僕たちは一瞬何が起こったかわからなかった。
いや、いまでもよくわからない。
ディオドラ・アスタロトと
その瞬間、アーシアさんがまばゆい光の中に消えていった。
……何が起きた?
「――
聞き覚えのない声だ。
声のしたほうへ視線を送ると、そこには見知らぬ男性が宙に浮いていた。
……なんだ、この体の芯から冷え込むようなオーラの質は……。
部長がその男性に訊く。
「……誰?」
「お初にお目にかかる、忌々しき偽りの魔王の妹よ。私の名前はシャルバ・ベルゼブブ。偉大なる真の魔王ベルゼブブの血を引く、正当なる後継者だ。先ほどの偽りの血族とは違う。ディオドラ・アスタロト、この私が力を貸したというのにこのザマとは。先日のアガレスとの試合でも無断でオーフィスの蛇を使い、計画を敵に予見させた。貴公はあまりにも愚行が過ぎる」
――旧ベルゼブブ!!
龍介さん以外の視線がベラナさんへ向けられる。
――そう、彼女はベラナ・ベルゼブブ。シャルバ・ベルゼブブのお姉さん……同じ旧ベルゼブブの血を引く者。
ディオドラ・アスタロトが旧ベルゼブブの末裔――シャルバ・ベルゼブブに懇願するような顔となった。
「シャルバ!助けておくれ!キミと一緒なら、赤龍帝を殺せる!旧魔王と現魔王が力を合わせれば―――」
ピッ!
シャルバが手から放射した光の一撃がディオドラの胸を容赦なく貫いた。
「哀れな。あの娘の
嘲笑い、吐き捨てるようにシャルバは言う。
ディオドラは床に突っ伏すことなく、塵と化して霧散していった。――光の力?天使、堕天使に近しい能力だろうか?それとも『
僕の視界にシャルバの腕に取り付けられた見慣れない機械が映る。……あれが光を生み出す源?
「シャルバッ!!……あなたはなんてことをっ!」
ベラナさんが涙を流してシャルバに叫んだ。
「邪魔だからですよ、姉上。いえ、貴様は姉上ではない!!忌々しき現魔王に荷担した反逆者だ。サーゼクスの妹君と共に死んでいただく!」
シャルバが座り込んでいたベラナさんに光の一撃を放った!!マズイ、悪魔にとって光は猛毒。あれだけの質量の光力を受ければ、上級悪魔でも消滅しかねないッ。
そのとき、ベラナさんの間合いに立ち塞がった人影。その人は腹部に光の一撃を受けて出血と吐血をした。
「……無事か?ったく、ドーナシークの時を思い出しちまうな」
その人は、手で印を結ぶとバサッと床に倒れてしまった。
「龍介っ!!」
黒歌さんが駆け寄って、仙術で治療を開始する。
僕もやっと理解した。ベラナさんを
「……全員、ここから避難しろ。シャルバは…俺が片づける」
そう言うと、龍介さんはゆっくりと立ち上がる。腹部にできている傷口からは
「アーシア?アーシア?」
――っ。
イッセーくんがふらふらと歩きながらアーシアさんを呼んでいた。
「アーシア?どこに行ったんだよ?ほら、帰るぞ?家に帰るんだ。か、隠れていたら、帰れないじゃないか。ハハハ、アーシアはお茶目さんだなぁ」
イッセーくんはアーシアさんを探すように辺りを見渡しながら、おぼつかない足取りで……。
「アーシア?帰ろう。もう、誰もアーシアをいじめる奴はいないんだ。いたって、俺がぶん殴るさ!ほら、帰ろう。体育祭で一緒に二人三脚するんだから……」
――見ていられなかった。
白音さんとギャスパーくん、ミッテルトさんが嗚咽を漏らし、朱乃さんとレイナーレさんも顔を背けて涙を頬に伝わせる。
イッセーくんの傍まで歩み寄った龍介さんが、やさしく抱く。
「……イッセー、ここから離脱しろ……シャルバは俺が片づけて、アーシアを連れて帰る…」
「兄さん…。こ、これ、血?兄さんのお腹から血が出てるよ?」
イッセーくんはうつろな表情で手に付いた龍介さんの血を見る。それでも優しげな表情で抱きしめている龍介さん。
「…………許さない。許さないッ!斬るっ!斬り殺してやるっ!」
叫びながらゼノヴィアがデュランダルとアスカロンでシャルバに斬りかかる!
「無駄だ」
ギャンッ!
シャルバは聖剣の二刀を光り輝く防御障壁で弾き飛ばし、ゼノヴィアの腹部へ魔力の弾を撃ち込んできた。
ドオオンッ!!
地に落ちるゼノヴィア。聖剣も放り投げられ、床に突き刺さった。
「…………アーシアを返せ……。……私の……友達なんだ……っ!!……やさしい友達なんだ……。誰よりもやさしかったんだ……ッ!どうして……ッ!」
ゼノヴィアが泣き叫ぶ。
シャルバはイッセーくんに向かって言った。
「下劣なる転生悪魔と汚物同然のドラゴン。まったくもって、グレモリーの姫君は趣味が悪い。そこの赤い汚物。あの娘は次元の
その直後、力なく地面に倒れ込んだ龍介さん。
イッセーくんは地面に倒れ込んでいる龍介さんを見て、宙に浮いているシャルバを捉えた。
そのまま、じっと見つめ続ける。その姿は異様に見えた。無表情のまま、シャルバの顔だけを見続けている…。
『リアス・グレモリー、いますぐ倒れている龍介を連れてこの場を離れろ。死にたくなければすぐに退去した方がいい』
ドライグの声が聞こえてくる。
退去?どういうことだ?部長も僕同様に怪訝な表情をしていた。
ドライグの声は次にシャルバへと向けられる。
『そこの悪魔よ。シャルバといったか?』
イッセーくんが歩き出す。
『――おまえは』
そしてシャルバの真下まで来たとき、無感情な一言をイッセーくんの口からドライグが言った。
『選択を間違えた』
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!!
神殿が大きく揺れ、イッセーくんが血のように赤いオーラを発していく!!
イッセーくんの口から、呪詛のごとき、呪文が発せられる。
それはイッセーくんのものだけじゃない。老若男女、複数入り交じった不気味なものだった。
『我、目覚めるは――』
〈始まったよ〉〈始まってしまうね〉
『覇の理を神より奪いし二天龍なり――』
〈いつだって、そうでした〉〈そうじゃな、いつだってそうだった〉
『無限を
〈世界が求めるのは〉〈世界が否定するのは〉
『我、赤き龍の覇王と成りて――』
〈いつだって、力でした〉〈いつだって、愛だった〉
《何度でもおまえたちは滅びを選択するのだなっ!》
イッセーくんの鎧が変質していく――。鋭角なフォルムを増していき、巨大な翼まで生えていった。両手両足から爪のようなものが伸び、兜からは角がいくつも形作られていく。
その姿は、赤きドラゴンそのものだった。
そして、全身の宝玉から絶叫に近い老若男女の声が発せられた。
「「「「「「「汝を紅蓮の煉獄に沈めよう――」」」」」」」
『
イッセーくんの周囲がはじけ飛ぶ!!イッセーくんの鎧から発せられるオーラで。
朱色のオーラが鎧を覆っていき、完全に覆うと尾が九本に増える。
「ぐぎゅああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!アーシアァァッァァァァァァァッァァァァァァァッッ!!!!」
獣のような声を発し、四つん這いになったイッセーくんは翼を羽ばたかせる。
ビュ!!
空を切る音…早い!!僕の目でも捉えきれなかった――。
「……やめ…ろ、イッセー…」
「黙って!直ぐに治癒するから」
少し離れた場所に龍介さんを非難させた奏さんが
「龍介!しっかりするにゃ!!」
黒歌さんも駆け寄って、仙術による治癒を開始する。龍介さんの腹部からの失血も徐々に止まり、傷口が癒えていく。
ドゥゥゥゥゥ――。
何かを集中させる鳴動……寒気がするほど圧縮している感覚に、僕はイッセーくんの方を見た。
横に広がった両翼が赤く輝き、不気味な赤い光が辺り一面に広がっていく……。
「くっ!私はこんなところで死ぬわけには!!」
シャルバが残っている足で転移用の魔方陣を描こうとするが――その足が動きを停める。
「……と、停めたのか!?私の足を!!」
鎧の目が赤くきらめいていた。……ギャスパーくんと同じ能力を発動したの!?
『
『
チャージされた発射口から、圧縮された膨大な量の赤いオーラが照射されていく!!
「バ、バカな……ッ!真なる魔王の血筋である私が、ヴァーリに一泡も噴かせていないのだぞ!?ベルゼブブはルシファーよりも偉大なのだ!!おのれ、ドラゴンごときが!!赤い龍め!!白い龍めぇぇぇっ!!」
ズバァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッ!!!!
放射された赤い閃光にシャルバは包まれ消え去る。
神殿が今の一撃で崩れ出す!!
――間に合わない!!
僕がそう思った時、視界が暗転した。
D×D
――暗闇の中、神殿が崩れさす音だけが聞こえている。
音が止むと、頭上で動く大きなもの。
それが完全に退くと、目の前に広がるのは瓦礫と化した神殿のあとだった。
「全員無事?僕の甲羅は丈夫だから。戻るよ…カナデ」
「うん。ありがとね……
三尾の
ギリギリだったぁ……ホント、
「おおおおおおおおおおおおおん……」
覇龍と化したイッセー。
――我を失っても、アーシアを失った悲しみだけは消えない。
私たちには『
「困っているようだな」
――第三者の声?
そのとき、空間の裂け目が生まれ、人が潜れるだけの裂け目から現れたのは――白龍皇ヴァーリ。それと、古代中国の鎧を着た男――孫悟空の美侯。そしてもう一人は背広を着た見知らぬ男だった。
その男が手にしている剣は神々しいオーラを放っていた。リュースケが出会ったと言っていた聖王剣コールブランドの所持者。
「ヴァーリ」
リアスはヴァーリの登場に驚いていた。――だが、すぐに攻撃の姿勢を作り出す。周りもも戦闘のかまえを取っていた。でも、彼らからは敵意が感じられず、私やベラナたちは警戒自体していない。
「やるつもりはない。見に来ただけだ――赤龍帝の『
「……この状態、元に戻るの?」
リアスはヴァーリに訊く。
「完全な『
と、祐奈のもとに美侯が歩み寄る。――その腕には見知った少女が抱きかかえられていた。
「ほらよ、おまえらの眷属だろ、この癒しの姉ちゃん」
美侯から祐奈に渡された少女は――アーシアだ!
「アーシア!」
「アーシアちゃん!」
リアスと朱乃、皆がアーシアのもとに集まる。
「でも、どうして……」
祐奈が疑問を口にすると、コールブランドの持ち主が答える。
「私たちがちょうど、この辺りの次元の狭間を探索していましてね。そうしたら、この少女が次元の狭間に飛んできたのですよ。ヴァーリが見覚えがあるといいまして、ここまで連れてきたのです。なぜか淡い結界に包まれていましたが、おかげで私たちが駆けつける間、この少女は次元の狭間の『無』あてられずに済んだのです」
私は首元にかけてある小さな『三叉のクナイ』のネックレスを手に乗せる。直後、ヒビが入って霧散してしまった。
良かった……本当によかったわ。
「うわぁぁぁぁぁぁんっ!」
ゼノヴィアがアーシアの無事を確認し、安堵のためか、その場に座り込んで泣きじゃくってしまった。祐奈がゼノヴィアのもとへアーシアをおろす。ゼノヴィアはアーシアを大事そうに抱きかかえ、笑顔でうれし涙を流していた。
マリアやカラワーナたちもアーシアの頬や髪を撫でてうれし涙を流していた。
「――あとはイッセーだけれど」
リアスがイッセーの方を見る。
「――それは止めておいた方がいいぞ、リアス」
私の後ろから声がして、反射的に振り向いた。
そこには、黒歌に肩を支えられて立っているリュースケの姿がある!!
「もう平気なの?」
「まぁな。アーシアは無事だったみたいだな…ほら、アーシアのご帰還だ、鮫肌」
「ギギギギギギギギギギギ」
私の足元を通り過ぎて、アーシアの手に柄を絡ませる鮫肌。
「さて、イッセーのバカが……あのままじゃ、確実に死ぬな…何か策はあるか?ヴァーリ」
「そうだな、何か彼の深層心理を大きく揺さぶる現象が起これば……」
リュースケの問いにヴァーリが考えを巡らせる。
「おっぱいでも見せれば良いんじゃね?」
横で美猴が頭をかきながら言った。
「それは確かにな……。今のあいつの視界に入れば何とかなるかもしれない」
リュースケは美猴の言葉に賛成していた。私もそうは思うけどね……言えない。
「確かにあの状態ではな。ドラゴンを鎮めるのはいつだって歌声だったが、そのようなものはないし、赤龍帝と白龍皇の歌なんてものはない」
「あるわよぉぉぉぉ!!」
ヴァーリの言葉を遮って、遠くから飛んできたのは天使に転生したイリナだった。
D×D
『――おーい、聞こえているか?龍介』
イリナが飛んできたと思えば、今度はアザゼルがインカムに連絡を入れてきた。
「どうした?今、イリナが飛んできたところなんだが?」
『いいタイミングだ。龍介、紫藤イリナの持っている機械で映像を再生させろ。それをイッセーに見せろ』
「それがあいつを戻す手段か……。りょーかい」
俺は立体映像機器のセットを手伝い、宙に投影させた。
『おっぱいドラゴン!はっじっまっるよー!』
映像に映っているのは、
『おっぱい!!』
映像の子供たちはイッセーの周囲で大きな声で言った。
ダンスを始めるイッセーと子供たち。軽快な音楽も流れ出す。
宙に浮く文字――「おっぱいドラゴンの歌」……タイトルだな。
そして、作詞・作曲、ダンスの振り付けにアザゼル、サーゼクス、セラフォルーの名が載っている。
全員が呆気にとられている。
「……うぅ、おっぱい……」
『ッ!?』
キタコレ!!と叫んだ方がいいだろうか…?頭を抱え、はっきりとした口調で「おっぱい」と発したイッセー。
「反応したわ!」
リアスが歓喜の涙を流す。
「……兄さまらしいですが、少しショックです」
白音は猫耳をしおらせていた。
「紫藤さん、もう一度流してちょうだい!」
「はい!ポチッとな!」
リアスの言葉にイリナは応じて、再度機械のボタンを押した。
流れる軽快な音楽と歌。
「うぅ、おっぱい……もみもみ、ちゅーちゅー……」
イッセーが頭を抱えて苦しみだす。
「……ず、ずむずむ……いやーん……ポチッと」
歌詞の一部を言葉に出しながら、指で何かを求め出していた。その指には、先ほどまであった鋭い爪はない。
「――ムラクモ、力を貸してくれ」
『うむ、お主の自由にせい』
「ありがとよ…!」
俺は内からムラクモの力を引き出し、両腕から四対八頭の半透明の大白蛇を出してイッセーをまとっている『
「これならいけるか――」
『
俺のあとに続き、光速に近い速度で詰めよる。
『
鳴り響く白龍皇の音声。それと同時にかなりドライグの力が減少した。
「いまよ、リアス!あなたの乳首が求められているわ!」
「ええっ!?」
朱乃の言葉に目が飛び出さんばかりに驚いているリアス。
「イッセーくんはあなたの乳首を押して
「で、でも、私の乳首でイッセーの『
「できるわ!私では無理……。ふふふ、やっぱり、こういう役目はあなたのほうがお似合いなのね……それがちょっと悔しいわ」
リアスは眷属のアーシア以外の女子、レイナーレ、ミッテルト、カミュに視線を向けると、全員複雑な表情をしているが力強くうなずいた。
「わかったわ」
意を決したリアスはイッセーの方へ歩みを進める。
イッセーとの距離を詰め、眼前に立ったリアスは制服のボタンを外し、ブラを外していく。
俺たちのいるところからは角度的に見えていないので、手の動きと持っている物で判断している。もし見えていたら、俺の傍に立っている黒歌やリエ、近くにいるカラワーナ、マリアたちに総攻撃を受けて一週間は視力のない生活を送ることになっていたと思う……直感的に。
「お、俺の……お、おっぱい……」
イッセーは自ら求める者を発見し、震える指でリアスの胸へ――。
次の瞬間、イッセーの鎧は解除され、イッセーは『
「……リアス・グレモリーの胸は兵藤一誠の制御スイッチか何かなのか?」
イッセーらしいっちゃ、イッセーらしい。おっぱいで覚醒し、おっぱいで元に戻る……ヴァーリの考えていることはあながち間違っていない。
――ハハハ、おまえは立派な乳龍帝だ……イッセー。