2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~ 作:イリーム
「不味いぞ! お前たちはアルドーの街へ向かえ!」
「お前たちはクリステル市街だ!」
Aポイントの兵士たちは、武器を構えそれぞれ部隊に分かれ始めた。各街へ救援に向かうようだ。
「大分、騒がしくなってきたな。もうひと暴れしてやるか」
ありがたい! できましたら、クリステル市街へ行ってもらえませんか? 最も住民が多い街になりますので」
アズールの言葉に、駆け付けて来た兵士は敬礼をしながら言った。だが、それを聞いていた信也の表情は暗い。
「シルビア、故郷は危ないんじゃないか?」
「え? そうやけど……う~ん……」
「念のため聞いとくか。あの、エルフの里への派兵はどのくらいですか?」
信也としては何気なく聞いた一言だ。悪気があったわけでも疑心暗鬼になっていたわけでもない。それは質問された兵士も同じであった。
「はあ? エルフの里への派兵は予定していませんが……」
聞かれた兵士は反射的に答えていた。
「なに?」
「信也、こんなもんやて。いくら平和協定結んでてもな。有事の際はエルフは後回しにされるねん」
シルビアは当然のように語っていた。信也としては納得できるところではないが、ファリスやアズールも特に驚いている気配はない。
やはり、種族間の差別や争いというのは水面下では起こっているのだろう。兵士としては職務を全うしているだけであり、彼らを責めるのも筋違いというものだ。
「くっくっくっ、ならば俺がエルフに恩を売るチャンスだな」
兵士の言葉を傍らで聞いていたのか、不気味な笑顔になっていたのはテオ・マークレスだ。もはやその表情だけでも、何を考えているのか想像ができる。彼は、すぐにその場を後にした。
「あいつ……」
「いや、信也先輩。あれは絶対に、信也先輩が考えそうな表情をしてましたよ」
「まて、ファリス。俺がそんなエロい考え持つわけがないだろ」
「想像したっていうことは、図星と同じです」
ファリスに自分の中を見透かされ、信也は慌てる。しかし、テオの考えはそういった類のものだろう。エルフは長寿でも貴重なのだから。
「テオの野郎の考えはともかく、猛獣が迫っている中、誰も助けに行かないのは不味いな。俺達で行くか」
アズールも当然のようにそう言った。信也とファリスも彼に頷いている。そんな何気ない態度で、決して恩着せがましい態度など取らない彼ら。出会ってまだ間もないはずだが、その信頼関係は相当なものを表していた。
「あんたら……なんていうか、ありがとうな」
「気にするなっての。仲間だろ?」
「うん。ありがと、信也」
シルビアは笑いながら手を前に差し出した。信也もその手に軽く触れる。二人の信頼関係はより深まるような行為だったのか、信也としてもシルビアの考えていることがわかった感覚になった。自分への信頼は向上している、と。
言霊の能力がパワーアップをした瞬間であったのだ。信也の身体は大きな光に包まれた。彼の中での大きな加速……その光は彼にしか見えていないが、確かに彼の身体から発せられた。
「信也、どうかしたん?」
「いや……なんでもない」
シルビアは放心状態になっている信也に話しかけるが、彼は冷静に返した。それから、彼らはエルフの里へと向かうことになるが、信也はその間も考えていた。
……言霊の能力の向上。それは、自らの身体能力の向上でも上昇するが、もう一つ上昇する要因がある……。仲間との絆だ。信也としてもこちらの方が、よりはっきりと感覚的に確信することができた。信頼関係の向上によって、相手の言霊を自分の中に吸収することができる。それが、信也の言霊の能力の上昇に繋がっているのだ。
「左腕が……治ってる。凄いな、ホント」
「えっ? もう治ったんですか?」
普通に左腕を動かしている信也に、ファリスも驚いていた。自己治癒能力が上がっているのだ。
「明瀬。なにか悟ったか? さっきまでと顔つきが違うぜ」
「強くなる指針が明確になった」
信也はアズールに自信満々に言ってのけた。それと同時に、向上した力を試したいとの欲望も増えていた。信也の成長は、この依頼を通しただけでも上がっている。非常に早い速度と言えるだろう。
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「行ったか」
信也達がエルフの里へ向かったのを確認するかのように、先ほどまでの場所にラングートが現れた。頭を抱えているのは先ほどまで、信也達と話していた兵士だ。
「よかったんですか? 彼らをエルフの里に向かわせて」
「ああ、大丈夫だ。政治的な事情で派兵がしにくいのは事実だからな。彼らが向かってくれれば好都合さ」
ラングートは全てを読んだ上で、目の前の兵士に演技をするように命じていたのだ。テオが向かうことも予想済みだった可能性もある。
「しかし、あの方たちの協力がなければ、麓の街の被害は相当に大きくなりかねませんよ?」
「そちらは私が行くさ。あとは……彼らもな」
ラングートはそう言いながら、後ろを指差した。兵士は背後に気配を感じ振り向く。彼の背後に並び立つのは、特殊な鎧が印象的な部隊「鉄騎隊」だ。
「さて、行くぞ」
「はっ」
ラングートは先陣を切り、20人ほどの鉄騎隊を引き連れていく。300人で構成される鉄騎隊の10分の1にも満たない数ではあるが、周囲の兵士たちを圧倒するには十分すぎる威圧感を漏らしていた。