私は『アナ』。本当はアナスタシアなんだけど、この子が私をアナって呼ぶの。
この子は私と始めて友達になってくれたヒト。お父さんは私のことを愛していたけど、私だけへの愛情じゃないんだ。仕方ないよね。お父さんはいっぱい娘がいるもん。
私は『マリア』。このお爺さんの娘。この人は私の新しいお父さん。本当は、マリアって人間の女の子が居たんだって。でも、今はいない。
だからそのこと同じブロンドの私マリアって呼ぶんだ。
僕は『ニコラ』。女の子みたいな顔だけど、男の子なんだ。彼がそう言ったから、そうだよね。
僕は彼と、そして彼の友達と寮ってところで暮らしているんだ。いつもお留守番だけど、他にも熊さんとかが居るから退屈はしないな。
私は『鈴子』。本当は海外生まれなんだけど、この子の妹だから、今は日本人の名前なの。素敵でしょう?
でも、この子はだんだん私のことを見なくなった。…もう、私は要らないのかな?
…いや、どれも違う。全部思い違いだ。
私は、今は『メディスン』。この子がそういう名前をくれた。多分、私のお母さん。ここは、幻想郷って場所らしい。すごく綺麗な場所なんだぁ。でも、この子はいつも咳き込んでる。大丈夫かな?
「先月で、21歳だったかしら?」
「…はい」
真昼の人里は活気がある。しかしこの稗田家においては例外で、全員が暗い顔をして静かに暮らしている。
「そう、…歓迎ならするわ。いつもみたいにね。
普段は能天気な西行寺幽々子でさえ、ここではあまり楽しそうな様子ではない。淡々と目の前の女性と会話を広げていた。
対し女性、稗田阿弥も苦笑いとも取れる薄い笑顔で答えるのであった。
「今まで歓迎されたことも残念ながら覚えてはないんですけどね」
「ふふふ、そういえばそうね。…昨日、うちの庭師が息子の40歳の誕生日だったのよ。人の年齢なら8歳くらい?」
「それはそれは…」
世間話さえ淡々としていて、どこか寂しげなもの。
それが阿弥に関することというのは、想像に難くない話であった。
「…やっぱり、怖いの?」
「…………また生まれ変わった時、ここに居た人の事も、ここでの日々も、全く覚えてないんだって!それが……それが怖くて!ねぇ、メディスン…私…」
阿弥は袴をくしゃくしゃに握り、側の人形へ話しかけた。人形は依然薄く笑顔を浮かべ、音一つ立てなかった。
「メディスンって、名付けたのね。そのお人形さん」
「……かわいい、ですよね」
幽々子は露骨に話をそらし、人形へと目を向けた。対し阿弥は涙を無理矢理押さえつけた空元気の笑顔で応えた。幽々子はただただ痛ましくその笑顔へと頷きを返すのであった。
「………死ぬ前に、色々見たいです。この幻想郷の自然を、目に焼き付けたいんです」
「…護衛を頼みなさい。人里によく出入りする藤原妹紅っていう子がいるわ。その子は妖術が使えるのよ」
「分かりました。ありがとうございます」
「そんで、私に頼んだったわけね」
「はい。お願い、できますか?」
「稗田乙女の願いとあっちゃあ断れんな。いいよ、どこ行く?」
翌日、阿弥は一人妹紅の元へ訪ねていた。護衛の依頼に対し、妹紅は快諾で返す。
「えっと、山、とかですかね?」
「ん、分かった。絶対離れるなよ?」
そう言って立ち上がると、阿弥を招いて歩き始めた。
そのまま人里を抜け、襲いかかった妖怪を軽く蹴散らして妖怪の山へと向かった。
「はぁ、はぁ、けっこう、急ですね」
「うん、まあ、山だしね」
しかし運動にはあまり慣れない阿弥は、少し登るのでも苦労である。だが降りようかという妹紅の提案には、決して首を縦には振らなかった。
「絶対目に焼き付けて…次の一生でも忘れないようにするんです!」
「そんなら仕方ないな」
そう言って歩き出したその瞬間、黒い服を着た男たちが二人を取り囲んだ。妹紅は阿弥を庇い、守る姿勢をとった。
「稗田阿弥で間違いない。押えろ!」
黒服の一人の放った言葉に応え、男たちが飛びかかる。しかし妹紅の火をまとった拳を叩きつけられ、焼けながら悶え苦しむのであった。
「妖術か…ならば!」
その様子を見て、男の一人がト字管を取り出し、そこに魔力を込めて放った。
「あぶねっ!」
妹紅はそれを避けると、一気に男に接近してアッパーをぶつけた。そしてト字管を奪い取って粉々に握りつぶし、その砕けたガラスを男に叩きつけた。
「うぐっ!」
「予想外だ…ただの女だと思ったが…仕方ない」
残る一人の男もト字管を取り出したかと思うと、中にお札を丸めて詰め込み、自分に向けて発射した。
「何ですって…!?」
「聞いたことあるぞ……こういう術…確か冥界の……鎧を召喚する。桜刀とか言ったか」
阿弥が驚くのも無理はない話だ。なにせ男の身にはプロテクターが一瞬で装備されたからだ。
「でやっ!……いでっ!硬いぞ…鎧か?」
妹紅のキックを受け、男は若干苦しむが、気絶はしなかった。そして改めて妹紅へト字管を向けた。
「無駄だねっ!」
確かに魔力弾は妹紅の心臓を貫いた。しかし、意味などない。胸に小さな風穴を開けたまま、男へ頭突きをぶっかました。
「おごっ」
今度こそ男が気絶したのを確かめ、あたりで転がる男たちを脱がせて縛り付けた。
「妖怪には食われないようにっと…」
そして木には天狗の言葉で『殺すな。人里に連れて行け』と刻み込んだ。
「阿弥、大丈夫か?それにその人形さんも」
「ええ、メディスンって呼んであげて下さい」
「うん、よろしくねメディスン」
そう言って人形の頭をグリグリと撫でると、前へ向き直って山の頂上へと向かった。
「あれま。どうなさったんです?」
そんな中、風を巻き起こしつつ文が現れた。その手にはメモとペンを持ち、取材する気満々で詰め寄った。
「ひっ」
対し阿弥は妖怪にほぼ会うことがないのもあり、メディスンを守るような姿勢で妹紅の後ろへ隠れた。
「む、心外ですなあ。別にあなたを攫おうってわけじゃあないんですよ」
「妖怪ってだけで怖がる対象なんだよ。で、なんだ。何を聞きにきた」
「単純!稗田乙女が何故ここにいるかですよ」
文のその一言に頷くと、妹紅は阿弥へと視線を送った。しかし阿弥はプルプルと震えつつかぶりを振るだけ。妹紅は呆れ気味に笑うと、文へ答えを返した。
「観光だよ観光。今一度幻想郷の絶景を目に焼き付けるとさ」
「なぁーるほど?…しかしそんなに震えることないじゃないですか。同じアヤなんですから。まあ、次に会うときあなたはアクかアキュウになってるかもしれませんが」
それに対し、阿弥は薄っすらと笑顔を浮かべつつも、表情を暗くした。それを見た文はなんと言えばいいか分からない様子で頭をかいた。
「まあとにかく…。怪我しないでくださいね。その人形も大事になさってくださいね。妖怪になっちゃいますから」
それだけ言い残し、文はそそくさと去っていった。その背を眺めながら、二人はあと少しの頂上へと向かっていった。
「わぁ…」
しばらくして、妹紅は立ち止まって後ろを見やるように言った。秋めくその美しき木々を見て、阿弥はただただ小さな歓声を漏らすのみであった。
「美しいでしょ。…改めて来ると、いいねここ」
「ええ、本当に…」
しばらく、10分ほど居ただろうか。頂上での風景を堪能したのち、次の目的地に向かうべく来た方向とは反対へ下山を始めた。
「気分乗って来たよ!次は玄武の沢だ!」
楽しげに降りる妹紅の後につき、木漏れ日を浴びながらまっすぐと進んでいった。
「あ、お供えしときましょうよ」
そんな中、神秘的な雰囲気を湛えた大蝦蟇の池へと出た。葉に照らされた金色の光が散ったその空間に、阿弥は圧倒されつつ、祠へと供え物の餅を置いた。
「軽いものですが…」
阿弥と同時に妹紅も祠へと手を合わせ、無事を祈り、先へと進んだ。
「やぁー!」
「ちょっ!音消してかけるのはずるいでしょ!」
「透明化してた奴が何を言うー!」
「頑張れ二人ともー」
そして玄武の沢へと出れば何やら騒がしい。見れば、川で三月精が水遊びをしていた。サニーとルナがごちゃごちゃ言い合いながら水を掛け合うのをスターがニコニコ眺める、いつもの光景である。
「いつもここで遊んでるの?」
「ええ、楽しいですよ」
阿弥の問いに、スターは変わらずニコニコと返した。思わずメディスンを抱えたままその横に座り込んで観戦を始めた。妹紅もスターを挟む形で座り、適当に応援など始めるのであった。
「はぁー、はぁー」
「やっぱルナは鈍臭いねえ」
「なんだとぉ!」
「勝負あったね」
スターの一言に対し、ルナはずぶ濡れのまま悔しげに肩を落とした。対しサニーはこれまたずぶ濡れで岩の上に立ち、勝ち誇ったポーズ。その時初めて、座っていた阿弥を認識した。
「あ〜、えっと、なんだっけ。この前侵にゅ…お邪魔しようしようとしたお家のお嬢さんだよ」
「ん?じゃあこの人が稗田阿弥?」
「うん、よろしくね。妖精さん」
阿弥の差し出した手に三人は続けて握手をすると、それぞれ名前の紹介を始めた。
「私はサニーミルク。負けたのがルナチャイルド。で、観戦してたのがスターサファイア」
「私は…。知ってるみたいだけど一応言うと、稗田阿弥。よろしくね。この子はメディスン」
「藤原妹紅。よろしく」
そうして挨拶を終えたのち、三月精達は日光の向きを見てそそくさと去っていった。
「予定でもあったのかな?」
「妖精さんも忙しいんですね。もう少し沢沿いに歩いてみましょうか」
阿弥のその提案に妹紅は頷き、ゆっくりと降りるようなルートへと変えた。
「なんか、広いとこですね」
すると出たのは崖の上であった。玄武岩の柱状節理を見ればわかるように、変わらず玄武の沢エリアなのだが、どうも崖底が広い。不思議な地形だと眺めていたその時。
「俺たちのアジトに勝手に入るなよ」
やれやれとでも言いたげな呆れ気味な態度で、河童の男は二人へ話しかけた。咄嗟に妹紅は阿弥をかばうような姿勢を取り、会話を始めた。
「別にあんたらの邪魔はしないさ。この子はもう先が長くなくてね。…最後に幻想郷を目に焼き付けたいんだとさ」
「そういう事なら…まあいいだろう」
意外にもあっさりとした許可で二人とも拍子抜けした。しかし阿弥の表情はそれ以上の驚愕に染まった。
「あなたは……み、みとりちゃんは!」
同時に駆け出し、男へと詰め寄った。男の目は驚きと焦りに包まれたが、その表情はすぐに暗いものになり、後ろを向いて「知らないね」と言い放った。
「……そうですか」
しかし阿弥にはこれ以上詰め寄って聞けるような気がしなくて、去っていく男の背をただ見つめていた。
「パパ〜!みんなっ……わたしが人間の子だっていじめるの……!」
そんな男へ、泣きながら赤髪の小さな女の子が駆け寄ったのを尻目に、二人は河童のアジトを旋回して降りていった。
「…人妖って、どう生きるべきなんでしょうか」
「その手本みたいな人が居るところに今から行くんだよ」
そう言って木をかき分けて進んだ先には、一面の花畑が広がっていた。春夏秋冬関係ない花々が咲き乱れるその景色に心を奪われつつ、花を踏まないようにゆっくり前に進んでる。
「見なよ。あんなとこでお茶してる奴がいる」
「ああ見えて凶悪妖怪だった気がします。風見幽香ですね」
「ふーん」
優雅に紅茶をすする幽香を横目に眺めながら、太陽の畑を進んだ。ひまわりのそばにコスモスが舞うのはやはり異様で、どう言うことだと妹紅は疑問を抱いた。
「しかしこいつはどう言うことだ?今は秋だよね?」
「60年周期で生命が活性化してこうなるんですよ」
「ほえー」
そんなことを語りながら、二人は魔法の森へと進んだ。先ほどまでの美しき自然はどこへやら、薄暗く空気も淀んだむしろ不気味な魅力さえこもる風景へと変わった。
「これ、一応口に巻いとくといいよ」
それを気遣い、妹紅はハンカチを阿弥へと渡し、もう一つの布を自身の口に巻いた。
「ここだ、店主いるかー?」
そして進んだ先に、ゴチャっとした小さな建物が現れた。やけに瘴気というか妖気的な物も漂っており、咳き込みそうな雰囲気であった。
しかしその『香霖堂』は名前だけは聞いたことがあったので、特に警戒のようなものはなかった。
「ああ、君か。どうしたんだい、急に」
「いや、深い目的はないさ。こういう
中では霖之助が何やら不思議な紙を鑑定していた。
妹紅はそれを覗き込む形で近づいた。
「紙幣…か?」
「でも西暦2014年なんだよね。未来のお金かなあ」
虫眼鏡での鑑定を終え、額縁に入れて飾った。非売品にするつもりなのだ。そういうところが商売に向かないポイントなのだが。
「そういえばその子。僕が売った人形じゃないか。君、もしかて稗田阿弥かい?」
「え、ええ、そうです」
「君のとこの召使いが買いに来たんだ。阿弥様へプレゼントって。大事にしてくれてるようで何よりだよ」
霖之助の言葉に意外な様子で頷き、メディスンを改めて抱きしめた。
「器用なんですね…」
「ん?いやぁ、僕の人形じゃあないさ。外の世界から流れ着いた子だよ。背中にブカレスト製って刻印されてる」
「ぶく…レ?」
「ルーマニアって国の都市さ。そこでどうも作られたっぽいんだよね」
そんな具合に他愛ない話を続け、昼過ぎになった頃、二人は香霖堂を去った。
「外の世界から流れ着いた…のか。なら外の世界に縁のあるとこに行こうか」
妹紅の提案についていき、森を抜けた。そこに広がったのは一面の彼岸花とまっすぐ続いた道。鳥の鳴き声だけが響き、妹紅が黙り、阿弥が息を飲んだそこは、まさに『静』の一文字で表現するのがふさわしいものであった。
「すごい…」
ただその一言を漏らすと、噛みしめるようなゆっくりとした歩みで一歩一歩進んでいった。
「キレーな風景だよね」
妹紅はそんなことを言うと、再び黙り、静かに歩き出した。
「…これも、もう見れないんですね」
そんなことが思われ、突然阿弥の目に波が溢れた。歩く速度をゆっくりと落とし、ギュッとメディスンを抱きしめ、その涙をこぼした。
「いやだ…死にたくない!まだ死にたくない!もっとみんなと居たい!もっとここに居たい!先に行きたくない!いやだ!いやだ!」
抑えていた何が爆発し、ついには膝をついて、声を上げて泣き始めた。死を躊躇わせる。それが再思の道なのだ。
「…もう一度、忘れてからこの風景を楽しめるって思いなよ」
妹紅のその言葉を涙と一緒に飲み込み、道の先へトボトボと向かった。
「ん、こんなところに人間とは。珍しいね」
進んだ先の行き止まり、無縁塚では小町が岩に座ってサボタージュ中であった。二人に目を向け、驚きと心配の混ざった表情で見つめた。
「妖怪でもないってのに、ここにいて大丈夫かい?」
「私が妖術を使うのさ。死神こそ、なんでここに」
「あたいにゃ小野塚小町ってな立派なお名前があるんだ。これからはそれで呼んでくれると嬉しいね。…あたいはまぁ、休憩中さ」
それに対し二人は静かに頷き、静かにその彼岸花たちを眺めていた。
「あんた、もしかして死を躊躇った人間かい?」
「…」
「でも、そんならそんな暗い顔しないか。…あれ?あんたの魂どっかで見たこと……あ、稗田の人間かい。…そうか。怖いんだね?」
「…はい」
それに対しどうしたものかと小町は息を吐いた。諦めて死んじゃえとは口が裂けても言えないし、とは言え生きる道があるわけでもない。何と言おうか。
「本当にやりたいことに従うべき…だよ」
当たり障りのないことしか言えず、何とも歯がゆい気分であった。それを受け、阿弥は何とも言えないような顔だった。
「満月、すごいわね」
「ええ、そうですね」
翌日の夜。薄暗い空を見つめて寝込む阿弥の元には、紫が見舞いに来ていた。
「…今日、なのかしら?」
紫のその問いに、阿弥は静かに「かもしれない」と呟いた。それを受け、紫はちょっとだけ寂しげに苦笑いを浮かべた。
「げほっ……私は……」
そんな中、阿弥はゆっくりと起き上がり、メディスンを強く抱きしめた。
「私は………私…は………!!」
「どうしたのよ、急に…。落ち着いて阿弥」
「私は……この美しい幻想郷に……身を捧げたいって、そう思います」
歯ぎしりを鳴らしながらさらに強くメディスンを抱きしめ、着せられた服を涙で染めた。
「自然への埋葬をお望みね?」
「はい。…この自然に、還りたいんです」
涙をためた目に月を写しながら、そんなことを呟いた。それを受け、紫は何とも言えない顔であった。
「…あなたのお葬式は盛大に行われるはずよ。人里の稗田家の墓地に……」
「それなら……!!」
突如顔色を変え、立ち上がった。その目には涙こそ湛えているが、眼光に覚悟を秘めていた。そして何を思ったかメディスンを抱きしめて夜の森へと駆け出した。
「待ちなさい…とは言えないわね」
紫は追おうと立ち上がるものの、再び座り直し、駆け出していくその背を見つめるだけであった。
「私は…私は……美しい自然に…!」
訳もわからず、とにかく自然として消えたい。だからどこでもいいし、妖怪に食われたって構わないと、走る場所に意味などなかった。
「…ここは」
そうして体力が尽き、無明の丘でぶっ倒れた。鈴蘭を照らす月光は狂気的なゴールドを放っていて、これの下で消滅できるならいいかとむしろすがすがしい笑顔であった。
「素敵ね、メディもそう思わなくて?」
ぼうっと、そのまま意識を投げ出そうとしたとき。
「見つけたぞ…!稗田阿弥だ!」
男達の声が耳に突っ込む。まさかと思って立ってみれば、先程のような四人の黒服の男が迫っていた。
「やめてっ!」
「捕らえろ!殺すな!」
「やだっ…やだっ……!」
その腕を乱暴に掴み上げられるが、余力を振り絞って抵抗し、男が落としたナイフを拾い上げた。
「こ、来ないでっ!」
「くっ…最悪稗田の魂を入手できればそれで良い!」
一人の男がそう言うと、お札とナイフを取り出し、腰を抜かした阿弥に詰め寄った。
「いやああああああ!」
自然の中で死にたかった。あのまま月の下で消えたかった。それなのに、なぜ。
阿弥は絶叫し、目をつぶった。
「な!?」
次に聞こえたのは、ナイフが自分に刺さる音ではなく、男達の驚愕の声だった。
「守……ル…………」
「声!?…まさか…妖怪化したのか!?」
ゆっくりと、身を引きずるような動作でメディスンは立ち上がった。男達が驚愕し、ト字管を向ける。
「始末しろーーっ!」
声の合図に合わせ、妖力弾がメディスンの体へと刺さった。
「やったぞ!」
「ア……ヤ…」
しかし倒れるどころか体にはむしろ妖力が溢れていた。その上、月光の魔力と鈴蘭の魔力。…そして阿弥の思いが重なる。
「消エ……ロッ!」
その体に、血管を刻み込むようにビキビキと赤いラインが通い、じわじわとその体が変化を始めた。
「拘束弾だ!」
対し男の一人はト字管にお札を詰め込み、メディスンへ発射した。それはメディスンにヒットした瞬間に拘束具を召喚し、森の中で男がやったように、メディスンの体にフィットした。
「無駄……よ……!」
しかしその拘束具の間接部の留め金や布が壊れ、完全に動ける姿へとなった。むしろ鎧として効果をなしてしまい、魔力による肉体変化も相まって、異形と呼ぶにふさわしい姿へと変わった。
だが、その背の守ると言う決意は、未来に生まれる『仮面ライダーメディス』という戦士のものに違いなかった。
「アヤには…触らせない……!!」
逃げようと背を向けた男の肩を掴み、歩くのを阻んだ。同時に男は溶けていき、黒服を残して消滅した。
「ヒッ……や、やめろ」
腰を抜かして、ト字管から魔力を放ちまくる男へ迫り、肘を男のアゴへぶつけた。同じく溶けていき、服とト字管を残した。
「て、撤退する!」
いつしか一人だけになり、背を向けて逃げ出した。メディスは冷静にト字管を拾い上げ、その腿を撃ち抜いた。
「逃がさない…わよ…」
「うっ、うわああああああ!!」
銃のけがをかばいつつ跪いて怯える男へ、メディスは手を振り上げた。
「ライダー……スラップ!」
そして頰へと手のひらを思いっきり叩きつけた。男は絶叫をあげる間も無く溶け落ちて消滅した。
同時に雲が月を隠し、メディスンの変身は解け、拘束具も壊れて地に落ちた。
「終わっ……」
そのままメディスンも地に倒れ伏し、ただの人形へと戻っていた。
「ありがとう…メディ」
目の前に眠る、うっすらと笑った人形へとそんな感謝を述べ、今度こそ阿弥は意識を手放した。
「生前の希望でもって、この無明の丘にての埋葬を執り行う。始めるわ」
紫のその一言に、阿弥の召使い達は
「今までありがとう、稗田阿弥。次は、稗田阿求として会おう」
召使い達に続き、紫は静かに手を合わせた。そしてゆっくりと振り向くと、帰るように言い、無明の丘を後にした。
「この幻想を見て、あなたはどう生きるのかしらねぇ?……いつか、妖怪になる日を待つわよ。メディスン」
前言撤回しよう。八雲紫はメディスンに気づいていた。にやぁっと口を歪め、振り向きざまにそう言い放ち、歩みを止めることなく人里へ向かった。
私は『メディスン・メランコリー』
捨てられた、人形。守ったあの子はいつのまにか姿を消した。いつのまにか私の目の前から消えた。……捨てられたんだろう、私は。
「死ぬって、なんだろう」
ふと、口から疑問が溢れた。死というものをなんとなく理解し始めた私は、なんとなく自分の行動指針に疑問を抱き始めていた。
「…居なくなることだね。現世から」
「居なくなる…」
私の独り言に、妹紅が答えた。その答えを繰り返し、改めて理解しようと噛み砕いてみる。
ーー無理だ。分からない。それでもゆっくりと言葉を紡いでみた。
「置いていかれた物って、捨てられたのかな?」
「…死ぬだけじゃ、絆は切れないよ。死んでも大事に思ってれば、その心がそばにいるんだって、私は思うよ」
その答えに、何か光明が見えた。この訳の分からない気分が、スッと晴れた訳じゃあないけど、どうにか晴らせるかもしれない糸口を見つけた気がして、地霊殿のベッドで一人考え事を続けるのであった。
フォーム名:仮面ライダープロトメディス
概要:まだ人形だった頃のメディスンが打ち込まれた魔力、鈴蘭の魔力、満月の魔力、持ち主の想いの四つが呼応して動き出し、変身した姿。つけられた拘束具をむしろアーマーにしている。見た目は一言で言うとアナザーメディス。怪物っぽさと封印されてる感が不気味なデザイン。ただアナザーライダーとかよりは機械的な印象も目立ち、毒々しくもかっこいい。奇跡の変身なので完全には再現できない。しかし財団Xは逃げ帰った男が持ち帰ったこれのデータを元にメディスを作ったので、探せばFAZE0のカプセルがあるかもしれない。
武装:
「ト字管」
財団Xの職員が魔術の放出に使っていた武器。魔力を通して放つ以上の効果はない。
変身アイテム:なし。
変身シークエンス:なし。
必殺技:
「ライダースラップ」
平手打ち。相手へ直に毒を叩きつける凶悪な技。
というわけでメディス外伝。過去編ならもう出せるかなと思って書きました。次は第13話ですね。
タイトルもとは
分かるかと思いますが、時期は地霊殿にいる頃ならいつでもOK。
しかしアレだね。こんなにも主役の出番がない外伝も珍しいね。物足りなさあったら言ってね。何かしらでもっとメディ活躍させるから。
ちなみに阿弥は、背と髪が伸びたあっきゅんを想像すれば大体合ってます。
ちなみに地霊殿、とあるので、8〜12話のどこかで想像してくだされば。