2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~ 作:イリーム
王国が誇るイベントの1つである闘技大会。城内に設置された専用の闘技場で行われるその大会は毎月行われていた。目的としては観客を動員することによる活気や収益の確保などもあるが、王国ランカーの順位変動の参考値としての利用や、新たな強者を募るといった側面も持ち合わせていた。
そんなイベントに参加するべく歩く者たちが大勢列をなしていた。信也、ファリス、シルビアの3名もその列に紛れている。ただし、彼ら3人は闘技大会参加者ではなく観客の立場ではあるが。
「なかなか盛況ですね~。むぐむぐ」
周囲の観客の活気を感じながら、ファリスはリスのように食べ物を頬張っていた。
「お前って意外と大食いキャラなのな」
「魔法使うとカロリー消費するから、太らないんですよね。いっぱい食べても平気です」
そう言いながら、手には串カツなどの食べ物が残っている。闘技大会の日は、闘技場の周りでそういった食べ物が売られることは多い。
「先輩も食べます?」
「いや、遠慮しとく」
ファリスからの食べかけのお裾分け。普段なら、すぐに飛びつくところでがあるが、今回はシルビアが居る為にパスをしたのだ。
「あかんで信也? シルビアちゃん、大嫉妬やわ」
シルビアはそんなことを言いながら、信也の腕に体を預けて来る。
「お、おい……やめろよ」
「なんや嫌なん? やっぱりファリスの方が好きなん?」
信也はシルビアの言葉に回答し難い状況になっていた。あの戦闘から1週間が経過し、アークレイへと戻って来たのは数日前だ。それからシルビアは信也にすっかり懐いてしまっていた。恋愛感情かどうかはわからないが、ファリスをライバル視している節もある。
「うう、シルビアさんが相手だと私も分がわるいですよ」
「え~そうか? めっちゃスタイル良いやん、ファリスって」
シルビアはファリスの身体を凝視して改めて、その美しさを感じていた。黒いローブに身を包んだ魔導士の恰好ではあるが、腰の辺りまで開いたスリットはかなり大胆だ。胸や尻といった部分は相当に大きく、それでいて腰回りは大きくくびれている。今でも、周囲の観客の中にファリスのスタイルを拝んでいる者は多い。
「さすがのウチも敵わへんわ。信也もそう思うやろ?」
「答えにくい質問するなよ……。まあ、どっちもかなり美人だと思うけど、スタイルは数字で決まるからな。単純なバストサイズなんかはファリスの方が優れているんじゃないか?」
あくまでも見た目の話だ。だが、おそらく的を射ている。
「あ、ありがとうございます……」
ファリスは少し照れていたが、嬉しそうな顔になっていた。信也も少し前とは違い彼女を見る目が変わっている。最初はエッチな視線を送ることが多かったが、あの戦いを経て、仲間に対する目線へと変化していた。
「さ~てと、シルビアちゃんはここからが正念場やな。どうやったら、信也の興味を惹けるか……」
2人には聞こえない音量でなにやらシルビアは考え込んでいた。
そんな時、観客たちの間を縫うように一人の人物が信也たちの前を横切った。紫に近い髪をした男だ。肩くらいまでの長さをしており、男性としては長い髪になる。だぼだぼのスラックスを穿いており、サスペンダーを装備した半袖のシャツを着こんでいた。あまり戦士というような風貌ではないが、放たれる雰囲気は明らかに一般人のそれではない。
「今の奴って……」
「アオイドスさんですね。20位以内のランカーは確定していますけど、何位なのかはわかりません」
「あの雰囲気……近接戦闘の人間やろな」
シルビアもアオイドスの雰囲気は感じ取っているようだった。戦士系という雰囲気をその男は持っている。それも相当な強さを有した……。
「今、わかってない順位は2位と4位、8位と9位、10位だったか。俺が12位でレイチェルが15位になってるから、それ以外もわからないが、あいつは多分10位以内には入ってるだろうな」
現在、誰が属しているかわかっていない順位を信也は考えた。だが、アオイドスの雰囲気や放たれるオーラの強さから10位以内に入っていることは間違いない。彼はそんな結論も出していた。
そんな信也の考えにファリスやシルビアも頷いている。
「でしょうね。アオイドス・フォルビーさん。25歳だったと思います。もしも、ドロシーさんより強いなら、2位か4位の可能性もありそうですね」
「かなり強いんは明白やな。8~10位でもおかしくないけど……ウチは遠距離型やから、少し比べにくいけどな」
戦いを生業にする者は通常は遠距離型か近距離型に分かれている。身体能力は近距離型が有利だが、戦闘能力がどちらが高いかは個別に変わってくるので一概には言えない。アンジェリカのようなオールラウンダーは原則、それらよりも上の場合が多い。
「あの男は参加者か?」
「どうでしょうか? 今回はアンジェリカさんが出るので見に来ましたけど、アオイドスさんも出るなら、もっと観客増えそうですけど」
アオイドスは信也も少し見た程度だが、かなりの2枚目な雰囲気を持っていた。年齢も25歳と若い。信也からすればそれなりに歳上の人物ではあるが、彼目当てで闘技場に来る客の姿は容易に想像がついた。アイドルを見るイメージなのだろう。もちろんそれは、アンジェリカにも言えることだが。
「まあ、あの男も出るならそれは楽しみだけど……ん?」
そんなとき、信也は別の人物の存在に気付いた。あの顔は忘れもしない……以前に一触即発になった相手、テオ・マークレスだ。その隣には小さな子供の姿もある。
「テオ……」
不快な男。20位以内のランカーではあるが、その品位を確実に下げているとして注目且つ警戒されている男だ。隣に居る子供の存在が気になるが、弟だろうか? 信也は考えを巡らせる。しかし、次の瞬間にはその子供の顔に幾つかの痣があることに気付いた。
「……テオやん、あれ」
「なんだか、嫌な人に出会いましたね……」
ファリスとシルビアの二人も、テオの姿を見ると同時に不快な表情へと変わった。そして、テオもこちらの存在に気付いた。