2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~ 作:イリーム
強力な猛獣として知られているスケイルビースト。アルファ大森林と同じく、オルタナ山脈でもその姿は目撃されることがある。極寒の地域にも適応することが可能な体毛を有した四足歩行の獣であり、その牙の一撃と鬼を思わせる顔つき、その口から放たれる猛毒のブレスはプライマルビーストとは桁が違う。
「プライマルビーストは数十……スケイルビーストだけでも厄介なのに……」
以前にアルファ大森林でアンジェリカが遭遇していた状況と酷似している。ファリスはそのことを考えていたが、あの状況を打破できたのはアンジェリカだったからだ。
「プライマルビーストはそこそこの上位ランカー数十と同等と思ってええ連中やしな。さて、どのように戦おか」
「では、私の魔法で……」
作戦を考えている最中、スケイルビーストは猛突進を開始した。こちらの状況など知ったことではないといったところだろう。
「ちい! どいてろ!」
一気に距離を詰めたスケイルビースト、その巨大な牙でファリス達を血祭りにあげるつもりだったが、そこに飛んで来たのはアズールだ。大斧をスケイルビーストめがけて振り抜いた。
大きな音とともにスケイルビーストの牙とアズールの斧は鍔迫り合いを開始していた。不意を突かれたファリス達は無傷だが、アズールの剛腕にもスケイルビーストは全く力負けしていない。
「くっ! なんという力だ……! お前ら、一旦離れて態勢を立て直せ!」
「悪い!」
「すみません!」
鍔迫り合い中にアズールからの指示が飛んでくる。すぐにその場を離れるファリスとシルビア。しかし、追撃はスケイルビーストの背後のプライマルビーストが行っていた。2人に距離を話す機会を与えないとばかりに、何体かが彼女らに迫っていた。
完璧な攻撃タイミングだ。プライマルビーストはスケイルビーストを頂点とすることで、さらに戦闘能力を上げる猛獣であったのだ。
「跪け!」
「ギャ……!」
しかし、追撃を開始したプライマルビーストは信也の言霊の力によりその場で倒れこんでしまう。最も背後から戦局を見ていた信也が一番冷静だったのだ。声に躊躇いは感じられない。
「今だ、ファリス!」
「はいっ!」
完全には制御できていないプライマルビースト。しかし、その動きの制限だけでも彼らには十分であった。ファリスは空中に氷の刃を造り出し、動きの鈍ったプライマルビースト目掛けて射出した。
「グギャ!」
「ギャン!」
残酷な刃はプライマルビーストを次々と貫いて行き、その命を絶っていく。残るプライマルービーストもシルビアの矢の餌食となっていた。
「よし! 向かってきた奴らは全滅できたで!」
「アズールさんは!? あと、テオさんも!」
アズールは斧をスケイルビーストに咥えさせながら、なんとか猛攻を凌いでいた。先ほどの鍔迫り合いから動いている気配はない。その後方ではテオはベアトラップにより、何体ものプライマルビーストを捕えていた。信也達に対する追撃がこの程度だったのもテオのおかげということになる。
「くははははっ! ざまぁねーな。本来なら毒ガスで苦しみ抜いて殺してやりたいところだが……今回は特別に一瞬で殺してやる」
彼が出したのは自作のダイナマイトだ。ベアトラップにかかっているプライマルビーストに設置すると、その場を離れすぐに爆発させた。粉々になったプライマルビーストの肉片は四方へと大きく散らばった。
「……あの思い切りの良さ……やっぱりただ者やないな、あの男。好きになれんけど」
「ダイナマイトを設置してからの爆発のタイミングも早すぎます……」
「一切の淀みがないな」
ファリス、シルビア、信也の3人はテオの動きに改めて驚かされた。アズールを挑発した時にも感じていたが、テオは罠の設置に全くの隙がない。ベアトラップの設置と爆弾の設置に対しても躊躇うことなく高速で設置、一瞬で標的をあの世まで連れて行く。猛獣との戦闘に於いて、彼の能力は必須の能力と言えるのかもしれない。
信也達は4人でプライマルビーストはほとんど全滅させることに成功した。残りはボスだけだ。
「ぬうっ!!」
スケイルビーストは周囲の状況を把握したのか、アズールを大きく弾き飛ばした。力負けをした彼に、間髪入れずに毒のブレスを噴射。アズールはそのブレスを直撃させ、さらに後方へと退いてしまった。
「がふっ! ……野郎……!」
力負けをした挙句、毒ガスによる一撃も受けたアズール。その場で片膝をつき、肩で息をし始めた。全身に毒が回り始めたのか、簡単には立ち上がれないようだ。その猛毒は常人であれば1分もしない内に死亡してしまうほど強力な毒となっていた。アズールといえどもただでは済まない。
そんな中、スケイルビーストは後方に居るテオに目線を合わせた。
「ゴルルルルルル」
「子供を無残に殺され切れているのか? なら来いよ、子の仇だぞ俺は?」
既にベアトラップの設置は完了しているテオ。準備は万端といった表情をしていた。スケイルビーストは知能を有した猛獣だ。ベアトラップの存在に気付いたのか警戒している素振りを見せている。
「警戒しているのか? なら、無理矢理にでも来てもらおうか」
「!」
テオがそう言った瞬間、スケイルビーストの右足には糸のような物が巻き付いていた。テオが仕掛けたトラップの一つだ。彼は糸を高速で巻き取る形で、強引にスケイルビーストを自らのテリトリーに引き寄せる。
「ちっ、流石に馬鹿力ということか……」
だが、想定よりも引き寄せることができない。スケイルビーストはバランスを崩しながらも、圧倒的な力で抗っていたのだ。しかし、ベアトラップの場所まで引き寄せることはできた。テオとしても成功と言える。そして、ベアトラップの刃はスケイルのビーストの脚を襲った。
「……なに?」
だが、スケイルビーストはそのまま立ち尽くしている。ベアトラップによる一撃はスケイルビーストを貫通することはできなかったのだ。絡みついていた糸を強引に引きちぎり、スケイルビーストはテオ・マークレスに迫っていた。