幻想仮面少女   作:サードニクス

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何事もなかったかのように。


第23話 久しユアンシェン

「…心待ちにしておりましたわ。この日!」

 

日めくりカレンダーをめくって捨て去り、青娥はニヤリと笑う。この月食の日、彼女は企みと共に神霊廟を後にした。

 

「ここ…ですか?」

 

「ええ、この空間は妖力が多いですもの」

 

そうして向かったのは命蓮寺である。頼み込む青娥に快諾し、聖は広間を貸し出した。恭しく頭を下げたのち、彼女は座り込む。その様子を見て、来客であった布都は青娥に近づいた。

 

「…青娥殿ではないですか!」

 

「あら、物部様」

 

「どうなさったのです?」

 

「少し術に用事がありまして…」

 

ならば失礼したと、布都はその場を後にした。軽い挨拶で布都を見送り、数秒眼を瞑ったのち、彼女はため息をつく。

 

「ダメそうですか?」

 

「…ええ、仙力とか様々なものが足りなくて」

 

少しのちの聖の声かけに、彼女は残念そうに頷いた。休んで行くといいとお茶を用意する村紗であったが、青娥はそれを断り。去っていってしまう。

 

「お気持ちだけ受け取りますわ」

 

そうして、彼女はすぐにそこを後にしてしまった。そうして草むらを行く中、どこからともなく、ガサリとビランが現れる。警戒する青娥であるが、相手に敵意はなさそうである。

 

『…あんた、なんか術をやろうとしてるね?でも妖力仙力どれも足りない感じかしら?』

 

「ついでに血もです。魔法使いの聖さんの血とかはちょうどいいと思ったんですけどね」

 

『黙って血を出させてやろうと?悪いやつねぇ』

 

「別に死ぬような量じゃありませんわ」

 

そんな会話を続けたのち、ビランはゆっくりと青娥に近づく。殺意こそないが、どこかぞっとさせる雰囲気を持っている。深呼吸ののち、ビランを見据えた。

 

『私が手伝ってあげようか?』

 

「…と、いうと?」

 

『血の調達と力の調達よ。手伝ってやろうって言ってんのさ』

 

「…ええ、期待していいんですね?」

 

『ああ、絶対に裏切りはしないわ』

 

そうして二人が結託した時、バイクの駆動音が響いた。そこから降りたのは聖と布都である。降りたと同時に睨みつけ、ゆっくり二人へ近づいた。

 

「…青娥殿」

 

「これは物部様。何かご用で?」

 

「そいつから離れてください」

 

「イヤですわ。たった今、協力者になったんですもの」

 

「そうですか。そう言うなら…我にも考えがある」

 

青娥の目の前に立ち、布都は袖からターンブレイカーを取り出した。ビランは先に行くように青娥へと促すと、剣を構え、様子を見る。

 

「しかしいいのか聖殿。わざわざ買っていただいて」

 

「天子さんの割には良心的な価格でしたし…。一緒に戦ってくれるなら全然」

 

「一応別の宗教家という身なのだが。…我仏像苦手だし」

 

「いいのです。与えられたものを受け入れるのが仏教の教えです」

 

「仏教徒ではないと言っておろうが。まあいい、厚意は受け取るのが人間かんk」

『あのさぁ!喋ってないで変身してもらっていいかしら!?』

 

ビランのツッコミを受け、二人は咳払い。ビランの方を向き、それぞれエイディングドライバーとターンブレイカーを構えた。

 

『南無三宝!』

『get started!』

 

「変身!」

 

「聖殿、掛け声は必要なのか?変身とか。あと醒妖とか」

 

「え?気合いを入れるスイッチみたいなものです。特に決まってないですよ。変身はライダーの人達が言うってぐらいですね」

 

「外来語はあまり使わないでいただきたい……。そもそも我h」

『早く!!』

「すまん、えっと……紅業(こうごう)!!」

 

『light!閃光!救って!栄光!描いて!』

 

『turn on!explosive girl!サーモバリック!』

 

そうして、仏術ライトフォルムが変身を終える横で、大爆発。収まった後も炎は消えず、見てみれば布都の怪人から火が吹き出てるではないか。サーモバリック、白に炎の赤が色をつける刺々しい怪人である。

 

「さーも、ばりっく?ってなんじゃ聖殿?」

 

「え?いや知りませんけど…」

 

「お主、そこの黒い敵。知っておるか?」

 

『ビランアニヒレイトって呼びなさいよ。知らないし』

 

「うむむ…。自分の鎧の名前がわからんと釈然とせんなぁ」*1

 

「そんなことはいいのです」

 

ドグマが構えたのに合わせ、ビランも剣を向ける。そして素早く駆け出してからの連続斬撃をもらうが、あまり大きいダメージではなさそうだ。しかしサーモバリックが駆け出したのを見て、青娥は口笛を吹いた。

 

「どうしたせいがー!」

 

「聖さんと物部様が私の邪魔をするの」

 

「倒せばいいんだな!」

 

「そう、いい子ね芳香ちゃん」

 

『get started!』

 

地面から飛び出てきた芳香の肩に手を置き、ターンブレイカーへUSBをセットした。そして拳を押し込み、丁寧に芳香へと手渡す。

 

「いくぞー!」

 

「頑張りなさい、芳嚼(ほうしゃく)

 

「ほーしゃく!」

 

青娥が代わりに掛け声を言い、しかし芳香がそれを繰り返す。そうして真っ黒な闇と札が彼女を包み込み、無理やり押さえつけるようにアーマーが装備された。

 

『turn on!decayed girl!メタリカ!』

 

「…ふううぅぅぅ」

 

「やってあげなさい」

 

口がむき出しのようにも見える、牙が並ぶ凶悪なクラッシャー、黒い煙を薄く放つ邪悪な外見、中華的なアーマーと尖った爪がその目を引く。青娥の命令を受け、少女達へと飛びかかった。

 

「うおぉ!!」

 

「あぅっ」

 

驚きながらも、サーモバリックは炎をまとったパンチを繰り出した。しかしあまり効く様子はない。さらにメタリカは口笛を吹き、同時にキョンシーたちが大量に現れる。全て今まで現れた、エックスゴースターもターンブレイカーを使わない、すなわち肉体変化怪人を模したもの。

 

「……ッ!!」

 

電波女を模したキョンシーを前に、一瞬だがドグマが固まる。脳裏に返った死の瞬間の熱さと痛みと苦しみが喉奥を焼くように貫く。さらにカラス女キョンシーの蹴爪が入り、激痛が鮮明に蘇った。

 

「げほっ、ごほっ、おぅっ……」

 

吐き気と咳の唾が邪魔になり、彼女はマスクを収納した。同時にさらりと髪が広がる。そんな彼女に迫るキョンシー達だが、それを前に聖は深く深く息を吸った。

 

「……負けるものですか…お前ごときに!!」

 

そして歯を食いしばり、思いっきり拳を叩き込んだ。ばきりと醜い音を立てながら、キョンシーの体が歪む。さらに回し蹴りを叩き込む。横に90°歪んでもなお動くキョンシー、そんな化け物達を前に聖は構え直す。

 

「破ァッ!!!」

 

そして扇で叩き込んだ青いエネルギー弾がキョンシーの体に広がっていく。伝わる光はエア巻物にも似る術式の紋様。それは死骸にかけられた術を解き、無理やりくくりつけていた肉片をばぁんと散らした。

 

『heavy!』「三度は死にません…!」

 

『…!?あっっづ!!』

 

さらに迫るビランのチェンジブレイドを片手で受け止め、さらに唾を吐きかける。術が仕込まれた唾液が爆散し、さらに呪術が追撃を与える。続けて0距離のブレストミサイルがビランへ叩き込まれていく。

 

「唾というものは大百足の話からも分かる通り魔力や霊力が伝わりやすいものです。失礼を承知の上使わせていただきました」

 

淡々と述べながら、聖は砲撃を続ける。ビランも反撃とばかりに必殺斬撃を叩き込むが、砲撃のシャワーは続く。不利と判断し、ビランはそそくさと去っていった。しかし同時に聖のスーツも砕け散った。限界だったようである。彼女自身も傷を負ったようで、そのまま倒れ臥してしまった。

 

「…っ!」

 

対しサーモバリックは苦戦気味である。ドグマはたった今変身が解けた以上助っ人は出来ない。おぼろげな意識まま弾幕を向ける聖であったが、その横を轟音とともに電光が駆け抜ける。

 

「雷怨!」

 

『turn on!hateful girl!タンスィオン!』

 

「…ライオン?」

 

「あ?かっこいいでしょ」

 

「……ライオンって動物は知っておるのか?」

 

「え?そんなん居るの…?醒妖じゃ前の敵どもと同じだって考え直したんだけどなぁー。また考え直しか」

 

メタリカへ電撃をぶつけながら、屠自古は到着した。同時に変身を終え、布都とくだらないことなども話してみる。しかしすぐに終え、メタリカへと向き直った。サーモバリックと同時に蹴りを叩き込み、続けて雷と炎が炸裂した。

 

「いででぇー、こいつ…」

 

それなりに痛手だったらしい、メタリカは飛び去っていく。追おうとするも青娥の手助けで姿を消し、追跡不能に。見せ場が少なすぎたことを悔やみながら、タンスィオンは変身を解いた。

 

「…なんかいい掛け声ないかね」

 

「我が知るか。…しかし青娥殿、仙術がどうのこうの言っておった。仙力目的で茨華仙を狙うやもしれぬ」

 

そんなことを言いながら、布都は聖を抱えた。しかし不器用ゆえかキン肉バスターのような姿勢である。屠自古がちぎるような勢いで聖を掴み、しっかりとした姿勢で抱え上げる。

 

「バカでしょあんたさては」

 

「人を抱えるのに慣れておらんだけだ」

 

そうして、二人は一度寺へと戻っていった。気絶する聖が視界に入り、二人が到着した瞬間に青ざめた星が駆け寄る。事の経緯を聞き、彼女は悔しげに拳を固める。

 

「堕ちた仙人という話ですが…偽りではなさそうですね」

 

「うむ、あの人は本質的に言えば自分を邪悪とは思うておらん。……興味があればどこまでも闇に手を突っ込めるというところか…。彼女には止めてやる者が要る」

 

「…やはり…豊聡耳さんが?」

 

「無論。今回も殴って引っ張り戻さねばならんな」

 

そんなふうに話しながら、二人は聖を着替えさせて布団に寝かせてやった。一時的に気を失っているだけなのだろうが、チラチラと怪我もある。包帯などされながら、心配げな視線が彼女に向く。

 

「聖!?大丈夫か!?……あっ」

 

そんな中、どたばたと走りながら神子がすさまじい形相を晒して飛び出る。しかし猛烈に心配しているのを見られるのが恥ずかしくなってきたのか、顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。それでも横目に聖を見るあたり、本当に心配しているのだろう。

 

「…なーんか静かな気がするよねー」

 

「なんの話じゃ」

 

「帰っちゃったじゃないのよ、未来人二人」

 

聖の側を神子に任せ、一輪は布都へと近づく。梅雨の時期のくせに死ぬほど晴れたアホみたいに青い空を見上げ、そんなことを言った。昨日一昨日と雨続きだったが故に庭は湿っており、照らされた湿気が風と共になだれ込む。

 

「それもそうだな」

 

「今日はあんたたち以外にも青娥と華扇さんが入れ替わりで来たり…来客自体は多いのだけどねえ」

 

「…む、茨華仙がおるのか?」

 

「居るわよ。あっちの部屋でなんかしてた」

 

「それは助かった!ありがとう一輪!」

 

それを聞き、布都は方向転換。一輪も用事があったようで、そのまま別の部屋へ。入れ替わるようなタイミングで屠自古が現れ、後ろから声をかけた。

 

「今の戦力の状況を見れば…寺側を助けてあげてる状況だよな。こちらの態度ももう少し大きく出れるんじゃねーか?」

 

「分かっていないな屠自古、その関係は太子様は望まぬ。我らも聖殿には世話になっているだろう?この状況なら宗教敵もなにもないしな」

 

「ああ、悪ぃ、変なこと言っちまって」

 

「やけに素直じゃな気持ちの悪い」

 

そんなことを話しつつ、布都はふすまを開けた。その部屋の中で、華扇はぼんやりとキセンドライバーを見ていた。程なくして布都に気づき、彼女は立ち上がる。

 

「お帰りだったんですね。どうせなら白蓮さんにもご挨拶を……」

 

「聖殿なら今はお休みになっている。茨華仙、お主はそれより先に用がある」

 

「用……?」

 

そうして、布都は華扇に青娥に狙われるかもしれない旨を告げた。それを聞き、この前強化アイテムをもらったばかりということを思い、少し複雑そうな表情を作る。

 

「ま、気をつけてくれという話じゃ。ここにいる限りは我らが守らせていただく。お主も戦うためにも警戒しておけ」

 

「えぇ、そうさせていただきます。……あっ」

 

そんな中、何かを思い出したかのように華扇は立ち上がった。聞けば、仙術の書などを自宅に置いていたとのことだ。確かにそれはまずいと、一度帰ることに。布都は屠自古はここに居るよう任せ、自分が護衛に名乗り出た。

 

「私だけでも大丈夫ですよ。戦えます!」

 

「相手が複数で来る可能性もある」

 

「そーよ、足手まといにはならないから私もね!」

 

そこに雲山と一輪も寄り、三人で護衛することに。雲山もサムズアップで応え、華仙は嬉しげに頷いた。そうして人里を抜け、自宅へ向かうことに。

 

「安いよ凄いよ河童印のスーパー家電製品!!外の世界のヤツをお持ちかい?もともとお持ちの家電があればお引き取りでお値段一気に安くなる!」

 

「超便利な河童の家電だぜー!技術なら我ら河童にお任せー!」

 

「お前河童じゃねえだろ」

 

通りがかりの人里で、家電販売する河童が目に飛び込む。数人で売る横で魔理沙も手伝っており、顔の広さで結構売れている模様。その様子を華扇も横目に見る。

 

「…あなたは神社側では」

 

「私は私だぜ。バイト代くれるってんだからな!お前たちも双方に得があれば手伝ってやるぜ」

 

一輪をビシッと指差し、魔理沙はそう告げる。雲山はフンと鼻を鳴らして固めの態度を取り、頑固だねえと彼女が笑う。そんな視線のぶつかり合いであるが、隣でがっつり商売をする河童のせいで緊迫感は0である。

 

「いやぁーお前もう私達の子になっちゃえよ。あんた看板娘として養っていいレベルだよホント」

 

「悪いが私はみんなの魔理沙さんだよ」

 

ケラケラとそんなことを言いつつ、魔理沙は後ろ手に手を振って華扇達を見送った。先をいく中で、華扇は途中で団子を買いそうになるが、太ってはいけないと考え直し、歩み出す。

 

「……」

 

歩み出す。

 

「……っ」

 

歩み出す。

 

「……おいしそう」

 

歩み出……。

 

「…二つお願いします」

 

歩み出せなかった。ついに欲望に負け、みたらし団子を二つを買い、今度こそ歩き始めた。

 

「…罪の味は美味しいか?って、雲山が」

 

「ええ、とっても……」

 

どこか申し訳なさそうに頬張る華扇であるが、食べるたびに幸せに満ちた顔へと変わっていく。苦笑しながらも、三人も美味しそうだと思ってしまう。

 

「…ごちそうさまです」

 

食べ終えたゴミを紙袋へ入れると、その辺のゴミ箱へ。最近の覇権争いの良い影響として、人里の環境が良くなったことが挙げられる。ゴミ箱を設置する案は妖怪たちのものであり、お陰で綺麗になったという声も聞かれる。

 

「さて、ここです」

 

「!……グルグルしてたのは迷ってたわけじゃないのね」

 

「移動経路を鍵とする結界……といったところか」

 

華扇宅への到着にそう長い時間はかからなかった。居住者の案内あってのものでもあるので、迷ったり手間取ることなどもなくて当然であろう。

 

「おかえりー」

 

「この声……小町?」

 

戸を開けた途端自分に飛んだ声に驚きながらも、華扇はその声の主の方へと駆け寄っていった。予想通りではあるが、やはり窓越しの小町。首に鎌を突きつけられ、手を上げて白旗のポーズの青娥のおまけ付きである。

 

「お話でもしてやろうかと思えば……空き巣がいたモンでね。この通りさ」

 

「逃げようがなくなってしまいました。フフフ」

 

「ありがとうございます。小町、鎌を離して」

 

「あいよ」

 

そうして自由になった青娥へ、一瞬のうちに掌底を叩き込んだ。吹っ飛んで外の森へ投げ出される彼女をよそに盗まれた書物などがないことを確認。全てを鞄に入れた。

 

「…そーいや四季様と摩多羅サンが話してたんだよね。あたいは関係者じゃないから深い事情は知らないけどサ、十中八九この幻想郷で起きてることに関してだろーね」

 

「そうね。警戒はしておくわ」

 

「そうしな。あ、あと今日は月食だってさ。余裕ありゃ見に行きなよ」

 

それだけ残すと、小町はその姿を消した。それを受け、一行もその場を後にすることに。華扇以外入れないよう厳重に結界を張り、彼女達は去っていった。

 

そうして人里へ。夜になっても相変わらず商売中の河童と相変わらずバイト中の魔理沙の元へ寄り、布都は興味深そうにその家電達を眺めた。

 

「一個買うかい?魔力で動かせるから電源要らずだよ」

 

「むむっ……我が使い道に困って貯めてた小遣いで買える…………」

 

「いい機会じゃないのお姉さん!」

 

そうして商売が広げられていたその時。紙の鳥が華扇の背中から飛び上がったかと思うとバサバサ広がり、中からお札の吹雪と共に青娥が現れた。

 

「さっきぶりです♪」

 

「…どこにいたのですか」

 

「貴女の背中と服の間に」

 

「えっ…………」

 

「貴女は少し糖質を控えましょ」

 

それを聞いた布都と一輪はふふっと笑いをこぼすが、華扇の睨みを受け、ピタッと止まった。後に彼女らは弾幕ごっこ以上の気迫だったと語る。

 

「…何がお望みで」

 

「さぁ?どう思いますか?」

 

そんな風にとぼけながら、彼女はパチンと指を弾いた。同時に地面からドリルのように芳香が飛び出、さらに地面に散っていた札から湧き出るようにキョンシー怪人が現れる。

 

「芳香ちゃん、やってやりなさい。掛け声は覚えてるわね?」

『get started!』

 

「おう!ほーしゃく!」

『turn on!decayed girl!メタリカ!』

 

「大人しくしていてくださいね」

 

「誰がしますか……変身!」

『monsterside……change modeogress』

 

向かってくるメタリカにオーグリスで対応。ハンマーを振り回し、周りのキョンシーを叩き潰しながらメタリカにも打撃を加えていく。その状況を見て、他の連れ三人も戦う準備をした。

 

「…こうなるなら天子から買っておけばよかった」

 

「残念だったな。なんならサーモバリックになるか?」

『get started!』

 

「結構よ!雲山と戦える姿じゃないと納得いかないわ」

 

「そう言うと思ったぞ!紅業!」

『turn on!explosive girl!サーモバリック!』

 

炎を振りまきながら、サーモバリックは駆け出した。それを見届けながら、雲山と一輪は肉弾戦でキョンシー達を潰していく。時に光弾や光線を飛ばしながら、怪人やライダーに勝てるペースではないが倒していった。

 

「おらおら楽しそうだなァ!あたいも混ぜろ!」

 

そこに割り込むようにフールが突撃。一応味方ということなのか、キョンシーにダメージは与えず、サーモバリックの方へパンチを叩き込んだ。

 

「うぐぇ…!」

 

「ったくよぉ……炎属性が被ってんだよアホンダラ!!」

『愚者の一撃!』

 

続けて蹴りと連続パンチをぶつけ、蹴り上げでつなぐ。怯んだサーモバリックへ、勢いそのままにかかと落としを続けた。焔の一撃に爆発を起こし、軽い排熱と共に布都が倒れた。

 

「……っ」

 

「ヒャーッハッハッハッハッハ!キャハハッ!あたいの勝ちだな!次はあのドぴんくhairの仙人だぜ!」

 

「させっかよ!」

 

そうして構えたフールの前に、キョンシーを蹴り倒しながら魔理沙が現れた。河童を逃したりキョンシーに阻まれたりで変身できていなかった模様。

 

「変身!」

『beat!burst!dynamic dark bird!』

 

「フン、ちょうどいい。ピエロの役目は笑顔にすること。敗北を楽しませてやるぜ!ルゥウウウナァティーーーックタアアアアァァイム!!!」

 

駆け出して拳を放つフールであったが、スパークはそれを避けて空中戦を開始。投げる火炎弾を避けながら銃撃を放った。

 

「たっ!」

 

そんな中であるが、ハーミットは結構優勢である。メタリカも噛みつきなども使って文字通り食らいつくが、それでもイマイチ押しきれないというところだ。

 

「うーん、仕方ないわねえ」

 

『g,g,ge,ge…get star started…』

 

「ん、やっぱり勝手にいじると変になるものねえ」

 

メタリカとハーミットの戦いを見ながら、青娥は黒と青に彩られたターンブレイカーを取り出した。何かを押さえつけるように小さな札がびっしり張られており、USB挿入時音声も狂っている。ため息と共にスピーカー周りをコツコツ叩いた後、その『タオブレイカー』を起動した。

 

蒼光(ツァングァン)!」

 

(turn on)!desire girl!アズーロレイ!』

 

ノイズのかかった変身音に似合う真っ黒なオーラを放ち、紫の煙が舞う。中から青く漏れ出す光ごと押さえ込むように札が張り付き、全て封じ込めたその姿を現した。

 

「…いけるわ」

 

天子の設計図よりも禍々しさを増したアズーロレイが、ハーミットの元へと駆け出した。その手に出現させた光剣で一撃を叩き込み、さらに衝撃波でハーミットをぶっ飛ばした。

 

「…やられるものですか。我が信念にかけ…貴女を救ってみせましょう!」

 

「貴女がやられてくれた方が私的には救いなんですけどね」

 

駆け寄るアズーロレイへ蹴りを返すが、その瞬間メタリカに後ろを取られる。キョンシー怪人どもからの追撃も入るが、こちらは大きなものではない。適当に反撃すると、今一度立ち上がった。

 

「とりゃ!」

 

「……っと、いい蹴りではありませんか!」

 

アズーロレイは蹴るその足を掴んで、ハーミットをぶん投げた。位置がよかったのか、雲山がどうにかキャッチ。布都の手当てをする一輪を背にする形で、ハーミットは今一度立ち上がった。

 

「……守るべきものがある。私を深く知る者でなくても……私が深く知る者でなくても!貴女の行動には意味があるのでしょうけど…それを考えるより先に…潰させていただきます!貴女の力でもって!」

 

『Humanside……change modetrick!』

 

ホールクラッカーを握らせ、ハーミットはフォームチェンジを終えた。その手にカクセイガを握り、今一度駆け出す。寄ってきたメタリカへパンチをぶつけ、さらにアズーロレイへ迫った。

 

「だあああ!」

 

「っ……。これは」

 

「よそ見などしてる場合ですか!」

 

パンチを受け止めた拳を見て、青娥はマスクの中で何かを思案する。しかし思考の暇を与えずハーミットは飛び蹴りを放つ。それを羽衣をロープのようにして拘束し、振り回したのち遠心力フル活用で遠投。転がるハーミットへ指で招く挑発を向けた。

 

「…なるほど、余裕という態度ですか!」

 

「ええ、かかって来なさい!」

 

「言われずとも!」

 

ハーミットがカクセイガ向けて来たのを受け、アズーロレイは腕で防御態勢をとった。

 

「たぁっ!」

 

「ふっぐぅ……!あぁっ!!うぅあっ……あああっ!!!」

 

「なんのつもりですか!?」

 

瞬間、彼女は腕だけスーツを解除し、素肌に刃を受ける。真っ白な柔らかい肌をてらりとした赤が彩る。うっすら涙を流しながらも、彼女は笑っていた。そして数秒ののち、ハーミットの変身は解けてしまった。

 

「前、見させていただきましたよねぇ?貴女のベルト!それは仙力で動くと言いました。そして貴女が私の術を使って変身していたのはまさに僥倖!私と()()()()()()なら…吸収ができる!」

 

「だから変身が解けた」

 

そう一人で飲み込む。しかし青娥は足りないと告げ、のけぞるような不気味な姿勢で布都へと目を向ける。まさかと駆け出すも華扇は間に合わない。

 

「……っ!」

 

「立ちはだかろうと無駄ですよ一輪さん!貴方はいmぶへぇっ!!」

 

「……愚かな師を持つと苦労する。ペットを置いて行くべきではないよ、華扇」

 

剣を向けたアズーロレイを蹴り飛ばしたのは紅飛馬であった。その上から、ゆっくりと神子が降りる。ご苦労であったと紅飛馬の頭を撫でてやった。

 

「神子さん…。ありがとうございます!」

 

「礼に及ぶことではないさ。嫌な予感がしたものでね」

 

そう言ってアズーロレイを睨みつける。その手に握るのはエイディングドライバーである。よもやという視線の中、彼女はベルトを巻いて巻物をセットした。

 

『南無三宝!』

 

「他人の物を使うのはいささか不満だが……この際仕方がないか。変身!」

 

『heavy!変わらぬ麗光(れいこう)!続くは研鑽(けんさん)!揺るがぬ神仏!』

 

そしてアズーロレイを前にドグマ 法術ヘビィフォルムへ。全身の火器を放ちながら、アズーロレイへ近づいていく。今一度駆け寄るメタリカにはシャックシューターでの射撃をぶつける。

 

「…やれやれ」

 

「何がやれやれだ霍青娥ッ!」

 

ブレストミサイルが宙を舞うが、それを全て光剣で破壊。続く電撃をジャンプでかわし、肩のキャノン砲からの砲撃も全てガード。そのまま掌底を叩き込んだ。

 

「……っと」

 

「十分な防御力ですこと!しかし……まあ貴女に触れた時点でほぼ目的達成ですね」

 

「なんだと?」

 

「あと少しだったんです。触れて吸える分のちょっとの仙力でいいんですよね」

 

それだけ言うと、羽衣を巻きつけてドグマを拘束した。一瞬でちぎられてしまうが、その一瞬で十分である。瞬間、元々暗かった周囲がさらに暗くなり始める。月食が始まったのだ。

 

「ちょうどいい……!」

 

「させない!」

 

「いけー!せいがー!」

 

メタリカ自ら盾となり、ドグマの攻撃を受けた。鎧が弾け飛び、芳香が転がる。同時にキョンシー達も肉塊になったかと思えば、札の中へと消えていった。

 

「だぁっ!」

 

「痛い!」

 

「んだテメ味方だろコラ!」

 

その横を駆け抜けたアズーロレイは、未だに戦闘中のスパークとフールの頭を掴み、地面へと叩きつけた。瞬間、地面へ魔法陣と術式のような物が同時に広がり、手を伝った血がさらに光を生む。

 

「魔力、仙力、仙人の血!あぁ、揃いましたわ!あははははは!ハハハハハ!この術が使えるのは…今日、この月食の日なんです!あっっはっはっは!ハァーッハッハッハッハッハ!!」

 

そんな笑い声の横で、変身の解けた魔理沙とクラウンピースが転がっている。無防備な彼女らの魔力を吸い込み、凄まじい光の中彼女は笑う。近づいてはまずいと他の少女たちが様子見をするなか、ピタッと彼女は笑い止む。

 

「…あぁっ、あ……あああああああ」

 

そしてマスクを外したかと思えば、涙を流しながら光と向き合った。まさか世界の終わりでも来るのか?それを止められなかったのか?面々が絶望していくのに反して、光は一瞬で消えた。

 

「桓……さま」

 

「……ちょっとなんなのよ今の!」

 

その騒ぎと人里のどよめきを引き裂きながら、幽々子が現れた。かすれた魔法陣と青娥を交互に見ると、彼女は表情を変えて俯いた。

 

「よほど会いたかったのね。……振り向くこと無かれと…言うのに」

 

そう言った幽々子に肩を掴まれた青娥は、流し込まれたかのように幸福に満ちた表情。しかしぶつぶつ何かを言いながら、焦点の合わない目から涙を流している。

 

「…どういうことだ!」

 

変身を解いて詰め寄る神子に対し、幽々子は俯いたまま告げる。

 

「冥界が無理矢理、一瞬だけ顕界と接続されたの。きっと、彼女が死んだ夫の顔を見るために」

 

「何だと……!?」

 

「そのせいで『戻って来れなく』なったのね。半ば魂が引っ張られている」

 

「そんな……!!」

 

 

 

 

ーー結局、彼女は幸せそうな、そして虚ろな顔を浮かべたままである。食事も睡眠も着替えもままならないもはや廃人同然の生活を送りながら、彼女は今日も呟いている。

 

ーー霍桓、夫の名前を。

 

ーー彼女が『戻って来る』のは、もう少し後の話。

 

Continued on next episodes.

*1
サーモバリックは爆薬の一種です。気化して爆発する恐ろしいヤツだ!




「河童の誇りを侮辱するか!」
「お前らが鬼に刃向かうか!」

激化する戦いの中で。
次回、「お姉様の云う通り」

めっちゃお待たせしました。例大祭関連で5個書いてたし多少はね?
予想外の展開だったかなーと思います。シリアス風。このエピソードの直接的な続きは、もうしばらくお待ち下さいな。次回はだいぶ前から書くことを予定していた回。分かりやすい話です。
怪人が擬似仮面ライダーになってる点ですが、これは登場回数と強さで違いを見せつけていこうと思っています。この前ソルラテールが通常形態と同系列であるグランドルナに負けたのもそう言うことです。
メタリカはラテン語で金属!といっても、バンドの方を思い浮かべるでしょうけど。
そろそろ、やっと折り返し地点です。さらにだいたい一年の連載。いやぁー長かった。前半の速さに対して後半のアホみたいな遅さ。
慢心が出てますね慢心が。
ライダーの例に漏れずだいぶ瞬瞬必生にやってきた本企画。いつになったら終わるのでしょうか。

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