2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~   作:イリーム

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32話 闘技大会 その6

 

「アンジェリカ……」

 

 信也は意外な人物との対面に、思わず名前を呼んでいた。初めて見たわけではないが、事実上、これが初顔合わせである。

 

「あんた、誰だっけ?」

 

 よくある漫才のような感じを受け、信也は緊張感が逆に弱まった。

 

「覚えてないだろうな。この前、スケイルビースト討伐に行ったことあるだろ? あの時に居合わせた者だよ」

「ああ、あの時の。崖の上でプライマルビーストを倒してたの、あんただったんだね」

「まあ、ファリスもいたけどな」

「あの子もいたっけ。そう、無事でよかったね。もう知ってるみたいだけど、アンジェリカ・ブルーローズだよ」

 

 アンジェリカは思いの外、好意的に自己紹介をする。もっと孤高なイメージを持っていただけに、信也としても意外であった。

 

「明瀬信也だ。信也が名前な」

「珍しい名前だね、あんた」

「まあ、そういう地方から来たからな。こっちとしても意外だよ。アンジェリカはもっと、孤高な存在かと思ってたぞ」

 

 普通にしゃべる女の子だ。クールな話し方ではあるが、特に気高い印象などは与えない。想像以上に庶民的な印象を与えている。

 

「まあ、こうして会ったのも何かの縁さ。少し歩くかい?」

「いいぜ、そうしようか」

 

 トイレの近くで話すことではないと感じたのだろうか、彼女は信也を別の場所へと誘った。自分の中の目標が目の前に現れた。信也としてもこの機会を逃す手はないと考え、すぐに首を縦に振った。

 

 

 

 アンジェリカに誘われた場所は、城内の廊下だ。普段であれば一般人は入れない区画だが、アンジェリカと共に歩いている信也は、衛兵になにも言われずにフリーパスとなった。

 

「私はランキング1位だからさ、他国には孤高の存在として映る方が都合はいいみたいだよ」

「そういうことか。確かにそうだろうな」

「うん、個人としては難しいんだけどさ……まあ、私を良く思ってくれてる人は多いし、協力していきたいとは考えてるよ」

 

 日本でもよくある現象だ。国家の重鎮は迫力がなければ意味がない。諸外国との外交でも握手の仕方や立ち位置も入念に決められるくらいその辺りは細かい。アンジェリカを国の礎にすることで、他国を牽制していることは容易に想像ができた。

 

「お前が居るだけでも、バルトシアン王国に喧嘩売る奴は減りそうだな」

「実際、戦争を回避できてるね。この2年間だけでも北のウィンザー法国と戦争になりかけたけど、私の名前は相当に効くみたいだよ」

「そりゃ、すげぇな」

 

 

 戦争を止める少女……そんな存在がいるとはにわかに信じられないが、目の前の少女は容易にそれを実行できる。以前の戦闘を思い返すだけで、それは確信できる。

 

「慕ってくれる人も多いけどさ、もう少し普通に接してほしいなんて考えたこともあるよ」

 

 廊下を歩きながら漏れる彼女の本音。先ほどの場所では聞かれると不味いと感じたからこそ、この場所で漏らしているのか。アンジェリカは想像以上に発言を管理しないといけない立場なのかもしれない、信也にはそう思えた。

 

「その為の、上位ランカーだろ?」

「その通りだね。あんたは何位なんだい?」

「12位だ。まだまだ上がって行くぜ? すぐにお前の座はいただくから、覚悟しとけよ? それから身体も」

 

 セクハラ紛いの発言。普通なら100%引かれるが、彼女はそうはならなかった。むしろ喜んですらいるようだ。

 

「私にそこまで言える奴なんて久しぶりだよ。明瀬信也……覚えたよ、くれぐれもがっかりさせないでよね」

 

 好戦的な瞳。一瞬、気圧される信也ではあるが、彼も負けてはいなかった。

 

「当然だ。ところで、身体を捧げるっていうのは本当なのか?」

「もちろんさ。初めてを捧げるんだから、誰にも負ける気はないけどね」

 

 初めてを捧げる。彼女は処女であることは確定したわけだが、信也のエロい心はヒートアップしていた。誰にも譲る気なんてない。彼女に打ち勝つのは自分だ。

 

「まあ、このくらいにしておこうか。衛兵が驚いてる」

「ん? ああ、そうだな……」

 

 お互いに出し合っていた強烈な闘気。その闘気は周囲の衛兵たちを縮こませるには十分過ぎたようだ。

 

 

「それじゃ、私は準決勝があるから」

「おう、俺は観客席で見とくよ」

「来月は出場しなよ? その時までに、せめて互角に戦えるようにはなってることだね」

 

 最後の言葉は彼女なりの挑発だろうか。信也のことをある程度認めた雰囲気のアンジェリカではあるが、自分と対等に戦える者との認識はない。来月、出場するとして、せめて接近戦の彼女には追い付かないと話にならないのだろう。

 

「来月には互角……か。俺とアンジェリカの実力差はどのくらいあるんだ? それがわからないと、厳しさがわからないな」

 

 去っていく彼女を見送りながら、信也は多少のため息をついていた。接近戦での実力差がわからない……。なにか、指標のようなものが欲しいと考える信也であった。

 

 

 

 

「遅かったやん、信也」

「ギリギリですよ~」

 

 念のため、あれからトイレを済ませて戻って来た信也。まだ、準決勝は始まっていないが、なにやら抽選のようなものが開始されていた。

 

「あれはなんだ?」

「知らへんの? 準決勝も抽選で対戦相手が決まるんやで」

「なるほど、そのままトーナメントってわけじゃないのか」

 

 抽選で1回、1回対戦相手が決まる。その方が観客としても楽しみを増幅させられるという考えから、その方式が採用されていた。そして、抽選の結果はすぐに公表された。

 

 

「準決勝1回戦はアンジェリカVSセッコ!」

「そして2回戦はアジールVSブレオシスタである!」

 

 いつもよりも盛大に準決勝の組み合わせは告げられた。大会の運営者たちも強敵の登場に興奮状態にあるのかもしれない。

 

 蛇顔をした男、セッコはいきなり大会の中心ともいうべき人物との対戦と聞いて心を躍らせていた。彼の目的でもあるだろうから当然と言えるだろう。

 

「対戦相手が決まったな。蛇男とアンジェリカか……」

「うひゃー! 2回戦の注目カードですね!」

 

 どのような戦いを見られるのか、信也も想像がつかなかった。セッコという人物は相当な剣捌きを誇る人物であることは1回戦でわかっている。

 

 果たしてアンジェリカは打ち勝てるのか? 信也の中にそんな不安がよぎりながら、準決勝は開始された。

 

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