2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~ 作:イリーム
「さて、滞りなく大会は開催されているようだな」
闘技大会の準決勝、その戦いが行われる直前、城内ではユリウスとラングートの会話が繰り広げられていた。大会が無事始まったことは聞かされている彼らであるが、闘技場にはまだ足を踏み入れていない。
「陛下、そのことで少々気になる点が……」
「どうした?」
闘技大会は飛び込みの参加も多く、締め切りギリギリまでバトルロイヤルの参加者は募っている。締め切り自体はかなり前に完了していたが、その参戦者の書かれた紙を見ながら、ラングートは真剣な表情になっていた。
「北方に位置するウィンザー法国。その国の使者と思われる人物が参加しているのではないかと」
「なんだと?」
ユリウスの表情は一変した。北の大国ウィンザー法国は「アスクレピオス」を神として奉る宗教国家である。人間の国家ではあるが、兵力は教会団体が担っており、バルトシアン王国と対を成す存在として有名である。それほどまでの国力を有する国であった。
「総合戦力はエルディアン公国などとは比較にならない……今は、アンジェリカの名で牽制が出来ておるが、戦争を開始するために呼んだということか? そもそも、ウィンザー法国の使者だと、なぜわかる?」
ユリウスのもっともな質問にラングートは静かな口調で答えた。
「セッコとアズール……この二人の名前に聞き覚えがありまして。偽名で参戦していないことからも、ウィンザー法国のセッコとアズールで間違いないでしょう。これは、場合によってはかなり危険な事態ですぞ」
「今すぐ、確認に向かうとするか。余の護衛を頼むぞ、ラングート」
「はっ!」
ラングートの言葉から、事態は急を要すると判断したユリウス。すぐに談話室を抜けて、ラングートを引き連れ、闘技場へと急いだ。
その頃、準決勝の第1試合が開始されていた。アンジェリカVSセッコの対戦だ。両者共に攻撃を開始する様子を見せていない。ある種、場内は異様な雰囲気となっていた。
「まさか、バルトシアン王国最強の娘と戦えるとはね。いや、そのつもりではあったんだけど、いざこうして現実になると夢のようと言うか」
「……」
アンジェリカは口数の多いセッコの言葉を無視するかのように、無言で彼を見ている。年齢は自分とそこまでの差はない、そして今までこういった人物は多く見てきたがそのどれにも該当していない。
自らが敗れるなどとは微塵も感じていない彼女であったが、同時に数秒足らずで勝負を決められるほど、楽な相手でもないことはすぐに看破していた。
「オレの強さは看破されてるのかな? さすがは最強の戦士といったところか。なら、こちらから攻めるとしようかな」
蛇のような瞳をした男、セッコは怪しく笑った。そして、次の瞬間腰にかけてある剣を振り抜くと、アンジェリカ目掛けて突進を開始する。
「早いっ!」
観客席から見ていた信也も思わず口にしてしまう速度。一瞬の内に間合いを詰めたセッコはアンジェリカに模擬刀を叩きつけるように振り下ろした。紙一重で彼女はサイドへ逃れるが、セッコは焦っている様子などない。すぐに剣を払い。彼女の反撃を許さなかった。
「想像以上にやるな、あの男。普通やったら、もう勝負はついている頃やろ?」
「そうですね、アンジェリカさんの試合にしては長いかもしれません」
アンジェリカはセッコの攻撃を浴びてはいないが、防戦一方になっている。セッコは余裕の表情で剣を振り抜いているだけだ。動きとしては激しいものだが、膠着状態は続いていた。
信也も二人の戦いを見ている。アンジェリカも本気で戦っている様子はないが、それはセッコも気づいているようだ。そのためか、彼も本気を出しているようには見えない。この程度の攻撃は避けられるのが前提といった雰囲気も見て取れる。
「温いね。まだまだ様子見といったところかな?」
「……あんた、相当できるね。驚いてるよ」
「とてもそうは見えないが……君も戦争勃発を止めている人物というのがよく分かるよ。オレの国も実力主義の国ではあるが……君ほどの強さの奴はなかなかいないだろうね」
セッコは連続攻撃を一旦中止し、アンジェリカから距離を取っていた。模擬刀を肩に当てながら軽くしゃべっているセッコ。自らの素性についても推測できる内容だ。
「あんたはウィンザー法国の者かい?」
「今の会話だけでわかるんだ、さすがだね」
セッコは抑えることなく、大きく笑いだした。もはや自供したも同然だが、特に彼自身隠す気もないようだ。
「ランキングに参戦するというのは嘘なのかい?」
「いいや、それは本当さ。ただし、ウィンザー法国の兵隊はすぐそこまで来ているよ。これが何を意味するかはわかるよね?」
「……」
戦争……アンジェリカは敢えて口にはしなかったが、そう考えて間違いないだろうとセッコの口調から推測した。
「さて、話が長くなったね。またこちらから攻めるのもどうかとは思うけど、少しだけ本気で行ってやるよ」
「……!」
そう言いながら、セッコは更に加速した。先ほどまでの速度とは比べ物にならない。アンジェリカも避けることは叶わなかったのか、抜刀をして彼の剣撃を受け止めた。
「大したものだ、今の速度に対応するなんて。でも、無駄だけどね」
「!!」
アンジェリカは剣撃を受け止めたにも関わらず、身体が宙を舞った。そして、そのまま背後の壁へと勢いよく激突する。壁は大きな音と共に崩れ落ちた……。
「まあ、強いと言っても所詮は16歳の女の子さ。オレの敵じゃない。世間にはまだまだ強敵が居ることを思い知った方がいいと思うよ」
崩れ落ちる壁と共に舞い上がる粉塵。セッコはその場に佇みながら、静かに話した。周囲の観客たちのざわめきも、今までとは明らかに違う。あり得ない光景なのだろう。
「嘘やろ……!?」
「アンジェリカさんが……」
シルビアとファリスも目を見開いて驚いている。目の前の光景が信じ難いといった表情だ。
「セッコ……あの男……」
信也も煙の中に佇むセッコを眺めながら、アンジェリカが吹き飛ばされたことにより驚きの声がこだまする、闘技場の空気に飲み込まれていた。