翌日の夕方、俺は自室の奥にある研究室の一つにいる。
目の前には大きな培養装置に満タンに入れられた培養液、その中には呼吸器などをつけた女性が全裸で目を瞑って入っている。
――そう、彼女は『エルシャ』。歴代最強の二大赤龍帝にして亡き故人だ。
なぜ、彼女がこの装置の中にいるかって?話せば長くなるが……話そう。
俺は京から帰ってきてすぐに『
京でイッセーが覚醒した際、ベルサードとエルシャは成仏したとイッセーから聞いていたが、翌日の就寝しているときに俺の意識が
エルシャの話だと、「ベルサードは逝ってしまったけどね、私は約束を果たしてもらうために残ったわ」だそうだ。
乗り移ることができたのは、俺の
俺もその現象には驚いたが…都合がいいとのことですぐに準備に取りかかった。残留思念が残っている今ならば、培養装置の中で成長させたクローン体に魂ごと戻せば……まぁ、俺の計算だと九割九分以上で記憶を引き継ぐ確率であると出た。ただ、ほとんど同時におこなわなければ五割まで成功率が下がってしまうが…。
装置と装置の中のみの時間を加速させて一日あたり約四万千八百七十四日分の時間を『時
いまは魔法を減速させて現在の時間の流れと同じ早さに合わせている。それと、本来のクローン体の寿命は短いが、禁呪の魔法を用いているために、俺たちとあまり変わらない時間を生きることができるようにしている。
ベルサードは間に合わなかったが、できれば赤龍帝、白龍皇の中に眠っている歴代たちの蘇生もしようと思っている。だが、いまの状態では幾年かしないと無理そうだけどな。
……ざっと、こんなところだな。
俺は左腕に
そろそろ頃合いのときだと思い、蘇生という名の転生をおこなう。
――そう、エルシャをこの世に蘇らせるのだ。
「
俺の叫びと共に後方から『霊魂』が浮遊しながら装置へ飛んでいく。それと同時に
『霊魂』と残留思念体のエルシャが装置の中のクローン体に入っていく――。
光が収まったクローン体は何事も無いようにそのまま。俺は失敗したかと思ったが……ピクッと右手の人差し指が動いたのを確認した俺は、装置の操作に入った。
全身を襲う
俺は装置の横にかけていたバスタオル持ってエルシャに歩み寄る。
「どうだ?新しい体は」
俺は眼を開けて仰向けになっているエルシャにバスタオルをかけながら訊いた。
「……………」
口をぱくぱくさせるだけで、声が出ないようだ。
――五感の視覚、聴覚は無事に機能しているようだが、触覚、味覚、嗅覚はわからないので、あとで確認してみようと思う。声帯のほうは慣れるまで発声することが難しいようだ。
俺は気怠い体に鞭をうち、エルシャを『お姫様抱っこ』して自室へ移動する。
研究室を出て自室に戻ると、そっとエルシャをベッドの上に下ろしてバスタオルの上から毛布をかけた。
終始顔を赤くしていたエルシャだが、俺の顔を見ると心配した表情になった。
俺はエルシャに言う。
「心配するな。一時的なものだから、少しすれば元の状態に戻る」
そっと、エルシャの頬を撫でてから部屋をあとにした。
D×D
誰もいないリビングに入った俺は、テレビの前に設置している大きなソファに腰を下ろすと共に横になる。
「……………」
ジーと天井を見つめるが、何もやる気が起きないので目を瞑ろうとした。
「――そこで何をしているのかにゃ?」
突然、ソファの背もたれの向こうから声をかけられた。
「……黒歌か。いや何、少し疲れたから横になっていただけだ」
俺は眠気を我慢して答える。
「そうなの?確かに疲れていそうな声で――龍介!?どうしたの!その姿!!」
俺の横に立った黒歌が、覗き込んできて顔色を変えた。
「……少しな。禁術を使った反動でこの姿になってしまっただけだ」
「少しどころじゃないでしょ!」
急いで俺の額に手をあてがう黒歌。
「……禁術って、何を使ったの?」
冷静に訊いてくる黒歌に、俺は
「……輪廻眼の禁術『
「……………」
暗い表情になった黒歌は、ぼそりと呪詛のようにつぶやいた。
「……生命力が失われているにゃ。はやく、はやく回復させないと…」
そのまま俺の服のボタンに手をかけて、一つずつ外していく――。
ほんの数秒で俺の服の前が開いて下着のシャツが露わになる。
今度はズボンのジッパーを下へずらしていき、ズボンを脱がそうとしていた。
「…おい、何をしているんだ……!」
俺は弱り切った声で黒歌を止めようとした。黒歌は俺の方に暗い表情をしたまま言う。
「……生命力の約三分の一が失われているにゃ。だから……房中術で直接、気を送り込むのにゃ」
黒歌は俺のズボンを膝まで下ろすと、今度は自ら着ている着物の胸元に手をかけた。
胸元にかけた手が着物を少しずらしたとき、俺は弱った力を振り絞ってその手を握って止めた。
「…やめろ。俺は一方的な感情で行為をしたくはない。他の方法で回復させてくれ」
黒歌はハッとして、急にわたわたと乱し始めた。
「あわわわわ…。りゅ、龍介……その…これは……」
顔を真っ赤にして俺から退く黒歌。
「……わかっている。直接でなくてもいいから、仙術を頼むよ。……それとだが、その…行為は…いつか必ずする」
俺は歯噛みが悪そうな感じで言うと、顔を赤くしている黒歌が小さくうなずいた。
黒歌は俺の下着のシャツを脱がすと、両手を当ててゆっくりと気を流し込んでくれる。
「……ありがとう。少しずつでいいから…頼むよ。黒歌」
俺がそう言うと、黒歌は表情を和らげて微笑んだ。
その状態のまま、俺はゆっくりと目を瞑っていき……眠りに落ちた。
D×D
俺は目を覚ますと、近くが賑わっていた。
「……何だ、イッセーたちか」
俺の視線の先では、イッセーたちが夕食後の雑談をしていた。
夕食の皿などはオシリス、オベリスク、ラーたちが運んでいる。
ユーや奏たちは大画面の液晶テレビで動物番組を見ている。
その他の者も雑談以外のことをしていた。ここにいない角都と飛段は…領地に戻ったのだろうな。
「…あ、兄さん。調子はどう?」
俺が起きたことにいち早く気がついたイッセーが声をかけてきた。
「……あぁ。少しは良くなった」
俺は毛布の掛けられた下半身をそっと触ってみた。……うん、だいじょうぶだな。
ズボンを履いていることを確認した俺は、ゆっくりと立ち上がってイッセーの対面の椅子に座った。
「…兄さん、あまり無理はするなよ?って、ひどい状態の俺が言っても説得力ないか…」
苦笑して言うイッセー。……事情は把握しているようだな。
俺が周りを見回してみると、全員が心配そうな表情をしていた……無表情な二人を除いて。
「……黒歌、どこまで話したんだ?」
俺が黒歌に問いただすと、白音の頭を撫でていた黒歌が俺の横にきて言う。
「禁術を使ったところまでよ……部屋には入っていないわ。気配と気は感じ取ったけど、どっちかが分からないから誰も入れなかったのよ」
「……どちらか、か。そうか、それなら…いまから紹介しよう。……っと、その前にルリエル」
「ふぇ?……あっ、はい」
俺がいきなり呼んだものだから、ルリエルは少し驚いたようだ。
「……そのだが、おまえの寝巻一式を貸してほしい」
隣に来たルリエルにそう言うと、ルリエルが「えっ!?」という顔で俺を見た。
俺はルリエルの耳元で小さく、周りに聞こえないように言った。
「……おまえのサイズがちょうどいいからだ。それと、下の下着も貸してくれ……ダメか?」
ルリエルは俺の耳に口を近づけて言う。
「ダメとは言いわないけど…。その人は女性ね?…わかったわ」
承諾してくれたルリエル。モメるかと思っていたが、話しが早いとありがたい。
「ありがとう。準備ができたら俺の部屋の前に持ってきてくれ」
俺はルリエルに微笑みを向けると、ルリエルは斜に顔を向けた。
「……ホント、卑怯よね…リュースケは」
そうつぶやくように言って、そそくさとリビングから出ていったルリエル。
俺は?を浮かべながら頭をかしげたが、すぐに席を立ってリビングを出た。
自室の前に立って二分ほど待っていると、ルリエルが廊下を歩いて俺の前で立ち止まった。
「ルリエル、俺は彼女の容態を確認したあとは視野に入らないように少し離れるから、その間に着替えさせてくれ」
俺の問いにルリエルはうなずいた。
静かに部屋に入る。電気をつけてベッドの横に立つと、彼女――エルシャはこちらに顔を向けた。
「エルシャ。体の調子はどうだ?」
「……あまり上手くは喋れないけど、ある程度はものにしたわ」
そう返してくれたエルシャ。
「そうか。ルリエル、着替えを頼んだ」
俺はそう言い残して、回れ右から少し離れたところで携帯電話を弄る。
――エルシャは元々外国人だ。日本語は話せないし理解できない。だが、残留思念のほうは流暢に話せていた。その残留思念が魂と一緒の体に入っているという事で、日本語は理解できる。しかし、肉体のほうは慣れていないために発声するまで時間を要した……というところだろう。
一分ほど待つと、後方から声がかかる。俺はゆっくりとそちらを向いた。
そこには、ルリエルの寝巻を着たエルシャがルリエルの肩を借りて立っていた。
よろよろとした動きだが本人は懸命に歩こうとしているので、そっと見守る他はない。
新調したばかりのクローン体なのだから、すべてに慣れるまでは時間がかかるだろう。
ゆっくりと部屋を出て廊下を移動し、エレベーターに乗って一階へと下りた。
リビングに着いたのは部屋を出て約四分と十数秒。
なかに入ると、全員がこっちを見て驚いていた。特に驚いていたのはイッセーだ。
「えっ!?ど、どうして、エルシャさんがここに!!?」
その反応は当然だろう……何せ、イッセーの籠手から解放されたはずの
「はーい、京都以来ね」
「に、兄さん!目の前に歴代最強の赤龍帝の女性がいるんだけど!どうなっているんだ……?」
完全に混乱しているイッセー。俺は落ち着けと「デコピン」を一発見舞ってエルシャを椅子にゆっくりと座らせた。
近くにいたベネチアがすぐにキッチンに向かって、体温ぐらいまで冷えた
「えーと……どこから話したらいいかな?」
エルシャがイッセーに訊く。混乱から一度落ち着いたイッセーは、「とにかく、初めからお願いします」とエルシャに言った。
「わかったわ。少し長くなるけど…いい?」
エルシャの問いにうなずいたイッセー。この場にいる全員も興味があるらしく、周囲に集まってきた。
「私は――」
エルシャの説明が始まり、周囲は静かになる。
D×D
「――ということで、蘇っちゃいました」
説明が終わり、エルシャは一息を吐くために白湯のコップをゆっくり手にして口をつける。
「つまりは、リュースケに約束を果たしてもらうために
アースの質問にエルシャは苦笑して答えた。
「うーん……そうなんだけど、故意に移れたわけじゃないのよね~」
その答えにアースは「はぁ……」と少し呆れた表情になった。
「まさか、本当に生き返られるなんて思いもしなかったけどね!ホントにすごいわね、リュースケは」
エルシャが俺の方を向いてそう言う。俺は苦笑しながら返した。
「まぁ、その分の力と寿命を引き換えにしたけどな…。あ、寿命のほうは黒歌に戻してもらっているから安心しろ。イッセーほどではないが、それでも三分の一は痛かったなぁ…」
俺の言葉に苦笑するエルシャ。
――ピンポーン!
ちょうどそのとき、玄関のチャイムが鳴り響いた。
俺は「少し出てくるから、くつろいでいてくれ」と言い残して、玄関に急いで向かった。こんなときに長い廊下を恨めしいと思うのはなぜだろうか…。
玄関に向かっている間中、「ピピピピピピピピピ……」と連打して鳴らす音が木霊した。どこの誰だよ、非常識な人間はっ!
「はいはい、いま開けますよ!」
俺は少しキレ気味に玄関の扉を開けた。
「ったく、誰だよ……こんな時間帯に非常識なチャイムの鳴らし方をするの――」
俺は玄関の前に立っていた人物を見て固まった。
「――久しぶりだな……遠山龍介」
「お、おまえは――ティアマット!!」
「ふんっ。一人で暮らすのが面倒になったから、迎えにきたぞ」
驚く俺を冷酷な目がジッと見つめてくる。
「邪魔する」
そう一言だけ言って玄関で靴を脱いで上がりだしたっ!
ズカズカと廊下を歩いていくティアマット。その後ろをついて行くように歩く俺。
ガンッ!と乱暴にリビングのドアを開けると、中に入って叫んだ。
「七姉妹はいるか!エールもだっ!迎えに来たぞ!!」
その声に驚いてこっちを見る全員。不意にイッセーの左手が輝きだして赤い籠手が出現した。
『――お、おまえがなぜ、ここにいる!!』
宝玉が光り、ドライグが全員に聞こえるように声を発した。
「……ドライグか。話の前に……って、逃げるな!!」
ダッシュで別のドアから廊下へ逃げ出したルリエルたち八人。それを追いかけていったティアマット。
「……久しいわね。人間の姿は初めてだけど」
そう言ったのは、椅子に座って白湯を飲んでいたエルシャだ。
「久しい?……会ったことがあるのか?」
「そうよ。過去二回戦った片方は私なの。ドライグから聞いてなかったかしら?」
……聞いていないぞ。いや、そういえばイッセーがドライグとの会話中に 『二度屠った』とは聞いた気がするが。
俺は「そうだったな」とだけ答えて廊下を見た。奥のほうでは鬼と化したティアマットが八人を追って「待てや、こらー!!」みたいな鬼警官のように叫んでいるのがよく聞こえる。
「……なんか、騒がしいのがまた増えたわね」
リアスが溜め息交じりにそう言う。俺とエルシャの会話を聞いていなかったのか?
「兄さん、さっきの綺麗な女性は誰?」
イッセーが珍しく興奮していないで冷静に訊いてきた。
「ん?おまえにしては珍しいな。美女や美少女の登場だと興奮するのに…」
「うっ、それは…そうだけどさ。その…ドライグがさっきの女性を確認したときから、何だかバツが悪そうにしていたから…」
「ほぉう。そこに気がついたのか。ドライグ、説明してやったらどうだ?」
俺が話を振ると、宝玉が点滅してドライグが全員に聞こえるように話し出した。
『……わかった。一言で言うと、あいつは――』
一呼吸おいて言葉を口にするドライグ。
『――五大龍王最強のドラゴンだ』
『『…………えぇぇぇぇぇっっ!!!!』』
カミングアウトに事情を知っている者以外の全員の空気が止まり、一泊してから異口同音で叫ぶ。
『……「
「……そういえば、そうだったような?」
イッセーが頭をかしげて思い出そうとしている。
「…思い出しました。私がラッセーくんを使い魔にする直前でしたね?確かウンディーネの縄張り争いのとき――」
「や、やめてくれ、アーシア。あの戦いは思い出したくない」
アーシアが思い出してウンディーネのことを話そうとしたら、イッセーが慌てて言葉を被せた。
「ガウ」
どこかに隠れていた
「ラッセー、ティアマットが怖かったのか?」
俺がラッセーの顎をさするが、ラッセーは電撃を浴びせてこない。
ドラゴンのオスは他生物の雄が嫌いだが、俺を含めた数人の
「さて、そろそろ戻って来るころなんだが……」
叫び声が止んでいるので、全員を捕まえたのだろうと思う。
少しすると、エレベーターの扉が開いて……中から八人をロープで縛って引きずり出してこちらへ歩いてくる人影が見える。
「――ふぅ。相変わらず逃げ足が速い。捕まえるのに時間がかかったぞ」
ドサッとリビングの中央にロープでグルグル巻きにされて放置されたルリエルたち八人。
「……はぁ、仕方がない」
俺は手元に作った風の刃を飛ばして八人のロープに切れ目を入れた。自力で抜け出せるように。
「暴れるのはいいけど、先に自己紹介でもしたらどうだ?ここにいる大半の者は事情を知らない」
俺がそう言うと「わかった」とうなずき、ティアマットが全員の前に立った。
「
軽く挨拶を終えたティアマットに俺が言う。
「ティアマット、ドライグとの関係を言ったらどうだ?イッセーが困っているし、原因のドライグは……あの通りだ」
俺が指でイッセーの籠手をさすと、籠手の宝玉が慌ただしく点滅しだした。
「はぁ……仕方がない。ドライグ、あとで覚悟しときなさいよ」
ティアマットの言葉にもっと点滅を激しくする宝玉。
ティアマットが皆に向かって話す。
「――妾とドライグはその昔、恋仲だった」
『こ、恋仲ぁっ!?』
またしても、ティアマットのカミングアウトに異口同音でハモった皆。
「話はまだある。……知っていると思うが、ドライグは白――アルビオンと喧嘩をしておって、それが日に日にエスカレートしていって…モメにモメて……あのとき、妾を放って出て行ったのだ。「妾もついて行く」と言ったのだが、「来るな!これは俺とアルビオンの喧嘩だ」と言って……それきり帰ってこなかった。……妾は捨てられたと思った。心底悲しんだ。それから
「――それは私よ。ティアマット」
「……ほう、あの時の小娘か。生きておったとはな」
「まぁね。それはこちらのセリフよ」
激しく睨み合うエルシャとティアマットだが、フッと小さく笑ったティアマットが話を続ける。
「そうだな、そこにいる小娘が妾と力を初めて交えた人間だ。その当時のドライグは妾のことをほとんど覚えておらんかったようだった…。『覇』の力を使い妾を圧倒しおった。妾は敗戦し、姿を魔物の森に隠した。そのときの気持ちが分かるか?」
ティアマットがドライグに語りかけた。当のドライグは――。
『……すまんが、わからん』
少し申し訳なさそうに答えた。
「…そうだろうな。ドライグにはわからない。妾は……安心しておったのだ。その小娘と会ったときはな。しかし、妾が負けたあと……妾は怒った。心の底から怒りが込み上げてくるのがわかるほどに」
ティアマットはうつむいた状態で言う。若干、声が震えているような気がするが…?
「それで『世界中で暴れまわった』ってこと?」
「……そうだ」
リアスの問いにティアマットはうつむいたまま、小さくうなずいた。
「それって……」
誰かがつぶやいた。
「…そうですわね。『愛情の裏の逆鱗』ってところですわ」
朱乃がそう言った。……って、元の原形は『愛情の裏返し』だな。
「ドライグもイッセーのことは言えないかもな。イッセー、今後の命を狙われる可能性が増えたな」
俺は冗談半分で言ったが、イッセーがマジな表情で「ウ、ウソだろ!」と半分泣きそうな顔をしていた。……少しいじりすぎたかな?
「……ふぅ。話したら少し気が楽になったぞ」
ティアマットは顔を上げる。目元が少しだけ赤くなっているが、そこには触れないようにしておこう。プライドの強いティアマットだ。『触らぬ龍に祟りなし』といったところだな…。
俺は花楓を手招きして耳打ちをした。
「……花楓、『例のモノ』は準備できているか?」
「……うん、準備オーケーだよ」
耳打ちを返してきた花楓がエルシャの傍らに立った。
「…エルシャさん。右手を出してください」
「……え?い、いいけど。どうしたの?」
「いえ、お兄ちゃんから少し前に言われて制作していたモノです。さぁ、右手を」
花楓の要求に渋々といった様子で右の手を差し出したエルシャ。
「『
花楓が叫ぶと、背中から黄金の光翼が出現した。
その光翼から黄金の輝きが花楓の両手に集まり、しばらくすると青い光へと変化していく…。
青い光が収まると、そこには…エルシャの右腕には――。
「……成功ですね。エルシャさんの
青い籠手が装着されていた。
「……これは?」
不思議そうにしているエルシャに俺は答えた。
「俺たちは裏の世界の存在。俺たちからのプレゼントだよ……復活祝いのな」
俺は少し照れくさくなって斜を向きながら言ってしまった。
「……ありがとう」
しばらくして、その籠手を見つめていたエルシャが礼を言う。
「……ふむ。エルシャ…だったな。妾と契約を結ばぬか?」
ティアマットの突然の申し出にエルシャだけでなく、この場にいる全員が驚いた。
「なに、ちょっとした封印契約だ。封印といっても自由に出入りできるものだけど」
ティアマットがエルシャの籠手に触れて目を閉じた。その瞬間、光り輝きだしたティアマット。数秒経つと光ごとティアマットの姿が消えていた。
『――ふむ、かなり広い。身を置く場所としては文句なしだ』
変化した籠手の宝玉からティアマットの声が聞こえる。
「……どうしてなの?私とあなたは仇敵の仲なのに」
不思議そうに訊くエルシャ。
『そうだな。確かに妾と小娘の仲は仇敵同士だが、お主…その体、新調したばかりだろう?
その言葉にエルシャは首を横に振った。
「いいえ、不満はないわ。ただ不思議だったわけ。私もあなたと仲良くなれるのなら、それもいいと思うわ」
何だか意気投合してしまったお二人さん。まぁ、これもこれでよかったんだけどね。
『そうだ、この籠手は「
「いいわね。『
――『
俺の隣で花楓がつぶやく。
「……よかったです。無事に名前がついて」
本人としても名前が付いたことに満足しているようだ。
――こうして『エールたち八人を連れ戻しに来たはずだった』ティアマットと歴代最強の女赤龍帝で新たな