幻想仮面少女   作:さわたり

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お待たせしました


第27話 数多の欲望の星空

「……もう会えない…あの会えた瞬間が…一番…………」

 

「…そう、ですか」

 

7/9昼ごろ、光の入らない薄暗い霊廟の一室。聖は青娥から話を聞き、その様子を書き出していた。あまり多くの情報は得られないが、これが少しでも彼女を助ける手立てになれば。その思いが彼女を動かしていた。

 

「…これ、ちゃんと食べてくださいね?」

 

仙人にとって食物は不要だが、食べることを習慣にしていた彼女にとっていくらか気分転換になるのはず。そう思って屠自古は青娥の分を作ることをやめていなかった。

 

「…どうだ?」

 

「一応、前よりは食べるようになってます。味わうっていう、原始的感覚は…戻ってきつつありますよ」

 

「…そうか」

 

そうして、聖は食べかけの朝食を屠自古へ渡す。彼女はどこか悲しそうに、台所へ向かった。入れ替わりに神子が現れ、聖が話しかけようと歩き出す。

 

「…っ!」

 

「あぶなっ…いなぁ!」

 

もつれるように転んだ聖を受け止め、神子はため息をつく。見てみれば、彼女の顔はかなり疲れているようである。そのまま抱え上げ、神子は聖を布団に寝かせた。

 

「休んでいろ」

 

「でも…他の勢力の人達が……」

 

「ドグマには私が変身してるだろう?君以上に扱ってやるさ。芳香が青娥を任せると言ってくれたのも私だとも」

 

そう言って、芳香のターンブレイカーを見せ、去っていく神子。聖はため息をつき、その背中を見送った。自分はそこまで消耗しているわけではないのだが。そんなことを考える。

 

「太子様はあんたにイイところを見せたいんだろう」

 

「何ですって?それは…どういう…」

 

「それ以上の意味はありはせん」

 

そんな風に残し、布都は去っていった。いまいちよくわからないまま、厚意に甘え、休むことにした。昨日の夜、少し術もいじっていた。疲弊していたのは事実であり、そのまますっと眠りに入っていく。

 

「…霍青娥なんかに…邪仙なんかに…」

 

「そう言ってやるなご主人」

 

「……そうですね」

 

聖の様子を見て、星はため息。ナズーリンの言葉を受けながら、彼女は青娥の元へと向かった。少し暗い部屋に軟禁された彼女。その腕や足、口には自殺防止の拘束具が。苦しくないよう最大限の配慮があるが、それでも痛ましい。

 

「…寅丸さん」

 

「霍さん。あなたは……何がしたいのですか?」

 

ぐるぐる考えたのち、星が出した問いはそれだった。自分の…しかも他人を巻き込んだ欲のせいで面倒を起こした霍青娥。しかし、彼女の瞳に力強さはない。気持ち悪いのだ、直球に言えば。

 

「会いたい…。桓さまに。もうこの世に………用は無くなりましたの。だから!」

 

暴れはじめた彼女を宥め、星はその部屋を後にした。出口に立っていたナズーリンが、薄くため息をつく。そしてスッと切り替えると、星に買い物のお誘い。

 

「いいですね!行きましょう!」

 

「ならよし。準備をしてくれご主人」

 

その言葉に頷き、ささっと外出準備を完了。人里へと繰り出した。人里はいつも通りの賑わいである。そんな中、演説中の早苗に出くわす。

 

「えー、しかも!最近は夜遅くに、人を追いかけ回す謎の不審人物まで!妖怪かも分かりません。絶対に戸締りはちゃんとしておくのです!」

 

「えー!どうしよう姫!」

 

「影ちゃんは強いから大丈夫よ」

 

フードの少女が怖がるのを、車椅子の少女が慰める。微笑ましいですねと笑う星に、気づいてないのかとナズーリンが呆れのため息。そう言われてもなお、星は首を傾げる。

 

「妖怪だろうあの二人。怪しい雰囲気でわからないかね…」

 

「え?あー、確かに匂いが」

 

「……ま、そう言うことさ。なんだって不審者を怖がるんだか」

 

けらけら笑うナズーリン。その後ろに続き、買い物を続けた。そんなふうに野菜をいろいろ見る彼女たちのもとへ、ぬえが現れる。

 

「お、夕飯?」

 

「ええ、そうですよ!」

 

「ああ、そうそう。今日はご主人は私の家の方に泊まる。聖に伝えておいてくれ。なんなら君も来るかい?」

 

「いいの?だったらマミゾウに伝えて貰おうかなー」

 

そう言うと、ぬえはぴーっと口笛を吹いた。するとどうだ。何処からともなくタヌキが現れる。そいつへマミゾウへの伝言を残し、とてとてと去っていくのを見送った。

 

「よし、じゃ、買い物続けようか。私も着いていくよ」

 

「そうですね。野菜はあらかた買っちゃいましたしー…」

 

「魚でも買おうか」

 

「ナズーリンはともかく星的にはいいの?」

 

「ご主人は別に修行中ってわけでも無いさ。それに御本尊!虎であるからにはご飯ぐらいしっかりしてもばちは当たるまい」

 

ならいいかとぬえはうなずき、三人は魚屋へ。そこには先程の演説を終えた早苗が居た。近くの魚屋なのだが、いわゆる仮店舗。売りに来た潤美の店なのだ。

 

「おー、外では見ない魚ですねー!」

 

「そうなの?潤美の奴がよく売りに来るから知らなかったなー」

 

「三途の川で獲れるのは絶滅種だけだからね。外では買えなくて当然だ」

 

「確かに幻想郷で初めて見た魚ばかりだね」

 

興味津々の早苗に対し、ぬえと潤美が言う。その言葉に、早苗の興味はますます魚に向く。ナズーリンはと言うと、手頃な魚を一つ。それでも結構大きいので、三人には十分である。いつも通りに潤美にお礼を言うと、買い物袋片手に家へと向かった。

 

「「「いただきます!」」」

 

封獣ぬえはああ見えてそれなりの礼儀は知る女。手を合わせ丁寧に告げると、綺麗に食事を始めた。魚のみの崩し方からも、その丁寧さが伺える。

 

「…さて、君はどうするんだい?」

 

「どうする、っていうと?」

 

「とぼけなくていいさ。ぬえ、君が何かしら動こうとしていることぐらい察しはつく。牛の首の件だって、私はお見通しさ」

 

ナズーリンの物言いに、ぬえは参ったよとでも言うようなポーズをとる。対し星はイマイチ状況が飲み込めていない。頭は悪くないが、はかりごとをするタイプではないのだ。

 

「ま、ご主人は気にせんでもいいさ。ぬえの動向に対して思うことがあるわけでもないんだろう?」

 

「まあ、そうですね」

 

「話半分で聞いててもいいさ。で、君は結局どうするつもりなんだい?」

 

早々に食事を終え、ゆったり続ける二人をよそにナズーリンはぬえの方へと詰め寄る。やれやれと言うふうな様子で、ぬえは口を開いた。

 

「正直どうしようって考えはないんだよねぇ。人里の掌握には興味ないし」

 

「まあ、確かに野心家ってタイプでもない、か。君は」

 

「どうだかね。…多分聖達の手助けをするかな。この前妖精どもに痛い目見せられたけどさー」

 

米の最後の一口を飲み込んだのち、ぬえはつまらなさそうに言う。周りの勢力もかなり強くなっているのは事実。ナズーリンはしばらく考え込み、ため息をついた。

 

「こんな時に…霍さんは……」

 

「文句を言っても仕方ないだろう。もとより彼女を頼る気にはならないな私は」

 

「そもそも神霊廟の奴ら自体信用ならんのだけどねぇー」

 

ため息と共に、酒をあおるぬえ。酔う量ではないが、興が乗ってきたもよう。半ば認めているようなことも言ったかと思えば、文句。慣れてるんだがそうじゃないんだかよくわからない雰囲気である。

 

「…話変わるけどさー」

 

「急ですね」

 

「明日のヤツ、見に行くよね?」

 

「こころのかい?それはもちろん」

 

そう言ったかと思えば、ナズーリンは家にかけられた時計へ目を向けた。もうそろそろ休もうじゃないかという彼女の言葉を受け、少女達は就寝した。

 

 

 

 

「貴様の命、貰い受ける!」

 

こころの披露するものは大衆に受けるように、かなり劇めいている。分かりやすく、話も聞きやすい。激しい動きや静かな動きを一人で表現し、落語のような特性も持っているのである。

 

「おぉー…コレは…いいな!」

 

「能、ではないと言っていましたが…こういうことだとは」

 

「……」

 

神子と聖が眺めるその横で、青娥もまた静かに見つめていた。外の空気を吸い、しっかり外を見れば気分も変わるものかと考えてのものである。うつろな視線のまま、じっとりとこころを見つめた。

 

「死してまた会おうぞ!貴様の代わりなら我がしてやる!」

 

「…死、して。……代わり!」

 

こころが放ったセリフを聞き、突如青娥の目が煌めき始める。そして何かが壊れたようにげらげら笑い声をあげ、舞台の方へと駆け出した。止めねばと走る聖を蹴り倒し、その口からタオブレイカーを吐き出す。

 

蒼光(ツァングァン)!」

 

(turn on)!desire girl!アズーロレイ!』

 

「あんなところに隠していたのか…!」

 

「ええ、何かあった時に、と思いまして。…私に足りなかったものが分かりましたわ」

 

霍青娥は目的のために手段は選ばない。そこに正義も悪もなく、純粋に霍青娥のみがある。目的のためならば誰かを救い、目的のためならば誰かを殺せる女なのだ。変身した彼女を見て、観客たちは一気に下がっていく。

 

「…何をするんだ」

 

「さぁ?」

 

アズーロレイはとぼけて見せた。神子が手綱を取れていないこの状況で、霍青娥は手段をそのままに選ぶはずだ。そしてこの状況なら、最悪の手段が彼女にとっての最短だという事もありうる。

 

「よくも私の舞を邪魔してくれたな!許さんぞ!!」

 

『get started!』

 

「どいつもこいつも邪魔ばかりだ!!!醒妖!!」

 

『turn on!emotion girl!マスカレイダー!』

 

飛びかかるマスカレイダーに、アズーロレイは光剣で迎える。巨大な扇を跳ね返すが、そこにのけぞりを見せる。今の隙にと聖がエイディングドライバーを鞄から取り出すが、それを神子が奪うように取った。体調が万全でなく、さらに先ほど蹴られたという事実もある。星も聖を守るようにし、神子を見送った。

 

「うっぐ……。強いな青娥!肉弾戦もできるとはな…」

 

「術のおかげですわ。…あなたに用はないのよ。邪魔をしないでくださるかしら!」

 

「だが私から文句があるのだ!!」

 

駆け寄る神子を尻目に、マスクの下で青娥はため息をついた。この状況、不利である。こうなれば仕方がないと、彼女は札を取り出し、マスカレイダーへと貼り付けた。

 

「本当なら私の強さを見せつけたかったのですけど…。利用するしかなさそうですわ」

 

「…ん!?体が動かんぞ!いや、勝手に動いている!?」

 

「洋服を使って拘束、擬似キョンシー化を施す術です。全身にぴっちりのスーツならなおさら。どうもライダーの皆さんには効かなかったのですが…ターンブレイカーの防衛システムはあまり強くはないようですね」

 

そういうと、くるんとマスカレイダーの向きを変え、背中を押した。神子の方である。関節が曲がりづらくなったようであり、その動きはキョンシーそのもの。スーツが操られているだけとは言え、見ていて気分のいいものではない。

 

「おぉ!?おう!?助けてくれパ…神子ー!!」

 

「…もちろんだ。変身!!」

 

『heavy!変わらぬ麗光(れいこう)!続くは研鑽(けんさん)!揺るがぬ神仏!』

 

聖が見届ける中、ドグマがマスカレイダーへと斬りかかった。だがパワー自体は結構上がっており、すぐに倒れるというものではない。さらにアズーロレイの蹴りを貰い、怯んでしまう。

 

「くそっ…」

 

「愛する者が居るからといって……貴女は…!!」

 

星が声を上げ、槍を構えて突撃する。だが放った衝撃波を受け、触れることすら叶わない。そうして、今一度ドグマとアズーロレイが向き合う。一対二の状況だが、外部から見ればただの仲間割れ、他勢力からすれば放っておくのが吉であるのだ。…だが、一度神霊廟に突っ込んだ身である彼女は黙っていなかった。

 

「ていやーー!!東風谷早苗の参上ですよ!」

 

「早苗さん!」

 

フルブレッサーのペダルを激し目に漕ぎ、ドグマと怪人二人の間に割って入る。目立ちたがりや人の良さ、様々な理由を背負い、キラッと歯をきらめかせた笑顔を浮かべてぬさを向けるのであった。

 

「さてさて、ここで守谷神社のすごさを見せつけるとしましょうか!変身!」

 

『OK!ROKUMONSEN! black monotone!』

 

シュバルツディーアティーとなり、その武器フロッグブレイカーを構える。やれという命令に不本意ながら体が勝手に従うこころへ、そいつをぶつけた。

 

「ナイス威力だ!だいぶ痛いぞ!この調子でスーツを爆破しろ!」

 

「殴った相手にこれ言われると調子狂うなぁ…」

 

モノがもう一度突撃するその横で、ドグマはアズーロレイへと攻撃を繰り出した。剣と剣がぶつかり、双方が怯みを見せる。しかしそこを埋めるようにドグマがブレストミサイルを飛ばし、一気に隙を作った。

 

「…っ」

 

「考え直すんだ、青娥。欲望のために破滅をしては本末転倒ですよ」

 

「勝手を言わないでくださいまし。私はね、このために生きてきたんだと、月食の日に思えたのです。あの人に自分を高めること以外のことを教えてもらったのです!!」

 

「…」

 

青娥の目的は夫である。神子は彼女から、『もう一度会いたい』という欲の爆発的な膨らみを感じ取っていた。そう、もう一度会う方法を見つけたのであろう。理由が理由なので、完全に止めてやる気にはなれなかった。

 

「どりゃあああ!!!」

 

「おっご…おっ、ばちばち行ってるぞアーマーが!あとちょっとだ!」

 

「ちょっと待ってください……硬いですね…疲れた…」

 

「諦めたら終わりだぞ早苗!あーほらほら!私の体が勝手にお前に襲い掛かろうとしてるぞ!!」

 

「……」『波羅羯諦!』

 

膝をついて肩で息をするモノを見て、ドグマは必殺を発動させた。その場を退こうとするアズーロレイへ斬撃をぶつけつつ、発射!宙を舞う火炎雷撃ミサイル皿ビームが、マスカレイダーとアズーロレイへと直撃した。

 

「うごっっ……自由だ!ハッハッハ!」

 

相変わらず無表情のまま狂喜乱舞のこころ。未だ倒されてはいないアズーロレイへ、ライダー達の敵意が向いた。よろよろ立ち上がりながら、アズーロレイは星を見つめる。

 

「足りなかったのは…魂と神通力ッ!!」

 

そういったかと思えば、がしょんがしょんと腕の装甲が変形し、その手から禍々しい術を放った。余りにも急のことで、避けきれない。目をつぶった彼女が次の瞬間に見たのは、自分の身を突き飛ばすナズーリンだった。

 

「うっ…くぅっ……なんだこれ…」

 

「さぁ、なんでしょうね、フフ、フ……」

 

青娥にも負担が凄まじいようだ。いや、むしろ青娥の方が、だろうか。ナズーリンは割と余裕があるように立つのに対し、青娥がかなりキツそうに身を引きずっていくのであった。

 

 

 

 

「それって…!?」

 

「…ええ、死ぬ…と、言うより毘沙門天様の御本体に強制移動とでも言いましょうか。そして二度と…こちらの世界に来れないかも、知れませんね」

 

沈み込んだ様子で、聖は言う。壁に背中をかけて座るナズーリンが、自分がこれからそうなるのか、と少し怯えたような様子を見せた。静かに考え込むナズーリンに対し、星は騒ぎ立てる。

 

「そんな…でも……っ!!」

 

ナズーリンは神通力を奪われ続けている。それは彼女の生命につながった力を失っていると言うことである。神通力を分け与えながら解術を試みるが、効かない。

 

「まあいいさ、この中で死の意味が一番薄いのは私だ。毘沙門天様に霊として仕えればいい話だし、私の代わりなら来るさ」

 

「それはダメです!貴女と…会えなくなるなんて……」

 

「…やめてくれよ。そんな顔されると死にづらいだろう」

 

ぐっと星の頭をどけながら、ナズーリンは言う。青娥の術ならばと神子と布都も見てみるが、どうもわからない。複合的に様々な様式が使われており、複雑を極めている。

 

「…はぁ、どうにか力押しなら解けそうだが……そのレベルの仙力はなし、か」

 

「力押しで…?」

 

「知恵の輪を筋力で開ける、と言えばわかるか?だが我らそんな力はないんじゃ」

 

ため息をつく神子を見て、星の焦りは爆発する。こうなれば青娥に無理やり解術をさせてやると、彼女は命蓮寺を後にした。虎の走力というのもあり、そのシルエットはどんどんと小さくなっていく。どこへ行くのですかと聖が呼ぶ声も、もはや聞こえなかった。

 

『……聞いたよ、あんた部下が死にかけてるらしいじゃないのよ』

 

駆け抜ける星に、ノイズのかかった声がかかる。思わず立ち止まる彼女に、木の上からビランが言葉を飛ばしていた。青娥を唆した者である。ナズーリンのことをどう知ったのかという疑問はあったが、前面にはただ警戒を見せる。

 

「…何の用だ」

 

『教えてあげるのよ、この私がね』

 

「…お前の話を……」

 

『ナズーリン!…生かしてやりたいでしょ?』

 

「…っ」

 

『必要なのは仙人の魂よ。死神から狙われるのを思えばわかるでしょう?仙力や生命力がたっぷりなの』

 

その声を聞き、星の心が揺れていく。そして、ビランが握らせた注射器を拒みきれなかった。右手に握ったそいつを見つめ、星は深く息を吸う。どうすればいいのか。

 

「…そいつから離れろ寅丸!」

 

「星!!」

 

「豊聡耳さん…聖…」

 

『そいつだなんて…大層な言い方ねぇ』

 

駆けつけた聖と神子へ、ねっとりした鋭い視線を向けるビラン。想像できない仮面の下だが、それでも視線を感じる不気味さである。そんな彼女の前に出て、星は神子を見据えた。

 

「豊聡耳さん…私は……霍青娥を殺す!本尊としてではなく…ただの虎として…!」

 

「…は?」

 

「何を言ってるん、ですか?」

 

「そのままですよ。私はナズーリンのために…あの人の魂を利用します」

 

「…そうか、それならば!」

 

「神子!」

 

エイディングドライバーを構える神子へ、星は右手の中の注射を腕に突き刺しながら駆けた。どくんという鼓動ののち、トラ女へと変異し、野性的に飛びかかる。聖は急な状況に慌てふためき、どうしようか思考をめぐらせる。

 

「何だと…!」

 

『よそ見は良くないわよ?』

 

さらにビランからの銃撃も入る。避けながらも怯んでしまう彼女の手から、トラ女はドライバーと巻物を奪い取った。さらに蹴り上げを叩き込み、受け身を取る神子が落とした仏に腕輪を拾った。

 

「…まさか!」

 

「初めは出来なかったのですが…この巻物があればできるようですね。貴女が出来ているのですから。…変身!」

 

『heavy!閃光!救って!栄光!描いて!』

 

その身にアーマーが着せられ、仮面ライダードグマが姿を表す。緑色に目が煌くその姿は、デザインの元だけあってかなり星に似合っている。

 

「やめなさい星!!」

 

「貴女の言葉であっても私はやめるわけにはいきません!!」

 

「…話を聞く状態じゃないだろう」

 

ツメを向け、脅すように睨みつけるドグマに、神子はジリジリと下がっていく。ビランが楽しげに眺めるなか、神子は服の中にしまった物を思い出した。

 

『get started…』

 

「…えっと、何だったっけ」

 

「それ芳香さんのですよね?なら…ほうしゃく、では」

 

「そうだった。芳嚼!」

 

『turn on!decayed girl!メタリカ!』

 

ツメを向けたまま警戒を解かないドグマ。それを前に、神子は託されていたターンブレイカーでメタリカへ。結果として、青娥を助けるために使う事になったとも言えよう。

 

「はっ!」

 

「でやああ!」

 

肩からのレーザーを避け、メタリカはピンと伸ばし足で蹴りを喰らわせる。神子用で調整された物ではないが故、かなり動きづらい。それどころかところどころの関節は曲げることを想定されていない構造だ。

 

「どっせい!!」

 

「大した威力じゃあないですね!!」

 

ごりごり追い詰められていき、不利であるのが良くわかる。当然といえば当然である。さらに観戦しているビランが入ってくれば、もはや勝ち目はない。

 

「ったく……勝手に騒いでくれるわねぇ」

 

「ほらほら、いいから助けましょ!白蓮さんと神子さんが居るから…ドグマは敵なんですね!」

 

そんな時、間に入ってきたのはハーミットとリブレッスだった。紅飛馬とタートルライダーから降り、ビランとドグマへ駆け寄り、カクガとガイネンブレイカーを構えた。

 

 

 

「…フフ、フ……魂、を……」

 

その身を引きずりながら、青娥は命蓮寺へと近づいていた。季節は夏、鋭い日光が刺さるなか、彼女は響子の背中へと近づいていた。

 

「うぁっ!!」

 

「…油断も隙もねぇな」

 

そんな青娥を止めたのは屠自古であった。膝をつく青娥を睨みつけ、さらには詰め寄る。そんな時、今一度身を引きずって立ち上がる青娥へと近づいたのは芳香であった。

 

「…大丈夫か?」

 

「芳香ちゃんは優しいのね。…大丈夫よ」

 

「苦しそうだぞー?なんか、つらそう」

 

「辛いなんてことあるものですか。やっと会えるのよ。会いたかった人へ」

 

そう言って青娥は芳香を撫でる。襲われかけた事に気付いていなかった響子は、首を傾げてその様子を見ていた。屠自古は、ため息をつく。

 

「自分の作ったキョンシーに心配される仙人があるかよ。お前、鏡見てみろよ」

 

屠自古が指さしたのは、昨日の夕立のあとの水たまりだった。映る青娥の顔は疲弊し切っており、クマややせこけがひどく目立つものだった。男を狂わせると神子が言った事がある。それほどの美しさも、感じられないものだった。

 

「……。これもまた、あの人に会うためなんですよ」

 

「今まで出会った全員に見限られてもか?」

 

「…っ」

 

「前、言ってただろ。記憶の顔もうっすら消えつつあるって。なんだって急にまた会いたいだなんて言ったんだかな」

 

「たまたま術を思いついただけですわ。冥界について調べていた時に」

 

そうかとため息をつき、屠自古は髪をかりかりとかいた。そうして今一度青娥へと目を向け、口を開く。

 

「私とお前の付き合い、何年だっけ?1000年?」

 

「だいたい…1400年ですわ」

 

「そうか…その関係、今更捨てる気なのか?」

 

「……」

 

「私としちゃ、そりゃお前なら必要とすればやるだろうなって感じ位だからさ。特に失望もしねぇよ。でも…立場ってもんはどうしようもないからな」

 

「そう、ですね」

 

「お前の夫が喜ぶかはこの際無視してやるよ。知った事じゃないからな。だが…それからの数十年のために今までのものを壊せるのか?」

 

黙って考えこむ青娥に、芳香が近づく。首を傾げて心配そうに見つめる瞳に負けたのか、彼女は指を弾いてへたり込んだ。

 

「…霍青娥!!」

 

そんな時、神子と聖に連れられ星が命蓮寺へと戻ってきた。ハーミットのトリックモードにしっかり負け、ビランもリブレッスが追い払っていたのだ。

 

「……寅丸さん」

 

「貴女という…人はっ!」

 

「よせご主人!私の術は解いたんだ!」

 

「!…それは、よかったですが……でも!!」

 

いつのまにかそこにいたナズーリンが言う、星は止まらない。青娥の襟首を掴む星を引き剥がし、聖は星の肩を掴んでその瞳を見つめた。優しさに満ちた目で。

 

「貴女だって、傷つけたでしょう?愛するもののために。神子を」

 

「それは…!」

 

「なんなら殺す気だったでしょ。心あるものは愛が関わるとちょっと乱れちゃうんです」

 

「ちょっと…乱れちゃう…」

 

「それが一度バランスを崩せばこの通り。それは決していいことではありませんが、攻め切れるものではありません。私も…弟を慕っていただけのつもりが……こんなとこにまできてしまったんですから」

 

「…」

 

「魔界で知り合った人…西行兄さんは言っていました。俺はそれが怖くて妻を残して旅立ったのだと」

 

ゆっくり語り掛けられ、星の表情は沈んでいく。その顎を優しく持ち上げ、聖は微笑みを送った。そうなって、彼女は初めて冷静に自分の姿を見た。邪仙とする事が同じ…いや、憎しみもあって動いていたぶん、自身の方が醜いかもしれないと。

 

「……ごめんなさい。貴女に対して…私は感情で殺意を向けてしまった」

 

「そう、でしたのね。当然といえば当然でしょうけど」

 

何かが抜け落ちたような声で、空を見上げながら青娥は呟いた。色々な事がどうでも良くなる、清々しい青。

 

「あの人と結ばれた日も…こうでしたわね」

 

「…」

 

「ねぇ…私を諦めさせてくださいます?まだあの人に会いたいと思ってしまう私を」

 

「諦めさせる…か」

 

「負かしてくださればいいのです。全力で戦って負ければ…きっと諦めがつきますわ」

 

タオブレイカーをその手に、青娥は神子を見据えた。疲弊もあるが故、そもそも勝てるのだろうか。不安の中エイディングドライバーを用意する。そんな彼女の手から、聖がドライバーを取った。いつのまにか布都やら村紗やらの面々が揃っており、その様子をざわざわ見つめる。

 

「…君が行くのか?しかし……大丈夫なのか?」

 

「そうです。ここは豊聡耳さんに……私だって構いません!だから…」

 

「大丈夫です。一人ではないのですから」

 

そう言った聖は、僧の腕輪をつけた右腕に対し、左腕へと新たな腕輪を取り付けた。その様子を見て、神子と星は自分の腕につけっぱなしの腕輪へと気が行った。だが、聖は外さなくていいと言う。

 

「…みなさん一緒に。変身です」『南無三宝!』

 

「え?」「はい?」

 

「せーの!!」

 

「ちょっと、何する気だ!」「一緒に…一緒に!?」

 

戸惑う神子と星、そして何が起こるのだろうかと待ち構える少女たち。それに構わず、問答無用で聖はレバーを倒した。

 

「変身!!」

 

「…へぇ」

 

慌てる二人と首を傾げる青娥。訝しげにアズーロレイに変身し、向かって来る聖を見据えた。瞬間、彼女は光の塊となる。いや、星も神子もである。

 

「わわわわわ!!」

 

「なんだこれ!!」

 

そして三人が一つの光となり、人型を成したと同時にスーツが纏われる。白、黒、グレーが同じ割合のアンダースーツに、軽めの金のアーマーが目立つ。

 

『unite!夢とともに!光とともに!三条の希望!』

 

右腕の腕輪たちが外れ、首輪へ。そして完全に変身を終えるドグマ。三形態のどれとも似ない顔が特徴的である。赤く煌く右目、紫のバイザーがかかる左目。仮面ライダードグマ 南無三宝術である。

 

「…えっ?」

 

「こ…コレは……」

 

「急なことでごめんなさいね」

 

直後、三人は真っ白な空間の中でちゃぶ台に座っていた。わたわたとする星と神子に対し、聖は余裕そうな態度で微笑む。よく分からないまま、聖は行きますよ、と続けた。

 

「…行きましょう、青娥さん」

 

「その声は…聖さんですのね」

 

「それだけではありませんよ」

 

ドグマが静かに頷いたかと思えば、紫だったバイザーが水色へと変わった。かと思えば、とたんにキョロキョロし始める。そして薄くため息をつき、青娥を見据えた。

 

「…なるほど、そう言うことか。三人力、と。今は私が体を動かしているのか」

 

「今度は豊聡耳様?…では、やはり寅丸さんも」

 

「そうらしいですよ」

 

バイザーを緑に煌めかせながら、ドグマは言った。ようやく事態が飲み込めたようである。そしてようやく構え、両者駆け出した。

 

「でやぁっ!!」

 

両腕の「クロー・ザ・トラマル」を展開し、連続で攻撃を叩き込んでいく。それを光剣で受け止めながら、アズーロレイは下がっていく。

 

「はっ!」

 

「…!?」

 

そんな時、アズーロレイは軽い呪術でドグマの動きを止める。だがバイザーが水色へと変わった途端、動きを再開する。魂側に影響を与える呪術故だ。

 

「食らえっ!」

 

「…っ」

 

神子は自身の七星剣と肩にマウントされたソード・ザ・トヨサトミミの二刀流でアズーロレイを追い詰めていく。負けじと斬りかかった光剣に跳ね飛ばされるソードだが、腕からバルカンを放って対処。ソードの回収の前に、聖へとバトンタッチした。

 

「…せわしないな結構。あ、コレ食べていいかい?」

 

「構いませんよ」

 

ちゃぶ台にはお茶とせんべいと3つのモニターが置かれている。自分が体を操っているときは目を瞑るので、聖は瞑想のような状態に。アズーロレイに殴りかかる様子をモニターで眺めながら、神子はせんべいをバリバリと食べた。

 

「せいやっ!!」

 

ドグマは連続で殴りかかり、アズーロレイとぶつかっていく。だが格闘も苦手ではない。両者ぶつかった拳に、アズーロレイがほんの少し押されるだけだ。その状況の中で、サイドバックからナックル・ザ・ヒジリを取り、両手に握った。

 

「ぜやっ!」

 

「うっ…ぐぅ……」

 

打って変わり、一気に吹き飛ばされる。その勢いの中で、アズーロレイのマスクが割れた。青娥は笑っていた。清々しいほどに。目の前で巻物を外し、再装填するドグマをにっこり見つめていた。怪我は大丈夫かと近寄ろうとする芳香をいいわと止め、今一度構える。

 

『南無三宝!』

 

「行きますよ、技名はコレです」

 

ちゃぶ台空間で、聖は必殺技の名前を二人に書いてみせる。そしてドグマが跳ね上がり、両足を向けてアズーロレイへと進んだ。対してアズーロレイも、タオブレイカーを持って拳を繰り出す。

 

『アズーロレイ…tu,turning-breaking!』

 

「はあああああああああ!!」

 

「「「リリジャストライデント!!」」」

 

両足キックと拳がぶつかり、爆発。炎の中に立ち上がるドグマは、スーツの砕けていく青娥を眺め、うなずいた。バイザーのいろは水色だ。

 

「終わりのようですね」

 

「どうやら」

 

変身を解き、三人に分離。神子が青娥へと手を差し伸べ、立ち上がらせる。だがどうやら結構足に来ているらしく、バランスを崩してしまう。その肩を支えたのは、星だった。

 

「…ごめんなさい」

 

「いいえ、私こそ」

 

「頻繁に道を間違えるからね、青娥殿は。我らがあなたを正すとしましょう」

 

「頼みましたわ、豊聡耳様」

 

日光とセミの声の中、青娥は笑った。

 

「あー!!やっぱここに居たか!!この前はよっくも…!!」

 

「なんかいい感じの空気なってんじゃねぇぞお前!!終わりました顔してんなタコ!!」

 

がやがや騒ぎながら石段を登ってきたのは魔理沙とクラウンピースである。そう、月食の日青娥にひどい目に遭わされた二人だ。嫌がる青娥の腕を掴み。ずるずる引っ張っていく。

 

「ちょっと、離してくださいまし!!豊聡耳様!聖さん!」

 

「罪は償うものですよ〜」

 

「頑張ってくださいねー」

 

微笑んで見送る聖、呑気に手を振って見送る星、ニヤニヤ見送る神子。青娥は諦め気味引きずられていった。その様子を眺め、屠自古は笑顔を浮かべていた。

 

Continued on next episodes.




「自分の…意志ねぇ」

目覚めよアリス、心に従って!!

次回、「人形革命 〜 人の形と生けし少女」


みなさんこんにちは。最近またコスプレがしたいサードニクスです。1ヶ月以上…たいっへん申し訳ないです。ほんとにお待たせしました…。プロットはできてたんですけどね、他にも色々やってたので。
というか芳香と華扇が出るのに会わないっていうね…。二人の話は多分シーズン2でする。シーズン2ではもっと青娥を活かしたいところ。単純な悪役になっちゃわないのがポイント。しかしまあ、未遂とはいえ星にも色々やらせちゃいましたね。今回はギチギチでこうなりましたが、お咎めに当たる話もしたいところ。というか言ってない気がしましたが、青娥は夫を蘇らせようとしてました。見てりゃわかるか。
で、今回は中間強化の初登場でしたね。ドグマだけにクローズアップしてたので、どうでもいい人にはわりとどうでもいい話です。
南無三宝術ですが、言うまでもなくジオウトリニティです。とりあえず細かい仕様はライダー例を見てくれればと思います。
さて、今回でとりあえず変身ポーズコーナーは最終回!他のライダーはポーズ決めてないので。ラストはアルナブです!!

バーサークドライバーカードを入れ、スイッチを押してコードを音声入力!!
そして左手に持ち、ウィンクして右手で投げキッスからの人差し指でバーン!
「変身!」
そして円盤回してシークエンス完了です。かわいいですね。

また遅れるかもしれませんが…そのときはお許しを。ではまた!!
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