2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~   作:イリーム

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43話 スケイルビースト その2

 

「グルルルルルルッ!」

「……ちいっ! 馬鹿力は始末が悪いな。俺のトラップを弾き飛ばすとは……」

 

 テオは狼狽えているのか、スケイルビーストに攻撃を始める様子を見せていない。いつスケイルビーストに頭部を噛み千切られてもおかしくない状態であった。

 

 しかし、彼の右腕には先ほど出した煙幕の装置と左腕には毒瓶と思しき物が握られていた。まだ対抗策は残っているようだ。

 

「どうした? 来ないのか?」

「……」

 

 ベアトラップを物ともしなかったスケイルビーストではあるが、彼の持っている物に警戒心を強めているようだ。彼に突進をする様子はなかなか見せないでいた。

 

 

「本当に始末が悪いな……てめぇは。無駄に知能があると、楽に死ねないぜ?」

 

「ゴルルルルッ」

 

「テオさん、離れてください! アイスシャワー!」

 

 襲われかけているテオを救うべく、ファリスは氷の散弾をスケイルビーストめがけて撃ち出した。散弾はつららの形状をしており、殺傷能力も十分だ。それが高速で死角からスケイルビーストに迫っていく。

 

 死角からの攻撃の為、さすがのスケイルビーストも避けることは叶わなかった。だが、スケイルビーストは氷の散弾の直撃を受けても、ダメージを負っている気配はない。

 

「嘘……」

 

「こりゃ、不味いで……ウチの攻撃はどうや!?」

 

 今度はシルビアが弓矢を連続で射出した。スケイルビーストはシルビアたちに振り返り、猛毒のブレスを発射する。ブレス攻撃はシルビアの矢を飲み込みながら、彼女たちに迫った。

 

「嘘やろっ!?」

「どいてろ! 二人とも!」

 

 彼女たちの前に立ったのは信也だ。左腕は使えない彼ではあるが、二人を守るべく薙刀を振り回し、猛毒のブレスを打ち払って見せた。そして、間髪入れずに飛ばす言霊の力。

 

「スケイルビースト! 死ねっ!」

 

 放たれた音速の言霊は一瞬の内にスケイルビーストまで到達した。

 

「グル……!」

 

 信也の強烈な言霊の力。身体的なダメージは負わせられなかったが、少しだけスケイルビーストを硬直させることには成功したようだ。スケイルビーストの動作が多少鈍っていた。

 

 

「……!? 全然効いてない!? ……いや、動きは遅らせたか? ファリス、シルビア! 今の内に攻撃をしてくれ!」

 

 片腕が折れている自分では直接戦闘はしない方が良い。信也はファリス達に振り返り、攻撃を促した。

 

「わかりました!」

 

「さっきは防がれたけど、今度は本気で行くで!」

 

 ファリスとシルビアの全力と思われる溜めを有する攻撃。ファリスは巨大なつららを召喚しスケイルビーストへと撃ち出し、シルビアは巨大な魔力を乗せた矢をスケイルビーストの視界から外すように大きく円を描くように射出したのだ。

 

「グオオオオオッ!!」

 

 動きの鈍ったスケイルビーストは、そんな二人の攻撃を避けられずに直撃してしまう。渾身の一撃の直撃を受けたスケイルビーストは、流石に皮膚を貫通させ致命傷と思わせる程の大量の血を噴出させた。。

 

 そして、その前に現れるのは先ほどまで座り込んでいたアズールだ。大斧を振りかぶっている。

 

「なかなか強敵だった、誇っていいぜ」

 

 そして振り下ろされる一撃はスケイルビーストの脳天を貫通させ、そのまま絶命に至らしめたのだ。スケイルビーストが動かなくなったのを確認してから、彼はその場に座り込んだ。アズールはまだ毒が抜けていないのか、全身から汗を流している。ファリスやシルビアもスケイルビーストの死亡を確認してから肩の力を抜いていた。

 

「スケイルビースト……こんなに強いんやな……」

 

「私もまともに戦うのは初めてですけど、驚きました……!」

 

 シルビアとファリスはスケイルビーストのことを考えながら、肝を冷やしていた。もう少しで彼女たちは大けがをしていたかもしれないからだ。信也が立ち塞がらなければ彼女たちもただでは済まなかったことは明白だ。

 

 信也もファリスとシルビアが無事なことに安心して、肩の力が抜けるのを感じた。そして、アズールに手を差し伸べる。

 

「お疲れ。立てるか、アズール?」

 

「ちょいと猛毒をまともに吸っちまったみてぇだ。肩貸してくれるか?」

 

「お安い御用だ」

 

「できればファリスとシルビアの嬢ちゃんに介抱されたかったがな」

 

 信也に支えられながらアズールは立ち上がる。冗談を言うあたり、身体は思いの外元気なようだ。

 

 そして、改めてスケイルビーストに皆は視線を集めた。後方で待機しているテオも同じくスケイルビーストを見ている。

 

 上位ランカーがこれだけの人数を揃えても、倒すのにそれなりの時間を要した相手……。もし、あと何体か同時に現れたらどうなっていたかわからない。

 

「スケイルビーストか。1対1で負けるつもりはねぇが……かなりの強さだったな。獣ながら天晴れだぜ」

 

 アズールは自らが止めを刺したスケイルビーストを見ながら、称賛の念を感じていた。程度の差はあれど信也たちも同じ気持ちである。

 

 以前見たスケイルビースト討伐は特別だっただけだ。スケイルビーストの相手が悪すぎたと言えるのだろう。

 

「私の知る限りでは、スケイルビーストの討伐を単独で行ったのはアンジェリカさんやラングートさんくらいだと思います。あとは……」

 

 ファリスは話しながら、言葉を途中で詰まらせた。信也も彼女に質問する。

 

「あとは、なんだ?」

 

「いえ、なんでもないです。他にも心当たりはありますけど、確定ではないですし」

 

 ファリスは他にも心当たりがあったようだが、それ以上語ることはなかった。

 

 

「しかし、実質は5人での勝利やな。この戦績は芳しくはないな」

 

 シルビアは弓矢を肩に掛けながら、沈んだ表情をしていた。上位ランカーと言っても過言ではない面子5人での勝利だ。この戦績をどう見るか……。

 

 結果的に大けがを負った者は居なかったが、ある程度の苦戦を強いられたことも事実。果たしてここに居る者たちは、全員が1対1の勝負でスケイルビーストを敗れるかと言えば多少の疑問が残る。それほどに、スケイルビーストの強さは際立っていたと言えるのだろう。

 

 信也の中で今回の戦いは大きく刻まれることになった。

 

「単独で倒すことが冒険者の仕事ではないですし、いいじゃないですか。死んだら無意味ですもん」

 

 ファリスの言葉に周りの者たちも頷いていた。単独で戦い勝利をすれば問題ないが、あの世に行ってしまっては、なぜ複数で戦わなかったかと後悔するだろう。それならば最初から複数で戦う方が合理的だ。彼女は孤児院出身だからか、妙な説得力に満ちていた。

 

「けっ、俺に任せておけばもっとスマートに殺せたのによ」

 

 テオは相変わらずの口調で信也たちに話しかける。しかし、さすがにその挑発に乗る者は誰も居なかった。スケイルビーストを討伐したという高揚感に包まれていたからだ。テオもそれがわかったのか、軽く舌打ちをしてそれ以上はなにも言わなかった。

 

 とりあえず、大体の猛獣は討伐したと言えるだろう。テオも含めて、依頼は達成したことになる。

 

「ところで、依頼の金額は5等分でいいか?」

 

 信也は思い出したかのように言葉を発した。テオも入れての計算だ。テオも自分が入っていたからか、あからさまな反論はして来なかった。

 

「いいんじゃないですかね。スケイルビースト討伐は皆さんの連携があってこそだと思いますし」

 

「ウチも構わへんで」

 

「俺もそれでいいぜ」

 

「……ふん」

 

 シルビア、ファリス、アズールが賛成の意見を出す中、テオだけは明確には回答を出さなかったが、特に反対というわけでもないようだった。

 

 と、そんな時、Aポイントの兵士の一人が、彼らの方向へ猛スピードで走ってきたのだ。

 

「大変です!」

 

 信也達にそう叫ぶ兵士の表情は、一大事を表していた。

 

「どうしました?」

 

「猛獣たちが、麓の町めがけて迫っている模様です! おそらく、別のポイントから出現した猛獣たちでしょう!」

 

 兵士の言葉を聞いた瞬間、信也達の表情は一変した。戦闘はまだ終わっていなかったのだ。

 

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