2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~ 作:イリーム
テント生活2日目の昼食はそれなりに豪勢なものとなっていた。その直前に行われたラングートとの戦闘もあってか、直接参加していない周囲の兵士も興奮気味だ。ラングートと信也の戦いの凄まじさを語っているのだ。
「信也先輩、食べれます?」
「ま、まあ大丈夫かな」
ファリスはこれみよがしに信也に、自ら捌いた刺身を箸に取り、口に持っていこうとする動作をしていた。シルビア、アズールの居る前ではさすがに照れ臭いので信也は、折れている左手を庇いながら、なんとか自分で刺身を食した。
「すげぇ、めちゃくちゃ旨いぞ……ファリスもそうだけど、シルビアもすげぇな……!」
「え? えへへ、そうですか……いや~照れちゃいます!」
自らの「あ~ん」攻撃を華麗に躱した信也に不満気なファリスであったが、すぐに上機嫌になっていた。
「ファリスだけやなく、ウチもさりげなく誉めるとか、信也は女たらしやな」
「くっくっく、10代の甘い青春ってやつか? 微笑ましいじゃねぇか」
シルビアも信也の微妙なフォローに嬉しそうにしている。アズールは全て分かった上で10代の青春を自らと重ねたのか、感慨深い表情をしていた。
信也の左腕は折れてはいたが、ファリスの回復魔法により、すぐに完治が見込まれた。といっても1日で治るわけでもないので、現在彼は右手のみで刺身や焼かれた肉を頬張っている形だ。
「しかし、オルタナフィッシュの刺身に加えて、陸クジラの肉とは……昼食にしてはかなり豪勢だな。はっはっはっ」
改めて昼食のメニューを見ながら、アズールは言った。
「陸クジラって……俺が居た地方では幻のメニューだな……」
信也の元の世界ではクジラ肉自体が珍しい物だ。非常に硬い肉と聞いたことはあったが、陸クジラの肉は、通常の牛のような肉と変わりなく、彼も戸惑っている。
「陸クジラを幻って……信也先輩って、本当にどこから来たんですか?」
「そうやな、別にオルタナ山脈の固有種でもない陸クジラを知らん奴なんて居らんと思うけど」
「げっ」
信也はひょんなことから、墓穴を掘ってしまった。別世界から来たことをどのように告げればいいのか……彼自身にもわかっていない。
「それに、明瀬信也ってすごい珍しい名前ですし」
「まてまて、出身とか不明な奴は多いだろ? アズールだってウィンザー法国出身とは限らないんじゃないか?」
悔し紛れの信也の一言。だが、そんな彼の言葉は一蹴されてしまう。
「ああ、俺はウィンザー法国出身だぜ? それに陸クジラ程度は知ってるしな。なるほど、お前は出身不明の人間ってことか」
「いや……」
不味い……信也は心の中でなんども連呼する。現状は敵かどうか不明なアズールよりも自分のほうが余程怪しい立場になっている……。
「もしかして、アトヴェント大陸外から来たのか?」
アトヴェント大陸はバルトシアン王国やウィンザー法国などが存在する、この大地の名前だ。アズールからの言葉に信也はチャンスとばかりに首を縦に振った。
「まあな……俺は大陸外からの人間だ」
「アトヴェント大陸の外に人の住まう地域があるなんて初めて聞いたぜ。確かに大海に覆われてはいるから、その可能性は否定できなかったが……なるほどな」
信也はしまったと感じてしまった。アトヴェント大陸はもしかしたら、地球でのユーラシア大陸のような広大な大陸なのかもしれない。
それを考えれば、自分の存在は非常に例外的なものだということになる。信也はここに来て、正直に話さなかったことを後悔し始めていた。
だが、ラングート・シュタインとやり合ったことが評価されているのか、信也の言葉は不思議と信じられていた。
「まあ、あのラングート・シュタインと渡り合える人間なわけだ。大陸外から来てたとしても不思議ではないな」
「マジなん? 信也、ますます魅力的やん!」
信也としても、全く意図したわけではなかったが、強さというものはこの世界に於いて何よりも信頼されるものであると理解することができた。
「逆に言えば、強い奴が独裁者だった場合はどうしようもないか……」
信也としてもその点は心配の種ではあった。王国最強のアンジェリカが、万が一国王の首を狙う者であった場合、誰もそれを防ぐことはできない。弱肉強食……そんな言葉を信也は改めて感じていた。
「俺の出身はいいとしてだな。ラングートの強さを再確認できたのは俺としても嬉しいぜ」
「ですね。実質、信也先輩でも近接戦闘では今のところ勝てないみたいですし」
ファリスに見事に看破されるのは悔しいところだ。だが、その見立ては正しいと言える。ラングート・シュタイン……あの男は信也以上の近接戦闘力を有している達人だ。例え言霊の能力を用いた本気の殺し合いをしたところで、現在の信也が勝てる可能性はどうか? おそらく、その勝率は50%を下回るだろう。
つまり、信也の方が実力は下ということを意味していた。信也としても納得の行くところではないが、ラングートを通じて目指すべきアンジェリカの実力を知れたことは有意義であった。闘技大会のルールにかざしたとしても、現在の信也では足元にすら及ばないかもしれない。剣の加護の能力を含めればその差はさらに広がるだろう。
彼女の強さを再確認できただけでも、信也の中では有意義なのだ。彼が心配することではないが、彼女を打倒せる者はしばらくは現れないだろうとする安心感。自らが彼女を打ち倒す一番になるという欲求の両方を叶えられるかもしれないのだから。信也が思っている以上に、彼はアンジェリカという美少女に魅せられていた。
「まあ、信也の健闘を称えて、乾杯やなっ」
「わかりました! ほらほら、アズールさんと信也先輩もグラス持ってください」
「おう」
「分かったよ」
4人は飲み物の入ったグラスを掲げて、信也の健闘を称えた。それからは陸クジラの肉とオルタナフィッシュの刺身などを頬張っていく。昼食のバーベキューはそのまま進んで行った。
そして昼食後、バーベキューの鉄板などを整理しているところに、兵士の報告は飛んできた。
「来ました! 猛獣の軍勢です!」
信也達、4人の表情が変化する。2日目の正午過ぎにその報はやってきたのだ。
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「よし、いよいよだな。意外と早くて良かったというか」
「信也先輩、左腕大丈夫ですか?」
信也はファリスにより心配された左腕を見る。治癒の魔法により、骨自体は付いているが、完治までは何日かを要する具合だ。
「仕事直前にやることじゃなかったな……すまん」
信也は自らの戦力が低下していることに申し訳ない気持ちが強くなっていた。しかし、周囲は気にしている素振りはない。
「なかなかいい物を見せてくれたからな、気にするな。猛獣如き、俺様がサクッと始末してやる」
「ウチも頼りにしてくれてええで! 頑張っていこか!」
「信也先輩は後方支援ってことで。私たちに任せてくださいねっ」
アズール、シルビア、ファリスの3人は信也を責めることなく、先陣に立つことを了承する。信也だけ後方からの支援という形になった。彼は3人に感謝しつつ、薙刀を装備する。
場所はAポイントよりさらに登ったところ、標高1000メートル程度のポイントで戦闘は開始されることになる。