2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~   作:イリーム

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38話 猛獣討伐の依頼 その4

 

 ひょんなことから始まったキャンプ生活は1日目を終了し、2日目へと移行していた。

 

 闘技大会が終わり、その帰りに受けた依頼だが、予想よりも日数がかかると信也たちも感じていた。

 

「明瀬、そっちの具合はどうだ?」

「あんまりヒットしそうにないな。ていうか、このエサで大丈夫なのか?」

 

 信也は川に入れていた糸を戻し、先端の餌を確認する。日本どころか、地球全体でも見ないような奇妙な生物がそこには付いていた。

 

「カネカネ虫……なんなんだこれは? つるつるしてるし」

「そのままだよ。オルタナ山脈の固有種だ。この川に居る魚のエサとしてはなかなか優秀なはずだぜ?」

 

 兵士たちに竿を借りた信也とアズールは魚の調達係になっていた。二人とも料理自体は得意ではない為、食材調達を担っているというわけである。

 

「なんで、こんな山脈の下層でサバイバル生活してんのかね」

 

 信也はカネカネ虫の付いた糸を川へと戻す。釣り自体は楽しみではあるが、やはり変な気分は拭えない。

 

「はははは、まあそう言うなよ。目的を達成することだけが依頼じゃねぇだろ? 道中を楽しむ器量も必要だぜ」

 

 アズールの余裕に満ちた言葉が返って来る。さすがは26歳の冒険者といったところか。まだ年齢は若いが、相当な経験を積んでいる雰囲気が見て取れた。

 

「そうだけどよ。まあ、楽しいしいいけどさ」

「その意気だぜ。急いだところで敵がくるわけじゃねぇよ。待ってりゃいいんだよ」

「奢らず逸らず、ただ座して敵を待てばいいんだな」

「そういうこった」

 

 最近は言えていなかった、信也の好きな漫画の言葉。アズールも怪訝な表情をすることなく受け入れてくれた。剣と魔法の世界であることを再確認する。そして、彼は川の上流へと目線を移した。6000メートル級の山脈の上層から流れて来る水。

 

 上流は雪などが積もり、気温もそうだが、酸素の濃度も半分以下になっているだろうと推測する。現在の信也の居る場所は麓よりは高く、標高700メートルくらいはある地点だ。

 

 

「ウィンザー法国はこんなところを越えてやってくる気か……同情するぜ」

「そうだな。各ポイントの王国軍をねじ伏せての進軍はなかなか大変だろう。だが、そうでもしないと王都アークレイは目指せないからな。あの場所は非常に立地に恵まれてるぜ」

 

 信也はアズールの言葉に無言ではあるが納得していた。王都アークレイは天然の要塞と言える。北は標高の高いオルタナ山脈で守られ、西はアルファ大森林、さらには魔族の防波堤である堅牢な砦がある。

 

 東や南の立地については信也も詳しくはなかったが、東は海となっており、南は広大な砂漠が広がっているのだ。オルタナ山脈やアルファ大森林、南の砂漠もバルトシアン王国の領内となっており、長年に渡り大陸最強の国家という地位を確保できているのはその立地も関係していると言える。

 

「だが、俺様がここで暴れれば、Aポイントの兵士共は全滅させられるな」

「おいおい、穏やかじゃねぇな」

 

 釣りを楽しんでいる信也であったが、念のために警戒を強めた。アズールの言葉がどの程度本気かは、測りきれなかったからだ。

 

「兵士どもは余裕だが、流石にお前やシルビア、ファリスといった連中を同時に相手は無理だな」

 

 アズールは嘘をつく男ではない。1対1ならともかく、3対1で勝てると思うほど彼は自らの力を過信してはいない。信也は現状では少なくとも、彼が動く心配はないと分かり安心した。

 

「ところで、お前はアンジェリカをどう思ってる?」

「ん? 美人な嬢ちゃんじゃねーか」

「そういうことじゃなく、強さだよ」

 

 信也は話題のついでとばかりにアズールに質問を続ける。彼の中でよくわからなくなってしまった事象だ。アンジェリカの強さの件であった。

 

「そうだな……最初はセッコにやられたことからも大したことはねぇと感じたが……」

「アズールもそう感じたか」

「まあな。だが、全力ではないことは明らかだろ。あれが実力の全てじゃねぇのは確かだな」

 

 アズールも少しがっかりしたような表情になっている。信也としても気持ちは近い。アズールは、アンジェリカの剣の加護の詳細は知らない為に当然ではあるが、信也はあの実力が彼女の全てでないことはわかっている。

 

 それをわかっている状況でも、彼女の闘技大会の失態は大きいと踏んでいた。闘技大会のルールに培えば倒されかねない敵の台頭……それはもしかすると、すぐそこまで来ているのかもしれない。

 

 信也は自分が彼女を倒す最初の男になりたいと感じてもいる為、現状を快くは思ってはいない。

 

「必ず、俺が一番になる……絶対だ」

「……ずいぶんとアンジェリカに熱をあげてるじゃねぇか」

「別にそれだけじゃねぇよ。抱く抱かないは二の次だ」

 

 信也の心の中で一番にひしめいている感情はアンジェリカを救うことだ。闘技大会で負ければ彼女は抱かれる。望んでもない男とそんな関係になるのは信也としても嫌だった。自らがエッチな気持ちがあることを棚にあげての発言ではあるが、最悪自分であれば抱くという行為を失くすことはできる。

 

 しかし、その他の男は容赦しないだろうと考えていた。一晩抱かれるといっても、その後の生活に支障が出るわけではないのだ。そんなお得な特典を見逃す男が居るとは思えなかった。

 

「おっ、いい引きだ。これはきたな!」

 

 そんな時、空気を読まない魚は簡単にアズールにより釣り上げられた。マグロに似た風貌の旨そうな魚だ。

 

「マグロ……?」

「知らねぇのか? オルタナフィッシュだ。オルタナ山脈の上流の栄養素を存分に身体に蓄えた魚だぜ? 相当な旨さの魚だ」

「へえ、確かに旨そうだな」

 

 焼き魚やフライ、刺身とどれでも映える光沢をしていた。信也も思わず腹がなってしまう。

 

「よし、昼飯はこれで決まりだな!」

 

 2日目のキャンプ生活は既に太陽が頂点に上りつめていた。時間帯的にも、昼はオルタナフィッシュで決まりだろう。信也も大賛成でファリス達のところへと戻った。

 

 

 そして、信也たちが過ごしているテントの前。バーベキューの準備をしているのか、網なども準備されていた。ファリスとシルビアもノリノリではあったが、そんな中もう一人、男性が立っている。

 

 オルタナフィッシュを掲げて戻って来た信也とアズールも、その人物に思わず目を凝らした。ラングート・シュタインの姿がそこにはあったからだ。

 

「あ、信也先輩! オルタナフィッシュですか? これは腕がなりますね~!」

 

 信也とアズールが戻って来るなり、ファリスは上機嫌で出迎えた。オルタナフィッシュを前によだれを垂らしそうな勢いだ。

 

「いや、それよりも向こうの奴は?」

「あれは……ラングートか」

「!」

 

 信也は驚きの表情を見せる。外見から只者ではないと感じてはいたが、そこまでの大物だとは思っていなかったからだ。彼はラングートの外見を確認するのは今回が初めてとなる。

 

 

「突然の訪問を許してくれ。明瀬信也、それからアズール・コアルドイだな?」

「そうですけど」

「ああ、ご明察だ」

 

 信也はラングートの風貌に気圧されたのか、敬語になっていた。アズールの方が弱いということではないだろうが、信也としても不思議な感情になっている。

 

「で、王国の超有名人がこんなところにどうしたんだ? 兵士たちへの鼓舞激励か?」

 

 見ようによっては、アズールの挑発とも取れる言葉。もちろんラングートの表情は穏やかだ。こんな言葉で煽れるなどとはアズール本人も思ってはいない。ほとんどギャグのようなものだ。

 

「鼓舞激励という意味合いは強いな。だが、ここに来たのはウィンザー法国の情勢を確認する意味合いもある。まあ、色々な意味を含めて来ているということさ」

「……」

 

 アズールは軽くいなしてみせるラングートを警戒した。強面の外観からは想像もできない程の知略……彼は軍師としても一流と言えるだろう。

 

 雲をつかむような言葉を出すことで、アズールを牽制する狙いもある。ラングートがオルタナ山脈に来た理由は煙の彼方へ消えたのだ。

 

「ふん、さすがは鉄騎隊を率いている最強の戦士様だな。魔族の軍勢とも渡り合える部隊、噂は本当だったか」

「魔族と渡り合えるかは不明だが、そう言ってもらえると光栄だな。しかも貴殿のような有名な人物に」

「けっ、食えねぇ男だ」

 

 アズールはそのままラングートから視線を外し、オルタナフィッシュを持ったまま離れて行った。

 

 

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 それから、オルタナフィッシュはファリスとシルビアによって刺身にされていた。彼女たちの腕を遠目から観察していた信也だが、腕は正直、プロの料理人レベルといっても差し支えない。見事なまでに1メートルを越す魚を捌いていったのだ。

 

 アズールはバーベキューの準備として火を起こしていた。いつの間にか、肉が用意されている。ファリスたちが捕らえた適当な獣の肉なのだろう。

 

 

「こうやって話すのは初めてか。君の噂は聞いていたよ」

「それは光栄ですね。俺も、ラングートさんに会えてよかったです」

 

 信也にとって強さの指標になる相手。それが目の前に現れたのだ。信也にとってこれほどの驚きは珍しい。

 

「君は色々聞きたいことがあるという表情だな」

「ええ……単刀直入で申し訳ないですけど、アンジェリカはあなたを本当に倒したんですか?」

「直球だな」

 

 ラングートは白髪の髪をいじりながら笑っていた。信也の直線的な質問に驚いている節さえある。信也としても、もやもやしている感情を晴らしたい気持ちは持っていたのだ。

 

「彼女が私に勝ったのは事実だよ。私ではとても勝てなかった」

 

 ラングートからの言葉はアズールと同じく嘘偽りを感じさせない確かなものであった。信也は曇っていた心が晴れていく感覚に襲われていた。だが、まだだ。彼のなかでは確信に至ってはいない。

 

「だが、信じられない……そんな表情をしているな。闘技大会での彼女を見ていると信じられなかったか?」

「そうですね」

 

 信也は自らの心を見透かされた感情になっていた。しかし、目の前のラングートの雰囲気からは驚くほどでもない。彼ならばそれくらいは容易にできると踏んでいたのだ。

 

「ならば、君のなかでの疑問の解消方法だが……なにを望む?」

「それは……」

 

 ラングートからの真っすぐな視線。信也はその瞳に囚われた……彼の言葉通り、自らの心の曇りを解消する方法は一つしかない。

 

「昼食までに少し時間はあるな。勝負と行こうか」

「話が早くて助かりますよ」

 

 ラングートは用意していた模擬刀を信也に差し出した。闘技大会ルールでの戦い……ラングートとの勝負を信也は快く受け入れたのだ。

 

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