしな。――和平だ、和平を結ぼうぜ。元々そのつもりもあったんだろ?天使も悪魔も」
「えぇ、私も悪魔側とグリゴリに和平を持ちかける予定でした。このままこれ以上三すくみの関係を続けていても、今の世界の害となる。――神を失ってしまった今、私たちや神の子らが、人間を導くことを大事なことだとセラフのメンバーの意見も一致しています」
「おいおい、今のは『堕ちる』ぜ?――と思ったが、『システム』はおまえが受け継いだんだったな。いい世界になったもんだ。俺らが『堕ちた』頃とはまるで違う」
「我らも同じだ。魔王がいなくとも種を存続するため、悪魔も先に進まねばならない。戦争は我らも望むべきではない。――次の戦争をすれば、悪魔は滅ぶ」
ミカエルが微笑み、アザゼルは笑い、サーゼクスは真剣に言う。
アザゼルはサーゼクスの言葉に頷き…語る。
「そう。次の戦争をすれば、三すくみは確実に滅ぶ。その時は龍介たちが出てくるほか、人間界にも大きな影響を残して世界は終わる。俺たちはもう戦争を起こさない。」
アザゼルは真剣な面持ちで言葉を紡ぐ。
「神がいない世界は間違いだろうか?神がいない世界は衰退すると思うか?残念ながらそうじゃなかった。俺もおまえたちもこうやって元気に生きている。――神がいなくても世界は周るのさ!」
アザゼルは両手を広げて締めくくる。今度、名言集にでも載せておこうか?堕天使総督のありえない名言ってな……冗談だ。
ミカエル、アザゼル、サーゼクス、セラフォルーが俺に注目する……わかっているさ。
「――今ここに、三すくみ『天使』、『堕天使』、『悪魔』のトップによる『和平』を協定する……異論はないな?」
「はい」
「ないぜ」
「あぁ」
「うんうん☆」
全員が肯定の意思表示をする。
「これにて、和平の会談はお開きとする。調印は後日、この遠山龍介が直に手渡す。解散」
『ふぅ~』
全員が大きく息を吐いた。俺もだぞ。
「さて、話し合いも良い方向へ片付きましたし、赤龍帝殿のお話を聞いてもよろしいかな?」
ミカエルがイッセーへ話しかける。
俺は花楓を呼び、アザゼルの話し相手(神器の創造する神器の証明)をさせた。
そっとポケットに手を入れ、携帯を取り出して机の下でメールをうつ。差出人相手はある七姉妹+αと龍にだ。送信すると、すぐに返事が返ってきた。
『Re.用意をしたら、ティア以外全員がそっちに移動する。アースは人間の姿だが……それに、指輪もつけておいた方がいいか?』
内容を確認して、返信する。イッセーとミカエルの会話を聞きながら。
『指輪はつけてこい。アポ――アースには、人間の姿でこいと言ってくれ。転送後、全員を紹介するから……自己紹介でも考えておけよ?』
と返した。すると、少しして返信があった。
メールを見る前に、イッセーの会話を聞いていたのだが……アーシアとゼノヴィア、そして、カラワーナとレイナーレ、ミッテルトとのことを言っているようだった。
要約するとこうだ。
イッセーがアーシアの追放された理由を訊くと、ミカエルがそれについての詫びと理由を話す。すると、ゼノヴィアの『神の不在を知る者』ことも出てきて、それについてもミカエルが謝罪する。それに対してアーシアとゼノヴィアは、『今の生活が気に入っている』と言う。それを聞いたミカエルが安堵の表情をした。それに続きもう一つ、レイナーレ、カラワーナ、ミッテルトの堕天の理由を訊いていた。これに対しミカエルは『私の監督不届きです』と謝罪していた。それに対してレイナーレは『初めは「どうして、思っただけで堕ちなきゃなんないのよっ!」と思い、憎んだりもしました。ですが、今は彼に出会い、毎日が楽しい限りなんです。先ほどアザゼルさまが『システムを受け継いだ』とおっしゃられていた時に気がついたんです。『ミカエルさまは心優しい方。だから、システムに盲点があった』のだと。だから、今は――今からは、堕天したこともシステムのことも全てを許そうと思います。彼のおかげで気づくことができましたから』と結論づいたレイナーレにカラワーナとミッテルトが頷く。ミカエルは『すみません。あなた方の盛大なお御心に感謝いたします』と頭を下げていた。これにはその五人だけでなく、周りにいた者たちも驚いていた。何せ、有名な天使長が頭を下げたんだもんな。
かれこれ数分。その会話を聞いていた俺は、返信メールを確認して声をかけた。
「話の最中に悪いんだが、ここにいる全員に紹介したい人物がいる」
俺は少し大きな声で言った。すると、全員がこっちを向く。
アザゼルからは嫌な顔をされたけど。わかってるって、ちゃんと話させてやるから今は我慢しておけよ。
「……来たな」
俺がそう漏らすと、会議室の壁に天使、堕天使、悪魔のどの文様にも当てはまらない転移魔方陣が展開された。
そこから、歩いて出てくる人影……まるで、どこかの猫型ロボットが使うドアみたいな魔方陣だ。
一…二…三――。
総勢十一人で全員女性。
それを見たミカエル、アザゼル、サーゼクス、セラフォルーが目を見開く。それに、グレイフィアとリアス、ソーナもだ。
「な、何故、あなたたちがここに……!?」
「どういうことだ!?龍介」
「説明願いたい、龍介」
「……リューくん」
四者四面の様子だ。まぁ、呼んだのは俺だし、紹介させるためだもんな。
「悪い悪い、そうだな……右にいる彼女から紹介する。――彼女は『ルリエル・ルシファー』。前魔王の娘で、『
紹介が終わると、その少女は一礼する。
「お言葉に預かりました。『
ルリエルは紹介を終え、一歩下がった。
「えーと……もう面倒だから、一気に紹介するわ。ルリエルの隣が『レヴィ・レヴィアタン』。その隣から順に『サルベリア・サタン』、『ベネチア・ベルフェゴール』、『マキア・マモン』、『ベラナ・ベルゼブブ』、『アリス・アスモデウス』」
順に紹介していき、六人とも一礼して一歩下がる。下がるとき、サルベリアから睨みつけられたが気にしない。
次にその右隣の少女を紹介する。
「彼女は……亡き神の子『エール』。人間と神のハーフだ」
そう紹介すると、少女が一言。
「――エールです。よろしくです」
紹介が終わり、下がった。
「(もう少し話そうよ!無口なのは知っているが、さすがに今のはないだろ!!)」
流しで紹介した自分のことは棚に上げて、エールに心の中で突っ込んだ。
「……そんな、神の子がいたなんて」
「おいおい、マジかよ」
元々神の下にいた二人は、すごく驚いていた。
そりゃそうだ。神が人間に恋なんてさ、まずはあり得ない話だからこれ。実際に神の子がいるけど。
「最後に俺の使い魔の『
三
「以上で紹介は終わり。もう一人いるが、そいつは『使い魔の森』にいる。今度、紹介するよ」
俺は紹介が終わると、外の異変に気がついて――素早く印を結んだ。
その瞬間、周囲の時間が停まった。