気づいたとき、そこは部室だった。
ドタバタしていたけど……転送は無事成功。ただし――。
「――ッ!まさか、ここに転移してくるとは!!」
「悪魔め!」
部室にはローブを着た魔術師たちの方で占拠されていた。
「部長!イッセー先輩!」
声のした方には、ギャスパーの姿が!ギャスパーは魔術で作られた十字架に張り付けられている。隣には同じものに春奈ちゃんが張り付けられている……意識がなく、グッタリとしていた。
「ご、ごめんなさい。僕のせいで、春奈さんが……春奈さんが……」
俺は春奈ちゃんの様子を見る……見たところ外傷はないみたい。
「――こんなものを振り回して。ただの人間が勝てるはずがないじゃない」
魔術師の一人が、春奈ちゃんの魔装錬器をこっちへ放り投げてきた。
「おっとっと」
俺は刃が当たらないようにキャッチする。
どうも、魔術師たちはこの『魔装錬器・ミストルティン』が何なのかを知らないみたいだ。
「部長……。もう、嫌です……」
ギャスパーは、そう言って泣き出してしまった。
「僕は……死んだ方がいいんです。お願いです、部長、先輩。僕を殺してください……」
ボロボロと涙を流すギャスパー。しかし、部長はそんなギャスパーに優しく微笑む。
「バカなこと言わないで。私はあなたを見捨てないわよ?あなたを眷属に転生させたとき、言ったわよね?生まれ変わった以上は私のために生き、そして自分が満足できる生き方を見つけなさい――と」
「……見つけられなかっただけです。迷惑をかけてまで僕は……生きる価値なんて……」
「あなたは私の下僕で眷属なの。私はそう簡単に見捨てない。やっとあなたを開放させることができたのに!!」
「そうだぞ、ギャスパー!!俺と部長はおまえを見捨てないからな!!」
俺は後輩を……ギャスパーを必ず助け出す。
ガンッ!!
目の前でギャスパーが女魔術師に殴られる。周りにいる魔術師を見渡せば、全員が女性。魔女!!魔女もいいな!!
「愚かね、あなたたち。こんな危なっかしいハーフヴァンパイアを普通に使うなんてバカげているわ。旧魔王派の言う通りね。グレモリー一族は情愛が深くて力にあふれている割には頭が悪いって」
「さっさとこんなヴァンパイアを洗脳して、道具としてもっと有効に使えば評価を得ていたのではないかしら?敵対している堕天使の領域にこの子を放り込んで神器を暴走させれば、幹部の一人でも退けたかもしれないわ。それをしないのは何?もしかして、仲良しこよしで下僕を扱う気なの?」
「こ、この――」
あまりの言い草に殴りに行こうとした時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――。
突然地面が揺れて地鳴りがした。
「おっとっと!!」
俺は前のめりにこけそうになり、踏ん張って立った。
地震か?それにしては揺れ方が違うような……。
「それはぁ~、リュースケさんのせいですよぉ」
突然発せられた声に、魔女たちが驚愕する。
部長と俺も、そのおっとりとした聞き覚えのある声の方を見た。
「理恵先生!?」
俺は驚きの声を上げる。
「うふふ、私の大事な生徒をぉ~、虐めてくれましたねぇ」
魔力を子供以下しか持ちえない俺でもわかったぞ。そのおっとり声には、とんでもない怒りが感じ取れた。
顔はいつものように微笑んでいるのに、発せられる語気が怖い。
「人間だと!?何なんだ、この魔力の質量は!!」
一人の魔術師が声を荒げて、理恵先生に向けて魔術を打ち出した。
次の瞬間――。
ブィィィィィィィィィィィィンッッ――!!
俺たちと魔術師の間を極太の光が通過した。
それにより、魔術師の放った魔力が消え去る。
「何なんだ!?次から次へと!!」
驚愕した魔術師たちが叫ぶ。今通過した光のレーザー(?)の跡を辿ると、壁を貫通して旧校舎の外へ出たようだ。
逆の方を見ると、そこにいたのは――。
「――遅くなったな。イッセー、リアス。それと、リエ」
大きな穴が開いた向こうから現れた六つの人影。その一人が頭の大砲を収納していた。
声ではわからなかったけど、話し方でその人物がわかった。
「……兄さん?」
「あぁ。こいつらを操っている分身体は、ここの倉庫にいる。さっきまで、この旧校舎に侵入していた魔術師を捕えていたところだ」
姿を見せた者は……五人が朱髪で、さっき光のレーザーを撃ったと思われる者は、髪がない。というより、全員顔に黒い突起物を生やしていて、兄さんと同じ『暁』の衣を羽織っている。
その内の二人が、両肩に担いでいた四人の魔術師を目の前に下ろした。
「魔術師ども、降参した方がいいぞ?もし、降参しないのならば……死を見るか、屈辱を味わうかのどちらかを選ぶことになる」
内一人から、兄さんが『こいつ』を介して話す。
俺は魔術師が兄さんに気を取られている隙をついて、籠手からアスカロンを出現させる。
『
おふっ!音声が出ちまった。隙をついた意味ないじゃん。
「今のうちですよ~、イッセーさ~ん」
理恵先生が言う。何事かと思い、俺は理恵先生を見た……理恵先生は、両手を前に突き出した体勢で立っていた。手のひらからは、赤い光が灯っている。
「結界を使いましたぁ~。発動中は動けませ~ん」
『動けない!?』
女魔術師たちが異口同音に言う。
女魔術師たちは、完全に硬直していて……口だけが動いていた。
この隙に、俺はアスカロンの能力を一時的にシャットして、右の手のひらを自ら斬った。
血が滴り、痛い。
「イッセー……?」
俺の行動を怪訝に見ている部長。
俺はそんな部長に微笑んで、ギャスパーを一喝する。
「ギャスパー!!自分から立ち上がらないと何も始まらない!!てめぇには立派なキ○○マがついてんだろうがぁぁぁぁぁぁああッッ!!!」
左手を突き出すと、血の付いたアスカロンがギャスパーに向けて伸びる。寸前のところで止まったアスカロン。ついていた血が、ギャスパーの口元に付着する。
「――飲めよ。最強のドラゴンを宿している俺の血だ。それで男を見せてみろッ!!」
俺の言葉にギャスパーは強く頷き、下で口元に付着した血を舐め取った。
その瞬間、俺の全身に言い知れない悪寒が走った。俺はアスカロンを収納しようとギャスパーに目を向けた時――。
そこにギャスパーの姿はなく、代わりにギャスパーの視線を周囲から感じた。
その様子に女魔術師たちがざわめき出す。結界が解けていて、理恵先生はクスクス笑っているだけだ。
チチチチチチチチ。
不気味な鳴き声がしていて、周囲には無数のコウモリが飛んでいた。
コウモリの集団が女魔術師たちに襲い掛かる。
「クッ、変化したのか!吸血鬼め!」
「おのれ!!」
女魔術師たちがコウモリに向けて魔術の球を撃ち出すが、すべてがある方向へ引っ張られたように飛んでいく。
「――
さっきの操り人形から声がした。その一人、片手を前に出している方へ魔術の球が飛んでいく。
当たる寸前、もう一人の奴が前に出て両手を突き出した。そこ周囲に薄い膜ができて、魔術の玉を受け止める。
すると、魔術の球は音もなく収縮して――消えてしまった。
「――無駄だ。お前たちの魔術は全て俺が引き付けて吸収する。ギャスパー・ヴラディ、こいつらを停めろ」
『…はい!僕はあなたたちを停めます!』
兄さんの指示の直後、無数のコウモリが赤い瞳を光らせてこの部屋にいた全ての女魔術師たちの時間を停止させてしまった。
『イッセー先輩!トドメです!』
俺はアスカロンを収納した籠手で、女魔術師たちどもにタッチしていく!そして、部屋の中央でかっこいいポーズを取りながら、叫んだ。
「
ババババババババッッ!!
見事に女魔術師たちの衣装が破け去っていく。
ブッ!
俺は鼻血を噴出して、裸の見本市を眺めた!!
「ギャスパー、俺たちが組めば無敵だ!」
『はい!』
これで念願の――。
ベシッ!
「そうじゃないでしょ?」
部長が嘆息しながら、俺の頭を小突いた。
「あらあら~、ハルナさ~ん。狸寝入りはダメですよ~」
「あ、バレてた?」
いつの間にか、張り付けにされていた春奈ちゃんの目の前に移動していた理恵先生。張り付けから解放すると、俺たちに指示を出してきた。
「あなたたち三人はぁ~、前線に加わってくださぁ~い。私は~、この魔術師たちの~、監視をしていますのでぇ~」
「俺も――俺たちも向かう。外の状況は、善戦しているとは言えないからな」
そう言って、捕えていた四人の女魔術師たちを理恵先生の近くに置く兄さん。
「リエ、あとは頼んだ」
「はぁ~い、任されましたぁ~」
兄さん……六人の操り人形は、部屋を後にする。その後を追うように、俺と部長、ギャスパー、春奈ちゃんも部屋を後にした。
D×D
「――兄さん、この六人の操り人形って……兄さんが作ったの?」
俺は部長とギャスパー、春奈ちゃんと一緒に目の前を走っている操り人形を追いかけている。
「――あぁ、そうだ。こいつらは『
う~ん、何となくわかった気がする。
玄関が近づいてきて、出ようと思ったとき――。
ドッガァァァァァァァァァァァンッッ!!!
俺たちの目の前に何かが落ちてきた!!?
立ち込める煙が消えると、そこにいたのは――。
「……チッ。この状況で反旗かよ、ヴァーリ」
ダメージを負った堕天使の総督だった。
「そうだよ、アザゼル」
まばゆい輝きを放ちながら、俺たちの前に白龍皇が舞い降りる。その傍らには、知らないお姉さんもいた。おぉ!エッチな服だ!おっぱいがあんなに見える服なんて!
「和平が決まった瞬間、拉致したハーフヴァンパイアの『
「あぁ、残念ながら、そうだよ。本当に残念な宿主なんだ」
「残念残念言うなッ!俺だって懸命に日々を生きてんだ!……って、何でおまえとアザゼルが対峙している?つーか、その姉ちゃん誰だよ?」
「なるほどね。本当に残念な子みたいね。ヴァーリ、殺すの?」
「どうしようか迷っていたんだが、今は殺しはしない。俺は彼にそこまでの期待をかけているわけじゃないのだが……そこにいる『最強の人間』と戦ってみたいからだ。それに、ここには『並ぶ者』もいる。『神の子』とも戦いたい。彼は今から伸びてくる。『最強の人間』と『並ぶ者』が近くにいる限りね」
そこにいる?俺はヴァーリの視線を辿ると、俺の後方に兄さんが立っていた。
「……まったく、俺もやきが回ったもんだ。身内がこれとはな……」
まったくわからない状況で、アザゼルが自嘲する。
え?ってことは……白龍皇はマジでテロリストの仲間!?そっちの姉ちゃんも敵か?
「いつからだ?いつから、そういうことになった?」
「コカビエルを本部に連れ帰る途中でオファーを受けたんだ。悪いな、アザゼル。こちらの方が面白そうなんだ」
「ヴァーリ、『
「いや、あくまで協力するだけだ。魅力的なオファーをされた。『アースガルズと戦ってみないか?』――こんなことを言われたら、自分の力を試してみたい俺では断れない。アザゼルはヴァルハラ――アース神族と戦うことを嫌がるだろう?戦争嫌いだもんな」
「俺はおまえに『強くなれ』と言ったが、『世界を滅ぼす要因だけは作るな』と言ったはずだ」
「関係ない。俺は永遠に戦えればいいだけだ」
「……そうかよ。いや、俺は心のどこかでおまえが手元から離れていくのを予想していたのかもしれない。――おまえは出会った時から今日まで強い者との戦いを求めていたものな」
「今回の下準備と情報提供は白龍皇ですからね。彼の本質を理解しておきながら、放置しておくなど、あなたらしくない。結果、自分の首を絞めることとなりましたね」
と、女性がアザゼルを嘲笑した。
「俺の本名はヴァーリ。――ヴァーリ・ルシファーだ」
苦笑しているアザゼルをよそにヴァーリは自身の胸に手を当て、俺に向かって言ってきた。
「――やはりな。旧魔王ルシファーの末裔で、ルリエル・ルシファーの
突然話し出した兄さんに驚いたが、それにもっと驚いていた人物――ヴァーリの傍らにいる女性だった。
「ん?そうだったな、そいつのことも知らなかったようだな。そいつはカテレア・レヴィアタン。レヴィ・レヴィアタンの妹だ」
それを聞いて、俺は硬直していた。脳内が混乱してショートでも起こしたのだろう。
「それにしても、あいつらの存在に気づいていなかったとは……」
兄さんがぼそりと呟いた。その声は近くにいた俺にもわからなかった。
「――そろそろ決着つかないのか?俺は戦いたくて仕方がないんだ」
ヴァーリがアザゼルとカテレアに向かってそう言う。
「そうだな。決着をつけようぜ?来いよ」
「なめるなっ!」
突然戦闘モードに切り替わった二人。特大なオーラを纏って飛び出す女性。
ザシュッ!
一瞬のことだった。
カテレアって女性がアザゼルに飛び込み、アザゼルも槍を持って対応した。
刹那――。
ブシュッ!
女性の腹部から鮮血が噴出した。そして、その場で膝をつく。
コンマの世界でアザゼルが勝ったようだ。それでも女性は、諦めずに立ち上がる。
「――ただではやらせません!」
グニュリ――。
女性は自身の腕を触手のように変化させ、アザゼルの左腕に巻きつける。
そして、女性の体中に怪しげな文様が浮かび上がった。
その時、部長が叫んだ。
「あれは、自爆用の術式だわ!」
D×D
「あれは、自爆用の術式だわ!」
リアスがカテレアの使用したモノを見て、叫んだ。
アザゼルが巻きついた触手みたいなものを剥がそうとするが、一向に剥がれない。
「アザゼル!この状態になった私を殺そうとしても無駄です!私と繋がれている以上、私が死ねばあなたも死ぬように強力な呪術も発動します!」
「――ッ!犠牲覚悟に大ダメージってか!?安っぽい発想だが、効果は絶大なわけだ」
あ~あ。何か、すごい面倒なことになっちまってるよ。
俺も介入してアザゼルを助けようとしたのだが――。
「ダメよ!あれはもう、どうにもできません。行けば龍介さんも巻き込まれてしまいます!!」
「そうだ、龍介!来るんじゃねぇ!いくら最強でも、生身で人間のお前がただじゃすまねぇ!!ここから離れてろ!!」
結局、リアスとアザゼルに止められて助けに行けない。何てこった……。
「わっ!」
突然発されたギャスパーの悲鳴。俺はちらりと目だけを動かして、様子を見た。
「悪いな。それ、封じさせてもらう。時を停めてくるのはウザいんだ」
ヴァーリが空を飛びながら、ギャスパーの両目に呪術の文様を刻んでいた。
「(――仕方ないか。
アザゼルとカテレアから離された俺は、両目を
念のためにリアスたちの前に『
「その触手は私の命を吸った特別性。切れませんよ」
手に槍を出して切ろうにダメージが通らない触手に、アザゼルは肩をすくめた。
不敵に笑いだすアザゼル。
バシュッ!
その瞬間、アザゼルは巻きつかれていた左腕を切り離した。その周囲にアザゼルの鮮血が迸る。切り離された左腕は塵と化して霧散した。
「ッ!!自分の腕を!!?」
「片腕ぐらいおまえにくれてやるよ」
そうアザゼルが言って、槍を振りかぶった瞬間を合図に俺は
「――えっ!!?」
それに驚いているリアス。――いや、この場にいる者たち全員の目が丸くなった。
俺は前で構えていた『
その直後、アザゼルの右腕を『
カテレアの背後に回り込んだ『
「
『
徐々に吸い取られていくカテレアの魔力。
「どういうこと!?私の魔力とオーフィスの『蛇』が吸い取られている!?」
カテレアが驚愕の声音を発する。
「そうだ。おまえの魔力と共にオーフィスの『蛇』も没収している。自爆はおろか、人間並みの力しか発揮できないだろうな。おまえの負けだ、カテレア・レヴィアタン。命が助かっただけでも良かったと思え」
オーフィスの『蛇』を吸い込んだ辺りから、『
おおよそ吸い取ったあたりで、カテレアは意識を失いつつあった。
「――そんな……、私が…敗……北な…ど…」
すべての魔力を吸い取ってしまった直後、カテレアは意識を失った。
俺は懐から取り出した『封印の腕輪』をカテレアの右腕手首にはめる。
「――これで、こいつは力を発揮できない。この自爆の呪術も故意には発動できない」
俺は約束通りにカテレアを人質に取り、
向こうで繰り広げられている戦闘も鎮火しつつあった。上空に出現していた大きな魔方陣は消滅し、魔術師の転移も不可能に近い状態となっていた。
「(エールが封じたのだろうな)」
でも、まだ終わっていない。
――そう、空中に浮いている『白龍皇』と『赤龍帝』の戦いがな。