2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~   作:イリーム

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34話 ウィンザー法国 その2

 

 闘技場の中は騒然となっていた。アンジェリカ・ブルーローズがセッコの剣撃により吹き飛ばされたのだ。コンクリート製の壁をぶち抜く衝撃、観客たちも一抹の不安がよぎる。

 

「まあ、さすがにこれでやられる程、柔ではないだろうけどね」

 

 アンジェリカを吹き飛ばしたセッコではあるが、彼女がやられていないことも予想済みであった。仮にも王国最強を名乗っている人物なのだ、という思いがあるのだろう。

 

「まさか、アンジェリカを吹き飛ばすとは……あの男」

 

 闘技場の観客席に入ったのはラングートだ。セッコがアンジェリカを吹き飛ばしたところは目撃していた。

 

「ラングートよ、どうなっている? あの、アンジェリカが負けているのではないのか?」

 

 一緒に観客席へと入ったユリウス国王は驚きの表情をしていた。確かに、現段階ではアンジェリカはセッコに何も出来ていない。それどころか、無残にも激しく吹き飛ばされたのだ。周囲の者たちもざわめいている。ラングートは状況を分析しているのか、中央のセッコを凝視していた。

 

「あの男の戦闘能力が想像以上ということでしょうな。これ程の者が現れるとは」

「……ラングート・シュタイン?」

 

 アンジェリカを吹き飛ばしたセッコも観客席の奥に居るラングートの存在に気付いた。強力な威圧感を放っていた為に、自然とそちらを向いた感じだ。

 

「王国ランキングは引退したと聞いていたが、あれほどの威圧感を持っているとは……さて、どうしようか」

 

 

 セッコは顎に片手を当てて何やら考え始めていた。

 

「これ以上、目立つのは避けたいね。19位のランクは手に入ったし、良しとするか」

「なにをする気だい?」

「……ああ、元気みたいだね」

 

 粉塵の中から現れるのはアンジェリカだ。多少、埃などは付いていたが特に怪我をしている様子はない。

 

「あちらにラングートが居るね。残念だが、あまり目立つわけにはいかなくなった」

「……」

 

 アンジェリカは彼に言葉を返すことはなかった。ただ、ユリウスとラングートの方向を一瞬だけ見た。そして、その瞬間をセッコは見逃さない。肩に当てていた剣を再びアンジェリカに向けて振り抜いたのだ。アンジェリカは難なく受け止めるが、

 

「重い……さすがだねっ」

「ふんっ!」

 

 力負けしているようで、そのまま大きく後方へと弾き飛ばされた。さらに、セッコは攻撃態勢を強めていく。

 

「最初の一撃では無傷だったみたいだが……あれ、アンジェリカ不味いんじゃないか?」

「セッコとかいう男、めちゃくちゃ強いな……」

 

 信也もシルビアも予想外の展開に驚きを隠せない。信也はまだまだ親しい相手ではないが、アンジェリカ・ブルーローズが防戦一方になっている。さらに、完全に力負けすらしており、先ほどからセッコの攻撃を受け止めこそずれ、大きく弾かれてしまっている。それだけではない、セッコはアンジェリカが本気を出していないことも看破している。

 

 その為に、自らの攻撃の隙を極力減らし、無駄のない動きで最大限のパワーを発揮させているのだ。お互いに全力ではない。しかし、セッコは確信した、闘技大会のルールに培えば自分の方が上であるということを。

 

「ウィンザー法国の戦士は非常に強力だ。君とは言えど、埋もれてしまうかもしれんぞ? あそこに居るアズールの奴もかなり強いだろうからな」

「……アズール、あの大男だね」

 

 アンジェリカはゲートの奥で見ている大柄のアズールに目をやった。豪快に笑っているようにも思える。

 

 二人は会話をしながらも連続の攻防は何度も行われていた。セッコの繰り出す、右斜め下からの切り上げ……これまでで最大の速度と威力を出したものだ。幾つものフェイントを重ねて打ち出したが、それもアンジェリカはガードした。案の定、大きく吹き飛ばされるとこにはなったが。

 

「なかなかに面白いよ。今の一撃も受け止めるとは、16歳でこれほどの強さであれば、今後はさらに強くなるだろう。出来ればラングートとも戦いたいが……まあ、この辺りが引き際かな」

 

 満足したようにセッコは剣を鞘に戻した。この行動には信也たちを初め、周りの観客も違和感を覚える。

 

「審判、オレは棄権するよ。彼女の勝ちだ」

「……」

 

 突然の棄権宣言。周囲はさらにどよめいていた。意味が分からないと言っている者たちも居る。明らかに有利に進めていたのはセッコの方だからだ。しかし、アンジェリカは表情を崩さない。

 

「いいのかい?」

「ああ、せいぜい優勝して能力を高めるんだね」

 

 セッコの上から目線の言葉。王国最強の肩書きのあるアンジェリカに対してもそれは変わらなかった。だが、決して過信ではないことは先ほどの攻防からも感じ取ることができる。信也もそのように思っていた。

 

 

「ラングートよ、これは……」

 

 ユリウスも言葉を失いかけている。この闘技場に居る誰もが同じ気持ちだろう。実質、彼女は負けていたのではないか? そんな疑念が観客席にも響いていた。信也も例外ではない。アンジェリカ・ブルーローズとはどういう存在なのか? 作られかけていたイメージが崩れ始めていた。

 

 しかし、表情に変化のない者が2人。アンジェリカ自身と、ラングート・シュタインだ。

 

 

「この戦いは明瀬信也を初めとして、印象深い戦いになったでしょうな。他の上位ランカーも同じかもしれません。それでいいのです」

「ラングートよ、余にも分かるように話してはくれんか?」

 

 ラングートは非常に抽象的に話している。セッコは既に立ち去り、アンジェリカだけが残された闘技場の中央を見ながら。

 

「嬉しい誤算なのでしょうか……セッコという男。まさか、これほどの逸材が現れるとは。戦力と言う意味でも、攪乱という意味でもね」

 

 ラングートはユリウスの質問には答えず、話をそこで終わらせる。彼の中で渦巻いている考えは、今後非常に大きな意味を持つことになるが、それを知るのは現段階では彼のみとなっていた。

 

 

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