私は龍介たちがイッセーたちのところへ転移した後、花楓の援護に残ったアイムやレヴィたちと共に旧魔王派の悪魔を一通り片づけていた。
蛇で縛り上げた後、容赦なく締め上げる。龍介に教わった拷問術の一つだが、今は戦場……容赦なく絞め殺した。
宙を飛んで移動していると、戦場を外れたフィールドの隅に人影を一つ発見する。
私はその人影の前に降り立つ。……腰まである黒髪の少女。黒いワンピースを身に着け、細い四肢を覗かせている。
……私は目を少しだけ細めて言った。
「――あなたがここにいるなんてね」
「久しい。お姉ちゃん」
「十五年ぶりね。元気そうで何よりだわ……。少しは軽蔑されると思っていたのだけれど――オーフィス」
そう、この少女は私と同じ……いえ、私の片割れで『
「抱きつきたいのは山々だけれど、どうしてここにきたの?」
神殿の方をジッと見ている…。
「見学。ただ、それだけ」
昔の私が話す時と同じ話し方で返してくるオーフィス。
「そう…。私たちが戦えば、ここは死地になるでしょうね」
「同じ力。勝負はつかない」
「では、二人ではどうだろうか?」
バサッ!
羽ばたきながら下りてきたのは――元龍王のタンニーン。
タンニーンはその大きな目でオーフィスを睨みつける。
「オーフィス、十五年前に私が抱いていた野望は…今も変わらないのね?」
「変わらない……我は、静寂の世界を望む」
「そう…」
十五年前に私の抱いていたモノ…、それをオーフィスは抱いたまま。
「次元の狭間には、彼が泳いでいるのよ?」
「そう、グレートレッドが泳いでいる」
タンニーンには少し前に私から話を通しているため、会話に割り込もうとはしてこない。
グレートレッドは手を出さなければ何もしてこない…。それは、龍介たちと住むようになってから学んだ。だけど、オーフィスはこのことを知らない。
「――っ」
私はそのことを伝えようとしたとき、オーフィスの横に魔方陣が出現して何者かが転移してきた。
現れたのは貴族服を着込んだ一人の男…。
その人は一礼して、不敵に笑む。
「お初目にお目にかかる。俺は真のアスモデウスの血を引く者。クルゼレイ・アスモデウス。『
その挑戦的な視線は私の後方……黒い六対十二枚の翼を生やした堕天使に向けられていた。気配は少し前に察知していたけど、降りてくるタイミングがジャストなのは予想外だったりする…。
「…ハハハ、こいつはまた……。首謀者の一人がご登場ってわけだ」
アザゼルは頭をかきながら、つぶやいた。
「旧魔王派のアスモデウスが出てきたか」
アザゼルが確認するやいなや、クルゼレイは魔のオーラを迸らせた。直ぐに感じ取れた……。オーフィスの力を貰っているのね。
「旧ではない!真なる魔王の血族だ!!カテレア・レヴィアタンの
カテレア……確か、軟禁しているレヴィアタンの末裔でレヴの妹だったわね。
「いいぜ。タンニーンと辰巳はどうする?」
「サシの勝負に手を出すほど無粋ではない。オーフィスの監視をさせてもらおうか」
「私も遠慮しておくわ。妹…オーフィスが心配だから。それに、クルゼレイは要人物よ。殺してはダメだから……私が相手をすれば確実に即死するよ」
私は『
アザゼルが自身で作りだした人工
「さて、ファーブニル。付き合ってもらうぜ。相手はクルゼレイ・アスモデウス!いくぜ、
すると次の瞬間、アザゼルは黄金の全身鎧に身を包んだ。
アザゼルが構えて戦闘に入ろうとしたとき、乱入する転移用魔方陣が現れた。
独特の『潜り抜ける』転移用魔方陣。そこから現れたのは、薄金色の長髪の少女――アリス。クルゼレイ・アスモデウスの姉……アリス・アスモデウス。
「ゴメンね、弟の
物腰を柔らかく言うアリス。
「はぁ……わーたよ」
仕方なく折れるといった感じのアザゼル。
「――姉ぎみ!!なぜ、今さら俺の前に出てきたのだ!?あなたは忌々しき存在に肩を貸すか?」
「肩を貸していないと言えばウソになるわ。そうね、昔は政治になんて興味なかった。今も同じよ」
「では、どうして!?」
アリスは意外な一言を言う。ここにいる者が拍子抜けするほどのね。
「――愛よ」
「……愛?」
「そう、愛よ。私は自分の理想の相手を見つけることができたの。だから、その人の進む道を共に歩む……これじゃダメかな?」
「……」
クルゼレイは絶句している。
――って、今のは半分龍介に対しての告白だよね!?本人いないけど!!
「リュースケが教えてくれた綱引きをするから、蛇貸して」
アリスは私に片手を出して言う。
「わかったわ。それとだけど、『
アリスはにこやかに笑って見せた。あぁ……この笑みは残忍なことをする前の笑みね。ご愁傷様…クルゼレイ・アスモデウス。
「クルゼレイ、私と勝負しなさい!あなたが勝てば、私は『
「いいだろう!いくら姉ぎみでも、本気でいく!!」
アリスとクルゼレイは空中で睨み合う。
アリスは左手に私が貸した蛇を巻きつけ、右腕は魔方陣に潜らせて紅蓮の
対してクルゼレイは両手に巨大な魔力の塊を作り出していく。
飛び出したアリス。そのアリスに向けてクルゼレイが巨大な魔力を掃射する。アリスはその巨大な魔力を右手の紅蓮に輝く
襲いかかる巨大な魔力を次々と高速で斬り裂いて、クルゼレイの眼前で停止したアリス。
ドスッ!!
クルゼレイの腹部にアリスの右手のブローが炸裂する。
アリスは息苦しそうにむせるクルゼレイの首根っこを掴み、口の中に蛇をまとわせた左手を突っ込んだ!!
苦しそうに息を詰めているクルゼレイの腹部が一瞬だけ動いた直後に、アリスは突っ込んでいた左腕を引き抜いた。その左手の先にある蛇の口には、クルゼレイの中にいたと思うオーフィスの蛇が
「グォホッ…ゲホォ……」
「私の勝ちよ、クルゼレイ。約束通り、お仕置きして…あ・げ・る♪」
にこやかな笑みを浮かべながら、蛇を使ってクルゼレイの手首、腕と胴、足首を拘束するアリス。
「な…何を…!」
クルゼレイは抜けようと必死にもがくが、私の蛇は強力な捕縛の縄と化している上に、妹の蛇を飲み込んだためにより強力なものとなった。
ブルっと私の背中が震えた……ものすごく嫌な予感がしている。
「フフフフフフ………」
アリスはにこやかから残忍な笑みに変わる。それに対して青ざめていくクルゼレイ。
ベシッ!ベシッ!
「お尻叩き千回よ!!」
普通の魔力をまとわせた右手でクルゼレイのお尻を服の上から思いっきり叩くアリス。
クルゼレイの悲鳴が聞こえる。あれはかなり痛そう……。
「……ハハハ、愛の鞭か」
タンニーン、笑いどころじゃないと思うけど……。
アリスの愛の鞭による千回尻叩きが終わるまで、クルゼレイの悲鳴が聞こえ続けた。
D×D
俺たちがたどり着いたのは―――最深部にある神殿だった。その内部に入っていくと、前方に巨大な装置らしきものが姿を現した。
「アーシアァァァァァァァッ!」
装置の中心にアーシアが張りつけにされているのを視認したイッセーが叫ぶ。……見たところ怪我や衣類の破れは一つも見当たらない。
「やっと来たんだね」
装置の横から姿を現したのはディオドラ・アスタロトだ。やさしげな笑みがより一層全員の殺意を高めさせていく。
「……イッセーさん?」
アーシアが声を聞いて、イッセーの方へ顔を向けた。
――目元が赤く腫れあがっている。
泣いていたのか。それもかなりの量の涙を流したと思えるほど、目が赤くなっている。イッセーはそれを見て、低い声でディオドラに訊いた。
「……ディオドラ、おまえ、アーシアに事の
先ほど、フリードがインカムの向こうで語ったこと。
それは絶対アーシアには聞かせてはいけないものだった。
だが、ディオドラはイッセーの問いににんまりと微笑んだ。
「うん。全部、アーシアに話したよ。ふふふ、キミたちにも見せたかったな。彼女が最高の表情になった瞬間を。全部、僕の手のひらで動いていたと知ったときのアーシアの顔は本当に最高だった。ほら、記録映像にも残したんだ。再生しようか?本当に素敵な顔なんだ。教会の女が堕ちる瞬間の表情は、何度見てもたまらない」
アーシアがすすり泣き始めていた。
「でも、足りないと思うんだ。アーシアにはまだ希望がある。そう、キミたちだ。特にそこの汚れた赤龍帝。キミがアーシアを助けてしまったことで、僕の計画が台無しになってしまったよ。あの堕天使の男――ドーナシークが一度アーシアを殺した後、僕が登場してドーナシークを殺し、その場で僕の駒を与える予定だったんだ。おかげで計画がだいぶ遅れてしまったけど、やっと僕の手元に帰ってきた。これでアーシアを楽しめるよ」
『黙れ』
数人の声が重なる。殺気が籠もった低い声だ。
「アーシアはまだ処女だよね?僕は処女から調教するのが好きだから、赤龍帝のお古は嫌だな」
ディオドラ、おまえは気づいているか知らないが、イッセーの怒りは限界点を超えているぞ。
「あ、でも、赤龍帝から寝取るのもまた楽しいのかな?」
イッセーだけじゃない……ここにいる全員の殺気が膨れ上がっていく。
「キミの名前を呼ぶアーシアを無理矢理抱くのも良いかもしれ――」
「黙れェェェェェェェェェッ!」
『
イッセーの中で限界点にきていた怒りが弾け飛んだようだ。膨大な赤いオーラは鎧を形成していき、イッセーを包み込んだ。
『
「ディオドラァァァァァァァァッァッ!てめぇだけは!絶対に許さねぇ!」
二分と経たずに
「兄さん、皆、絶対に手を出さないでください!」
「イッセー、全員で倒すわ――と言いたいところだけれど、今のあなたを止められそうもないわね。 ――手加減してはダメよ」
「あぁ。おまえなら、ディオドラのガキにお灸を据えられる」
後方にいる皆もイッセーへ檄を送る。キレているイッセーだ。『
「アハハハハ!すごいね!これが赤龍帝!でも、僕もパワーアップしているんだ!オーフィスからもらった『蛇』でね!キミなんて瞬殺――」
ドゴンッ!!
ディオドラの体がくの字に折れ曲がる。イッセーの突っ込む速度に反応できなかったようだな。
ごぼっ――。
ディオドラが口から内容物を血と共に吐き出す。
「瞬殺がどうしたって?」
イッセーはゆっくりと歩み寄っては殴って吹き飛ばす。ディオドラの放った雨のような魔力弾を腕で弾いたり、跳ね返しながら歩んでいく。俺はイッセーに当たらず飛んできた流れ弾を
張りつけにされているアーシアには砂の防御を回しており、盾となって身を守っている。
『
イッセーの背中の噴出口から膨大なオーラが噴出し、ディオドラの魔方陣による壁を紙のように軽く砕いた。
「俺ん
ゴスッ!!!
正面から打ち出された拳打は、ディオドラの顔面をとらえて柱まで吹き飛ばした。
歩み寄るイッセー。ディオドラの前に立つとマスクを収納して、赤いオーラを激しく発しながら叫んだ。
「二度と、アーシアに近づくなッ!次に俺達のもとに姿を現したら、そのときこそ、本当に消し飛ばしてやるッ!」
すると、ゼノヴィアが駆け寄ってアスカロンの切っ先をディオドラの首筋に突き立てた。
マリアやカラワーナ、レイナーレとミッテルトも駆け寄ってディオドラの首にそれぞれ武器を突き立てて言う。
「アーシアに再び近づくなら、その首を跳ね飛ばしておきましょう」
「私の友人に二度と手は出させない。神剣の錆にしよう」
「アーシアを泣かしたから、ここで突き殺す」
「ウチの友達に手を出したんっすから、討ち抜いてもいいっすよね?」
あ~ぁ、収拾がつかなくなりつつあるな……。しょうがない…止めに入ろう。
「おいおい、そんなやつでもいちおう現魔王の血筋だぞ。テロに荷担したからと言っても、殺せばリアスやサーゼクスに迷惑がかかるぞ?それでもいいのなら、鞘に納めず
『――わかりました』
武器を向けていた全員が下ろす。解放されたディオドラは恐怖で瞳を潤ませていた。
俺はディオドラが逃げ出せないように手足を縛って砂の上で拘束した。
「アーシア!!」
装置の傍までイッセーたちが駆け寄っていく。俺は近くまでディオドラを乗せた砂を動かして歩み寄った。
アーシアを装置から外そうと祐奈たちが手探りで作業を始めた。
――少しして祐奈の顔色が変わる。
「……手足の枷が外れない」
「クソ!外れねぇ!」
『
「少し離れていろ。
右手を枷の装置に触れさせた瞬間――。
バヂッ!!
「ウソだろ……異能を無力化する
俺の言葉に目を丸くする皆。そのとき、砂の上にいるディオドラが言葉少なく呟いた。
「……無駄だよ。その装置は機能上、一度しか使えないが、逆に一度使わないと停止できないようになっているんだ。――アーシアの能力が発動しない限り停止しない」
「どういう事だ?」
イッセーが訊くとディオドラは淡々と答えた。
「その装置は
祐奈はディオドラに問いただす。
「発動の条件と、この結界の能力は?」
「……発動の条件は僕か、他の関係者の起動合図、もしくは僕が倒されたら、結界の能力は――枷に繋いだ者、つまりアーシアの
――
気がついたのか、白音が問う。
「……効果範囲は?」
「……このフィールドと、観戦室にいる者達だよ」
――やはりか。
その返答に驚愕する皆。
「……各勢力のトップ陣がすべて根こそぎやられるかもしれない……!!」
衝撃の事実に俺以外の全員が青ざめた。
「会長との一戦でそんな作戦が思いつかれたのか!!」
イッセーの疑問にディオドラは首を振った。
「いや、随分前からその可能性が出ていたようだよ。ただ、シトリーの者がそれを実際におこなったことで計画は現実味を帯びたそうだ……」
リアスが顔を怒りに歪める。
「堕天使の組織に潜り込んだままの裏切り者がソーナに『
策がないなか、俺はアーシアを張りつけている装置の裏に回り込んだ。
「に、兄さん、何をする気だよ!?」
「
そう言葉にした時、全員から止められた。
「オベリスク、ラー、オシリスは、外で力を完全に使い果たして二日は起きないし、花楓の『
俺は自分の言葉に引っかかった。
「特異な能力や技…………もしかすると…」
俺はイッセーの手を引いてアーシアの前に立たせ、耳元で囁くように話す。
『イッセー。俺の憶測なら、『打ち取れないストレートでも、落ちるフォークなら打ち取れる』のような変則的なモノならこの枷を解くことができると思うぞ』
『……どういうこと?』
俺の言葉に訊き返してくるイッセー。
『おまえの『
『マジかっ。なら、有言実行だ』
イッセーはアーシアの方を向いて頭を下げる。
「アーシア、先に謝っておく」
「え?」
イッセーの言葉に首をかしげるアーシア。なんか、悪いことを教えた罪悪感が今さら来たのだが…。
「高まれ、俺の性欲!俺の煩悩!――『
『
俺はイッセーが準備をしている間に
バギ――バババッ!
アーシアの四肢を捕らえていた枷は木っ端微塵に吹き飛び、同時にアーシアのシスター服も消し飛んだ。
「いやっ!!」
アーシアは瞬間的にその場でしゃがみ込んだ。
ブッと鼻血を垂れ流すイッセー。
俺はアーシアの裸体をなるべく視界に入れないように近づいて装束を羽織らせた。
ギュゥゥゥゥン……。
アーシアが解放されたためだろう、装置が機能を停止した。
「朱乃、衣服の再生を頼む」
「わかりましたわ。アーシアちゃん」
新しいシスター服に身を包んだアーシアが、イッセーに抱きつく。
「信じてました……。イッセーさんがきっと助けにきてくれるって」
「当然だろう。でも、ゴメンな。辛いこと、聞いてしまったんだろう?」
「平気です。あのときはショックでしたが、私にはイッセーさんがいますから」
アーシアはイッセーから離れて、俺の前に立つ。
「あの、先ほどはありがとうございました」
手渡される装束。
「あぁ。おかえり」
俺は言葉少なめだが、家族の言葉を言った。
「はい。ただいま」
笑顔で答えたアーシア。
「アーちゃん!!」
犬が帰ってきた飼い主に飛びつくように、アーシアに抱きついたマリア。
「…もう、お姉ちゃんったら」
少し顔を赤くしながら、マリアの頭をそっとなでるアーシア。
ゼノヴィアやカラワーナ、レイナーレ、ミッテルトたちもアーシアと抱き合って涙を流す。その度に、優しく涙を拭って頭を撫でるアーシア。
「部長さん、皆さん、ありがとうございました。私のために……」
今度はリアスがアーシアを抱き、優しげな笑顔で言う。
「アーシア。そろそろ私のことを家で部長と呼ぶのは止めてもいいのよ?私を姉と思ってくれて良いのだから」
「――っ!はい!リアスお姉さま!」
おぉおーい、リアスさーん!それはマリアに宣戦布告しているからねー!!
「さて、アーシア。帰ろうぜ」
「はい!と、その前にお祈りを」
アーシアは天に何かを祈る。
「アーシア、何を祈ったんだ?」
「内緒です」
アーシアは恥ずかしそうにして言う。
そして、笑顔でイッセーのもとへ走りよるアーシア。
カッ――。
そのとき、まばゆい光の柱がイッセーたちを襲う。
よく見ると、その光の柱はアーシアを包み込んでいた。
光の柱が消え去ったとき、そこには――。
「……アーシア?」
誰もいないところにイッセーが声をかけた……。
――そう、アーシアは光の柱と共に姿を消した。