2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~ 作:イリーム
あり得ない……何が起きたのか? 自らの銃撃に対して全くの無傷。こんな経験は幾度となく拳銃を打ち込んだ経験のあるタイラーも初めてであった。
「お、お前は一体……」
「別に驚くことじゃないわね。あんたの常識外の防御を私が持ってたってだけよ」
ドロシーは平然と言ってのけるが、もちろん王国ランカーとは言え、全ての者が同じようにできるわけではない。ある意味で、ドロシーが異常と言える。
「魔力によるガードを駆使したとしても、銃弾を防ぐなんざできるわけがねぇ! なにか別の防御をしてやがるな!」
「してないわよ。私はシンプルな剣士だし。ただ、ちょっとばかり強すぎるってだけ」
ちょっとばかり強すぎる。タイラーは彼女の言葉を心の中で何度も反復していた。音速を超える、通常の銃弾よりもはるかに強い銃撃すら弾く人間が存在する……王国ランカーの5位はそこまで強力な能力を有している存在だったのだ。
「言っておくけど、接近戦で私に勝てる奴なんてまず居ないから。ネプトでも無理よ」
ドロシーが発した圧倒的な自信。ネプトは能力的には遠距離タイプに該当する。ランキング3位とはいえ、彼女には接近戦で負けてしまうのだ。ドロシーの自称ではあるが、彼女は近接戦闘には絶対の自信を持っていた。自らが怪我人であることなど微塵も感じさせない態度であった。
「んじゃ、そろそろ決めるわ。あんたはセクハラ発言と合わせて死刑ね。まあ、殺されかけたわけだし」
「殺されかけた……?」
ある種、ギャグのようなやり取りだが、その言葉がタイラーの最後の発言となった。
冗談など言ったつもりはないドロシーは車椅子を加速させて、タイラーを切り裂く。そして、片方の剣でブレーキをかけ、彼の最期を見送った。タイラーは叫び声を上げる間もなくあの世へと葬られ、血を噴き出してその場に倒れていた。
「タイラー! くう……!」
「あんたはどうするの? 向かって来ないなら、命は勘弁してあげるけど」
タイラーの名を叫ぶマルコにドロシーは剣を突き立てた。彼女なりの最後の慈愛といったところか。
「いや……俺は負けを認める……可能なら、他の者たちも命は助けてやってくれ」
銃弾すら無傷のドロシー。マルコの手に持つナイフ程度では何もできないことは明白だった。負けを認めた上で彼は、他の者たちの身の安全も彼女に懇願した。
「別にいいわよ、私だって殺したいわけじゃないし。ま、あんたたちの人生は終わりだけどね」
「ああ、そうだろうな……」
バルトシアン王国の法律に照らし合わせれば確実に処刑か、終身刑だ。公国の法律でもそこまで変わらないと考えたドロシーはそのことをマルコに伝えた。周囲を見渡しても、生き残りの黒服たちは完全に戦意を喪失していた。
「これで、外の鎮圧は完了ね」
ドロシーは剣を収めながらそう言った。
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「お前も、俺の能力の実験台になってもらうぜ」
「は、威勢のいい餓鬼だな。俺に通用しなかったことを忘れたのか?」
バラハムの挑発の返答ともいうべき言葉が信也に返ってくる。戦闘態勢に入った二人は互いの動きを見ていた。バラハムは確かに強い……しかし、信也自身、言霊の力の実験になると考えていたのだ。理屈ではないなにかがそこにはあった。
「先手は行かせてもらうぜ」
その言葉とほぼ同時のバラハムの高速の動き。一瞬で信也との距離を詰めたバラハムは拳に付けたクローを信也に向けて振りぬいた。信也からしてみれば、不意打ちに近い一撃となる。
「!」
だが、その攻撃は空振りに終わった。信也は身をかがめて、バラハムの一撃を避けていたのだ。咄嗟にに距離を取るバラハム。
「ほう、以前の動きとは違うな。前は加減していたのか?」
少し汗を流しながらバラハムは信也に問いただした。信也自身も少し戸惑っている。
「そういうわけじゃないが……こっちに来て日が浅くてな」
「……はあ?」
バラハムは意味のわからない信也の言葉に首を捻った。当然、彼が異世界の住人などとは微塵も思っていない口ぶりだ。
「つまり、幾つかの戦いを経て、俺自身が慣れてきたってことだな。劇的に能力が増したとも感じないし」
信也はバラハムに回答する。上手く自分の能力を制御できるようになってきた。元々、こちらに飛ばされた直後から使えていた「言霊の力」。ランキング27位の男をいきなり倒したのは、信じられないことでもある。
「今ならお前にも効くかもな。死ねっ!!」
信也から放たれる怒気にも似た強烈な言霊。そこにはシルビアを攫ったことに対する怒りも少なからず含まれていた。その言霊はバラハムの身体に音速の速度で浴びせられた。
「がはっ!」
バラハムは吐血をし、その場で座り込む。しかし、致命傷ではない。
「殺すまでは至らないか。しかし、効果はあったな」
冷静にバラハムの身体状況を観察する信也。相手が魔族のバラハムであることは忘れているかのようだ。
「ば、馬鹿な……! 以前は効果を発揮しなかったはずだ……!」
「といっても殺せなかったな。今のは、音の玉による物理攻撃成分が強いと見るのが妥当か。いい実験になる」
そう言いながら、信也はメモ帳になにやら書き始めた。レポートでも書いているかのようだ。
「ふざけるなよ……! 今すぐ殺して……!」
「跪け」
「うぐぅ……!」
バラハムは完全ではないが、その場で強い重力に押されているかのように態勢を崩す。それに抗うことで精いっぱいになっていた。
「言霊の力……思っている以上に応用が効くな。完全に効かなくても、重圧に押されている間に殺すという手段も容易に取れる」
「ま、待て……!」
そして放たれる信也の無常な薙刀の一撃。そこにはわずかな躊躇いすらなかった。人を殺した経験などあるはすがない信也ではあるが、相手は魔族、さらに自分の大切な仲間を攫った人物となれば話は別だ。躊躇いなど起こるはずがない。
この感情は、この世界で生きていく上で非常に大切なものだ。彼は本能でそれがわかっていた。
バラハムの首は切り飛ばされ、地面に鈍く落ちていく。魔族とはいえ致命傷になったのか、その身体は2度と起き上がることはなかった。
「前から思ってたが……言霊の力での敵の行動の阻害、これが肝かな」
切り飛ばしたバラハムへの興味はなくなったのか、信也は自らの力についてメモ帳への記載を進めた。相手の行動の阻害は例え小さなものであっても、確実にこちらが優位になる。信也はそのことを自覚し、自らの能力の強さを改めて感じ取ったのだ。
さらに、慣れてきたことによる対象となる者の上昇。バラハムクラスであれば効果が現れるようになったということも強く感じとっていた。
そんな信也とバラハムの攻防を見ていたのはネプト達だ。
「凄い……こんな短期間で強くなってる……?」
「なるほど、信也くんは想像以上の戦闘力を持っているようだ。魔族の1人を簡単に倒すなんてね」
ファリスは驚きを通り越して、尊敬の念すら信也に覚えていた。ネプトは冷静ながらも目が見開いている。
「バラハムが……敗れた?」
「あの男は危険かも」
ファリスとネプトに相対する魔族の二人も信也たちの戦いに驚きを感じているようだった。