2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~ 作:イリーム
闘技大会の入り口前にて、信也たちとテオは再会を果たしていた。信也たち3人はあからさまに嫌な顔になっている。無視を決め込みたいところではあるが、そうも言っていられない。
テオ自身も信也たちの存在に気付いていた。しばらく、彼はこちらを見ている。隣に立っている子供が困ったような表情をしていた。そして……
「あっ!」
テオは子供を蹴り飛ばす。勢いよく飛ばされた子供はそのまま地面に倒れこんでしまった。
「……あ、うわぁぁぁぁぁ……!」
痛みからなのか驚いたことからなのか、蹴とばされた子供は少し間を置いて大泣きを始めた。周囲も異様な雰囲気に戸惑いの声が漏れ始める。
「あんた! いきなり、何すんねんや!」
真っ先にテオを叱責したのはシルビアだ。テオの胸倉を掴みかからんばかりの勢いを見せていた。
「あ? てめぇらの知ったことかよ。けっ、これだからクソ餓鬼ってのは嫌いなんだ」
テオは全く悪びれる様子もなく自らの髪の毛を掻き揚げていた。そのしぐさだけでも、不快度は増すばかりだ。
「テオ」
そして、彼の立ち塞がるのは信也だ。先ほどのテオの行為について我慢がならないといった表情をしていた。詳しい経緯はわからないが、いきなり大の大人が子供を蹴り飛ばしていいはずなどない。
「てめぇか、この前の依頼で随分な功績を取ったみたいじゃねぇか。ネプトたちに助けられて、さも自分の手柄のように思ってんのか? はははは、おめでたい野郎だな」
言葉の1つ1つに強力な挑発の念が滲み出ている。この男は、この場で信也が殴りかかることを願っているのだ。信也にもそれは伝わっていた。
「残念だが、そんな安い挑発に乗るほど俺は小さくないんでな。お前の中の井戸と一緒にするなよ」
「……ふん、腰抜けが。まあいい、いずれははっきりとさせてやる。お前如きが俺にタメ口聞くなんざ、1000年早いってな」
テオはそこまで言うと、蹴とばした子供の方向を少しだけ見るとそのまま大きく笑いながら去って行った。信也はよく我慢したと自分を誉めたい気持ちになっていた。こんな公共の場で手を出すなど大人のやることではない。周囲の人々の中には子供も多くいるのだ。
「ナイスです、先輩。お疲れ様でした」
状況を察したのか、ファリスが笑顔で信也を労う。
「ああ、それより子供は平気か?」
信也はテオへの苛立ちを抑えつつ、蹴られた子供へと視線を送った。子供にはシルビアがついており、既に立ち上がっている。見たところ、怪我もないようだ。
「大丈夫か?」
信也は起き上がっていた子供に声をかけた。
「うん、大丈夫……そ、その、助けてくれてありがとう……」
「名前は?」
「リンクだよ。兄ちゃんは?」
「明瀬信也だ。そっちの美人がシルビアで向こうのエロい格好の魔導士がファリス」
と、信也は冗談半分の挨拶として、仲間の紹介も行った。
「いややな、美人なんて……照れるやん」
「先輩、私の紹介酷くないですか~?」
各々の反応を返す二人であった。
「ところで、リンクはテオの奴とはどういう関係なんだ?」
信也はリンクの顔の痣も気にはなっていたが、今は聞かないことにした。
「テオは……俺の孤児院に時々、来るんだ。それで好き放題やって帰っていく……」
「孤児院、もしかしてサンセット孤児院ですか」
「う、うん……そうだけど」
リンクの言葉にファリスは固まっているようにも見えだ。
「もしかして、お前の出身の孤児院って」
「はい、私も数年前まではそこに居ました」
ファリスの顔色が変わった理由がはっきりした。リンクとは面識はないようだが、自らの故郷をテオが襲っているとなれば仕方ないことだろう。
「あ、あいつは、俺たちを虐めたり、蹴ったり、殴ったりするんだ……今回も、ここに連れて来られて、えっと、急に蹴られた……」
多少、しどろもどろになりながらリンクは話した。いまいち要領の得ない話ではあるが、子供ゆえに仕方ないだろう。ファリスの顔色は既に戻っていたが、内部では恨みの念が大きくなっていることだろう。
「まあ、とりあえずテオの奴は居なくなったから、リンクも観戦していくか?」
「ううん、大丈夫だよ、兄ちゃん! 助けてくれてありがとな! もしも、サンセット孤児院に来ることがあったら、会いに来てよ!」
リンクは元気になり、そのまま深々と頭を下げて走り去って行った。信也やシルビアが止める間もなく、リンクは何処かへと消えてしまった。
「早い、意外と元気で安心したけど」
「まあ、あれだけ元気やったら問題ないやろ、私らも行こか」
「ああ」
ひと悶着はあったが、すぐに事態は収束した。周囲も驚きの声をあげてはいたが、今はそれもなくなっている。信也はファリスとシルビアを連れて闘技場の中へと入って行った。
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「アンジェリカ様、そろそろお時間です」
マルレーネ城内、アンジェリカの私室。部屋へと入ってきたのは青い髪をポニーテールにした女性だ。黒のロングスカートを付けており、メイドのような恰好をしている。
「うん。リューナさん、様なんて付けなくていいよ。私は16歳の小娘なんだからさ」
「左様ですか。ですが、アンジェリカ様に敬称を付けないなどありえません」
リューナはアンジェリカの言葉を否定するかのように首を振る。圧倒的強者であるアンジェリカは、王族のような扱いを受けているのだ。
「そ、そう……?」
リューナはメイドとしての経験もそれなりで10代の頃から城に仕えている。まだ、24歳と若いのだが、アンジェリカからすれば、そんな彼女に敬われるのは歯痒い気持ちがあった。
「なるほど、ではミーナを専属のメイドとして仕えさせましょう。アンジェリカ様と同じく16歳の見習いにはなりますが、かなりの努力家ですので」
「え? あ、うん。それなら……」
アンジェリカはリューナにはいまいち頭が上がらない。彼女が身に着けている服もリューナのコーディネイトだ。
黒のミニスカートにノースリーブのワイシャツ。さらに、黒のニーソックスを穿いているアンジェリカ。おおよそ、戦いに向いている格好ではない。リューナが見た目でも美しくあれということで用意したものだ。
実際、アンジェリカはこんな格好をせずとも、十分すぎるほどの美しさを持っているが、彼女のこの扇情的な格好を見ようと、闘技場の客はさらに増えたのだ。
「ミーナの手配はしばしお待ちを。それにしても、本日もお美しいアンジェリカ様のお姿に、闘技場の熱気は最高潮に達するでしょう。影ながら応援をさせていただきますわ」
リューナは戦闘の準備をしているアンジェリカを見ながらうっとりとしている。彼女は腰に銀色に輝く模擬刀を携えた。
「私と戦える相手が来るかもしれない。それが毎回楽しみさ」
「私の見立てでは、アンジェリカ様と対等に戦える者がこの世に居るとは考えられませんが……割と本気で」
「リューナさんもそう思う?」
「ええ、元王国ランキング3位、リューナ・シオンの頼りない見立てではありますが」
冗談を交えながら、リューナはアンジェリカを褒め称える。自らをただのメイドのように振る舞い、冗談を飛ばすリューナにアンジェリカは笑顔で頭を抱えた。
そして、彼女は闘技場へと出陣する。決して互角に戦える相手が居ない闘技場に向かって。最強の肩書をさらに高めるために。