2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~ 作:イリーム
スケイルビースト……体長数メートルを誇る巨大な4足歩行の獣であり、俊敏な動きと鋭利な牙を持つ強敵。口から吐く毒のブレスは人間を軽々と吹き飛ばし、絶命されるほどの威力となっている。
通常はアルファ大森林には現れない猛獣ではあるが、稀に出現報告が上がっている。放置をすると、王都を始め、周辺の町や村に被害が出かねない為、アンジェリカに依頼が舞い込んできたのだ。
スケイルビーストの巨体がアンジェリカに迫る。その距離は10メートルと離れていない。さらに、彼女の側面と背後からも子供であるプライマルビーストが大量に迫っていた。プライマルビーストとはいえ、その大きさは大型犬並みだ。
信也とファリスはそんな光景を、崖の上から覗く形で見届けていた。
「加勢……は必要ないよな?」
「当然です。見ていればわかりますよ。一瞬だと思います」
ファリスは静かに信也に語った。その語りと同時、アンジェリカは動き出す。何の予備動作もないが、いつの間にか彼女の前には2本の美しい剣が突き刺さっていた。それだけではない。彼女の二本の腕にも剣が現れている。先ほどまでは丸腰だったはずだ。
「なんだ? いつの間に剣なんて出したんだ!?」
「あれは魔力で作り出したんです。剣の具現化……その為、剣の加護を宿していると言われています。そして……そこから放たれる攻撃は「剣の弾幕」と呼ばれています」
信也が「剣の弾幕」と呼ばれる攻撃について聞き返すことはなかった。アンジェリカより実演があったからだ。
彼女は作り出した剣を細く白い腕で、標的に向けて次々と投げ出したのだ。前方に3本投げ出したかと思えば、ほぼ同時に後ろに5本投げ出している。アンジェリカの二本の腕としなやかな身体は高速で動いており、信也たちも目で追うことが非常に難しかった。
さらに、彼女は身体を回転させながら空中にも次々と剣をばら撒いて行く。空中や地面には幾つもの剣が最善の向きで作り出され、それらの剣は綺麗に直線的に飛んでいく。投げ出した後の軌道修正も、アンジェリカは無表情で完璧にこなしているのだ。
投げ出された剣の描く構図は、まさに「剣の弾幕」と呼ぶに相応しかった……。ボスであるスケイルビーストは真っ先に投げられた数本の剣の直撃を受け、その場で倒れ込んでいた。
それとほぼ同時に、アンジェリカの周囲を囲んでいたプライマルビーストの数体も絶命している。さらに、時間差はあれど無情にも次々と放たれる剣の餌食となって行く猛獣たち。
数十体以上存在していたプライマルビーストは、1体ごとに1本の剣の割合で見事に仕留められていった。彼女は当然のように投擲した剣は1本たりとも外していない。
信也は言葉を呑んだ……黒いミニスカートを穿いた少女の演舞とでも言えばいいのか……とても美しいショーを見たような感覚に襲われていた。それ程に、彼女の剣を投げ出す動きはしなやかで繊細、それでいて強く激しく、素早かったのだ。
「見惚れました?」
「ああ、少しな」
「正直な意見ですね。私も最初、アンジェリカさんの攻撃を見た時、思いました。なんて綺麗な舞いなんだろうって。……あれ? スケイルビーストはまだ生きているみたいですね」
アンジェリカにより真っ先に仕留められたスケイルビースト。まだ息があるようで、瀕死ではあるが最後の咆哮のつもりか、口から毒のブレスを吐きだした。常人が受ければひとたまりもない程に強烈なブレス。
だが、アンジェリカの周囲には無数の剣が高速で出現し、ブレスの進路を遮った。スケイルビーストのブレス攻撃は彼女には届かなかったのだ。そして、地面に刺さっている2本の剣を手に取った彼女は、初めてその場所から移動を開始した。
「……人間を襲わないんであれば、見逃してもいいんだけどね」
無情な一言。ほとんど表情を変えることなくスケイルビーストの目の前に来たアンジェリカは、そのまま2本の剣を振り払い、スケイルビーストの首を刈り取った。今度こそ勝負ありと言える一撃であった。
その時、彼女の死角からは新たなプライマルビーストが近づいていたが、彼女はそちらの方向を見ることなく手に持つ剣を投げ、死角のプライマルビーストも仕留めていた。
「あの剣の防御はなんだ?」
「あれも剣の加護の導きと言われています。通称「剣の要塞」……彼女は「剣の弾幕」と「剣の要塞」を使って戦う剣士と言えますね」
「移動することなく、ほぼ仕留めていたな……しかも、まだまだ本気の動きじゃないだろ?」
「そこに気付きましたか、さすが信也先輩ですね。スケイルビーストは、彼女にとっては片手間の相手……ということなんだと思います」
信也は崖の上から強力な猛獣を退けたアンジェリカに再び目をやった。先ほどの動きを思い出している。「恐ろしく強い」……彼女の戦いを見て、信也が真っ先に考えたことはそれだった。
「さらに、彼女には死角がないと言われています。先ほど、最後の1体を仕留めた時も、そちらに目を向けることをしなかったでしょ? 360度の視界……それも彼女の武器と言えますね」
信也は無意識の内に頬から一滴の汗を流していた。自ら作り出した剣を二本の腕で投擲していく少女。その正確性、速度、破壊力は「剣の弾幕」と称される程に凄まじい。さらに、「剣の要塞」による防御で守りも完璧。
「あれが……ランキング1位の技か」
「はい、見た目は美しい少女で、戦闘に入ればスケイルビーストを物ともせず、一撃必殺級の攻撃を連続で撃ち出せる。そのギャップは相当に人気ですよ」
「なるほど……一撃必殺……か」
あの剣の投擲の一発一発が一撃必殺……まだまだ、ランキング制には疎い信也であったが、この短い戦闘を見ただけで、1位の強さだけは理解できた気がした。
「相対評価が加われば、アンジェリカ・ブルーローズさんの強さは嫌でも理解できると思います。ま、その辺りは追々……」
ファリスは話しているが、隣の信也は彼女の言葉を聞いていなかった。武者震いのように身体を小刻みに動かしている。
「こりゃ、なんだろうな? アンジェリカにももちろん興味はあるが……俄然、1位を目指したくなってくるぜ。せっかく、この地にやって来たんだ……1位を目指すのが男ってものだろ?」
アンジェリカの「剣の弾幕」を見て闘争心がより刺激されたのか……。ランキング1位へ駆け上がる、そんな強い目標が彼の中では沸き立っていた。
「信也先輩……先ほどの彼女の戦闘を見てもそれだけのことが言えるなんて、やっぱり凄いですね!」
「アンジェリカってずげぇ美人だよな。彼女を倒した時の特典も魅力的過ぎるな……」
「……そっちの目的もあるんですね、やっぱり……」
男だからな! 信也はそのように叫びたくなる衝動に駆られたが、それを遮る事象は既に起きていた。彼らの前方からは複数体のプライマルビーストが現れたのだ。