2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~ 作:イリーム
「勝者! アンジェリカ・ブルーローズ!」
闘技場内には審判の大きな声がこだました。それと同時に沸きあがる観客席からの人々の声。
「今月もアンジェリカ様の優勝だ!」
「さすがです!」
彼女のファンと思われる者たちからは大きな歓声が沸いていたが、全体的な活気は衰えているようにも思えた。
「セッコだけでなく、アズールまで棄権したからな……まあ、この雰囲気も仕方ないか」
信也も何とも言えない表情で彼女を見ていた。ブレオシスタに余裕で勝利したアンジェリカは声援に対して軽く腕を上げて答えると、そのままゲートを抜けて行った。彼女の表情は最後まで華やかで、無表情に近かった。
「これは、アンジェリカの能力がそこまで高くないって言ってる連中がまた喚き出すんちゃうか」
「ああ~、そんな人たちも居ましたね」
「そんな連中がいるのか?」
ファリスが信也の質問に頷いた。それからすぐに話し始める。
「そうなんですよ。2年前のラングートさんとの戦いの勝利も花を持たせたんじゃないかって。そういう噂を流してる人たちが居るんです。ラングートさんのファンの人たちから、利権絡み、単純に煽っているだけの人とか色々居ますけど」
「なるほどな」
信也は彼女の話を聞いて少し考えていた。確かに、14歳の女の子が王国最強の戦士であるラングート・シュタインを破ったという話は現実味に欠ける。そういった噂が流れるのは仕方ないだろう。それに、戦いにも慣れていない者が大半を占めると考えれば猶更だ。
そして、セッコとの戦いを見ればどこまでが真実なのかわからなくなってくる。信也は掴めない雲を追いかけているような感覚に囚われていた。
「どうしましょうか? このあと表彰式とかもありますけど、出る時にお客さんたちで混み合うかも」
「まあ、アンジェリカの戦いは見れたから、早めに退散するか」
「じゃあ、すぐに出よか」
混み合うことを予見した3人は早めに闘技場から去ることにした。
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「ん~~、なんだか色々ありましたけど面白かったですね」
「そうだな、見に来て正解だったよ」
闘技場から外へと出た3人はギルドの近くまで歩き出していた。ファリスは熱気あふれる闘技大会を思い出しながら、少し興奮気味になっていた。
「この後、どないする? 宿に戻るにしても早いやろ」
時間を確認しながらシルビアは言った。信也とファリスはオレゴンの宿屋を拠点にしており、戻るにしても確かに早い時間ではあった。なぜか、こちらに戻ってきてから、シルビアも活用することになっているが。
「なら、依頼受けてもいいか? 身体動かしたい」
「いいですね、見るのもいいですけど、やっぱり王国ランカーですし、身体動かすのがデフォルトですよね!」
「そやな、なんか身体が疼いてきたし」
信也の提案にファリスやシルビアも快く同意した。そして、3人はギルド内部へと入っていく。
「これを受けさせてくれ」
「はい、畏まりました」
ギルドに入った信也たち。受付には先客……というよりも、見覚えのある人物が立っていた。依頼を受けているのだろうか。
「あれ、あの人って」
ファリスもすぐに気づいた。ヒョウ柄の服がどうしても目立つ大男、アズールだ。
「ん? なんだお前ら?」
信也たちに気付いたアズールは振り返りそう言った。当然、信也たちのことは彼は知らない。
「驚いたな、棄権したと思ったら、こんなところで依頼を受けてるとは」
「ん? お前ら闘技大会の観客だったのか?」
信也の言葉を聞いたアズールはすぐにその考えに至った。そして、信也たちの立ち姿を眺めている。
「ほう、悪くねぇ。王国ランカーだな? 立ち振る舞いが一般人のそれじゃないな」
「ここに来てるんだから、当然だろ」
「確かにそうだが、なかなか美人を連れてるじゃねぇか。羨ましい奴だ」
虎男こと、アズールは嫌みのない笑い方で豪快に笑いだした。特に信也も悪い気分にはならない。
「お前は確か、11位になってるよな? 俺は12位だからいきなり超えられたわけか」
「ほう、12位か。なかなか高いじゃねぇか? 名前は?」
「明瀬信也。信也が名前な」
「もう知ってるだろうが、アズール・コアルドイだ」
お互いに自己紹介は完了し、自然と握手を交わしていた。
「しかし、随分と若い連中だな。あのアンジェリカの嬢ちゃんもそうだが」
「俺が18歳だしな」
「私は16歳ですね」
「ウチも18やな、あんたは?」
「俺か? 26歳だ。俺だけおっさんじゃねぇか、ははははは!」
アズールはまたもや豪快に笑いだした。自分だけ歳が離れていたことに面白みでも感じたようだ。26歳というのは若い方だが、10代と比べてと言う意味だ。
「さて、こうやって会ったのも何かの縁だな。どうだ? この依頼を一緒にやらねぇか?」
「……オルタナ山脈の猛獣討伐?」
アズールが出してきた依頼は様々なモンスター討伐となっていた。オルタナ山脈はアークレイの北に位置する山脈だ。位置的にはウィンザー法国がそのさらに北方ということになる。
「あの麓は幾つかの町があるからね。ウチの故郷もあるけど……猛獣が大量発生してるんなら討伐した方がええね。ウィンザー法国としても」
「……ほう、嬢ちゃん。抜け目がねぇな」
シルビアはアズールが依頼を受けた背景を察知し、彼を見据えていた。アズールもすぐにシルビアの考えを読み取った。オルタナ山脈の北に位置するウィンザー法国。戦争をするのであれば、山脈周辺の猛獣は進軍の際の邪魔になるということだ。
「怪しいと感じてるか? なら、やめるか?」
アズールは挑発的な笑みを浮かべる。ほとんど語ってはいないが、ウィンザー法国の手の者であることを隠している素振りはない。
「いいや、どのみち依頼は受けるつもりでいたしな。この依頼でいいか?」
「はい、私は構いませんよ」
「ウチもそれでええよ。故郷の脅威は取り去りたいしな」
ファリスとシルビアも猛獣討伐の依頼を受けることに賛成していた。様々な種類の猛獣が予想される。一筋縄では行かないだろう。
「まだお前らとの方が仲良くやれそうだ。テオって奴とも知り合ったんだがな、不愛想に同じ依頼を引き受けて、先に行っちまったよ」
アズールの言葉に信也たちの表情は曇る。テオも同じ依頼を受けているのだ。あまり良い感情を持つことはできないでいた。しかし、それで断るはずもなく、信也たちは正式にオルタナ山脈の猛獣討伐を承諾し、アズールと共にその地を目指すことになった。