「――ん?」
俺はカーテンから漏れる朝日を受けて、目を覚ました。
やけに体が重い……起きた瞬間そう思った。
目を覚ましたが、体全体が動かない。
「……んぅ」
「……くぅ」
そんな寝ぼけた声と寝息が俺の耳に入ってきた。
というより、耳元で聞こえた。
動かせる首で右を確認する……と。
「……んぅ」
カラワーナの寝顔が目の前にあった!!
慌てて左側に頭を向けると……。
「……くぅ」
小さな寝息を立てていた、冴子の寝顔が目の前に!!
俺は瞬時に天井を仰ぐ……そこには――。
「……何で、こんなモノがついてんだ?」
目の前には部屋の天井ではなく、大きな天蓋がある。
両手を動かそうとしたが、その両手まで何かで塞がれている。
仕方なく動く首で自身の胴を見る。すると、そこにいたのは――。
「た、辰巳……」
俺の上に辰巳が抱き着く形で寝ていた。
しかも、布ひとつ纏っていない生まれたままの姿(?)だった。
再度、冴子とカラワーナを見る。二人は寝間着を着ていなかったが、下着は身に着けていた。
俺の両太ももあたりが何かに挟まれている。確認できないが、恐らく二人の足が絡まっているのだろう。
非常に気まずい状況になってしまった。昨日までは多くても二人だったから、何とかしてこれたものの……今は、両手のところにも寝ていると想定して……五人。しかも、俺の寝間着が剥がされていて、確認できる上半身は裸だ。
上半身裸な俺の上に抱き着く形で寝ている裸の辰巳。頭は軽く左肩あたりにそれていて、圧縮された胸が見えている。とてもや……じゃない。どうすれば、この状況を脱出できるか考えないと……。
覚めた頭で考える………閃いた!!
両目を万華鏡写輪眼に変え、発動する。
「――
スゥー。
俺はベッドの中に潜り込み、床から顔を出し浮上する。
床の上に立つと、ベッドの上の状況を把握できた。
俺のいたところに辰巳。肩から腕辺りに冴子とカラワーナ。両手があった場所には黒歌とアイムが全裸で横になっていた。
「……………」
俺はこの状況に唖然としていた。
「……んぅ~」
のそりと起き上った辰巳。俺が透過したことで、気が付いたんだろう。
それに続くように起きだす冴子たち。
一応のために下半身を確認したが、俺はパンツだけは履いている。
「……ん~、おはよ~。リュースケ」
辰巳が寝ぼけ眼をさすって、のんびりと挨拶してきた……前をオープンにして。
俺は床に散乱している辰巳たちの寝間着を拾い、持ち主に放り投げた。
「風邪ひくぞ。朝食の用意をするから、着替えたら降りて来い」
そう言って、剥ぎ取られていた俺のパジャマを拾って着る。着たらすぐに部屋を出て、一回のリビングへと顔を出した。
夏休み(俺は関係ない)の少し早い朝方、リビングにあるキッチンには……珍しくエールとルリエルが立っていた。
「おはよう、珍しいな」
「あ、おはよう、リュースケ。早く目が覚めたから、暇つぶしに朝食作ってるよ」
「……私も作った」
エールが大きなボールを抱えて、中から一切れのレタスを差し出してきた。
「ん?……うん。美味いな、このレタス」
「……間違えた。それ、盛り付けのレタス」
そうなんかい!わかっていたけどさ。
ボールを取り換えて、中にスプーンを入れる。
味見にスプーンで少し掬ってくれるエール。中身はポテトサラダだった。
「はふ……うん。美味しいよ。エールが作ったのか?」
「……」
無言でうなずいたエール。
表情が乏しく、必要なことしか話さない不思議半神少女。出会った時から何も変わっていない……いや、家事が多少できるようになってはいるな。
キッチンに戻るエールの後ろについて行って、食器棚から皿などを出して手伝う。
ほとんどの料理が完成していた。洋風でありながらもアッサリとしたメニュー。
皿に盛りつけていくエールとルリエル。それを増設された三つの長テーブルに運ぶ俺。仕方がないので、影分身も使用して大急ぎで運んでいます。
「――ふぅ~」
運び終わって一息つく。
「リュースケ、皆を起こしてきてくれる?」
ルリエルがエプロンを畳みながら、そう言ってきた。
「はいはい、わかってるよ」
俺は面倒だが、女を怒らせるとどうなるのかを知っているため、仕方なく各部屋に起こしに行く。
「……てか、黒歌たちは二度寝でもしたのか?」
廊下を歩きながらボヤく俺。
初めに自室に戻って、再度起こしに入る。
「おい、二度寝してないで、起きろ。朝飯抜きだぞ~」
それを聞いて起きたのが冴子とカラワーナ、アイムだ。というより、起こされたから起きたみたいな起き方だった。
俺のセリフを聞いて飛び起きたのは……辰巳だ。こいつは結構食いしん坊なので、飯抜きになると起動できなくなる。
それでも起きない者が一名。
「……仕方ないか」
俺は起こす手段として、色々なモノを身につけている。
「必殺奥義……
口寄せとは違い、起こすためだけに時空間から一匹の無毒な蛇を出して起きない者――黒歌の上に這わせた。
「――んぅ……みゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああッッ!!」
目を開けた黒歌が慌てて起きだす。蛇が嫌いなだけに。
体を這う蛇を慌てて掴んで俺へぶん投げる。
「……はぁ…はぁ…起きたわよ、その蛇しまってよ」
目に大きな涙を浮かべて言った黒歌。
仕方なく神威で蛇をしまう俺。
「起こした時ぐらい、一回で起きろよ」
そう言い残して部屋を出た俺。
次は……白音かな?
白音の部屋の前に行くと、ドアの掛札が『活動中』になっていた。
一応ドアをノックすると、中から白音の返事があったので、朝食の準備ができたことを伝えて次の部屋へ。
レヴィたちを起こしに行こうと思って廊下を歩いていたら、レヴィたちを含めた数人とすれ違う。その中にゼノヴィアとマリアがいたので、残りの起きていない者たちを聞いてみた。
すると、アーシアを含めた四人が起きていないとのこと。
アーシアはイッセーの部屋で寝ていることが分かっているため、一緒に起こしに行けばいい。リアスもイッセーの部屋で寝ている。ただ、朱乃の姿が見えないとのこと。俺がリビングにいた時間にはとっくに部屋を出ていたらしく、どの部屋にいるかは大よそ見当がついている。
俺はその部屋――イッセーの部屋の前にマリアと立っている。
そっと耳をドアに近づけて中の様子をうかがってみる。
『だいたいね、朱乃はすぐに私の大事なものに触れようとするからイヤなのよ!!』
『あら、ちょっとぐらい良いじゃないの!あなたは本当にケチだわ、リアス!』
『この家だって、改築したばかりだし、朱乃の勝手にはさせないんだから!』
『サーゼクスさまは眷属仲良く暮らしなさいとおっしゃってたわ!』
『ここは私とイッセーの家なの!お兄さまも朱乃も私とイッセーの間を邪魔ばかりするんだもの!もういや!』
『サーゼクスさまのご意向を無視する気!?魔王さまよりもイッセーくんなのね!――私にも少しは譲りなさい!幼馴染なんだから!』
『ダメ!絶対にダメなんだから!』
ボフボフと何かを投げている音と、リアスと朱乃が言い合う声がドア越しに聞こえる……というか、この家は元々俺の家なんですけど。何ちゃっかり自分の家とか言ってるんだか、リアスは。
いわゆる『修羅場』だな。二人しかいないけど。
『な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁああッッ!!』
直後に響き渡るイッセーの叫び声。
「……はぁ」
俺はポケットから携帯を取り出してコールする。もちろんイッセーにだ。
『……兄さん?』
「朝から元気なのはいいが……朝食の用意ができているから、三人を連れて出て来い」
用件を伝えると、通話を切った。
「先に降りてるから」
俺はマリアに言い残して、リビングに向かった。
降りてきた五人が席について全員が集まったのを確認した後、朝食をとった。
楽しい朝食後、リビングでゆったりとする面々。先ほど、ギャスパーと祐奈が来て上がっている。リビングにオカルト研究部のメンバーが集まった。
「――という訳で、冥界に行こうと思うの」
リアスが何気なく言った言葉に、この場にいた朱乃と祐奈以外の者がリアスに注目した。
「突然だな。里帰りか?」
「はい。毎年夏休みに冥界の実家に顔を出してますわ……イッセー?涙目よ?」
俺が何となく質問したら、リアスから返事がかえてきた。ってか、イッセーは何故か涙目になっている。
「……部長が突然冥界に帰るって言うんですから、置いて行かれるかと思いましたよぉ……」
「まったく、そんなことあるわけないでしょう?あなたと私は百年…千年単位で付き合うのだから、安心なさい。あなたを置いてなんか行かないわ」
そう言って、リアスがイッセーの頬を優しくなでる。
「……もうすぐ皆で冥界に行くわ。長期旅行の準備をしておいてちょうだい」
「えっ!?俺たちもですか!?」
「そうよ。あなたたちは私の眷属で下僕なのだから、主に同伴は当然。一緒に故郷へ行くの。そういえばアーシアとゼノヴィアも初めてだったかしら?」
アーシアとゼノヴィアは同時に頷く。
「……冥界か。懐かしいな」
数年前に行って以来一度も行ってない。サーゼクスと模擬戦じみたことをやったのを思い出す。
「あのね、リアスちゃん。私たちも冥界に行ってみたいの。同行させてくれないかな?ダメ?」
俺の肩から顔をのぞかせた黒歌。頬と頬が触れて、妙に緊張してしまった。
「えぇ。龍介さんたちにも一緒に来て貰おうと思っていました。八月の二十日頃にはこちらに戻ってくる予定です。修行などの諸々の行事は冥界で行います」
あっさりと了承したリアス。スケジュールまで教えてくれる。
「……修行か。俺もここ最近怠けていたからな――」
俺は誰にも聞こえない声で呟く。
「俺も冥界に行くぜ!」
『っ!?』
突然廊下から現れたアザゼルを見て、一同が面食らった表情で注目していた。
「どこから、入ってきたの?」
「見ての通りだ。玄関から入ってきたぜ」
目をパチクリさせながら聞いたリアスに平然と答えたアザゼル。
「……気配すら感じませんでした」
祐奈が正直に気持ちを口にする。
「そりゃ、修行不足だな。それよりも冥界に帰るんだろう?なら、俺も行くぜ。俺はおまえらの『先生』だからな」
そう言うと、アザゼルは懐からメモ帳を取り出して読み上げだす。
「冥界でのスケジュールは……リアスの里帰りと、現当主に眷属悪魔と『暁』諸々の紹介。あと、例の新鋭悪魔たちの会合。それとあっちでおまえらの修行だ。俺は主に修行に付き合うわけだからな。おまえらがグレモリー家にいる間、俺はサーゼクスたちと会合か。ったく、面倒くさいもんだ」
説明を終えたアザゼルは嘆息する。
「では、アザゼル――先生はあちらまでは同行するのね?行きの予約をこちらでしておいていいのかしら?」
「あぁ、よろしく頼む。悪魔のルートで冥界入りするのは初めてだ。楽しみだぜ。いつもは堕天使ルートだからな」
アザゼルが頷いてそう口にした。
今更思い出した。俺の中にいる『大蛇』と話をしないといけないな……最近目を覚ましたんだよな、こいつ。
俺は腹部をさすりながら会話を聞いていた。