2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~   作:イリーム

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21話 シルビア救出作戦 その2

 

 

「あそこに見えるのがガイアの街になります」

 

 国境線の門を信也たちは超えていた。ガイアの街を指差しで案内するのはエルディアン公国の兵士だ。国境線の門とは名ばかりの粗末な関所といった雰囲気を醸し出していたが、その印象は、事前にバルトシアン王国領内の魔族対策用の立派な砦を見ているということも大きい。

 

「あそこに見える街並み。西洋風っていうか……アラビアの国みたいな街並みだな」

「アラビア? 信也先輩の国なんですか?」

「ちょっと違うけど。シェルブールも辺境だけに、王都にくらべたら粗末だったけどガイアもなかなか粗末だな」

 

 信也は改めてガイアの街を遠目に観察をした。砂漠というほどではないが、荒野に立つ石造りの建物の街並みだ。門を超えたエルディアン公国の敷地そのものが荒野になっている印象もある。

 

「バルトシアン王国に比べれば経済的にも栄えてはいない国だね。まあいい、行くとしようか」

 

 ネプトは先陣を切るように信也たちを促す。ドロシーも含め、彼の言葉に皆は頷き、ガイアの街を目指すことになった。御者が危険になることも考え、ここからは徒歩だ。

 

 

 

 

 

「街に入ってからだが、とりあえず裏の店を探すところから始まりそうだね」

「ですよね、それなりの規模の街に見えますし」

 

 ネプトとファリスはガイアの街を目指して歩きながら、街の規模を考えていた。人口で言えば5万人以上は滞在がありそうな街だ。決して大きくはないが、一晩で散策するには巨大かもしれない。

 

「まあ、しらみつぶしに調べるよりは、関係者から強制的に聞くのが確実だろうね」

「しかし、そんなに都合良く関係者が見つかるか?」

 

 信也にとってはネプトの考えは相当に楽観的に映ったようだ。ネプトも信也の考えていることが理解できたのか頷いている。

 

「ああ、わかっているさ。関係者は既に配置についているようだからね」

「そういうことか」

 

 気づくのがネプトよりも一瞬遅れた信也であった。そのことについて、特に悔しい気持ちはなかったが、ネプトの能力の高さを垣間見たような感覚に襲われた。

 

 信也たちの周囲からは明らかに常人ではない雰囲気の者たちが現れたのだ。人相で言えばやくざ者と言って差し支えない。しかしながら、そこら辺のごろつきという雰囲気でもない。もっと洗練された者たちだ。

 

「メタリカの構成員といったところかな。かなりの雰囲気を持っている印象だね。さて、どうしようか」

「私が行くわ」

 

 前に出たのは車椅子のドロシーだ。どうやら先陣を切るつもりらしい。相手は数十人に上る。普通であれば危険極まりない行為になるだろう。しかし、ネプトは特に止めることはなかった。

 

「なら、私は高見の見物と行こうかな。ああ、ピンチになればすぐに加勢するから安心していいよ」

「なるわけないでしょ」

 

 

 ネプトはドロシーの言葉を予想していたのか、笑いながら後ろへと下がった。ファリスもネプトに続くように後方へと下がる。信也の目から見ても、敵は決して弱い連中とは思えない。しかし、ドロシー1人に任せるということは、それだけ彼女の力を信頼しているということだろう。

 

「俺もやらせてもらうぜ」

 

 信也はネプトたちとは逆にドロシーの位置に立った。彼女のことを信頼していないわけではないが、ノイモントの屋敷ではちょっとした力比べの話もあったので、その関係上前に出ないわけにもいかないという考えからだ。

 

 信也の予想通り、ドロシーは怪訝な表情を見せていた。

 

「鬱陶しいんだけど……邪魔だから、後ろに行っててくれない?」

「怪我人に任せるのは趣味じゃないんでな。ドロシーこそ、後ろに行ってていいぜ」

「あんたって、テオの奴に負けず劣らずウザいわね。まあいいわ、すぐに共闘したことを後悔させてあげる」

 

 数十人の敵を前にしてもドロシーは全く引かない。さらに信也に対してもこの態度だ。信也としても感心させられた。だが、彼も引くわけにはいかない。

 

「こっちのセリフだっての。じゃあ、行くとするかね」

 

 信也が前方を見た瞬間、待ち伏せしていた者たちは一斉に攻撃を開始した。手に持つ剣での攻撃だ、その速度はかなりのものになる。

 

「さて、どの程度かしらね」

 

 しかし、ドロシーにとってみれば大した速度には映らなかったようだ。彼女は車椅子を高速で前方へと動かし始めた。彼女は普段は手で動かしているが、この時は自動的に車椅子は加速をしたのだ。その速度は敵のそれを軽く凌駕している。

 

「すげぇ、魔法の力か?」

 

 信也も加速した意味合いはわかっていない。しかし、魔法の力が関係していることはすぐに理解できた。彼女は車椅子のサイドにある剣を2本装備した状態で、素早く移動し、剣を相手に向けて振り下ろした。

 

「ぎゃあ!」

「ぐわっ!」

 

 数人の相手がドロシーに向かっていた。しかし、彼女は手に持つ剣で高速で敵を切り刻んで行く。相手の攻撃などなかったかのような速度だ。

 

「どれくらいかと思ったけど……大した連中じゃないわね」

 

 さらに数人の敵を切り裂き、相手の戦力を把握していくドロシー。その表情はどこかやる気のないものに変わっていった。

 

「早い……」

 

 信也はドロシーの動きを見て、改めて感心させられていた。敵は決して弱いわけではない。もちろんプライマルビーストなどと比較すれば大したレベルではないが、一般市民の動きと比較すれば天と地であることはドロシーを狙う動きからも明白であった。

 

「ネプトとファリスがあっさり後方で待機するわけだ」

 

 信也はある種、ドロシーの華麗な動きに魅せられていた。車椅子とはいえ、相当な美人であるドロシー。そんな美少女の戦いを見て、おもしろくないはすがない。そして、その動きは車椅子というハンデを物ともしないものであり、手に持っている物以外の剣も、適宜投げ出し、敵を葬って行った。

 

 合計で6本車椅子には剣があったが、新しく剣は作り出せないのか、6本をフル活用した後は、手に持っている剣だけで敵を葬って行った。

 

 そうこうしている間にも、敵の数は減っていく。そして、信也の前にも何人かの相手が迫っていた。彼はこの状況を新たな言霊の力の試験と捉えたようだ。

 

「まあ正当防衛ってことで……死ね!」

 

 視界内に入る敵に対しての無慈悲な言葉。信也よりもレベルの低い彼らは一斉に首筋を切り飛ばし始めた。驚くほどに異様な光景が広がった。それを見ていたネプトやドロシーの表情も変わる。

 

「死なすことも可能か……少し、気を付けたほうがいいかな」

 

 実験台になった者たちはそれぞれ頸動脈を切り裂き、絶叫と共に血しぶきを噴出させた。信也の前には10名ほどの死体の山が出来上がった。彼としても特に罪の意識はない。うまく敵を倒せたということと、検証ができたことへの達成感があるだけだ。

 

「……」

 

 その状況を見ていたドロシーは自分に迫ってきていた最後の一人を殺害し、信也の姿を凝視していた。殺した人数で言えば彼女が上回っていたが、瞬間的に殺した速度は信也の方が早いと言える。そのことをドロシーも感じ取ったのか、無言で彼を見つめていた。

 

「素晴らしい。ドロシーは相変わらずですが、信也くんも大したものだ。」

 

 数名を残して全滅させた状態、ネプトが前へと出てきた。敵側は既に戦意を喪失している。軽く拍手をしながら、彼は話し出した。

 

「信也くんは言霊の力ですかね……すばらしい能力をお持ちのようで」

「いや……」

 

 ネプトの屈託のない誉め言葉に、信也は思わず恐縮してしまった。ドロシーは特になにも言わないが、信也の近くまで来ていた。彼を見つめているのは変わらない。

 

「ドロシーは相変わらず強いね。その身体であれだけの動きは正直驚きだよ」

「そういうお世辞はどうでもいいわよ」

 

 ネプトの言葉に対して、ドロシーは全く嬉しい表情は見せなかった。

 

「ドロシーさん、さすがですよね。その近接戦闘の力……尊敬します」

「……ありがと」

 

 ファリスの言葉はまんざらでもないのか、素直に礼を言うドロシー。信也としても微笑ましく感じる瞬間であった。

 

「で、俺はどうなんだよ?」

「はあ? あんたなんか興味ないけど……まあ、足手まといにならないくらいの戦力はあるようね。私の前であれだけ啖呵を切ったんだから、足手まといになるレベルなら笑いものだったけど」

 

 とてつもなく上から目線の言葉が返ってきた。信也としても予想はしていたが、車椅子にも関わらず、この態度のデカさはさすがといった印象を感じていた。

 

 しかし、彼女はそれだけの実力を有している。それは先ほどの動きからも容易に感じ取ることが出来た。ドロシーは信也が思っている以上に強者だ。

 

「さて、ほとんどが死んでしまいましたが、いい感じに数人残ったようで安心しました」

「ひいっ! ま、待ってくれ……!」

 

 さすがに勝つこと、逃げることが不可能であると悟ったのか、残った敵は完全に白旗を上げていた。

 

「素直に返答すれば良し。逆らうなら……どんな手段を持ってしても話していただきます」

 

 ネプトの不気味な笑みにメタリカのメンバーと思われる者たちは、首を縦に振るしかなかった。信也も、その時のネプトの表情には恐怖を覚えていた。彼はドロシーとは別の意味で強者であり危険な人物……信也の中にはそんな印象が巡っていた。

 

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