ハイスクールD×D 力ある者   作:塩基

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学園祭のライオンハート
小さな決意


京から帰宅して数日後、俺はサーゼクスから受けたオファーのために冥界の旧首都――ルシファードにある大型コンサート会場のステージにイッセーたちと来ている。

 

「ずむずむいやーん!」

 

「「「「「「「「ずむずむいやーん!」」」」」」」」」

 

ステージに立っているイッセーの掛け声に、客席の子供たちが元気な声で反応している。

 

もちろん、「乳龍帝おっぱいドラゴン」のヒーローショーだ。その悪の組織のリーダー役として俺も出演している。

 

俺はステージ下でセリに乗って待機している。

 

「いくぜ、ドラゴンキック!」

 

「「「「「「「「キ―――――――ックッ!!」」」」」」」」

 

イッセーの掛け声と共に子供たちの歓声と舞台装置による爆発の演出がされてステージは盛り上がっている。

 

――そろそろ出番だな……。

 

俺は白衣をまとい、暗部の狐の仮面を被る。

 

「――『ドミニオン』上がります。十秒前!」

 

スタッフの人が装置裏で言う。俺は心を落ち着けて『ドミニオン』になりきる。

 

ガコンッ!とセリが動き出し、頭上では登場に備えていた爆発が巻き起こる。

 

「――フハハハハッ!!さすがは乳龍帝と言ったところか。私の実験獣を倒すとはな…」

 

俺はいかにも悪そうな敵役演じる。

 

煙が晴れてイッセーの姿が視認できるようになった。

 

俺の後方には戦闘不能の演技をしている人間サイズの守鶴(しゅかく)たちがいて、ホムンクルスこと飛段と角都は『ヘルナイト・ファング』役の祐奈と『ヘルキャット』役の白音と戦闘の演技をしている。

 

ちなみに『フォックス・シャマン』こと奏は、少し離れた場所で実験獣たちの指揮を執る役をしている。

 

『ドミニオン』こと俺は乳龍帝と相対し、演出の途中で乳龍帝のキックを顔面に受けて仮面が割れる――という仕掛けで、仮面に縦に亀裂が入り二つに割れて素顔を見せるという演出をする。もちろんだが、弱視になっている左眼の眼帯は外しているぞ。

 

もう少しのところで倒せるはずだった乳龍帝が『スイッチ姫』ことリアスの胸をつついたことにより、パワーアップして押され出したところで撤退をする。

 

「おもしろいぞ、乳龍帝。いつの日か再び(まみ)えよう!今日のところは退散させてもらうぞ!」

 

中央の大きなセリの上に『ダークネス』のメンバーが全員集まり、俺のセリフと共に舞台装置の煙幕で姿が見えなくなった直後にゆっくりとセリが降下していく。

 

「ま、待て!ドミニオンッ!!」

 

イッセーが叫ぶが、そこには『ダークネス』全員の姿がない――という設定になっている。

 

セリフを言い終えたイッセーたちのあとに、ナレーションの女性がステージ上で司会を進めていく……。男性や女性、子供たちの歓声と声援が沸き起こっていた。

 

                    D×D

 

「おつかれさまですぅ」

 

舞台裏で一息吐く俺にリエが水の入ったペットボトルを手渡してくる。

 

「あぁ、ありがとう」

 

俺はペットボトルを受け取ると、キャップを開けて少し飲む。

 

「ふぅ~」

 

軽く息を吐く。

 

『……では、おっぱいドラゴンのクイズコーナーです』

 

「「「「うおおおおおおおおっ!ヘルキャットちゃぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」

 

舞台でクイズコーナーの司会をする白音に、大きなお友達の声援が向けられている。

 

「……ハハハ、人間界も冥界も平和だな」

 

俺は苦笑しながらそう言った。

 

『同感』

 

相変わらずの無表情でメモ帳に書いた字を見せてくるユー。

 

冥界の未来のために盛り上げたいと言っていたサーゼクスの仕掛けは当たりを引いたようだ。

 

そういえば、冥界メディアではロキ襲来や京の事件などをニュースなどで報じており、そこで作戦に参加していたイッセーたちグレモリー眷属や俺たち暁のことを大々的に報道していた。

 

そのせいか、イベントなどで冥界を訪れた際に、マスコミ関係の方々に囲まれてフラッシュをたかれる羽目になった…。

 

目立った戦も無くなった悪魔業界にとって、俺たちが遭遇する事件は珍しい……というか、俺はまだ人間なんだけど…。

 

『おっぱいドラゴン!またもお手柄!!』みたいな感じで報道されている隣で『おっぱいドラゴンの仇敵も窮地のときには味方か!?』のような感じに報道されていた。

 

つまりは、テレビの中の『おっぱいドラゴン』と実際のイッセーの行動が混同されている上に、俺は『おっぱいドラゴン』の仇敵でもテロ相手のときは手を貸している間柄になっているらしく、子どもたちの人気が若干増えてきているようだ。

 

俺はトイレに行こうと通路を歩いていたら、通路先で何やら話し声が聞こえてきた。

 

サッと物陰に隠れた俺は、頭を少しだけ出して声のする裏口の様子を伺ってみる。

 

「すみません。握手とサイン会の整理券配布はすでに終わってまして……」

 

「そ、そうなんですか……。もう終わっちゃったんだって」

 

「やだぁぁぁぁっ!」

 

スタッフの男性が謝り、母親が子供に告げるとその子どもは涙をためて泣き叫ぶ。

 

「どうかしたんですか?」

 

通路の隅から赤い閃光を発した直後にマスクを収納した状態のイッセーが現れた。

 

その声に母子とスタッフが振り返る。

 

「おっぱいドラゴンだっ!」

 

子供は一転して笑みを見せた。スタッフがイッセーに説明する。

 

「あ、兵藤さん。いえ、こちらのお母さんとお子さんがサイン会の整理券配布に間に合わなかったようでして……」

 

確認を取ったイッセーは子供の前で片膝をついて訊く。

 

「キミ、名前は?」

 

「……リレンクス」

 

「リレンクス、俺に会いに来てくれてありがとう。えーと、何か書くものものありますか?」

 

イッセーがスタッフに訊くと、

 

「あ、ありますが……」

 

マジックペンを取り出して手渡した。

 

「この帽子。俺のデザインが入った帽子、これにサインしてもいいかな?」

 

イッセーがリレンクスの帽子を指さすと、リレンクスは三度もうなずいた。

 

帽子にサインを書き、そのままリレンクスの頭に被せるイッセー。輝くような笑顔でリレンクスは帽子を何度も脱いでは被っていた。

 

「ありがとうございます!」

 

母親がお礼を言う。イッセーがリレンクスの頭に手を置いて告げた。

 

「リレンクス、男の子が泣いちゃダメだぞ。転んでも何度でも立ち上がって女の子を守れるぐらい強くならないとさ」

 

そう言ったあと、イッセーは立ち上がってスタッフと共にその場をあとにする。

 

俺はこっそりと物陰に隠れながら追尾する。……同じ方向に進むのだから仕方がない…ということでご容赦くださいませ。

 

俺は海外にいたときにる事情で身につけた『抜き足(スニーキング)』で足音を殺し、イッセーとスタッフが立ち止ったのを確認して、完全に気配を消した状態で物陰に身をひそめた。

 

「格好良かったわよ、さすが私のイッセーね」

 

イッセーの近くに現れた紅髪の影――リアスだ。

 

「少し軽率だったけれど、それでもあの子の夢をあなたは守ったわ」

 

「部長……」

 

イッセーが涙目で感動しているところに気配が二つ近づいてくる。

 

俺はとっさに頭を引っ込めて声だけで状況を判断することにした。

 

「あら?ごきげんよう、リアス、一誠さん。ここで何をしているのかしら?」

 

気配と声で誰かが分かった――ヴェネラナ夫人だ。ということは、傍にいるのは気からして……ミリキャスだな。

 

「お、お母さま!ミリキャスまで!いらっしゃっていたの?」

 

リアスは素っ頓狂な声を上げて驚いていた。

 

「リアス姉さま、イッセー兄さま、イベントとても楽しかったです!」

 

ヴェネラナ夫人の隣で立っているだろうミリキャスが元気に言った。

 

ヴェネラナ夫人は言う。

 

「えぇ、一度、グレモリーが主催するイベントを直に見ておきたかったものですから。ミリキャスも見たいと言っていたのです。一誠さん、盛り上がっていましたわね。良いショーだったと思いますわ」

 

どうやらイベントの会場に来ていたらしい。……全く気づかんかった。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

イッセーが礼を口にした。

 

「一誠さんを模した特撮番組は我がグレモリー家の財産を担う大切な産業となることでしょう。そして、冥界の子供たちにとっても大切なものになっていますわ。これからもグレモリーの一員として、冥界のため、我が家、我が娘のために奮闘してもらえると助かりますわ」

 

「もちろんです、部長のお母さま!粉骨砕身の精神でがんばりたいと思います!」

 

「『粉骨砕身』、日本の成句だったわね。良いお言葉ですわ。さすがグレモリー家の男子です。けれど、『部長のお母さま』というのは、いただけないわね。私のことは『部長のお母さま』ではなく、お義母(かあ)さまか、母上と呼ぶこと」

 

――あ~ぁ、始まってしまった……ヴェネラナ夫人の説教…。

 

俺は聞こえる声を聴いて内心そう思った。……がんばれ、義弟よ。

 

「…し、しかし、失礼のような……」

 

どうもイッセーは現状を理解していないらしい。あの冥界での儀礼といい、イッセーはまだ自覚いていないようだ……少しは勘付いてはいるものの…。

 

そう、俺がサーゼクスに頼まれて『サタンブラック』としてサタンレンジャーに参加したときだ。悪霊をオーバーキルした際に、『(じん)(とん)原界剥離(げんかいはくり)(じゅつ)』をサーゼクスたちの魔力に合わせて放ったことでイッセーに正体がバレたが……俺がそこにいた理由をイッセーには「己で導き出せ」とでしか答えていないために、イッセーは未だその答えを導き出せていない。まぁ、ときが経てば導き出せるだろうが……。

 

「リアス、教えがなっていないのではなくて?」

 

ヴェネラナ夫人の声音が低くなり、リアスが答える。

 

「申し訳ございません、お母さま。ですが――」

 

「そこで『ですが』が入るだなんて……。伴う男子を入れるのですから、そこをちゃんとしないでどうするの?それと例の順番は決めたのかしら?少なくともアーシアさんと朱乃さんと白音さんはそうなのでしょう?」

 

……例の順番?いや、分かってはいるんだが…脳が強制的に思考を停止させているから分からない…。

 

「殿方がそれを望むのだから、そこを管理するのも当主たるあなたの役目です。他にも増えるとしたら、いまからちゃんとしなければダメよ。お父さまのときはきちんと私が手綱を握ったものです。強く魅力的な殿方に他の女性が心を奪われるのは世の常。サーゼクスは魔王ゆえにグレイフィアのみでしたが、彼は別に魔王を目指しているわけではないのよね?ならば問題もないでしょう。……まさか、まだ決め手を欠いているのかしら?もう、強引なところは私に似たと思ったのに、最後の最後で詰めが甘いだなんて……。一度そういう関係になれば周囲の女性の主導権を得られるでしょう。リアス、最後まで私やグレイフィアが介入しなければ進められないのですか?」

 

不満を爆発させたヴェネラナ夫人のマシンガントーク。グレイフィアと同様にイッセーとリアスの仲に不満を抱いているようだ……。

 

コホン、とヴェネラナ夫人は軽く咳払いをしたあと、「まぁ、いいわ」とお説教モードを終える。

 

「イッセーさん。あなたもあなたですわね。まずはグレモリー家の者を呼ぶところから自覚してもらわないといけません。私はともかく、リアスのことです。いつまでも『部長』だなんて……。そこが一番大事なことだわ」

 

俺はそっと物陰から覗いてみると、ヴェネラナ夫人がイッセーの鼻先に指を突きつけて物申したところだった。

 

「リアスのことは好き?」

 

「は、はい!もちろんです!!尊敬していますし、俺の大事な方です!命に代えても終生お守りするしだいです!!」

 

イッセーの言葉にヴェネラナ夫人がうんうんとうなずく。イッセーの隣にいるリアスは顔を真っ赤にしている。

 

「あ~、無自覚にプロポーズしやがったな…」とイッセーに心のなかで突っ込みを入れる俺をよそに、ヴェネラナ夫人は続ける。

 

「よろしい。麗しい主従関係は確認しました。それなら、もう一歩踏み込んでみなさい。プライベートでのリアスはあなたにとって、どういう存在なのか、それを改めて考えてやりなさい」

 

――ヴェネラナ夫人の言葉が俺の心の奥まで響き渡る。それと同時に脳裏をリエの顔が(よぎ)った。前世で恋人の関係だった俺とリエ…。俺はいまもリエのことが好きでいるが、リエはどうなのだろうか……?前世のときみたいに付き合ってくれるのだろうか?それとも……。

 

「……俺も、もう一歩踏み込んでみるかな?」

 

聞こえることのない小さな声で俺はつぶやいた。

 

ヴェネラナ夫人がミリキャスと共にその場をあとにしていく。

 

リアスがコホンと軽く咳払をしたのが聞こえた。

 

「……さ、さて、帰ったら学園祭の準備再会よ」

 

「はい!」

 

二人は何かを話しながらこの場を去っていった。

 

「――さ~て、俺も戻りますか」

 

俺は物陰から出たあと、手洗いを済ませて舞台裏に戻った。

 

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