2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~ 作:イリーム
オルタナ山脈の1000メートル地点。木々で覆われた場所から最初に現れた猛獣はダブルヘッドスネークだ。大きさは成人男性くらいだが、双頭の蛇であり、それぞれの首は意識も独立していると言われている。
毒蛇ではないのだが、強烈なブレスは単純に物理攻撃として脅威なのだ。ヒドラの子供に該当している。
「来たぜ、数は10体ってところか? 俺が全て片付けてやるよ」
先陣を切るのはアズールだ。手に持っている大きな斧を向かってくる蛇に叩きつける。その速度は避けられるレベルではなく、次々とダブルヘッドスネークは切り刻まれていった。
「あれ、ウチら出番ないやん」
「ホントに強いですね……」
改めて、シルビアとファリスはアズールの戦闘能力の高さを思い知った。彼は、ダブルヘッドスネークのブレス攻撃すらダメージを負っていないのだ。最早、遠距離からの援護は必要ない。闘技大会での実力はほんの一端に過ぎない……信也も含めてそんな感情を抱いていた。
「でも、何もせんのは沽券に関わるな」
そう言いながら、シルビアは矢筒から矢を取り出し、弓矢を放ったのだ。前方のアズールに当たらないように、大きく弧を描いてダブルヘッドスネークの1体に命中する。急所を突かれた蛇はその場で絶命した。同じように、ファリスも氷の弾丸を残党目掛けて放っていく。
その光景はダブルヘッドスネークに同情するレベルとなっていた。さすがは6位と7位だ、先陣を切ったアズールと比較しても勝るとも劣らない働きと言える。
「ほう、流石は上位ランカーだな。見た目はお嬢さんだけにギャップが凄いぜ」
「えへへ、これでもランキング7位の地位に居ますからね!」
「ウチは6位やで? あんたよりも上や」
アズールに特に驚きはない。そのくらいの順位は予想済みだったようだ。それとも年長者としての経験の違いか、彼はその後も彼女たちを引き立てていた。
「アズール・コアルドイ……強さはもちろんだが、人格者だな」
後ろに立つ信也はアズールの懐の深さを改めて思い知った。ラングートと比較しても懐の深さはひけを取らないだろう。圧倒的な経験に寄るものか、彼の言動は余裕に満ち溢れている。
「おいおい、今度はデスラビットとプライマルビーストの登場かよ」
ダブルヘッドスネークは全滅させた。しかし、間髪入れずに現れたのはデスラビットとプライマルビーストだ。プライマルビーストは毒霧が、デスラビットは猛毒の爪や牙が脅威となっている。
「今度は毒づくしかよ、面倒な奴らだな」
常人であれば、デスラビットやプライマルビーストの毒は受ければ死に直結してしまう。アズールとはいえども、毒をまともに受けてノーダメージは難しい。
しかし、彼は息を止めた状態で突進するのみであった。デスラビットの攻撃は皮膚を貫通することがなく、プライマルビーストのブレス攻撃は息を止めることで対策をしたのだ。その結果、アズールはデスラビットたちを援護なしに完全に殲滅することに成功した。
彼の周囲は何十体もの猛獣の死体と肉片が散乱している状態だった。決して通常のランカーや冒険者ではできないことを彼は平然と成功させた。Aポイントの兵士たちもこれで助かったことになる。彼らでは相当な犠牲を被っただろうからだ。
そんなアズールの活躍ぶりに感心していた信也達だが、邪魔が入るとは予想していなかった。邪魔というのは信也達に直接影響のあるものではなかったが。
「カスの猛獣如きが! さっさと死ね!」
信也たちはその声を聴いた瞬間に眉をしかめた。アズールもその声の主を目線で追っていた。
アズールの視線の先にはテオの姿があった。新たに向かってくるデスラビットに対抗しているようだ。こちらの視線にも気付いている
テオは手に持った容器をデスラビットに噴射。一気にアズール達も含めて煙が修理を覆った。その段階で聞こえる刃物の音。おそらくは煙幕での隙を突いてテオがデスラビットたちを仕留めている音であろう。
知られていることではあるが、テオはこういった戦法を大の得意としていた。知能が働かない猛獣にはかなりの強さを発揮できると言えよう。デスラビットたちの何体かはテオが仕掛けたベアトラップにもかかっていた。
「はっ! 所詮、獣なんぞこんなもんだ。知能もくそもないような、バカ共の集まり……」
勝ち誇っているテオは優越感に浸っているのか、自らの罠にかかっている猛獣を見下し始めていた。
「もちろん、人を攻撃する猛獣に同情の余地はないけど……それでもテオの言葉は好きにはなれんね」
テオの得意とする罠による攻撃……普段なら、同じランカーの功績は称賛したいシルビアではあるが、彼の言動は好きにはなれなかった。ファリスや信也も感情としては変わらない。
罠の張り巡らせる行動力や、煙幕を張るタイミングを見ても相当に強者であることを漂わせる雰囲気を持っているテオ・マークレス。
だが、そんな彼の技は猛獣特化と言えばいいのか……対人戦にて、対策をしてくる人物に対処できるのかという不安は残る戦法といえる……。彼の雰囲気からも、想像以上のことには弱いのではないのかという感情が信也の中でも芽生えていた。
プライマルビーストとデスラビットたちも討伐された段階で、テオはこちらに顔を向け、不敵な笑みを浮かべていた。
「はっ! また、胸糞悪い連中に会ったもんだな。しかも、ウィンザー法国のスパイとつるんでいやがるとはどういうことだ?」
一応、テオにも情報は行っているようだ。明らかに彼の言動はアズールに向けれらたものだった。
「こいつは胸糞悪いもんだな。明瀬、お前がしかめっ面になる意味合いはわかるぜ」
「わかってもらえて嬉しいよ」
さすがのアズールも苦笑いなのか、デスラビット達を全滅させたにも関わらず、テオとの遭遇の方が、よほど緊張感を高めるものだった。
「アズール・コアルドイだな? 敵国のスパイの分際で調子に乗ってんじゃねぇよ!」
「……」
人には言っていいことと、悪いことがある。テオはその境界を越えたようだ……さすがのアズールも表情を真剣なものへと変化させ、テオの前へと移動を始めた。だが、
「ベアトラップ……俺へ仕掛けるつもりだったのか?」
「よく気付いたな、さすがは腐ってもウィンザー法国の人間ってところか?」
いつ仕掛けたのかはわからないレベルでの早業。アズールほどの人間に接近戦を許しては不利と感じたからなのか……仕掛けられた罠は明らかにアズールを狙っていた。だが、テオの予想は外れてしまう。アズールはその罠にはかからなかったのだ。
「なるほど、これがお前の能力か……どこまでが本気かわからない。先ほどの挑発も全て織り込み済みだったとも考えられるな」
「……」
テオは不敵な表情を見せるだけで、それ以上はなにも言わなかった。テオの強さの秘密にはどこまでが全力かわからないことが挙げられる。
挑発の言葉から、設置される罠……それを抜けても、さらに罠が仕組まれているのではないかという心理的負荷を相手に負わせることができるのだ。それはテオ・マークレスの強さの一端となっていた。
そんなテオの雰囲気には、アズールも警戒心を強める。ここで下手に近づくのは得策ではないと彼も感じていたようだ。テオもそれに気付いたのか、小さく舌打ちをしていた。
信也たちは不快な思いは増幅させつつも、仲間同士での争いが行われなかったことに安心していた。脅威はまだ去ったわけではないのだから。
「ちょっと、みさなん! あれは……」
「メインディッシュって言えばいいんかな? 厄介な奴が来たで……!」
ファリスとシルビアは森の奥から現れる影に目をやっていた。そこから現れるは……何体ものプライマルビーストを引き連れた、スケイルビーストであったのだ。テオとアズールの2人もすぐにその方向に向き直る。さきほどまでの猛獣とは格が違う……そのような表情をしている。
「スケイルビースト……こりゃ、少々気合いを入れる必要があるな」
アズールの関心はテオからスケイルビーストへと移っていた。彼の表情は今までの中でも最も真剣なものへとなっている。信也もスケイルビーストを見据え、万が一に備えて臨戦態勢を維持していた。