2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~   作:イリーム

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24話 戦い その1

 

 

 彼らの攻撃は瞬時に行われた。

 

 

 会場内に響く爆音。ザイル伯爵はすぐに事態を察知する。影すら見えない者たちによる襲撃だ。見かけに寄らず、戦場を体験しているザイル伯爵は状況を把握する能力に長けていた。ただの成金としてのし上がった他の権力者たちとは違う、彼には能力が備わっている。

 

 だが、戦闘能力は一般人レベルでもある。ザイル伯爵はその点の穴埋めを魔族と結託することで補填したのだ。

 

「ザイル伯爵。3人の影を確認しました。王国ランカーに間違いないでしょう」

「そうか、ではあなた方の仕事になりますな」

「ええ、あなたはサキエル様に報告を。ここからは、私たちが始末いたしますわ」

 

 白いローブの双子の魔族がザイル伯爵と会話をしている。すでに、爆発の原因が信也たちであることはわかっている口ぶりだ。シルビアの監視や捕縛を行っていたアリスとレリスの二人は客席へと乗り出した。その場所にはザイル伯爵やシルビアたちが残されたことになる。

 

「どないするんや? あの魔族の兵隊は居なくなったで。あんただけで、私を攫うんか?」

「いいや、手を縛られているとはいえ、王国ランカーを私一人で捕らえるなどできんよ。ここは退散させていただこう。かなりの損失になるが、まあ仕方ないだろう」

 

 小太りのザイル伯爵は競り自体が失敗に終わったにも関わらず冷静だ。

 

「しかし、勿体ない。出来れば、お前は奴隷として買いたかったが……仕方がない」

「薄気味悪い奴やね、あんたは……」

 

 ザイル伯爵の奇妙な雰囲気にはシルビアといえども冷や汗をかかざるを得なかった。同じく戦闘力がそれに比例していないことは明白でもあった。それこそ、彼女の蹴り一撃でノックアウトしてしまうだろう。

 

 そんな一触即発の中を、ザイル伯爵は歩き出し、舞台の奥へと消えて行った。攻撃を行わなかったのは念のためだ。ザイル伯爵が何らかの策を講じていた場合に、拘束されたシルビアでは対処できない可能性があった。

 

「まあ、ええわ。それにしても信也たちナイスやで! やっぱり来てくれたんやな!」

 

 シルビアは事態を整理するために、一旦、ザイル伯爵のことは忘れる。観客席に鳴り響く爆音は現在も轟いており、会場全体を破壊する規模にはなっていない。無駄な死人を出さない為の配慮だろう。競りにやってきた客たちはほとんどが驚きながら、会場から姿を消し始めていた。

 

 シルビアは、残りの4人の少女に声をかける。突然の爆音に腰を抜かしていた為だ。

 

「心配せんでも大丈夫やで。ウチの仲間が来てくれたんや。安心していいよ」

「た、助かるの……? わたしたち……」

「当たり前やん、絶対助けたるからな」

 

 シルビアは後ろ手に縛られながらも笑顔で彼女たちを気遣った。少女たちからすれば、一生奴隷として買われる人生に現れた、わずかな光明と言えるだろう。次の瞬間には溢れるほどの涙をこぼしていた。

 

「相当に怖かったんやな。ゲスい奴らやホンマに……!」

 

 シルビアは泣いている少女たちの様子を見て、競りに来ていた男たちを激しく嫌悪していた。己の欲望の為だけに、他人の人生を終わらせる。シルビアからすれば吐き気以外の何物でもない行為だ。彼女の表情は真剣なものへと変わっていた。

 

 

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「さて、攪乱の爆破はこんなものかな」

 

 オピニオンボム……ネプトが名付けた自らの技名だ。彼は魔力により、専用の球状の機械を作り出すことができる。その球そのものが爆弾となっており、空中を疾走させ好きなタイミングでの爆破も可能にしているのだ。

 

 

 

 

「ネプトさんの技、すごいですね~。観客の人を傷つけずに爆発させるなんて。しかもあれだけの数を」

「自在に爆破できる上に、操作も思いのままか」

 

 ファリスと信也は、平然とやってのけたネプトを見た。10個以上のオピニオンボムを作り出し、時間差で爆破を引き起こしたのだ。まるで客席の下に予め設置されていた爆弾が爆発したかのように。

 予想通り、観客はパニック状態となった。すぐに逃げ出す者たちも居た。

 

 そして、その後は信也の仕事だ。目に見える範囲の人間は言霊の力で強制的に外へと出したのだ。すぐには逃げ出さない者もいたので、そちらの方が被害が少なくなると考えてのことだ。

 

「さすがに3位ともなると、使う技も強力なんだな」

「いやいや、このくらいは大したことはないよ。君はアンジェリカ・ブルーローズの技は見たことがないのかな?」

「いや、あるよ。まあ、あれと比べるのは……」

「そういうことさ。上には上が居る。私程度ではまだまだだよ」

 

 3位の実力を誇っているネプトだが、自らの力を決して過信したりはしない。アンジェリカはネプトでも届かない存在だ。その彼女が居る限り、彼は自らの力が強いとは言わないのかもしれない。

 

「でもでも、あの人たち逃がしてよかったんですか? ザイル伯爵たち」

「いいんじゃないかな。シルビアはどうやら解放されたみたいだし。今回は彼女が戻るだけでも良しとしよう」

「魔族の襲撃を返り討ちにできたらだけどな」

 

 

 そして、彼ら3人の前に現れる者たちの姿。信也はすぐに察知していたが、ファリスとネプトも気づいていた。

 

「よう、これ程すぐに再会するとは思ってなかったぜ」

「お前には殴り飛ばされた借りがあったな。ここで晴らしてやるよ」

 

 信也の前に現れたのは色黒の男、バラハムだ。好戦的な魔族であり、信也の挑発を聞いて口を大きく開いて見せた。喜んでいるようだ。

 

 さらにネプトとファリスの前に現れるのはアリスとレリスの二人の魔族の女性。お互いの表情も戦闘態勢へと変化していた。

 

 

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 その頃、競り会場の外ではドロシーの手に寄って、多くの人間があの世へと送られていた。車椅子の人間に簡単にやられていく黒服の男たち。ドロシーは2本の剣を構えた状態ではあるが、表情はあきれ顔になっている。

 

「もう少し、マシな男居ないの? 弱すぎない?」

 

 彼女はこれではただの弱い者いじめと感じているのか、やる気をなくしているといった感情を持っていた。

 

「馬鹿な……脚を使えない人間に……! これが、王国ランカーか?」

 

 黒服の一人、マルコは腕からの出血を抑えながら彼女に驚愕していた。致命傷は受けていないが、避けられたのは自分が転んだからだ。とても反応できる速度ではなかった。

 

 魔力により高機動を維持できる車椅子。それでいて旋回なども自由自在だ。ブレーキは自らの剣で強引に止めるという荒っぽい手法ではあるが、ドロシーの実力からすれば容易に行える範囲だった。

 

「どけ、マルコ。俺が始末してやる」

「……タイラー」

 

 彼の後ろから現れたのは2丁の拳銃を手にしたタイラーだ。殺す気満々といった表情になっていた。

 

「……マシなのが来たかと思ったけど、別に変りなさそうね」

「てめぇ、俺に言ってやがんのか? すぐに嘗め腐った態度を崩してやるよ」

「へえ、楽しみね」

 

 タイラーはすぐには拳銃は抜かない。音速を超える速度で発射することができる特別性の銃身。撃鉄を起こせば、勝負は決まるのは明白だ。彼女の動きを見ていたタイラーはそれを確信していた。車椅子の機動力は確かにここに居る人間が反応できない程に速かったが、音速とは比べるまでもなく遅い。

 

 魔力による一瞬の予備動作が必要なことを考慮すると、とても避けることなどできない。そして、彼女の剣の振りもタイラーは遠目に見ていたのだ。恐ろしく素早い攻撃ではあるが、やはりこちらも音速に届いているとは言い難い。これが彼の答えであった。

 

「そういや、お前……どこまで動かねぇんだ? 下半身全部か?」

「……?」

 

 突然の質問。これは攪乱の意味も込めてはいたが、タイラーの本音でもある。ドロシーの顔を見て好みの美しさだったのだ。ドロシーもすぐに質問の意味を理解する。

 

「大丈夫よ、私が動かないのは両脚共の膝から下だけ。太ももから上は無事だから」

「そうかよ、それ聞いて安心したぜ。無事に帰れると思うなよ」

「下等な生物ね、あんたって。勝ってから言いなさいよ」

 

 タイラーは次の瞬間には2丁拳銃を放っていた。既に勝ちは確定の勝負だ、その後のドロシーの処遇をタイラーは考えていたに過ぎない。上玉の彼女をいただくべく、殺すことは考えていなかった。彼が狙ったのは両肩……両腕を上がらないようにして、反撃の可能性を失くしたのだ。

 

 そして、音速以上で飛ぶ鉄の塊はドロシーの反応を許すことなく、彼女の両肩に命中した。勝負あり、彼女の肩に付いていた鎧も軽々と貫通し、彼女自身を鉄の塊は貫いたのだ。

 

「はっ、呆気ねぇ」

 

 タイラーは勝ち誇った表情になっていた。マルコを含む他の黒服の連中も同じ気持ちだ。確かに鉄製の鎧は破壊された。彼女の肩の部分はむき出しになっている。

 

 

 

 

「……舐めてんの?」

 

 だが、むき出しの肩からは出血が見られない。彼女は両腕に握った剣も落とすことなく悠然と言ってのけた。目の前で起きた出来事に、タイラーは今までの思い出を走馬灯のように思い返していた。そんな信じ難い光景が目の前で起きたのだ。

 

 

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