2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~   作:イリーム

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16話 メイドの護衛 その3

 

 パーティ当日……ノイモントの屋敷の入り口には何台もの馬車が訪れていた。国境線の街シェルブールは大きな街ではないので、馬車が何台も通る事案などノイモントの屋敷関連以外にはない。

 

 馬車から次々と降りてくる者達。子爵や伯爵の家族……男爵までの面子が、屋敷の内部へと侵入してくる。

 

「今、ノイモントさんと話している人がエルディアン公国のザイル伯爵ですよ」

 

 メイドと執事に扮して、入り口で列に紛れている信也とファリス。大食堂の前で二人は話していた。ザイル伯爵は小太りの中年といった印象が強い。

 

通り過ぎる時に周囲のメイドやファリスにも獲物を見るような視線を送っていた。本日は誰をメインディッシュにしようか考えているのか。

 

 第一印象はかなり悪い相手だ。そして、それに続くかのように細身の長身の男が信也達の前を通り過ぎる。ファリスからはランパード子爵であることを聞かされた。

 

「おい……どいつもこいつも、印象悪すぎないか?」

 

 

 金持ちの気品漂う者達は全員、メイドを持ち帰ることしか考えていないような目つきをしていた。実際にそれを考えているのだろう。護衛として集まっている者達も同じような印象だ。

 

 パーティには似つかわしくない連中……旅人が纏うような服を着た者達も何人も馬車から下りてきたのだ。エルディアン公国の冒険者、といったところか。当然、向こうも道中の猛獣を討伐する必要もあるのだろう。そういった者が護衛として入ってきてもおかしくはない。

 

「手を後ろに回せ」

「ぬう……!?」

「な、なんだ……!?」

 

 信也は小声で言霊を発射。視界に映る冒険者と思しき者のほぼ全てが両手を後ろに回すと言う奇怪な行動を取った。ただ一人を除いて。

 

「この効き目、ほとんどが雑魚だな」

「先輩の能力って便利ですね」

 

 その光景を見ていたファリスは改めて信也の言霊の力に感心させられていた。ある程度の雰囲気で、大したことはないと思っていたが、それが確信に変わったのだ。警戒すべき相手は一人……冒険者の中でも一際、色黒の男。青い髪を立てた状態で固めた髪型をしている。

 

「ば、バラハムさん……俺たちの腕、どうなって……?」

「いいから、進めよ」

 

 バラハムと呼ばれた色黒の男は信也達に一瞬だけ視線を合わせた。そして、全てを理解したかのように大きな笑みを浮かべる。そのまま大食堂へと消えて行った。

 

 

 

「本日はようこそお集まりいただきました。このような国境線の街でのささやかな催し物ということで、真に恐縮ではございますが、ごゆっくりとお楽しみください」

 

 

 

 ノイモントのテンプレ通りと言えばいいのか、そんな挨拶により、パーティは開始された。それぞれ白いテーブルには肉類や根菜類、麺類などといった物が並べられており、バイキング形式となっていた。

 

「意外に庶民的だな。ビジネスホテルの朝食とか夕食みたいだ」

 

 信也は泊まったこともない駅前のホテルを想像しながら、パーティに出されている食べ物と掛け合わせていた。そして、辺りを警戒する。

 

「先輩、先輩。おいしいですよ、これ」

「なんでお前が食べてるんだ……」

 

 串焼きのようなものをお皿いっぱいに取った状態で、ファリスは信也の前に現れた。愛くるしい態度ではあるが、肩の力が抜ける。

 

「まあまあ。どうせ無料ですし。食べないと損ですって」

「せこい……」

「経済的ですよ」

 

 ファリスは本気で護衛の任務を忘れているのではないかと考えてしまう信也。もちろん、そんなことはなく、あくまでも振りだ。ファリスは串焼きを食べながらも周囲の微妙な変化に常に気を配っていた。

 

「これ、敵の数が多過ぎないか?」

「ですね……多分、ノイモントさんやマイエラさんも予想外だと思いますよ」

 

 ザイル伯爵とランパード子爵。それらの親族と思われる連中だけではない。旅の服装に身を包んだ冒険者と思しき連中まで居るのだ。こちらの護衛を気にしての行動ではないだろうが、予想外の事態が早くも訪れた。

 

「メイドの数と同等くらいの客人の数だ……これだと、俺たちだけでは護衛は難しいぞ」

「いや、信也先輩の技があれば行けるんじゃないですか?」

 

 ファリスは串焼きをおいしそうに頬張りながら人任せなことを言う。確かに言霊の力を使えば、数の問題はクリアできる。しかし

 

「あの男がきになるんだが……」

 

 信也は壁に持たれて、特に食事なども行わない色黒の男に目を向ける。冒険者の中のリーダーと思しきバラハムと呼ばれていた男だ。先ほども自分の命令に唯一かからなかった。現在は立った状態で目を瞑っている。

 

「う~ん、それほど力は感じられないですけどね~」

「俺の言霊が通らなかったから、少なくとも、力を隠しているのは確定だな。ランキングで言えば20位以内には入りそうだ」

「え~? それだとかなり強いですよ?」

 

 ファリスの態度からもバルトシアン王国の20位のランカーと言うのは世間一般と比較して相当に強いことが伺える。世界で20番目ということでもないが、隣国に軽々しく存在するレベルではないのだろう。

 

「とにかく、あんまりあの男の前で、自分の能力を出したくはないな」

 

 信也はバラハムという男を相当に警戒していた。自分の情報をあまり漏らすべきではない……本能がそのように告げている。

 

「でも、それだと……まあ、やるだけやってみましょう」

「おう」

 

 こうして、信也とファリスはある意味臨戦態勢へと移行した。周囲を可能な限り観察し、メイド達の動きを把握、喘いでいるメイドの前に参上するといった計画だ。話だけを聞くと非常にエロい雰囲気がある。

 

 

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「ランパード殿、お呼びいただいて感謝いたします」

 

 長身の闘牛士のような格好をした男が、ランパード子爵に挨拶を交わす。赤い服と真っ白なパンツが清潔感を持たせている。

 

「ああ、ジーノ男爵か。礼には及ばないよ。ノイモント殿のご厚意があるからこそ、私も呼ばれたのだからね」

 

 ランパードはそう言いながら遠くに居るノイモントを見ていた。ここまでであれば、二人は非常に好青年に映る。周りのメイド達も見惚れるほどに。

 

「さて、本日はだれから行きましょうかな」

「新しい子がいいね。何人かいるようだよ、尻肉の感度を押さえてくるといい」

「よろしいのですか? では遠慮なく……ああ、あの茶色い髪の娘はいいですな。とてもいい」

 

 ジーノ男爵の見つめる先には、明るめの茶髪の少女が立っていた。肩にかかる程度の髪の長さを有しており、右側と左側でそれぞれ長さが違う。ミニスカートのメイド服を着て、美しい太ももを呈している。皿にはいくつもの串焼きが入っていた。

 

「なかなか食いしん坊な子のようだね。まあいいが……男爵」

「ええ、とえもそそるボディですな。かなりのスタイルとお見受けします」

 

 その少女はジーノ男爵の標的にされてしまった。

 

「君、君」

「は、はい? 私でしょうか?」

「ああ、その通りだ。少し聞きたいことがあるんだが、構わないか?」

「はい、なんでしょう?」

 

 そう言って、男爵は部屋の隅へその少女を連れ出す。連れ込んだ場所は端のテーブルの奥。ここならば、人目にも付きにくい。

 

「あの~なんでしょう?」

 

 やはり新人か。ここまで来ても自分がなにをされるかわかっていない。初心な子供といったところか。おそらく男性経験もないのだろう。

 

「なに、今夜は少し大人になれる日だと思ってね」

「え?」

 

 ジーノ男爵は甘いマスクの下に隠した狡猾な本性を現す。2枚目のセクハラ程、性質の悪いものはない。彼は以前もノイモントの屋敷で何人ものメイドをその手にかけているのだ。そして、今回は初心な少女が最初の毒牙にかけられる。男爵は慣れた手つきで彼女の顎を持った。そして、もう一つの手でスカートの中に手を入れる。

 

「……ん?」

 

 ジーノ男爵は違和感を覚えた……スカートの中は固い……いや、非常に冷たいのだ。何が起きている?

 

「早く手を出さないと大変ですよ?」

「はっ……! う、うわ……手が……!」

 

 大食堂の端で聞こえた小さなうめき声。気に掛ける者は誰も居ない。ジーノ男爵の指は凍傷のように凍ってしまっていたのだ。スカートの中に手を入れられたファリスは予め下着の周囲に氷を張り巡らしていた。

 

「あ、それくらいなら壊死はしなさそうですね? 早く解凍すればですけど」

「ひ、ひい……!」

「これから、セクハラをするときは注意してくださいね? 同意のない行為は全てこうなりますのでっ」

 

 ジーノ男爵は未だに自分の身に何が起こったのわからないでいる。だが、彼の脳裏には強烈な恐怖が植え付けられた。実態の把握できない恐怖ほど、恐ろしいものはない。その意味ではファリスの行いは完璧に近いものだった。男爵を殴りつけたわけではないのだから。

 

「ううう……!」

 

 ジーノ男爵はすぐに走り出し、パーティ会場から出て行った。戻って来たとしても、セクハラをする度胸はなくなっているだろう。ファリスは何事もなかったかのように、串焼きに手を付ける。

 

「ファリス……お前って本当に怖いわ」

「ふふふ、先輩も気を付けてくださいね? あ、でも先輩なら、行為の後に腹パンチくらいで許してあげます」

「氷漬けは許してくれるのな。つまりはファリスの尻は触れるわけか」

 

 

 後の腹パンチで許されるのなら試してみたくなる信也。しかし、とても冷たい視線のファリスを前にそれ以上考えることはやめた。

 

 こうして、護衛の任務が始まったのだ。

 

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