2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~   作:イリーム

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18話 組織「メタリカ」 その1

 

 

「あかん、おもったよりも大きな組織やで」

 

 両腕を後ろに縛られたシルビアはザイル伯爵を始め、数人の人物の態度を観察していた。自らの背後を取っている白いフードの2人組は隙を見せる様子がない。

 

「無駄口は叩かないように願います」

「あなた様は既に、顧客に提示しております。その場所にて競りにかけられますので」

 

 不味い……シルビアは思った。弓の装備がないこの現状で、背後の2人を倒しての脱出は不可能だ。人身売買を生業としているのか……しかし、目の前のノイモントの現状はそれだけでは到底説明が付かなかった。

 

 

「マイエラさん!」

 

 信也は叫びながら、すぐにマイエラの下へと急行した。バラハムは動く様子を見せていないのが幸いだ。

 

「ぐおおおおお!」

「マイエラさんを離せ!」

 

 信也の強い怒気にも似た言霊による命令。化け物のような外見に変わっていたノイモントに効果を示したのか、彼はゆっくりと手を彼女の身体から引き抜いた。まだ残っている人間の意志がそうさせたのかもしれないが……マイエラを抱きかかえる信也。

 

 医者ではない彼の目から見ても明らかに致命傷だ。

 

「みなを……助けて、くださ……い……」

 

 最後の願いにも似た言葉……彼女は口から吐血を繰り返し、そのまま動かなくなった。18年の人生で、リアルな死を見たのは初めてだ。これほどまでにあっけなく終わる……そして、おそろしい程に冷静な自分にも恐怖を感じていた。

 

 だが、今はその強さに感謝する。信也はすぐにその場を離れて、マイエラの遺体を部屋の隅に移動させた。

 

「メイドや執事の人は、大食堂から出ろ! 今すぐに!」

 

 あまりの恐怖に声さえ上げられなくなっている者が多数存在した。本来であれば、逃げ遅れた者達の為に、大食堂のメイドたちも助からない状況だ。信也は言霊の力を発動させ、強制的に彼女らを大食堂の外へと走らせた。

 

「良い使い道だ。この能力は相当に使えるぞ」

 

「くそ、俺たちも逃げねぇと! こんなこと聞いてねぇよ!」

 

 バラハムの部下と思しき連中は一目散に大食堂の入り口を目指した。だが、氷の弾幕が彼らを一斉に襲う。

 

「ぎゃあああ!」

 

 容赦のないファリスの氷魔法だ。雹の雨あられは冒険者たちの全てを呑みこむように命中し、彼らをその場で気絶させた。

 

「つららの形にはしませんでした。感謝してくださいねっ」

 

 笑顔で倒れた冒険者に話すファリス。しかし、彼女の言葉を聞いた者は誰もいない。

 

 一気に大食堂の中は静かになった。残っている人物もかなり少なくなっているからだ。

 

「ザイル伯爵! これは一体どういうことですか!?」

「ああ、ランパード子爵。話すのを忘れていたのは謝ろう。私は、とある組織のメンバーになっているのだよ。もはや、小さく稼ぐことには飽きてきてね。大きく稼ぐことを優先することにした」

 

 ランパード子爵は信じられないといったような表情になっている。彼の親族たちも近くには居たが、彼らも同じような表情だ。

 

 

 

「まさか……エルディアン公国の組織「メタリカ」。あのメンバーに……」

「まあ、その辺りは想像にお任せするよ」

 

 もはやザイル伯爵は勝ち誇っている。ファリスの魔法を見た後でもその態度は変わらない。

 

「バラハム殿、そろそろ引き上げましょうか」

「ん? そうするか」

 

 ザイルはランパードには興味を失くしたのか、それ以上視線を合わせることはなかった。

 

「……お前も、その組織のメンバーか?」

「……いい能力を持ってるな。大事にしろよ」

 

 バラハムは信也の問いかけには答えずに笑みを浮かべていた。

 

「バラハム殿は魔族だ。我々と同盟を結んでいてね」

「……魔族……やっぱりか」

 

 既にわかっていたことだがザイルの口から確信の言葉を聞いた。信也とファリスの警戒心が強くなる。

 

「さてさて、私はもう行くと致します。エルフの女を手に入れただけでも十分な収穫ですので。さてさて、これほど美しい素体。いくらの値が付くか楽しみですな」

 

 ザイルはバラハムに話しているようだ。拘束しているシルビアを舐めまわすように観察している。

 

「信也、ごめんな……捕まってもうたわ……私の弓とかは回収しといて」

「おい……何言ってんだお前……? すぐに解放してやるよ!」

「うん、期待してるで」

 

 信也の熱に反して、シルビアの言葉は力がない。この場での解放は難しいと悟っているようだ。信也は彼女を助けるべく、すぐに言霊の力を解放した……しかし、

 

 

 彼が言葉を発するよりも早く、バラハムは動き出した。信也も横目でそれに気付く。咄嗟の防御態勢はバラハムの強烈な打撃を防御し、反撃に転じることができるはずだった。

 

「ぐわっ!」

 

 ガードの上からでも響く、重い感覚……信也は後方の壁へと吹き飛ばされてしまった。

 

「信也先輩!」

 

 すぐにファリスがつらら状の氷を作り出し、バラハムへ向けて射出した。その攻撃もバラハムはバックステップで華麗に躱す。信也とは一旦距離が離れた形になった。

 

「お前たちはバルトシアン王国のランカーだな? 明らかに実力が違う」

 

 信也とファリスの能力から、王国ランカーであることをバラハムは見抜いていた。パーティ中も観察をしていた可能性は高い。

 

「危険な連中だな。よし、ここでの用件は済んだ。ノイモントは狂創薬の実験でも役立たずで終わったが……まあ、エルフの獲得は大収穫だ」

「……信也、ファリス……!」

 

 シルビアは後ろの白いフードの2人組に連れられて、ステージの裏へと連れて行かれた。そのままザイルも去って行く。

 

「さて、俺はどうするか……ああ、そこの伯爵とメイドの女はしっかり埋葬してやれよ」

 

 ザイル達が去ったことを確認した後、バラハムは伯爵たちに目を向けて言った。

そして、その後は大食堂の窓ガラスを打ち破り、闇夜に消えて行った。

 

 

「信也先輩……! 大丈夫ですか!?」

「ああ、大丈夫だ……それより、シルビアが……!」

 

 信也はガードしていただけあり、ダメージ自体は負っていない。シルビアを心配する彼ではあるが、無情にも1台の馬車の音が遠くに走り去って行く音が聞こえてきた……ザイル達を乗せた馬車で間違いないだろう。

 

「マイエラさんと、ノイモントさんも……」

 

 ファリスはマイエラの亡骸を見た。そして、ノイモントに至っては薬の影響か、蒼いモンスターのような外見に変貌している。だが、とっくに息絶えているようだ。そのまま動くことはなかった。

 

 知り合って時間が経過しているわけではないファリスではあるが、なんとも言えない感情が込み上げてくる。今回の依頼……不穏な予感はしていたが、予想以上に敵の規模が大きい。一部しかわからなかったが、それは信也とファリスにも強く感じられた。

 

「とにかく、屋敷の他のメイド達は無事なはずだ。ランパード子爵からも話を聞くか」

 

 放心状態になっているランパード子爵。その家族と思しき者たちも同様だ。シルビアのことはかなり気がかりではあるが、今は考えても仕方ない。どこに連れて行かれたのか、そういったことも含めて、情報を纏める必要がある。

 

 先の見えない不安とはこういうことを言うのか? 信也は現在、何をしていいのかわからない状況に陥っていた。ファリスも同じだ。

 

「あ、あの……ファリス様?」

「えっ? 私ですか?」

 

 大食堂の扉から一人のメイドが姿を現した。相当に脅えているが、ファリスの名前を呼んでいる。

 

「今……ファリス様のことを知っている方が、来てます……」

「へ? 私のことを……?」

 

 こんな辺境の街に知り合いなど居ない。ファリスは一瞬戸惑ってしまう。

 

「あんたさ、もう少し明るい顔しなさいよ。明るさがあんたの取り柄でしょ」

「!」

 

 

 

 聞き覚えのある声に、ファリスは一気に曇っていた表情が掻き消える。

 

「一足遅かったようですね。遅れてしまい、申し訳ありません」

「ドロシーさん……ネプトさんも……!」

 

 おかっぱ頭に細い目をした男と車椅子の女剣士……ネプトとドロシーの二人が大食堂に入ってきたのだ。

 

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