2重の言霊使いは最強ランク1位を目指す~驚く程の好待遇と女性に困らない人生を送りたい~ 作:イリーム
「気を付けてくださいね、信也先輩。アンジェリカさんは一瞬で倒していましたが……あれは、彼女だから出来た芸当ですよ」
「ファリスは俺の力を信じてないのか?」
信也は特に意識して言ったわけではない。ファリスが自分の力をある程度認めていることは分かっている。その上で、敢えて質問をしたのだ。
「違いますよ。ただ、スケイルビーストの子供のプライマルビースト……ランキング27位のあの男よりもかなり強いと言いたいだけです」
信也の表情が変化する。確かに、プライマルビーストから発せられている威圧感は、信也が余裕で倒した27位のリーダー格の男を越えていた。
だが、信也がそんなことで臆するはずはなかった。彼はプライマルビースト相手でも汗を流すことなく、「言霊の力」の検証に利用する算段を立てている。
「プライマルビーストは全部で……8体くらいか?」
「接近戦は任せてもいいですか、先輩?」
「わかった。なら、先に行かせてもらうぜ」
信也はなにかの漫画の主人公のセリフを思い浮かべて悦に浸っていた。もちろんこの世界では引かれることはない。ファリスも頼もしいといった表情になっている。プライマルビーストが迫る中、彼は自分の趣味を全開にしても大丈夫な環境に酔いしれていた。
プライマルビーストの前に立つ信也はファリスからすれば頼りになる相棒といったところか。
前に立つ信也を待つ義理などないプライマルビースト達は速攻で攻撃を開始する。だが、それは予想の範囲だ、すぐに信也も対処した。
「跪け!」
信也の低い命令は音速の波となってプライマルビーストに襲いかかる。その音圧はプライマルビーストの三半規管を狂わせ、その場で動きを止めた。しかし、効きはイマイチなのか、完全に制御できていない。その場で震えながら、必死で抵抗している様子を見せている。
「やっぱ、完全には動きを制御できないか。ま、予想通りだが……」
信也は冷静に言葉の力を検証し、プライマルビーストクラスには効きが落ちることを感じ取っていた。しかし、自らの実力の向上と共に言霊の能力も上がる……そんな確信も彼は持っていた。
「よし、次は……音弾っ!」
必死に言葉の力に抵抗しているプライマルビースト達に追い打ちをかけるように信也は音圧の塊を飛ばす。音速に匹敵するスピードのそれはプライマルビースト達に命中すると同時に、その身体を大きく後方へと吹き飛ばした。
「ギャン!!」
大きく飛ばされた数体のプライマルビーストは痛みにより悶え苦しんでいる。その痛みから解放された時には、当たり前のように信也の追い打ちが襲った。
「重力っ」
「ギャッ!」
プライマルビーストは自らの体重が数倍になる感覚を植え付けられる。そして、それに抗っている間に繰り出される攻撃は、無情な薙刀の攻撃だ。プライマルビーストの急所を捉え、4体のプライマルビーストをあの世に送った。
信也は汗1つ流すことなく勝利を収めた。初戦の時は、相当な緊張感も襲っていたが、薙刀という護身用の武器も手にしているからか、2戦目はかなり冷静でいられたと信也も感じていた。
「うお……寒いっ!」
そんな時、信也の近くは相当に冷え込み始めた。
残りのプライマルビーストが本来であれば、信也に襲ってきてもおかしくはなかったのだが、プライマルビースト達は猛吹雪に曝されており、それどころではなかった。
もちろんその攻撃を行っているのはファリスだ。遠距離から氷属性のブリザードを発生させて、プライマルビーストの身体を凍りつかせている。
「すげぇな……」
「ここからですよ、信也先輩」
そう言いながらファリスは杖を大きく掲げて、巨大な雹を発生させた。作り出された雹はそれぞれのプライマルビーストに向かって飛んでいく。
「グガ!」
「ゴアッ!」
雹が命中したプライマルビースト達は、凍りついた半身を次々と崩壊させて行った。もちろん生きてはいられない……砕け散った肉体は氷に包まれ美しく輝いていたが、光景としては残酷なものだ。
プライマルビースト達は、こうして信也とファリスに寄って退治された。
「結構時間かかったな……こいつって、スケイルビーストの子供なんだろ?」
「そうですけど。プライマルビーストを簡単に倒すなんて誇らしいことだと思いますよ? 信也先輩の実力は確実に20位以内には入ってそうですね」
「……誇らしいことね」
賞賛するファリスとは裏腹に、信也の表情は固い。自らが、プライマルビースト討伐に要した時間……。
まだ、「言霊の力」について知ったのが数時間前であることを考慮すれば、相当早いタイムと言えるのかもしれないが、崖下のアンジェリカが要した時間とは比べるべくもなかった。
さらに倒した数も違う上に、彼女にはボスのスケイルビーストまで居たのだ。プライマルビーストを簡単に倒した信也ではあったが、どこかやり切れない気持ちを持っていた。
「……」
信也とファリスの存在に気付いていたアンジェリカ。戦闘が終わったのを確認したのか、彼女はその場を後にした。遅れて、信也達もアンジェリカが姿を消していることに気付いた。
「アンジェリカさんの戦いも見ましたし、戻りましょうか。泊まる所とか案内しますね」
「おう、悪いな。頼む」
さすがに野宿をするわけにも行かない。本当に今日は行ったり来たりとせわしないが、もう一度、王都へと二人は戻って行った。