2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~   作:イリーム

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30話 闘技大会 その4

 

「活気に溢れてるな」

 

 マルレーネ城内の闘技場。城の中庭に設置されている、広大な施設である。中央では参加者が戦い、その周囲は階段状に客席が広がっている。楕円形の国立球技場のような形状になっていると信也は感じた。大きさはそれよりもかなり小規模ではあるが。

 

「満員ですね~。アンジェリカさんが出場するときは大概こんな感じですけど」

「スケベな観客が多いねんな」

 

 ファリスとシルビアの会話を聞きながら、信也はアンジェリカの姿を思い出していた。初めて彼女の姿を見たのはそれほど前ではない。しかし、まだ話したこともない相手だ。金髪を1本の三つ編みにした青い目の少女。最初は引くくらい美人に思えた。

 

 そして、均整の取れたスタイルにファリスよりも大きい胸……。

 

「バスト何センチだろうな」

「私ですか? 89センチですよ」

「でかいなっ。ファリスも気になるけど、アンジェリカだな」

 

 アンジェリカの名前を出したことに特に意味があるわけでない。信也としても、一目ぼれをしたという実感もなかったはずだが。しかし、信也は彼女のことを知りたいという欲求に駆られていた。

 

「信也先輩って、アンジェリカさんのこと好きなんでしたね、そう~ですか」

 

 冷めた目線で、ファリスは信也を見ている。信也もその視線は少し恐怖を覚えた。

 

「待て待て、好きもなにも話したこともないだろ? ただ、俺の目的の相手だから、知っておきたいんだよ」

「へ~、そうやってごまかすんですね」

 

 ファリスは信也からそっぽを向いてしまう。

 

「あかんで、信也。ウチも妬いてまうわ」

 

 シルビアは相変わらず余裕の対応だ。妬いているのは事実かもしれないが、冗談のように聞こえるトーンで彼女は言う。

 

「私は別に、妬いてませんよ……もうっ」

 

 ファリスはリンゴのように顔を赤くしていた。シルビアはそれを見て、腹を抱えて笑っている。

 

「でも、アンジェリカは王国最高の美少女とか言われてるしな。スリーサイズも相当やで、多分」

「だよな……それに加えての強さだからな。そりゃ、人気も出るか」

「信也が見に来たんは、アンジェリカの強さを見に来たんやろ? 将来的に超える目標らしいやん」

 

 非常に曖昧なところから生まれた目標ではあるが、間違っていないので信也は頷いた。バルトシアン王国の1位を目指す……これは理屈ではない。アンジェリカの剣の加護の能力を見た後から強く感じた感情であったのだ。

 

 

「来ましたよ、アンジェリカさんです」

「おお~、久しぶりに見るけど、凄いな……色んなところが」

 

 闘技場の中央の敷地に現れる少女。白いブラウスに黒のミニスカートのコーディネイトが目立っている。左の腰に携えた模擬刀もさまになっていた。美しい……周囲の観客は一瞬静まり返り、彼女の姿をその眼に焼き付けた。

 

 

 

 反対のゲートから現れるは一人の戦士風の男。闘技大会でも常連の一人なのか、ささやかな歓声が上がっていた。

 

「闘技大会に出場できるのは8人。アンジェリカでもシード権はなく、バトルロイヤルで勝ち残らないとダメ……か」

 

 信也は片手に持っている、闘技大会のルールブックを読んでいた。

 

「使用武器は模擬刀が基本だけど、ナックルや斧、槍型など、それぞれの戦闘スタイルに近い物を選べるんだな。まあ、刃は付いていない安全な物みたいだけど」

「そうですね。魔法に寄る治癒をする衛生班も常時待機していますので、安全面は確実に上がってますよ」

「基本的に、バトルロイヤルの参加者に制限はなし……か。まあ、縦横無尽の戦いで振るい落とすわけね、8人までに」

 

 ルールブックを復習するように読んでいく信也。自らも来月には出場する可能性があるからだ。さすがに、今回は時間がなかったこともあり様子見となったが。彼女と戦う上でこれほど確実かつ手軽な方法はない。

 

 そうこうしている間に1回戦は開始された。開始と同時に動きだしたのは男の方だ。手に持つ模擬刀をアンジェリカへと振り下ろす。

 

「遅いっ」

 

 信也は思わず口ずさんでいた。男の一撃は信也から見れば明らかに弱いものだ。実際には8人に残れるほどではあるので、一般人のそれとは比較にならないが、ランカーの立場では避けることはたやすい攻撃。

 

 無表情のアンジェリカは避けることすらしなかった。そのまま右足を上段へと蹴り上げ、男の剣ごと蹴り飛ばしたのだ。

 

「がはっ!」

 

 男は叫び声を上げて大きく身体を飛ばされた。アンジェリカのミニスカートは大きくめくれ上がる。周囲の観客もその光景を待っていたとばかりの勢いだ。立ち上がる者さえ居た。

 

「はあ、バルトシアン王国はエロい男しか居ないのかよ」

「先輩、立ち上がりながら言わない方がいいですよ?」

 

 ついつい立ち上がっていた信也。冷静な突っ込みが隣に座っているファリスから飛び込んできた。かなりむくれた表情になっている。アンジェリカのスカートの中はスパッツとなっており、特に期待するものが見えるわけではない。

 

 本能ではわかっていることだが、それでも絶対領域から見える可能性に期待してしまうのは男の性か。こればかりは異世界に行っても変わらないようだ。

 

「信也、面白すぎるわ~~。あはははははっ!」

 

 おもわず立ち上がった信也がツボだったのか、シルビアはまたもや笑い転げていた。

 

「パンツ見たいんやったら、ウチのでよければ見せたるで? あ、誰でもこんなことするわけやないよ? 信也やからやで?」

 

 わかって言っているのか、シルビアの言葉は破壊力を感じた。信也は敢えて返答を返さなかったが、彼女は本日はジーンズのような格好だ。見せるということはそれを大胆にずらすということになる。

 

「ちょっといいかも……」

「先輩、変態みたいですよ?」

「冗談だよ」

「ほんとに冗談ですか?」

 

 いくらかファリスからの信頼は落ちてしまったかもしれない。シルビアはおそらく本気で言っているが、信也は少し自重しようと心に決めた。少しだけ……。

 

 

 中央の敷地での戦いは、アンジェリカの蹴りの一撃で試合は終了していた。腰に付けた模擬刀すら使うことなく終了。彼女の強さを実感する間もなくおわったことになる。

 

 信也は今月は外れではないかと感じていた。彼の前方の客席にはアオイドスの姿もあったからだ。アオイドスは今大会には出場していない。

 

 

「こりゃ、アンジェリカの圧勝じゃないか? 彼女の強さは相対評価で十分わかってるし、今回、無理に見にくる必要はなかったかもな」

 

 信也は先の魔族との戦いもあったために、わざわざ闘技大会を急いで見にくる必要もないと考え始めていた。

 

「……そうとも言い切れへんの違うか?」

 

 続いて2回戦が始まる。中央に現れたのは二人の男……。その人物を見たシルビアの表情は変わった。面識自体はなさそうな雰囲気だ。一人は大柄な斧を携えた男。ヒョウ柄のの衣服を身に纏い、金髪の髪形を逆立て自信満々な笑みを浮かべている。

 

 もう一人は身長は170センチくらいだろうか。模擬刀を携えこちらも余裕の表情をしている。30センチは高いであろう大柄の男を前に、黒髪の中肉中背の男は一歩も引く様子を見せていない。

 

 二人の放つオーラはまさに戦士のそれであった。それも相当なものだ。ファリスや信也もすぐにそれを感じ取った。

 

「ファリス、あいつら誰かわかるか?」

「中肉中背の方は多分……現在、11位に属している、ファルディオさんかと思います。もう一人の方は見たことないですね。初めて参戦する人かもしれません」

 

 闘技大会は他国からの初めての参戦者も多い大会だ。それ自体は不思議なことではないが……初めての参戦者で、11位のファルディオを前にしても物怖じしない人物というのは珍しい。バルトシアン王国で言えば、掘り出し物に該当する人物かもしれない。

 

「あんたは俺の名声の為の片手間にすぎねぇ。せいぜい派手にやられてくれや」

「王国ランカーを舐めた発言だな。数分後、お前の発言がいかに滑稽だったかを思い知るだろう」

 

 信也たちが見守る中、只者ではない二人の戦いは開始された。

 

 

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