イリナが派遣されてから数日後、イッセーたちは体育祭の練習で、いつもより帰りが遅くなっている。
俺は早めの風呂に入り、夕飯の支度をしている。まぁ、夕飯と言っても十時は過ぎるんだけどね…。
どこかの黒猫は妹の練習を見に学校へ行っていて留守。同じく
リビングにはアイム、ルリエル、レヴィ、サルベリア、マキア、ベラナ、アリス、メイル、スバル、アースがいて、俺の試作した『生涯ゲーム』で遊んでいた。
ベネチアとエールは夕飯の用意を手伝ってくれているし、
出来上がりの状態で食するのが一番おいしいので、俺は『時間制御魔法』と『空間制御魔法』を
そうそう、オシリスの天空竜、オベリスクの巨神兵、ラーの翼神竜は食事をとらない。俺が創ったことも関係しているが、こいつら自体が自然と一体化している時点でエネルギーを蓄えるのに食事が必要ない。鮫肌も以前説明した通り、アーシアから徐々にエネルギーを貰っている。ラッセーはちゃんと食べますよ?
全行程を終えたので、エプロンを畳んでリビングを出る。
――そう…あれ以来、俺は特殊な空間のある部屋で自主トレをしている。イッセーを守れなかったあの日を境に……。
暗部の装備に着替えた俺は、魔力を使ってフィールドを作るように組み込んだ部屋の機能を起動する。
部屋の中に万華鏡の世界が現れ、徐々に姿を変えていく……。
起動して数十秒後、部屋にはこの町……駒王
グラフィックや3Dではなく、素材そのもので出来ている。科学と魔力と魔術の最先端……いや、元はレーティングゲームに使用している結界を応用したわけなんだけどね…。
シミュレーションみたいに何回でも試すことが出来る、言わばデモンストレーションだ。
もし、この町に
今回の名目は……殲滅までのタイムアタック。一般人に認識されないように迅速かつ、犠牲者を出さないように行う。使用するものは……雷遁の衣のみ。
追加だが、ここのシステムは精神ダメージのみ作用する構造になっている。デモ中は肉体的ダメージを受けたように見えるが、終われば体に傷一ついていない。まぁ、ダメージによる痛みは感じられるし、死亡するぐらいのダメージを受ければ失神する可能性が大きいし、デモフィールドから強制離脱させられる。精神崩壊を起こさないための処置だ。
デモ終了時には魔方陣が目の前に現れて現状報告をしてくれる。ゲーム感覚に近いが、実際に立ち会った時のためにそのような軽い感覚は捨てている。
スタート位置に設定されている駒王学園の校舎屋上に立つと、目の前に魔方陣が現れてカウントが表示される。10カウントだ。
カウントダウンが始まり、9…8…と一秒ずつ数を減らしていく。
俺はチャクラを練り上げながら開始の合図を待つ。
2…1…と開始間際になり、練り上げたチャクラで雷遁の衣を形成する。
バヂヂ……と、スパークノイズを上げて雷が俺の体を包み込む。
カウントが0になった瞬間、俺は飛び出して神速で駆ける。
一般人を避けるため、建物の屋上や壁を伝い魔術師や悪魔を索敵する。
姿を見つけるや否や、俺はそいつを物理攻撃で屠る。
設定上に味方はいないので、そこに関しては鬼と化して遠慮なく屠れる。
次々に魔術師や悪魔を屠る。数人同時に相手をしたり、遠距離で発見された時に放たれる魔法や魔力は『地獄突き四本貫手』で切り裂いていく。
二千弱の魔術師や悪魔を屠り終え、終了の魔方陣が現れた。
結果、被害は最小のひび割れなどで済み、一般人の死者けが人はなし。被ダメによる戦闘への障害は低。かかった時間は四十分弱……と、一分当たり約五十人片づけた計算になるな…。移動速度はそこそこいいとして、もう少し被ダメを減らすか。
俺は部屋の設定を元に戻すと、部屋から出て装備を外し、私服に着替える。
廊下に出てリビングに戻ると、ちょうどイッセーたちが帰宅していた。
「おっ、お帰り。どうだ?体育祭の練習は」
「うん、結構いい感じ。まぁ、その……」
イッセーは頬を朱に染める。何かあったのか?
「何があったのか知らんが、順調ならそれでいい。アーシアとの二人三脚、期待しているぞ」
俺も体育祭を見に行く。ここ十年間海外にいたもんだから、イッセーたちの行事を見ていない。
「さーて、夕飯を食うか!」
俺はテーブルに並べられている品々の時間停止を解除する。
ホカホカの夕飯を前に、皆がそれぞれ席に着く。
「いただきます」
『いただきます』
合掌はベラナにさせている。
賑わう夕食。継ぎ足しはオベリスクたち三体にさせている。
――数十分後。
それぞれが食べ終わり、流しに食器を置いていく。
「少しお話があるの」
全員が食べ終わったところで、リアスが全員に聞こえるように切り出した。
「どうした?」
すると、オカルト研究部の全員が表情を曇らせた。
「私たち若手悪魔のレーティングゲーム戦、次の相手が決まったの」
そうか、もう決まったのか。俺たちのチームは番外で急に転生(非悪魔化)したから、若手悪魔六人のゲームには参加していない。それに、今は調整している最中でもある。あの暴走以来、個々が完全に解放まで至っていない。基本的な能力は使えるが…。
「それで、相手は?」
「次の相手は――ディオドラ・アスタロト」
『――っ!!』
オカルト研究部以外の全員が言葉を失った。
D×D
二日後、夕方五時を過ぎた頃――。
「皆、集まってくれたわね」
学校から帰ってきていたイッセーたち。アザゼルとリエも定刻を過ぎているので家にいる。まぁ、部活動をアザゼルとリエの職員会議が終わるまでしていただけなんだと…。学校の授業が終わった時間帯ぐらいにリアスからのメールで連絡は受けていた。
ある程度は事前に教えられていたので、準備はしている。
リアスは確認すると、記録メディアらしきものを取りだした。
「若手悪魔の試合を記録したものよ。私たちとシトリー眷属のものもあるわ」
この前の非公式ゲームの記録映像。用意していた巨大モニターの前にアザゼルが立つ。
「おまえら意外にも若手たちはゲームをした。大王バアル家と魔王アスモデウスのグラシャラボラス家、大公アガレス家と魔王ベルゼブブのアスタロト家、それぞれがおまえらの対決後に試合をした。それを記録した映像だ。ライバルの試合だから、よーく見ておくようにな」
『はい』
アザゼルの言葉にイッセーたちメンバーが真剣にうなずいた。
「まずはサイラオーグ―――バアル家とグラシャラボラス家の試合よ」
サイラオーグ…あの闘気の強い悪魔ね。
記録映像が開始され、数時間が経過する。俺は興味津々に見ていたが、横を見ると……イッセーたちの顔つきは真剣そのものになり、視線は険しいものになっている。モニターに映っているのは―――圧倒的なまでの『力』。あのゼファードルというヤンキー悪魔とサイラオーグの一騎打ち。一方的にゼファードルが追い込まれていた。眷属同士の戦いはすでに終わっている。どちらもソコソコに強い者ばかりを眷属を有していた。だが、問題は『王』同士の戦いだ。
最後の最後で駒をすべて無くしたゼファードルがサイラオーグを挑発した。『サシで勝負しろ』と。それにサイラオーグは躊躇うことなく乗った。
ゼファードルが繰り出すあらゆる攻撃がサイラオーグに弾き返される。まともにヒットしても、何事もなかったようにサイラオーグはゼファードルに反撃していた。
自分の攻撃が通じないことで、ゼファードルはしだいに焦りの色を濃くし、冷静さを欠いていく。
そこへサイラオーグの拳打が打ち込まれる。
幾重にも張り巡らされた防御術式を紙のごとく打ち破り、サイラオーグの一撃がゼファードルの腹部に鋭く打ちこまれる。
その一撃は、俺が雷遁の衣をまとった時の威力と同等であると見て取れる。
サイラオーグは打拳と蹴りしか使っていない。……なるほど、肉弾戦オンリーの純潔悪魔か。
「……凶児と呼ばれ、忌み嫌われたグラシャラボラスの新しい次期当主候補がまるで相手になっていない。ここまでのものなのね、サイラオーグ・バアル」
祐奈は目を細める。その表情は厳しい。こいつはリアスの眷属のエース。こいつなりに思うところがあるのだろう。サイラオーグのスピードも相当なものだった。映像からは祐奈と同等かそれ以上……目の当たりにしてどう思っているのか。
「リアスとサイラオーグ、おまえらは『
嘆息するアザゼルの言葉に、リアスは恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
「そういや、ヤンキー悪魔って、どのぐらい強いんですか?」
イッセーの質問にリアスが答える。
「今回の六家限定にしなければ決して弱くはないわ。といっても、前次期当主が事故で亡くなっているから、彼は代理ということで参加しているわけだけれど……」
リアスの言葉に朱乃が続く。
「若手同士の対決前にゲーム運営委員会が出したランキングでは…一位がバアル、二位がアガレス、三位がグレモリー、四位がアスタロト、五位がシトリー、六位がグラシャラボラスでしたわ。『
「問題はサイラオーグだな。あいつの本気なら、俺の
俺の言葉に驚くイッセーたちだが、リアスは理解しているように言う。
「えぇ、彼は怪物よ。『ゲームに本格参戦すれば短期間で上がってくるのでは?』と言われているわ。逆を言えば彼を倒せば、私たちの名は一気に上がる」
「まぁ、俺の
『………………』
だんまりになってしまうメンバー。そうなるよな…普通。
「ま、グラフを見せてやるよ。各勢力に配られているものだ」
アザゼルが術を発動して、宙に立体映像的なグラフを展開させた。
そこにはリアスやソーナ、サイラオーグなど、六名の若手悪魔の顔が出現し、その下に各パラメータみたいなものが動き出して、上へ伸びていく。
丁寧にグラフは日本語だ。グラフはパワー、テクニック、サポート、ウィザード。…ゲームのタイプ別の分類だ。あと一ケ所に『キング』と表示されている。『
リアスのパラメータはウィザード―――魔力が一番伸び、パワーもそこそこ伸びる。あとのテクニック、サポートは真ん中よりも少し上の平均的な位置を表している。
そして―――サイラオーグ。
サポートとウィザードは若手の中で一番低い位置にある。だが、パワーが桁外れだ。ぐんぐんとグラフは伸びていき、リビングの天井まで達した。極端すぎるパワータイプだとよくわかる。
サイラオーグを抜く五名の中で一番パワーの高いゼファードルの数倍はあるだろう。
「ちなみに、龍介を入れると……」
なぜか俺の顔が映り、すべてのグラフがどんどん伸びていき――。
「計測不能だ」
天井に達してしまった……すべてのパラメータが。
アザゼルがにこやかに言いやがった!
『それもそうですね』
なぜか皆が声を揃えて言った。泣くよ?お兄ちゃんマジで泣いちゃうよ!?
「ま、そんなところで話を戻すが……ゼファードルとのタイマンでもサイラオーグは本気を出しやしなかった」
パワーだけを見れば、魔王と並んでもおかしくはないだろう。
「やっぱ、天才なんスかね、このサイラオーグさんも」
イッセーがそう訊くと、アザゼルは首を横に振って否定する。
「いや、サイラオーグはバアル家始まって以来の才能が無かった純血悪魔だ。バアル家に伝わる特色のひとつ、滅びの力を得られなかった。滅びの力を強く手に入れたのは従兄弟のグレモリー兄妹だったのさ」
――やはりか。
「でも、若手悪魔最強なんでしょう?」
「家の才能を引き継ぐ純血悪魔が本来しないものをしてな、天才どもを追い抜いたのさ」
「本来しないもの?」
アザゼルは真剣な面持ちでイッセーに言う。
「―――凄まじいまでの修行だよ。サイラオーグは、尋常じゃない修練の果てに力を得た
皆の視線が集まる中、俺は今までにしてきた修行を思い出していた。
「俺の修行なんてサイラオーグに比べれば小さなものだ。あいつの修行は地獄そのものだったと思うぞ」
嫁いだヴェネラナ夫人の娘のリアスは才能に恵まれていた。逆にバアル本家のサイラオーグは才能に恵まれることはなかった。だが、才能のあるリアスよりサイラオーグのほうが強いのは、努力してきた賜物だからだろう。俺なんか、転生する際に貰った力を開花させただけ……ただそれだけだ。
アザゼルは続ける、全員に語りかけるように。
「奴は生まれたときから何度も何度も勝負の度に打倒され、敗北し続けた。華やかに彩られた上級悪魔、純血種のなかで、泥臭いまでに血まみれの世界を歩んでいる野郎なんだよ」
そう、だからサイラオーグは自身の力に自信をもてるのだろう。
「才能の無い者が次期当主に選出される。それがどれほどの偉業か。―――敗北の屈辱と勝利の喜び、地の底と天上の差を知っている者は例外なく本物だ。ま、サイラオーグの場合、それ以外にも強さの秘密はあるんだがな」
アザゼルの言葉に俺も続けて言う。
「そうだな。逆に才能があろうと落ちこぼれる奴もいる。自分を知ることも、世界を知ることもない者がそうなる」
ちょうどその時、試合の映像が終わった。
結果は、サイラオーグ―――バアル家の勝利。
最終的にゼファードルが物陰に隠れ、怯えた様子で自らの敗北を意味する『
映像が終わり、静まりかえった室内でアザゼルは言う。
「先に言っておくがおまえら、ディオドラと戦ったら、その次はサイラオーグだぞ」
「――っ、マジっすか!」
イッセーが驚きながら聞くが、アザゼルはただうなずくだけ。
リアスも怪訝そうにアザゼルに訊く。
「少し早いのではなくて?グラシャラボラスのゼファードルと先にやるものだと思っていたわ」
「奴はもうダメだ」
アザゼルの言葉にリアスたちメンバーが訝しげな表情になる。
その話に入ってきたものがいた…黒歌だ。
「あのヤンキーな悪魔……ゼファードルだっけ?ゼファードルはサイラオーグとの試合で潰れたにゃん。いまの戦いで心身に恐怖を刻み込まれたのよ。気も尋常じゃない乱れ方をしてたにゃ」
「あぁ、奴はもう戦えん。サイラオーグはゼファードルの心―――精神まで断ってしまったのさ。だから、残りのメンバーで戦うことになる。若手同士のゲーム、グラシャラボラス家はここまでだ」
余程の精神力がない限り、畏怖、恐怖を植えつけられるな。そして、自己崩壊を引き起す…ゼファードルのように。
「おまえらも十分に気をつけておけ。あいつは対戦者の精神をも断つほどの気迫で向かってくるぞ。あいつは本気で魔王になろうとしているからな。そこに一切の妥協も躊躇もない」
アザゼルの忠言をメンバーの皆が真剣に訊いている。
リアスは深呼吸をひとつしたあと、改めて言う
「まずは目先の試合ね。今度戦うアスタロトの映像も研究のためにこのあと見るわよ。――対戦相手の大公家の次期当主シーグヴァイラ・アガレスを倒したって話しだもの」
『大公が負けた?』
イッセーたち数人が驚いている。
「私たちを苦しめたソーナ達は金星、先ほど朱乃が話したランクで二位のアガレスを打ち破ったアスタロトは大金星という結果ね。悔しいけれど、所詮対決前のランキングはデータから算出した予想にすぎないわ。いざ、ゲームが始まれば何が起こるかわからない。それがレーティングゲーム」
と、リアスが言う。
確かに、モノはやってみなければわからない。――いくら強くても負けることはある。
「けれど、アガレスが負けるなんてね」
言いながらリアスが次の記録映像を再生させようとしたときだった。
パァァァァッ――。
リビングの片隅で人一人分の転移魔法陣が展開した。
確か、この紋様は……。
「――アスタロト」
朱乃がぼそりとつぶやいた。そして、一瞬の閃光のあと、部室の片隅に現れたのは爽やかな笑顔を浮かべる青年だった。
その青年は開口一番に言う。
「ごきげんよう、ディオドラ・アスタロトです。アーシアに会いにきました」