「……どうしてこうなった?」
俺は異様な体の怠さに真夜中に目を覚まし、周囲を見回した。すると、ベッドの上が黒歌たちで満員状態になっており、下着姿や全裸など服を着ていない状態だった。というか、ここ最近よりまたエスカレートしている気がするんだが……。
それもそうかもしれない。何せ数時間前に俺とリエが恋人の仲になったことを盗み聞きされており、夕食後自室に戻るとドアと床の間に「これからは遠慮なくさせてもらう」と犯行予告のように書かれた紙が挟まっていた。
そしていま、その予告通りに女子たちは遠慮なく俺のベッドの上で全裸または下着姿という格好で寝ていた。
彼女になったばかりのリエも俺の腕を枕にして横で寝ている。彼女だけは寝巻でいたため、少し残念だと思ったことは表に出さず、ジッと顔を見つめる。
とにかく、乱闘みたいな騒ぎが起きないならそれでいいと思う。
――てか、すごく寝づらい!女性特有の甘い香りの混合したスルメが俺の鼻腔をくすぐり、柔らかい感触が体中で感じられる。こうして理性を抑えているけど、内心は興奮気味ていたりする。……俺もイッセーのことを言えないのかもしれないな。
様々な思いが脳内を駆け巡る。帰国して半年ほどしか経っていなが、何年もの時が経っている感覚だ。こうやって自分を好いてくれている女性たちがいつも隣に…周囲にいてくれる。…例え俺に恋人ができたとしてもだ。
俺は走馬灯のように巡る記憶をたどり、あることを思い出していた。
――そういえば、アメリカのロサンゼルスに滞在していたとき、大きな事件に無理に乱入したな。確かあのときは俺一人で人質を解放させたのと、武装した十数人のマフィアの中堅クラスあたりを相手に軽武装で壊滅させたな。
そう、俺が世界を旅して六年ほど経った日のことだ――。
D×D
俺は街外れで借りた低価格のホテルの一室で短期間の宿泊をしていた。
そこから都会に買い物に行き、その帰りのときだった。立ち寄った銀行前でパトカーやら特殊車両やら停まっていて、何やら騒がしいから野次馬に訊いてみたところ、「銀行内でマフィアの幹部連中が人質を取って立て籠もったらしい」と答えてくれた。
俺はこっそりと中に入ろうとしたが、すぐに警官に捕まった。いや、武装したFBIだ。
その武装したFBIは女性で、マスクを外して警告してくる。「ここは危険だからさがっていなさい」と。
俺はその警告を微笑みで返して、瞬時に予備装備と思われる拳銃を抜き取った。それをFBIの女性に見せると、装備していた拳銃がないことに気がついたが何事もなく俺の手から取り返された。
俺は左手に持っている荷物をその場にそっとおいて逆に忠告をした。
「俺はこの銀行の中で人質になっている人たちを解放するついでに馬鹿な奴らを締め上げてきますので、一切手は出さないでくださいね。守るものが多いと足を取られかねないのでね」
そう言い残して俺は踵をひるがえして銀行に向かおうとした。その肩をその女性がつかんだ。
「……おっと」
俺はつい反射的に投げてしまった。柔道の一本背負いってやつの改良版で、相手の受ける衝撃を極限までに抑えたものだ。
「…………」
「すみません、つい癖が出て。でも、これでわかったと思います」
俺は女性を立たせたあとすぐに銀行に向かって走り出す。
武装したFBIの人たちが俺に銃口を向けるが、さっきの女性の一言で向けられた銃口は下ろされる。
俺は背中に腕を回して右肩辺りから隠し持っていた千鳥刀を抜き出した。
そのまま回転ドアへ突進して――。
ジリリリリリリリリ――。
目覚まし時計が鳴り響いた音で目を覚ました俺。
「………夢か」
四年も前のことを夢で見ていた。別に大した思い出もないんだがな…。
俺はゆっくりと体を起こす。周囲を見回してみると――どうやら、いつものように蹴り落とされたみたいだ。
まぁ、あのあとは……言うまでもなく人質に手は出させず、飛来してきた銃弾を叩き斬ったりUターンさせて武器破壊したりして無力化。全員お縄ってわけだ。
その後は三か月ほどFBIと協力して、アンチ・マフィアや難事件を片っ端から片づけたんだっけな……?その時の懸賞金などの半分は世話になったFBIの女性に渡したんだ。家に宿泊させてもらった上に、料理を頂いたり風呂とかも使わしてもらったお礼だな。まぁ、口止めとしてのモノでもあったな……うっかりいつもの癖でコンタクトレンズをせずに写輪眼使っているところを見られたからさ…。別に記憶を消して無かったことにすることもできたんだが、それは命にかかわる可能性があるからやめた。裏の事情を知った上に裏の人間と関わったなら、俺の命を狙っている連中が接触しかねないからな。そのことについてはすべて話したつもりだ。
……大体こんな流れだったな。向こうでは西洋の生活や風習などを教えてもらい、俺からも日本の風習などをある程度教えた。例えば……風呂のことかな?あれは正直言って面白かった。彼女の反応がね…。
最近届いたエアメールで「年末に長期休暇が取れたの。そっちに行ってもいいかしら?」とか書かれてあったので、「よろしければ」と返しておいた。多分、本当に来るだろうな。
そのことは年末入りぐらいに話すとして、話を戻そう。
俺は床の上で起きあと、目覚ましのベルを止めてベッドの上でまだ寝ているリエたちを起こしにかかる。
個人個人で成長に差があり、発達しているところや未熟なところなどが視界に入って……って、俺は何をしているんだろうか?またも
俺はそれから少しの間のみ裸体を気にしなくなり、一人一人を起こしていく。
床に散乱している寝巻や下着などを目測でサイズを判断して集めて畳んだ。
俺は部屋の隅に行き、両耳をイヤホンで塞いで音楽を聴く。
それから数十秒後、サルベリアとマキアが呼びに来て全員が服を着たことを確認して部屋を出た。
D×D
朝食後、俺はイッセーたちを見送りに玄関前に立っていた。
「行ってくるよ、兄さん」
「あぁ、頑張ってこい」
リアスたちもそれぞれ「行ってきます」と言って登校していく。
リエとロスヴァイセは一足先に登校している……先生は大変だな。
俺は朝食のときから気になっていたことがある……イッセーとリアスの会話だ。
イッセーが話しかけるとリアスはそれに応じていたが、いつもと違いリアスは淡々とした声で話していた。笑顔もなく、どこかイッセーを避けるような態度だった。
この状況には周囲の皆も気がついていて、声に出さずとも心配な表情をしていた。
俺は気晴らしにさっき届いた冥界の朝刊を持ってリビングに戻り、ソファに腰を下ろして広げた。
表紙の見出しには『おっぱいドラゴン、スイッチをぶちゅうううううっと吸う!?』と書かれていた。しかも、イッセーが少し慌てている写真がアップされていた。
「…ククク、あいつは何を言ったんだよ。おおよそのところ『部長』とか言いかけたんだろうな。イッセーらしい」
俺は表紙を見ながら笑った。
「…さて、アルセウスたち全員に相手でもしてもらおうかな?」
そう口にしてソファから腰を上げて立ち上がり、リビングでくつろいでいたアルセウスたち二十八人を招集した。
D×D
「……うぅ、イテェ…」
午後の修行を終えた俺は、全身から煙を上げながら廊下を歩いていた。
午前中は二十八人相手で五分ぐらいの力の均衡だったのに、午後からは龍娘四人、狼娘二人、ネクロマンサー、七姉妹、黒猫、元はぐれ悪魔が参加して、多対一の修行になった。
均衡は完全に崩れていて、
さすがに手を抜くことができず、本気の一歩手前まで出力をしてしまった。おかげで全員を戦闘不能状態まで追い込むことができた。
部屋に戻ると壁にかけてある時計を確認して……二度見をした。
「……げっ、もう約束の時間じゃないか!」
俺はボロボロの戦闘服を脱いで、ラフな私服へ着替える。
黒歌たちはそれぞれ自室に戻っていて、「移動するのがつらい」とのことで俺一人が旧校舎に赴くことになった。
留守をカミュとエールたちに任せて、俺は飛雷神で飛んだ。
D×D
「わ、悪い。少し遅れた」
俺は旧校舎にあるオカルト研究部の部室に着くと、開口一番に詫びを入れた。
部室にはリアスの眷属であるイッセーたち九人、顧問であるリエと副顧問のアザゼル、部員の奏たちが集まっていた。掛け持ちをしている冴子たちは休みを出して部室に顔を出していた。
「おー、ちょうどいまからだぞ」
アザゼルが席に着いたまま手を挙げて言った。
「じゃあ、ミーティングを始めるぞ」
すると、アザゼルは険しい顔つきになって言った。
「ゲームのミーティング前に各勢力の情勢について話したいことがある。――ちょいと
「どういうことですか?」
祐奈が訊くとアザゼルは続けた。
「英雄派の連中が
確かに外法と言われる禁術、禁技の類に手を伸ばしているのはわかっている。
「あいつら、英雄派に属していない一般に紛れている
俺の脳裏にある女性の姿が過ぎった。……そう、夢にも出てきた彼女だ。
彼女も
アザゼルはうなずく。
「それがどういう結果を生むか。――不遇な人生を送っていた者が一転して、世界の均衡を崩すと言われる力を得れば、そいつの価値観が変わる。知っての通り、
アザゼルの言葉にリアスが続く。
「……すべての悪魔が良心的なわけではないものね……。上級悪魔にも心ない者が少なからずいるわ。人間界の影響で多様な考えの悪魔が増えてきたけれど、本来は合理的な思想を持つのが悪魔だもの」
アザゼルが続ける。
「そう、理不尽な思いで暮らしている
皆がシンと静りかえったなか、アザゼルは表情に影を落としながら言う。
「――使う、だろうな。その力を。人間ならば、他者への復讐、世俗の逆襲に使うかもしれないし、
……俺は思った。もし、もしだが……彼女がそうなったとき、俺は…俺は何をしてあげられるだろうか?
脳裏に過ぎるのは『始末』の二文字しか浮かばない。何てことを考えているんだろうか…俺は。
「……怖い、ですね」
イッセーがそう漏らすと、アザゼルもうなずいた。
「あぁ、いろいろな意味で怖いことだ。人間がやれることの限界、超常の存在への挑戦、
アザゼルは怖い顔で言う。
「してやられたってわけだ。テロリストであるあいつらの結末がどうなるかはまだわからないが、現時点で大きな一発をもらったのは確かだ。今後に影響は出る。悔しいが、見事だよ。人間の恐ろしさを改めて思い知った」
俺は表情に影を落とした。
かつての弟子がテロリストとして活動しているし、俺が過去に関わってきた人物はことを起こしやすいようだ。
空気が重くなった室内。アザゼルはそれを察してか、咳払いした。
「――と、悪かったな。今日、ここに来たのはサイラオーグ戦へのアドバイザーとしてだったな」
すると、イッセーが挙手してアザゼルに質問した。
「サイラオーグさんにも先生みたいにアドバイザーが付いてるんですか?」
「あぁ、いちおうあっちにもいるぞ。
「――っ!……ディハウザー・ベリアル」
アザゼルの一声に一番反応したのはリアスだった
――ディハウザー・ベリアル。元七十二柱のベリアル家出身の最上級悪魔。レーティングゲームでは不動のトップの座についている人物だな。異名は『
……まぁ、俺としてもどれほどの力の持ち主なのか手合せをしてみたいものだよ。
『ディハウザー・ベリアル……「
奏の口から
「さて、おまえたち、サイラオーグ眷属のデータは覚えたな?」
アザゼルの言葉にイッセーたち皆がうなずいた。
アザゼルは立体映像を部室の宙に展開する。バアル眷属の面々がパラメータ付きで表示されていった。アザゼルがそれを見ながら言う。
「あのグラシャラボラス戦では、能力を全部見せていない者もいたようだ。まぁ、あの試合は途中でグラシャラボラスのガキ大将がサイラオーグ相手にタイマンを申し込んだしな。実質、サイラオーグが勝負を決めたようなものだ。それに――」
アザゼルは手を組みながら言う。
「サイラオーグはおまえたちと同じ、悪魔では珍しい修行をするタイプだ。グラシャラボラス戦のときとは明らかにレベルアップしているだろう」
そう、バアル眷属もイッセーたちと同じで努力を重ねるタイプ。
「あいつら、『
アザゼルが苦笑いしながらそう言った。
すると、険しい表情のロスヴァイセがつぶやく。
「……この相手の『
イッセーたちが視線を一点に向けた。そこに映っているのはサイバーな仮面を被った者だ。名前も『
……サイラオーグのところは『
俺はこの『
――どこかイッセーと似ている……そう思った。
「記者会見でも記者がこの人のことであろう質問をサイラオーグ・バアルに向けていましたね」
祐奈が言う。
「……そいつは滅多なことではサイラオーグも使わない『
『六つ!?七つ!?』
異口同音で驚愕の声音を出すイッセーたち。
アザゼルが続ける。
「データがそろっていない以上、この『
……俺は確信した。あの『
サイラオーグ眷属の情報を聴いたあと、イッセーたちはリアスを先頭にゲーム戦術などを話し合っていた。
少しすると話の議題が一つ終わったようで、イッセーが挙手してアザゼルに疑問をぶつけた。
「先生、俺たちが正式にレーティングゲームに参加したとして、王者と将来的に当たる可能性は……?先生の目測でいいですから」
「おまえたちはサイラオーグと合わせて、若手でも異例の布陣だ。というのも正式に参戦もしていないのにこれだけの力を持ったメンツが集まっているんだからな。しかも実戦経験――特に世界レベルで強敵との戦闘経験がある。その上、全員生き残ってるんだからな。そんなこと、滅多に起こらないし、久方ぶりの大型新人チームと見られている。本物のゲームに参加してもかなり上を目指せるだろうよ。トップテン入りは時間の問題だろうな」
堕天使総督から直に太鼓判をもらったイッセーたち。気恥ずかしそうにしているイッセーたちにアザゼルは続ける。
「だが、その分、冥界からの注目も大きい。今度のゲーム、冥界中がおまえたちを見ているぞ。悪神ロキ、テロリストを止めているおまえたちはさだでさえ有名人だ。さらに記者会見であれだけの盛り上がりも見せたんだからな、冥界の住人は新しい息吹に悪魔の未来を見ている」
……悪魔の未来か。壮大だが……そう遠くないかもしれない…な。
「もちろん、ゲームの現トップランカーもおまえたちやサイラオーグたちに注目し、将来の敵になるであろう者の研究を始めるだろう。いい傾向だ。ほとんど動かなかったゲームのランクトップ陣、遠くない未来におまえたちやサイラオーグがさしこんでくれるかと思うといまからワクワクしちまうよ」
アザゼルは愉快に笑んだあと、言った。
「――変えてやれ、レーティングゲームを。ランキングテン以内も『
――イッセーたちが変える…か。
俺もアザゼル同様に口の端を釣り上げた。
「俺もそのときは相手をしてくれよ?せっかくの駒なんだ、使わないともったいない」
そう言うとイッセーが「ゲェ…」的な表情をしたので、俺は軽くアイアンクローを入れておいた。
アザゼルは俺に向けて言う。
「龍介、今回の特訓はおまえに任せたいと思う。鍛えてやってくれ」
俺は小さく笑い答えた。
「もとからそのつもりだ。殺す勢いで鍛えるさ」
そう宣言すると、リアスたち眷属全員の顔色が一転した。
俺はその様子を見て笑った。