幻想仮面少女   作:さわたり

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今回は強烈な話。
あ、先週は更新なくてごめんね。でもほら、仮面ライダーは年末やってないし?


フェネクス外伝 泡沫、永のまほろば

「太陽を見たいの」

 

全ては、その一言から始まった。

輝夜のその言葉を受けた鈴仙は、見ればいいじゃないですかと、天を見上げた。対し輝夜は、そうではないとかぶりを振る

 

「水面がシャットアウトしない、空気だけがカーテンになった太陽を、ね」

 

そう言って彼女は尾ひれをはためかせた。それを聞いた鈴仙は、無理だと否定を送る

 

「幻想郷の外は、地獄よ」

 

「ほら、師匠だってこう言ってるんです」

 

永琳も間に入り輝夜を止めた。輝夜はつまらなさそうにぶすっとした表情を作ると、永遠亭から飛び出ていった。

 

「絶対に出て見せるのよ。外の世界にね!」

 

「できるかしら」

 

永遠亭の外でぶつくさと呟く輝夜に対し、紫がスキマを切って現れた。

 

「ここのところ、パワードスーツ技術を悪用する妖怪が現れ始めたわ。貴方達には技術があるのだから、奴らを止めるのを手伝って欲しいのだけれど」

 

「知ったこっちゃないわね」

 

輝夜の突き放すような返答を受け、紫は深めのため息を吐き出した。手伝ってくれないとわかってはいたが…。

 

「でも、私達の体で水から出れるとでも?」

 

「大丈夫よ紫。その辺の準備はしてるわ」

 

とりあえず無謀な試みだけ止めてみようかと、魚のような下半身をペチンと叩いてネガティブな一言を向ける。とは言え、それが効く輝夜ではない。地上行動用の車椅子を見せつけ、自慢げにするだけである。

 

「言ったでしょ!私は絶対に出るのよ!」

 

「…好きになさい」

 

説得は無駄と判断し、紫は早々に泳いで行ってしまった。

その背を見送ると、輝夜は遥か上の水面を眺めた。

 

この湖底都市幻想郷は、霧の湖というところにある。周りには森があり、人里があったとか。

 

輝夜はかつて聞いた昔話に思いを馳せつつ、水面へと浮上していった。

 

「懐かしいわね。静かの海から来たのが」

 

輝夜は永琳とともに月の海底都市から逃げてきたので、一応外は見たことがある。しかしちゃんと探索などしてる暇は無かったので、よく見たことなどないのだ。

 

「っふう、思ったより浅いもんね」

 

結構簡単に水面に出れてしまうものだ。だが夢中になっていたのもあり、結構な距離泳いだようである。下を見ても湖底の人里は見えなかった。

 

「さ、こいつの出番ね」

 

そして麓へとゆっくり車椅子を置き、その上にズルズルと座り込んだ。

 

「…うん。結構動けるもんじゃないのよ」

 

そして、彼女の外の世界探索が始まった。

 

「結構広いもんね。草原ってのも」

 

「ん?…ほう?人魚の嬢ちゃんが居るなんて珍しいねぇ」

 

そうして車椅子を操作しながらあたりを動き回っている時、一人の少女が輝夜へ話しかけた。背丈はほぼ同じだが、足がある。これが"ヒト"かと軽い関心を抱きつつ、少女をまじまじと見る。

 

「あんたは…」

 

「久しぶり。…そして、初めまして、輝夜。私は藤原妹紅。…あんたのライバルだよ」

 

「え?何言ってんのアンタ。っていうか、なんで名前を?」

 

「説明はめんどくさいな…。ま、察して」

 

妹紅の返しを受け、何をどう察するのだと苦笑いを含んだため息をついた。同時に彼女に興味が湧き、意識するまでなく言葉を送っていた。

 

「ま、いいや。外の案内、頼める?」

 

「フフフ、ああ、いいとも」

 

妹紅は快諾を返すと、車椅子の後ろをつかんだ。そして彼女の行くぞと言う言葉に頷き、冒険が始まった。

 

「しかし…ここは森って聞いたんだけど…。草原って言い切れないほどに草がパラついてるだけじゃない」

 

「…知らないのかい?忌々しき、キノコ戦争だよ。昔は森だったんだ。おっと、たけのこは関係ないよ?」

 

輝夜の問いに対し、妹紅は悲しげな顔を作って答えた。その表情に、ただ事でないことを彼女は察した。

 

「…キノコ雲からその名がついたんだ。地球の三割はこんな感じにぶっ飛んだよ」

 

「残り七は生きてるの?」

 

「海」

 

簡単な一言でズバッと切り返され、輝夜の表情もかげっていく。だがそれを振り切るようにかぶりを振り、改めて前を向き直った。

 

「すまないね。辛気臭くて」

 

「別にいいのよ。こういう事実は受け入れなきゃいけないからね」

 

そう語ると、力強く胸を張ってみせた。妹紅は心強いなと笑うと、さらに進んだ。

 

「もともとあそこは魔法の森って名前だったんだよ。…ここは無明の丘って言うんだ」

 

「ふぅーん」

 

草がチラチラと生える草原を進んでいく。ハゲ散らかした髪か何かみたいね。そんなことで妹紅を軽く笑かしながら果てのない草原を行った。

 

「もう暗くなるよ。そろそろ帰るかい?」

 

「いや、まだ帰らないわ」

 

「でもなぁ…仕方ない。うちに来るか?」

 

妹紅に提案に食い気味に頷くと、早く行くのだとバタバタと急かした。

 

「やれやれ、昔っからわがままな姫さんだよ」

 

呆れ気味、けどどこか嬉しそうに呟くと、くるっと曲がって別の方向へと進んだ。

 

「…この辺は迷いの竹林って場所だったんだ」

 

「ふーん。あれがあんたの家?」

 

それを聞き、妹紅は複雑な表情で頷き、家へと輝夜を案内した。彼女のイメージにやけに似合わない高級そうな屋敷を見て、輝夜は首をかしげた。

 

「永遠亭っていうんだ。…もともとは私の家じゃない」

 

「永遠亭ぃ?私の家と同じ名前よ。湖底にあるわ」

 

「ああ、そういえばそうなんだっけ」

 

妹紅のとった態度に、輝夜は訳がわからないという感想を抱いた。しかしどう聞き出せばいいかわからず、グルグル思考しているのであった。

 

「ゔっ、お゛ああああああ!!!」

 

家に入ろうと玄関を開いたその時、おぞましい声をあげ、薄ピンクのドロドロとした肌の生物が、外から輝夜に襲いかかった。

 

「ヒッ、う、うわああああ!」

 

「どりゃああ!逃げルォ!…って無理か!仕方ないなっ!」

 

妹紅は恐怖で固まりきった輝夜を助けると、キックを叩き込んだ。そしてバケモノが見せた怯みの隙にパンチをぶつけると、フィニッシュに横蹴りを叩き込んだ。

 

「おごっ、ゔぉっ!」

 

「死ねぇーッッ!」

 

そして最後に火炎弾を投げつけ、バケモノを炎上させて始末した。

 

「…い、今のバケモノは…」

 

「シカ、だった生き物ってとこかな?ま、あの個体は多分生まれた時からアレだけど」

 

「ど、どういうこと?」

 

輝夜の問いを受け、妹紅は複雑な顔になった。バケモノの肉を片付けつつ、ゆっくりと口を開いた。

 

「ウイルス。アレは180年前のことだった。…何処ぞの国が生物の構造を変異させるバイオ兵器を生み出した。敵国のスパイがそれを盗み出し、そして行われた実験中に最低の事故が起きる」

 

それを続けようとした彼女の口は怒りと、悔やみにも似た理解しがたい負の意識が詰まっていた。

 

「…その国こそ日本。効果を強くしたウイルスは国中に広がり、文字通りバケモノの国に変化させた。パンデミックさ。私は蓬莱の薬のせいで変化はなかったがね。変化開始と再生のループでものすごい激痛だったよ」

 

次に彼女の顔には悲しみが溢れかえった。同時に仲良く過ごした人が脳内を駆け巡り、涙を流した。

 

「そしてウイルスを国外に出してたまるかと水爆を日本にぶちかましたのさ。しかし日本はまさかの反撃。そして危うく世界が滅びかけたのさ」

 

妹紅は家に改めて彼女を入れると、世界地図を取り出して続きを語り始めた。

 

「トドメを刺したのは、冷静さを失ったウイルスの開発国がトップの独断で敵国にそいつをばらまいちまったとこかね。見事に自国にも広がって、いろいろあって他大陸も食らって…。バケモノの闊歩する地球の出来上がり」

 

世界地図の国一つ一つにバツをつけていく。その様子は軽いモーションながら、重苦しいものを秘めていた。

 

「その国はウイルスのみを滅する毒を開発していた。自動装置で世界中に撒かれたさ。…が、ウイルスが消滅しても変異は変わらず。私が苦しまなくなったぐらいかな。ウイルスのサンプルさえ消滅し、もはや打つ手なし…ってとこ」

 

「…わ、訳がわからないわ。えっと…」

 

「あー、ごめん。急に色々言い過ぎたな。混乱したかな」

 

申し訳無さげな妹紅の言葉を受け、輝夜はゆっくりと考え始めた。そんな風に世界が滅びかけているのか。いや、もうすでに滅んでいるのだ。乾いた笑いを浮かべ、同時に疑問も飛び出た。

 

「なんで、幻想郷は…」

 

「ウイルスは水の中を行けない。それが原因さ」

 

それを聞き、輝夜は一応は納得したような様子を見せた。

 

「…で、これが何故ここに?」

 

だが、妹紅の家の中に置かれたものへと視線を移し、再びその顔に疑問の表情を浮かべた。バーンスマッシャーとボルコネクターである。

 

「私が開発中のものよ。色が違うけど」

 

そう言って詰め寄った輝夜に対し、妹紅は悲しむような笑みを浮かべ、輝夜を見た。

 

「お前は変わらないな。世界が一周しても同じものを作ってるんだから」

 

「…は?」

 

そう言って、倒れこむように妹紅は座った。

 

「お前、不死が消える薬あったらどうする?」

 

「迷わず使うわ」

 

「前のお前もそうだったよ。…私がトドメを刺した。あいつがそうしてくれって言ったんだ」

 

「だからなんの話よ!」

 

痺れを切らした輝夜が声を張り上げた。対し妹紅は、涙を浮かべながら笑っていた。

 

「蓬莱の薬ってのはすごいなぁ。地球がぶっ飛んでも宇宙がぶっ飛んでもそれが再始動しても死なねーんだもん」

 

「…ッ!?まさか…」

 

妹紅の言葉から、彼女は大方の事情を察した。度肝を抜かれたような表情で後ずさった。

 

「宇宙だいたい一周分を生きたんだよ、私は。本来この世界に妹紅が産まれるはずだった。しかし私が存在するせいで因果が捻じ曲がり、この世界で藤原不比等は五女を作らなかった」

 

「…」

 

「…世界は本当は前の一周と同じように産まれて消えるはずだった。私がいたせいで…バタフライ効果だったか。因果が歪んだせいでパンデミックが起こった。人類の滅亡がかなり前倒しになったんだ」

 

妹紅の表情は悲しみや達観を超え、絶望一色だった。もうどうすればいいかわからないとさえ言った。

 

「仮に私がこの世界で死を選んだとしても、運命は歪んだままだ。…だから」

 

「…別に元の形じゃなきゃいけない訳じゃないでしょ。落ち着きなさい。…しかし、たしかに所有者の魂に取り憑く裏機能はつけたけど…やっぱり残るのね」

 

そう言って輝夜はバーンスマッシャーを見た。妹紅は力ない頷きで応えると、ゆっくりとバーンスマッシャーとボルコネクターを持ち、外に出た。

 

「家の中は安全だ。出ない方がいい。…私は夜風に当たってくる」

 

そう残し、布団の位置伝えると、そそくさと駆け出していった。

 

「…やれやれ。ここんとこ参ってるのかな」

 

宇宙で独りのときから、今までずぅっと感じているのは孤独である。誰が隣にいても、自分より先に消えるのだと。そして、同じ時代を生きた人間ではないのだと。

…しかし、この体を諦めて死ぬことは、殺してしまった岩笠の命を軽んじる事と捉える。

だから彼女は死ねない。死ぬわけにはいかないのである。

 

『ignition…』

 

故に、バーンスマッシャーは常に輝夜を感じられるアイテムなのだ。親友である慧音がくれた黒板だとかは、守りきれなかった。…でも、こいつだけは一緒にいるのだ。

おもむろに握り、ポーズをとってみる。

 

「変身…ってね」

 

『burn up complete!phoenix blaze!』

 

そして炎が彼女を包み、フェネクスのスーツが形成される。水たまりに映してみたその姿は懐かしいもので、軽くパンチのアクションなんかもとってみたくなるのだ。

 

「フフフ、初めての変身もここだったなぁ。一巡前の…えっと、確か…うーん…あっ!レミリアと戦ったんだ!メリーと蓮子も居た。天子も居たなぁ」

 

今や跡形もない竹林に想いを馳せながら、ゆっくりと変身を解いた。その時、ピピッという音と共に、ボルコネクターが光を放った。

 

『…変身を解いたということは、戦いは終わったのね?』

 

空中に産み出されたスクリーンに映ったのは輝夜の姿だった。妹紅は驚愕の様子を浮かべ、スクリーンへと詰め寄る。

 

『私の持つタグをしばらく検知しないまま時間が経ち、であなたが変身を解除した時に起動するメッセージよ。現在は2181年!…蓮子の訃報を聞いたあたりの録画ね』

 

画面の中の輝夜は少し困りげに溜息を吐き、あたりをちらっと見た。そして再び溜息を吐いてカメラを見る。

 

『これを起動したってことは、私はすでに蓬莱消しを飲んでいて、あんたはまだ死んでないってこと。…なんのつもりか知らないけど、地獄で待ってるわよ。じゃあ、また殺し合いましょ』

 

メッセージはそれだけであった。だが、孤独で冷え切った彼女の心には十分なものだった。自分と同じ時代の人間の、自分に向けた言葉。

 

「うう、はぁ、はぁ、うううあああああああああ!!!」

 

気づけば慟哭を上げていた。かつての思い出が爆発するかのように湧き上がって消え湧き上がって消え。そして彼女は、今更輝夜へのただならぬ愛を理解した。

 

「困った子ねぇ」

 

そして、泣きわめく頰に口づけが当たった。何事かと振り向けば、輝夜がその唇を突き出していた。ビチビチした下半身を見て我に帰るが、しかし隠しきれない驚愕を渦巻かせていた。

 

「お前っ!お前っ!……お前ぇ!」

 

冷静になって、改めて彼女は顔を真っ赤にした。対し輝夜は得意げな様は崩さず、若干見下し気味にドヤ顔を向けた。

 

「…あなたがそんなに苦しむと知ってたら、私は死を選ばなかったわ」

 

「…え?」

 

「たしかにあんたとは今日初めて会ったけど、私は紛れもなく蓬莱山輝夜よ。…つまり、生まれ変わりなの。そうでしょ?なら、簡単よ。今度こそ一緒にいてあげる。独りじゃないのよ。…あんたが望むなら殺し合いだってやるわよ」

 

その言葉を聞き、妹紅は静かに泣いた。しかしその顔は晴れ渡るかのような笑顔であり、彼女自身、もやが吹っ飛ぶような感覚を覚えていた。

そうして、二人は永遠亭に戻ると、泥のように眠り込んだ。

 

 

「…おはよう」

 

「お前、引きこもりの癖にやけに朝早いんだな」

 

「…私って前世から朝早いんだね」

 

「ああ、っていうか水の中に居る以外はそんままだと思うよ」

 

輝夜はそれを聞き、今一度疑問を浮かべた。むしろなぜ我々は水中に産まれたのか。妹紅の存在だけで種族が変わるほど前世から運命がねじ曲がるのか?その疑問を、何気無く口にしてみた。

 

「…確かにな。バタフライ効果と思って自分をごまかしてきたが…。ちょっと謎だな」

 

ほんの少しだけ考え込み、そして何かを思いつきぽんと手を叩く。

 

「お前、古明地さとりって知ってるか?」

 

「…?誰?」

 

「フフフ、これは調べる価値ありだ!」

 

そう言うと朝飯をババっとかっこむと、そそくさと準備を終えた。

 

「お前は朝飯は終わってるな?行くぞ!」

 

「終わってるけど…。行くってどこによ!」

 

「ヒントのありそうなとこだよ」

 

そう言うと車椅子を押して駆け出し始めた。風を体に受けながら、輝夜はスピードを楽しんでいた。まっすぐ向かう先は、妖怪の山麓の間欠泉センター入り口である。

 

「ここは妖怪の山だったところだ。木が吹っ飛んだせいでもはやただの荒野の火山だがな」

 

寂しげに笑いつつ、上へと登っていった。そして頂上の火口付近には、エレベーターが設置されていた。

 

「さすがの強度だ。シェルターにもなる構造って話だが…」

 

「…何、地底に街でも?」

 

「旧都。かつて地獄だった場所を利用してるんだよ」

 

ふーんと息を鳴らし、少し楽しみそうにエレベーターが付くのを待った。そして数分ののち、エレベーターが開いた。そこから降り、ゆっくりと歩き出した。

 

「寂れてるな…」

 

「そうね、もう誰も居ないみたいな」

 

間欠泉温度調節センターのメインのフロアに出るが、がらーんとしており、遠い遠い地上から風が吹き抜けるだけ。

 

「…妖怪もウイルスにやられたのか?幻想郷のやつはみんな水中にいるから参考にならないな」

 

そんなことを呟きつつ、地霊伝に出た、その時。

 

「お゛っあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!!」

 

絶叫とともに、バケモノがその足を振り下ろした。受け止めた妹紅は相当のパワーで吹っ飛ばされ、壁へと思いっきり叩きつけられた。

 

「…お空、か?」

 

足と羽の生えた肉塊のようなバケモノを見て、妹紅が抱いた印象はそれであった。ウイルスはどうやら地底へと回り、ウイルス殺傷ガスも回ったようだ。

だが水爆だけは浴びなかった。故に強力なバケモノが未だに生きているのだ。

 

「逃げろ輝夜っ!私は不死身だっ!」

 

「私も一応不死身なんだけどっ!」

 

妹紅は必死にバケモノを止め、逃げろと放つ。だが輝夜は嫌だとでも言うように石を拾い上げ、バケモノへ投げつけた。

 

「ゔぉっ…ん゛あ゛あ゛…」

 

バケモノは一瞬うずくまったかと思うと、再び立ち上がって攻撃を始めた。

 

「…妖獣が変化したからか?…やけに強いな!」

 

『ignition…』

 

威勢良く言い放ったのち、バーンスマッシャーを構えた。

 

「変身!」

 

『burn up complete!phoenix blaze!』

 

そしてポーズののち爆炎が渦巻き、それを振り払ってフェネクスへの変身を終える。バケモノの蹴りを受け止め、その体に炎を叩き込む。

 

「お゛っ!あ゛あ゛あ゛!」

 

苦しみながらも炎を振り払い、再び妹紅へと近づいた。

 

「だああああああ!」

 

「ん゛っ、ゔぉっ!」

 

しかし、空中へと逃げることでこちらキックの威力は大きく下がる。元はやはりカラスなのか、薄黒く気持ち悪い翼を蠢かせながら空を這いずり回るように飛んだ。

 

「ったく…どうすっかな」

 

炎の翼を生み出して追ってみるが、空中は敵のホームグラウンドである。大したダメージは入らず、こちらがむしろ被弾する。

 

「…五回握りなさい」

 

「は?」

 

「五回握るのよ!いいから!」

 

地底でそう叫ぶ彼女の顔が、何かと重なる。思わず何かが溢れ出そうになるが、そんなことを言ってる場合ではない。言われた通り、グリップを五回握りこんだ。

 

「…私が完成させてないのは排熱システムよ。合体システムは出来てるの。そしてそんなに似通ったものなら、電波も同じはず!」

 

「すでにフェニックスフォーム相当は出来てるって訳か。なら待つ必要がありそうだな!」

 

霧の湖から来るということを考え、時間を稼いで待つことに決めた。空中で戦闘を続けながら、逃げて少し攻撃をしてというループでの攻撃を始めた。

 

「…来たわ!フィンズチェイサーよ!」

 

「翼じゃなくてヒレなんだな」

 

そんな時、火口を突き抜け、ホバーマシンがフェネクスの元に現れる。水陸両用らしいそのマシンは、フェネクスの前に停まったかと思えば、弾けるようにバラバラになった。

 

『system loading……rising up complete!phoenix electricity!』

 

バーンスマッシャーには未確認システムを解析して、自動的に音声を構築するシステムが用意されている。故に、普段の登録された鈴仙ボイスに比べてたどたどしいもので、いかにも鈴仙を元に作った合成音声という感じであった。

 

だが、その『始めて聴く』音声というのは、彼女にとって生きた、前の世界を感じさせるものであった。

 

「…ありがとう輝夜。あんたからすりゃ前世の話だが…。とにかく礼を言わせてよ」

 

そう言って化け物の方を向き直ったフェネクスの姿は、追加されたアーマーにより大きく変わっていた。上半身はピンクのアーマーが足され、下半身は赤のアーマースカートが着せられる。

黒いラインがわかりやすく通り、その上には艶めく髪の光のように青い雷光が煌めいた。

仮面ライダーフェネクス ライトニングフォームである。

 

「輝夜ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああアアアアァァァァァァッッ!!!!」

 

「!?」

 

恨めしさと嬉しさを煮詰め合わせたような複雑な表情で絶叫をあげる。それを受けた輝夜は、それが自身へのものでありながら、もう一人の輝夜に送られたものでもあることを理解した。

 

「おらああああ!!」

 

フェネクスの跳び上がりを、背中とスカートのブースターが応援する。そして袖から棍棒が飛び出した。それを素早く取り、バケモノの身へと叩き込んだ。

 

「お゛っ!」

 

「重いアーマーだけど…推進力のおかげでスピーディーって訳か!」

 

「水中でも動きやすいほうがいいもの。それなら軽くするより粒子ブースターの方が効率的な訳よ」

 

「なるほどねぇ」

 

のたうちまわるバケモノへと警戒を解かぬまま近づき、今一度その手の棍『ピンインブレイカー』を構え直した。

 

「ゔっ、ごぷっ、お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!」

 

「喰らえっ!」

 

そして飛びかかるバケモノへと、腕のブースター総動員でピンインブレイカーを叩きつける。同時に電気がバケモノの体を伝い、焼け跡をつける。

 

「オラオラオラオラァ!」

 

そして連続での突きを繰り出し、さらにパンチをその頭(と言っても頭部なのかはだいぶ危うい見た目だが)へと叩きこんだ。

 

「お゛あ゛あ゛お゛お゛お゛お゛!」

 

バケモノは再び空中へと飛び上がった。だが、フェネクスは高速で壁を駆け上がり、バケモノの上へと回り込む。そして降下と同時にピンインブレイカーを叩きつけた。

 

「ゔっ」

 

「でやぁーっ!」

 

そして怯むバケモノへと振り上げを叩き込み、大きく吹っ飛ばす。さらに雷撃を飛ばしてその身へは食らわせた。

 

「どらららららっ!どりゃああ!」

 

さらには火炎と雷撃の交互の連続パンチをくらい、バケモノは大きくのけぞった。

 

「だあーーっ!」

 

さらに回し蹴りをぶち込み、再び大きく吹っ飛ばす。

 

『over drive!』

 

そしてボルコネクターと合体した状態でグリップを三回握る。音声と共に彼女の体にエネルギーが伝い、七色の光が棍棒から放たれる。

 

「キルラヴシャイニング!!」

 

そして跳び上がりつつ膝蹴りを叩き込み、ピンインブレイカーを投げつける。怯むバケモノへと、降下しつつ踏みつけるような連続キックを叩き込んだ。

 

「お゛ごっ!」

 

バケモノは苦悶の声を上げ、ビクビクと痙攣を始めた。

 

「クッソ…。まだ生きてるか」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ…」

 

「妹紅!後ろっ!」

 

時間切れで変身が解除された妹紅の後ろへ、赤と黒の二色のバケモノがのしかかろうとする。逃げようにも、一瞬のことでもはや間に合わない。妹紅は目をつぶった。

だが、その身へはバケモノの重量は来ない。目を開ければ、ロケットランチャーの弾がバケモノの顔に突っ込んでいた。

 

「妹紅!輝夜!乗るのです!」

 

その声は、真上のヘリコプターからものだった。そこからは、映姫の顔とロケットランチャーの銃口が覗いていた。

妹紅はとっさに輝夜の襟を掴み、空を飛び『是非曲直庁』と書かれたヘリへと乗り込んだ。

 

「映姫……随分派手な格好だな。こっちの世界ではお偉いさんか?」

 

「2兆も閻魔やってりゃ勝手にトップに近づきますよ。さ、逃げますよッ!」

 

映姫は操縦席の小町に行くように告げると、扉を思いっきり閉めた。

 

「…やれやれ、まさか人が居るとはあたいは思いもしませんでしたよ」

 

「小町もちょっと堅苦しい格好だなぁ」

 

「あたいも2兆年はやってんだ。最古参レベルだよ」

 

「…2兆って、まさか!?」

 

「あんたと同じく一巡前から生きてるよ。っていうか地獄はまだ滅びてないよ。これからも滅亡なんつー概念はないさ」

 

小町は軽い様子でそう言いながらヘリを操作する。

ヘリはステンドグラスをぶち破って地霊殿を抜け、旧都へと出た。

そこにはバケモノが溢れかえっており、まともに行動など出来なさそうである。ヘリはそこに何かを散布しつつ、反対側の抜け穴を目指した。

 

「これは?」

 

「催眠薬品です。一回食らうと爆音が耳の中で響こうが数日は寝てます」

 

「そいつは心強いわね」

 

輝夜と妹紅は正直自分がどんな状況に置かれているのかイマイチ理解できない様子であったが、とにかく逃げられたという安堵を見せた。

そしてヘリが縦穴を抜けたと同時にシェルター構造の扉が多重に閉まり、一切の出入りができないようになった。

 

「…お待たせしました」

 

ヘリが着陸した場所には、かなりの数の人間が立っていた。妹紅は驚愕の表情を浮かべた。無理もない。人間の形を成しているのが自分だけであることをまざまざと見せつけられてきているからである。

 

「お久しぶり。その手のやつ、いつぞやの変身アイテムね」

 

そう言って、人の群れから歩み出たのはさとりであった。服装や体から放つオーラはもはや他人レベルだが、しかしその表情は変わりなく古明地さとりであった。

そして人間の群れは、よく見れば皆妖怪のようである。ツノが生えた者も多い。

 

「一巡前、地底の人間は地獄に逃げたのよ。そのあとこの地球が出来た時にまた地底に住んだの。…でも、戦争のせいでまた地獄に逃げざるを得なかったけどね。…私も長い年月の中で神霊になっちゃったわ。ほら、こいし」

 

「久しぶりだね、フェネクス」

 

そう言って現れた少女の手には、懐かしきドライバーが握られていた。訳がわからず、妹紅は脳内が情報と感情でオーバーフローし、知らずのうちに涙を零していた。

 

「ああ、本当に久しぶりだよ、U」

 

「覚えてるんだねぇ…」

 

「…お燐と、お空は?」

 

それを聞いたこいしは表情をかげらせ、ボソボソとした声で語り始めた。

 

「私たちが地獄に逃げられるように、バケモノの群れや兵器を止めてたの。…感染、してたよね?」

 

「ああ、…私と輝夜に襲いかかった」

 

「…そのためのこれです」

 

そう言ってさとりはギチギチに閉じられた試験管を取り出した。

 

「これに込められたのは、戻すウイルスの試作品。…いきなり実用実験は無理だけど…。いつかは実用段階まで持って行って見せるわ」

 

その言葉を受け、妹紅は力強くうなづいた。

 

「皆さん、よくお集まりで。…意図せず関係ない子も居るみたいだけれど」

 

そこへ、ゆっくりと紫が近づいた。

 

「あんた…足が!?」

 

「その辺の境界はいくらでもいじれますわ」

 

そう言って不適に微笑むと、スキマの椅子を作り出して座り込んだ。そしてあたりを軽く見回し、妹紅へと目を向けた。

 

「しかし…前の地球から生きている…マユツバですわね。ま、事実なのでしょうけれど」

 

「あんたは違うのか?」

 

「私はたったの数千歳よ。…で、幻想郷復興の話は信じていいのね?」

 

簡単に話を終えると今度は映姫の方へと視線を向けた。映姫はゆっくりと頷き、大量の妖怪が居て、皆が手伝うことを告げた。

 

「そろそろ…戻す準備が要るわね」

 

「戻す…?」

 

「…何の話かしら?」

 

「ふふふ、私の記憶改変は本当によく作用してるみたいねぇ」

 

紫は今一度妖しい笑みを浮かべると、輝夜へ向けて指を弾いて見せた。すると、輝夜の下半身は一瞬で二脚へ変わり、服が着せられた。

 

「え…え!?」

 

「ハイ終わり」

 

もう一度指を弾くと、その下半身は再び魚のようなものへと戻った。

 

「術で魚のものに変えてるだけよ。…みーんな記憶をいじられて、もともと人魚だったと思い込んでるだけ。あ、わかさぎ姫は記憶だけいじってるけど」

 

「ど、どういうことよッ!私は…!」

 

「貴方がもともと住んでたのは地上の方の永遠亭。…ウイルスを聞きつけた私は、みんなを水中に移住させて記憶改変をやっただけよ。…そろそろ、元に戻るのよ」

 

それを聞き、輝夜は喜んでいいのだかなんだかと絶妙な表情を浮かべた。そんな彼女は意に介さず、紫は映姫たちの方へ向き直った。

 

「復興の協力、本当に感謝するわ」

 

彼女は頭まで下げ、軽く涙を流しながらにっこりと微笑んだ。

 

「隠岐奈が聞いたらどんな顔するかしら」

 

涙を流し続けながらもその笑顔をより大きな物にし、希望を見せたような表情を見せた。

 

「さ、私もこっちの復興の手伝いはしなきゃな。でも戦う必要はない。…これ、お前に渡すよ」

 

それを横目に、妹紅はボソッと語った。その手で、バーンスマッシャーとボルコネクターを輝夜に渡した。

 

「アンタは復興前の準備として色々やらにゃならんことがあるんじゃないか?」

 

妹紅はそう言うと、お姫様抱っこで輝夜を抱え、霧の湖の麓に輝夜を座らせた。

 

「…じゃあね。私のこと、忘れないでよっ!」

 

「忘れないさ。永遠にな。それに、またすぐに会えるからさ」

 

簡単に別れを告げると、輝夜は底の方へと尾びれをはためかせ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「変身!」

 

『burn up complete!phoenix blaze!』

 

輝夜の体を炎が包み込み、その姿を一瞬でフェネクスへと変えた。

竹林に立つその影は、月光を浴びながら目の前の怪人へと近付いた。

 

「燃え尽きて貰うわよ!」

 

「私はこの力で幻想郷のヒエラルキーを…ひっくり返すんだ!」

 

相手は正邪が変身した怪人のようである。逆女(さかさめ)とでも呼ぶか。スーツと鎧からなるシルエットが、刺々しく煌めいた。

 

「…永琳の記憶までいじったと言うのに…。輝夜はいいのかい?」

 

観戦しつつ竹に背を預けながら、隠岐奈はそんなことを言った。それに対し、観戦仲間の紫はニヤッと口をゆがめた。

 

「いいのよ。想い出はとぉーっても大事ですもの」

 

紫が見ていたのは、フェネクスと逆女の戦いでも、隠岐奈の顔でもない。

月をバックに空を舞う妹紅と慧音の影であった。




フォーム名:ライトニングフォーム
概要:本来ならフェニックスフォームになるはずだが、この世界にはフェザーチェイサーがなく、代わりにフィンズチェイサーが存在するため誕生したフォーム。上半身はピンクで、赤のスカートアーマーを履く。そして全身には黒のラインが通う輝夜っぽいフォーム。目は青。
本文にある通り、変身音声は鈴仙を元にした合成音声なので、他のフォームとは雰囲気が違う。
雷を武器として使う。一応炎も扱える。
重いアーマーながら、粒子ブースターによる高速移動を可能としている。
武装:
『ピンインブレイカー』
中国語の蓬莱(ピンイン)が由来。茶色を中心に七色が煌めく綺麗な色の棍棒。雷撃を通して戦う。
変身アイテム:
『フィンズチェイサー』
ピンクと赤、そして若干の青を中心にした水陸両用ホバーマシン。形はダンデライナーが近いか。
変身シークエンス:フェニックスフォームと同じ。
必殺技:『キルラヴシャイニング』
意訳するなら「殺し愛の輝き」と言うところ。
飛び蹴り、ピンインブレイカー投げつけ、ベノクラッシュ式バタ足キックで構成される技。

かぐもこ増っし増しでお送りしました。
こんな強烈な設定を10000字で使うんだから贅沢よね。
新フォームというよりかぐもこ中心のストーリー。ずっと世界観を喋ってるだけだったけどまあいいだろう。
これ多分やろうと思えば5話に分断できる内容だよ。
そして外伝に皆勤賞の紫さん…。いろいろ便利すぎるキャラ。
訳がわからん方は言ってください。できる限り噛み砕いて説明します。
…矛盾があってもそれは脳内補完で頑張ってください。
しかし世界の一巡っていうとどうもプッチ神父が出てくるぜ。

外伝はみんなこんぐらい尖った感じでやっていきたいところ。
次回はもっとほのぼのした話にしたい。
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