朱乃がディオドラにお茶を
「リアスさん。単刀直入に言います。『
トレード……『
『
「いやん!僕のことですか!?」
ギャスパーが身を守るようにするが、イッセーが頭をはたく。
「んなわけねぇだろ」
後ろで待機している二人は漫才染みたことをしていた。しかし、こいつもずいぶんたくましくなったものだ。少し前なら「ヒィィィィッ!ぼ、僕のことですかぁぁ!?」と、悲鳴をあげながら段ボール箱の中に逃げ込んでいたと思う。これも冥界での修行の成果だろうな。
俺はディオドラが『
「僕が望むリアスさんの眷属は――『
ディオドラは躊躇いなく言い放ち、アーシアのほうへ視線を向ける。その笑みは爽やかなものだ。
――やはり狙っていたか。
「こちらが用意するのは――」
自分の
「だと思ったわ。けれど、ゴメンなさい。その下僕カタログみたいなものを見る前に言っておいたほうがいいと思ったから先に言うわ。私はトレードをする気はないの。それはあなたの『
真正面からリアスは言い切った。……当たり前だ。アーシアはリアスの眷属悪魔であり、ここの家族の一員なんだ。それをトレードなどで済ませるぐらいなら、初めから俺が締め上げていたさ。
「それは能力?それとも、彼女自身が魅力だから?」
しかし、ディオドラは淡々と訊いてくる。
そこへ、リアスが最高の一言を言い放った。
「両方よ。私は、彼女を妹のように思っているわ」
「――部長さんっ!」
アーシアは口元に手をやり、翡翠の瞳を潤ませていた。リアスが『妹』と言ってくれたことが心底嬉しかったのだろう。
「一緒に生活している仲だもの。情が深くなって、手放したくないって理由はダメなのかしら?私は十分だと思うのだけれど。それに求婚したい女性をトレードで手に入れようというのもどうなのかしらね。そういう風に私を介してアーシアを手に入れようとするのは
リアスは笑顔で言いかえす。最大限配慮しての言動だったが、青筋立ててキレているのは傍から見て一目でわかる。
お見事!と言いたいところだが、客人の顔前なので我慢しよう。
それでもディオドラは笑みを浮かべたまま。それが逆に不気味だ。
「――わかりました。今日はこれで帰ります。けれど、僕は諦めません」
ディオドラは立ち上がり、アーシアの元へ近寄っていく。そして、当惑しているアーシアの前へ立つと、その場で跪き、手を取ろうとした。
「アーシア。僕はキミを愛しているよ。だいじょうぶ、運命は僕たちを裏切らない。この世のすべてが僕たちの間を否定しても僕はそれを乗り越えてみせるよ」
余りにありがちな
ガシ!
いきなりイッセーがディオドラの肩を掴み、キスを制止させた。
「……」
無言で肩を掴む手に力を入れていくイッセー。すると、ディオドラは爽やかな笑みを浮かべながら言った。
「放してくれないか?薄汚いドラゴンくんに触れられるのはちょっとね」
イッセーの額右側に青筋が立ったのを見て、俺が木遁で止めようとした時――。
バチッ!
アーシアのビンタがディオドラの頬に炸裂した。アーシアはイッセーに抱きつき、叫ぶように言った。
「そんなことを言わないでください!!」
……ははは、あのアーシアがビンタをかますとは思わなかった。まぁ、おかげでイッセーやマリア、ドラゴンである辰巳たちを止める手間が省けた。ここで暴れられたら、確実にディオドラは死んでいたことだろうし、アスタロト家との問題になっていただろうな。
ビンタまでされても笑みを絶やさないディオドラ。ここまで来ると、不気味を通り越して危険に近い。
「なるほど。わかったよ。――では、こうしようかな。次のゲーム、僕は赤龍帝の兵藤一誠を倒そう。そうしたら、アーシアは僕の愛に答えて欲し――」
「おまえに負けるわけねぇだろッ」
イッセーが面と向かって言い切った。流石に俺が手を出すわけにはいかないな…。それこそ問題発展に繋がるからな。
「赤龍帝、兵藤一誠。次のゲームで僕はキミを倒すよ」
「ディオドラ・アスタロト、おまえが薄汚いって言ったドラゴンの力、存分に見せてやるさっ!」
睨み合うイッセーとディオドラ。そのとき、アザゼルのケータイが鳴った。いくつかの応答のあと、アザゼルは全員に向けて告げる。
「リアス、ディオドラ、ちょうどいい。ゲームの日取りが決まったぞ。――五日後だ」
その後すぐにディオドラは帰っていった。「次に会う時はレーティングゲームで。アーシア」と言い残して。
正式なゲームの内容は後日、サーゼクスから直接俺にも連絡があった。
D×D
俺は夜風に当たりながら深夜の悪魔稼業をがんばっている皆に差し入れの飲料水の入ったビニール袋を両手に持って、帰路の途中にある自動販売機の隣に設置してあるベンチに腰を掛けていた。
「――に、兄さん?ここで何してるの?」
突然かけられた声。正面にはイッセーが自転車に乗って停車していた。
「あぁ、皆がんばっているから…ちょっとした差し入れにと思ってな」
俺はイッセーに「ここに座れ」と左隣をジェスチャーで示す。
隣に座ったイッセーに差し入れの飲料水の入ったペットボトル……スポーツ飲料を一本手渡す。
「生き返ったか?」
「んぐんぐ……ぷはぁっ!生き返ったぁ~」
イッセーは爽快に飲んだ。
一息ついている俺は、後方にある闇夜に話しかけた。
「いつまでも気配を隠してないで、出てきたらどうだ?」
いきなり話しかけた俺を呆然と見つめていたイッセーだが、気配が現れると咄嗟にベンチから立ち上がって後方の闇夜を睨めつけた。
「なーんだ、バレてたのか。おひさ、赤龍帝、うちはイタチ」
「び、美猴!何でおまえが!」
「おいおい、そのネームは裏のモノだ。表の名で呼んでくれよ」
闇夜から現れたのは、ラフな格好の美猴。
「ま、相棒の付き添いでさ」
闇夜からもう一人姿を現す。
「二か月ぶりだ、兵藤一誠」
白ワイシャツ姿のヴァーリだ。
「ヴァーリッ!」
「待て」
警戒を高めるイッセーに片手を出して制した。
「ヴァーリ、イッセーに何の用があってきたんだ?」
俺は警戒を高めているイッセーの代わりにヴァーリに問いかける。
「レーティングゲームをするそうだな?相手はディオドラ・アスタロト、アスタロト家の次期当主」
「それがどうした?」
「気をつけた方がいい」
――やはりか。
「……どういうことだよ?」
警戒を少し解いて問いかけるイッセー。
「記録映像は見たのだろう?アスタロト家と大公の姫君の一戦だ」
そう、ディオドラの帰った後にそのゲームの映像を見た。
試合はディオドラの勝ちだったが、不自然なほどディオドラの実力は圧倒的で、奴だけがゲームの途中から異常なほどの力を見せつけてアガレスのシーグヴァイラとその眷属を撃破した。
ディオドラの眷属は奴をサポートするぐらいで、『王』自ら、孤軍奮闘、一騎当千の様相を見せていた。ディオドラは魔力に秀でたヴィザードタイプだ。リアスを超える魔力のパワーでシーグヴァイラを追い詰めていた。
これを見て全員が訝しげに思った。ゲーム自体ではなく、ディオドラ本人のみに。ディオドラは急にパワーアップした。それまではシーグヴァイラがかなり追いつめていたのだが、 急にパワーアップしたディオドラに逆転された。イッセーや他のメンバーが『実力をギリギリまで隠していた?』と考えていたようだが、それはありえない。いや、それをできる者はこの世界でもごく僅か。俺がディオドラを直接見た限り、ディオドラの中にある魔力の量は図り知れていた。確実にシーグヴァイラの方が上回っていたはず。あの会場や数時間前のリビングでも…。
アザゼルはこの試合を生で観戦していたが、事前に得ていたディオドラの実力から察してもあまりに急激なパワーアップに疑問を感じたようだ。
リアスも同じことを言っていた。
「ディオドラはあそこまで強い悪魔ではなかった」――と。
急激なパワーアップをする前のディオドラもある程度強かった。リアスより魔力量は多少劣る若手の悪魔だ。
しかし、試合の途中からディオドラは皆が驚くほどの力を発揮していた。
短時間であそこまで強くなれないことはないが、ディオドラはそのような事はしないだろう。
俺はこっそり映像をディスクにコピーしてPCで確認していた。すると、ディオドラが急激なパワーアップをした瞬間だが、黒い影が一瞬、集中して見ていないと気づかないぐらいほんの0コマ何秒の部分に映っていた。
俺はリアスたち以外(アザゼルを除く)の全員を俺の部屋に召集させた。ちょうど悪魔稼業の最中でこちらに気が向いてないことを確認して。
PCのコマ送りを見せると、辰巳がつぶやいた。
「――これ、蛇の力よ」と。
そうして俺たちはある組織にたどり着いた。そう、その組織は『
「まあ、俺の言い分だけでは、上級悪魔の者たちに通じないだろうけど。キミ自身が知っておくぐらいはいいんじゃないかと思ってね」
俺とヴァーリの視線が重なる。気づいていたか…俺が『それの』理由を知っていたことを。
「……一応例は言っておく」
俺がそう口にした時、闇夜に人影が――。俺は『見えて』いたが、ヴァーリと美猴は予想外だったようで、そちらへ視線を向けていた。
ぬぅ……。
闇夜から姿を現したのは――プロレスラーと言っても間違いのない質量の筋肉に包まれた巨躯のゴスロリ
――ミルたんだ。
イッセーのお得意でたまに付き添いで家に上がっている。
現れた瞬間、ヴァーリが二度見をしていた。我が目を疑ったのだろうな。
「にょ」
手をあげ、イッセーと俺にあいさつして、横を通り過ぎていく。俺も知り合いなので、苦笑しながら手をあげる。
「頭部から察するに猫又か?近くに寄るまで俺でも気配が読めなかった。仙術か?」
ヴァーリが真剣な面持ちで美猴に訪ねる。その気持ちはよくわかる。ミルたんは見えていても気配を感じ取ることが出来ないことがよくあるからな。今みたいに…。
「いんや、あれは……トロルか何かの類じゃね?……猫トロル?」
「ぶっ」
俺はつい吹いてしまった。美猴の詮索で『猫トロル』とか…意外とわからないモノだな、人のツボは。
美猴も首をひねって答えに困っていた。まぁ、人間だけどな。
ミルたんの登場で場の雰囲気が変わった。戦闘意識が収まっている。
「まあ、いいか。帰るぞ、美猴」
ヴァーリはそれだけを言い残し、美猴と共にこの場をあとにしようとする。
「…待て。そのことだけを言いに…会いに来たのか?」
俺が訊くと、ヴァーリは笑って答えた。
「近くに寄ったから、未来のライバルくんに忠言をしにきただけさ」
「じゃあな、赤龍帝、うちはイタチ。なあ、ヴァーリ。帰りに噂のラーメン屋寄っていこうや~」
それだけ言うと、ヴァーリは美猴を引き連れて闇夜へ消えていった。
D×D
俺は慌てて自室へ
何やってんだよ……黒歌たちは!!
俺はイッセーと帰宅するなり家の玄関内で遭遇した。
玄関で迎えてくれたのは朱乃と黒歌。だが、二人の着ている服装がヤバかった。
黒歌はいつも着ている着物ではなく、裾や袖などを極端に斬り落とした巫女服を着ていた。今にでも大事なところが見えそうなぐらい短い。
俺は朱乃の服装は見ずに慌てて靴を脱ぎ捨てて廊下をダッシュ。しかし、自室にたどり着く前に黒歌の部屋に引っ張り込まれた。
黒歌は俺が逃走直後、魔方陣で自室に転移。待ち伏せする形で気配を殺していたんだ。
それに掛かり引っ張り込まれた俺。仕方なく黒歌をベッドに押し倒して、耳元に口を持っていって……口笛を吹いた。気を許していた黒歌は音による幻術で眠りに落ちたが、廊下に出ようとした瞬間――覗いていたリエたちを見つけたので、
多分、俺の部屋の外の廊下では…部屋のドアを開けようとしてるだろうな。
俺はベッドに横になると、アザゼルとサーゼクスに魔方陣を飛ばした。
「悪い、遅くなった」
『いや、いい。通信で悪いな、サーゼクス、龍介。例のグラシャラボラス家次期当主の不審死とディオドラ・アスタロトの魔力増大についてだが……』
『やはり、繋がったか。――悪魔はいまだ問題を抱えるばかりだ』
『まだ確証は得ないが、ヴァーリの忠告を信じるならば、ディオドラは――』
「残念だけど、
『そうか、すまないね。龍介』
『あ~、ったく、身内のイベントでただでさえテンション低いのによ』
『聞いているよ。グリゴリの幹部がまた一人婚姻したようだな』
『……どいつもこいつも焦りやがって。何よりも俺に黙って裏で他勢力の女とよろしくやっていたなんてな……。クソ、そろそろ独り身は俺だけか!』
『ふふふ、アザゼルも身を固めたらどうだ?』
『嫌だね。俺は趣味に生きる男だ。……お、女なんていくらでもいる!』
『そうだな。そういうことにしておこう。そうだ、龍介もそろそろいい頃合いでは?』
「なぜに俺へ話を振る?俺はまだ身を固めるわけには――」
『おうおう、俺への喧嘩を売ってるのか?』
「なぜ、そういう解釈の仕方になるんだよ……。って、話がかなり脱線してないか?」
『おっと、そうだね。――さて、例の
『あぁ、任せてくれ。あいつらには少々悪いことをするがな』
「俺も引き出し役ってわけか……」
魔方陣での通信を終えた俺は、目を瞑ろうとして気がついた。――結界が破られたことに。
さて、今夜はどうなることやら――。