2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~   作:イリーム

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26話 戦い その3

 

 信也がバラハムを倒した傍らでは、アリスとレリスとの戦闘が行われていた。ファリスとネプトの二人はそれぞれ魔法での牽制を彼女らに仕掛けている。

 

 アリスとレリスの二人は左手に剣を携えてファリスのつららやオピニオンボムに対抗していた。どちらも近接戦闘がメインなのか、少し離れたところからのファリスとネプトには攻撃を仕掛けられないでいる。

 

「不味い、アリス。このままでは何時やられるかわからない!」

 

 双子の片割れであるレリスがつらら攻撃を捌きながら、近くに居るアリスに話しかける。

 

「くっ! たかが、人間如きに……!」

 

 アリスとレリスの二人は明らかに劣勢状態となっていた。彼女らに流れる汗の量からも、この場を逆転できる何かがあるようには見えない。そして、双子の魔族はそのまま後方へと大きく退いた。

 

「まだ続けるかい?」

 

 会場内はネプトとファリスの魔法の影響で、破壊の度合いが大きくなっている。ネプトはこれ以上の戦闘は、舞台上にいる少女達にも被害が及ぶことを懸念した。それに、既に勝負は決まっていることを察知するかのような視線も送っている。

 

「いいえ、ここは退散する以外の選択肢はないようです」

 

 アリスは礼儀正しくお辞儀をするかのような態度になっていた。肉体的なダメージを負っているわけではないが、ネプト達には勝てないと判断したのだろう。

 

「退散するなら追いはしないさ。他の魔族の仲間たちも連れて帰るといい」

 

 魔族はアリスやレリス、バラハムだけではない。人間と変わらぬ肌を持つ人ならざる者は会場内に幾人か存在していた。ネプトはその存在に気づいてはいたが、戦闘能力的に脅威にはならないと判断したのだ。

 

「あちらの男といい、あなたも相当に危険な人物ですね」

 

 アリスはネプトを見据えながら称賛の言葉を口にした。その言葉は信也にも掛かっている。

 

「ここは、ありがとうと言うべきところかな?」

「ええ、しかし我々を負かした程度で図に乗らないことですわ」

「……この借りは必ず返す。人間には死よりも重い制裁をする」

 

 アリス、レリス共に勝てない戦に苛立ちを覚えているようだった。表情は相当に強張っている。そして、そこまでで話は終わり、アリス達と周囲の幾人かの魔族はその場から素早く消えて行った。死体となったバラハムを除いて。

 

「やれやれ、魔族を仕留められたのは1人だけか。割りに合わないが、おそらくあの中の魔族の中では最も強い人物だっただろう」

 

 ネプトは信也の傍らに横たわるバラハムに目をやっていた。自らは倒せなかったことに多少の悔しさも籠っているのかもしれない。

 

 

「俺たちの勝ちだよな。なんとかなったか……」

 

 魔族が立ち去った会場内は思いの外静まりかえっていた。何人かの逃げ遅れた者たちも居るが、廃人同然になっている。信也たちは会場の外へ出した者たちも含め、この場でどうにかしようとは考えていなかった。

 

 信也の心情的には、彼らもシルビアを攫った者たちと何ら変わりはないが、目的を達成した現在は、そんな恨みは些細なものになっていた。

 

「信也!!」

 

 戦いが終わった後、勢いよく彼に抱き着いてきたのはシルビアだ。

 

「うわっ! し、シルビア……!」

 

 彼女はミニスカート姿で後ろ手に腕を縛られている為、ほとんど信也に突進した形になっていた。そんな彼女を彼は抱きかかえた。

 

「やばいって信也! メッチャ恰好良かったで! 惚れそうや!」

「お、おう……そ、そうか……?」

 

 屈託のないシルビアの言葉。彼女は端整な顔を少し赤らめていた為、余計に信也にとっては破壊力が大きかった。

 

「ファリスもネプトもありがとうな! もうメッチャ感謝やで!」

 

 続いて彼女はファリスとネプトにも心からの感謝の言葉を口にした。いくらランキング6位とはいえ、売られる直前だったのだ。恐怖がなかったはずはない。シルビアの態度にもそれは滲み出ていた。

 

「仲間なんですから、当然ですよっ」

「ああ、無事でなによりだよ。ドロシーも来ているからね、彼女にもお礼を言っておくといい」

 

 ファリスもネプトも彼女の無事を確認して安心しているようだ。どうやら、酷い目には合っていなかったと確信したのだろう。

 

 

「しかし、魔族には逃げられ、ザイル伯爵も逃げたみたいだな」

「そうだね。まあ、仕方ないさ。それに新たに得た情報の方が有意義と言えるよ」

 

 ネプトは考え込みながら、少しなにかをまとめているようだった。

 

「新たに得た情報ってなんですか?」

「ん? ああ、1つはステーデン達の弱みさ。ここで捕らえるつもりはないが、彼らの映像は私の魔導石に記録されている。色々と使えそうだよ」

 

 ネプトはそう言いながら怪しく微笑んだ。一瞬、彼の表情に汗を流す周囲。

 

 

 

「ネプトって、敵に回すと怖いタイプかね」

「そうですね、怖いです」

「あの、本人の前でそういうこと言わないでね……」

 

 半分冗談ではあるが、信也とファリスは各々思ったことを口にする。意外と繊細なネプトは少し落ち込んでいた。

 

「2つ目もあるんだろ? 新たな情報は」

「ああ、そうだね。こちらはあまり好ましいことではないが……」

 

 ネプトの言葉にある程度の察しが付いたのか、彼を見ていたシルビアの表情が変わった。

 

 

「魔族の連中は雑兵やからな」

「シルビアは知っていたのかい? 蒼い肌ではなかった、彼らは魔族の中でも低級のそれになるね」

 

 シルビアはネプトの言葉に頷く。以前にアリスとレリスから聞かされたからこそ、シルビアはわかっていたのだが、ネプトは違う。

 

「でも、ウチは直接聞かされただけやからな、ネプトは前から知ってたんか?」

「噂程度ではあるけどね。君の言葉と合わせて確信に変わったよ」

「え、え? どういうことでしょうか?」

 

 いまいち状況を呑み込めないファリスは戸惑いながら、彼らに聞き返していた。そんな彼女にも分かるようにネプトは語る。

 

 

「簡単に言えば、蒼い皮膚を持つ魔族が真の魔族で、それ以外は雑兵に過ぎないということさ」

「雑兵……」

 

 多少の誇張はあるかもしれないが、ネプトの表情は真剣であった。ファリスや信也も間近で魔族の動きを見た経験から容易に想像ができる。

 

 彼らが雑兵であった場合、その上の存在はどのくらい強くなるのか……。信也の頬からも一筋の汗が零れていた。バラハムも一度は自らの言霊の力が通用しなかったのだ。それが雑兵であったとしたら……。

 

「今回の戦いは非常に有意義だと思うよ。我々も相応の準備が必要だとわからせてくれた」

「そうやな、まあ今は先のこと考えても精神の無駄遣いやで。それより、この手錠外してくれへん?」

 

 そう言いながら、シルビアは後ろ手に縛られている手錠を信也の前に突き出した。

 

「よし、動くなよ」

 

 信也はそう言いながら、慎重に薙刀で手錠を破壊した。シルビアは久しぶりに自由になったことを喜んでか、大きく上体を反らした。

 

「あの子らの拘束も解いた方がいいか」

「そうやね。信也、もしかしたらお礼に抱かせてくれるかもしれへんで?」

「馬鹿言うなよ、俺はそんな趣味ねぇっての」

 

 さすがにこの状況でそんなことを考える信也ではない。シルビアも冗談だったのか、彼に笑顔を向けていた。

 

「一時はどうなるかと思ったが……一応これで、任務達成か」

 

 シルビアが攫われた時は、信也としても非常に焦っていた。彼女とも2度会えないのではないか……そんな予感さえよぎっていたのだ。

 

 そういう意味ではガイアの街までの追跡を思い立たせてくれたネプトとドロシーには感謝すべきなのだろう。信也の中にもそんな感情が芽生えていた。

 

「ネプト、助けてくれて本当に助かった」

「構わないさ、シルビアも無事で本当に良かったよ」

 

 信也からの素直な感謝を茶化すことなう受け入れるネプト。彼には見返りを求める態度は微塵も感じられなかった。おそらく本当に見返りは必要ないのだろう。それはドロシーも同じことではあるが。

 

 ネプトへの称賛と感謝、そして尊敬の念を強めた信也は、決して解決したわけではない戦いの余韻にしばらく浸っていた。

 

 彼の戦いはここから始まることになる。

 

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