|狂戦士《ベルセルク》の名を冠するモビルスーツ   作:晴月

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第二話 起動する狂戦士

バルバトスがグレイズの頭部をメイスで破壊し、行動不能にする。

 

「マジかよ...ホントにやっちまった...!」

 

「あれに三日月が...?」

 

「乗ってるっていうのか...?」

 

モビルワーカーから姿を見せたシノと昭弘が戸惑いを見せる。

 

「そ、そんな...モノリス隊長が...此所にモビルスーツがあるあんて情報は無かったのに...!」

 

グレイズのパイロット アインも驚愕し、

 

それにしても何故、モビルスーツが土煙の中から飛び出してきたか。

 

━━━━━━━━━

 

数時間前、三日月はモビルワーカーを"とある"格納庫へと移動させていた。

 

「おやっさん、入るよ。」

 

三日月はそこで再びクーデリアと出会った。

 

「三日月...」

 

クーデリアはこんな子供が戦っているのかと少し悲しい気持ちになった。

 

「おう、来たか三日月!」

 

おやっさんは三日月が乗ってきたモビルワーカーを分解し、その中から使えそうなパーツを白いモビルスーツへと移植していく。

 

「これどうすんの?」

 

三日月は白いモビルスーツを見ながらおやっさんに聞く。

 

「これは元々転売目的でマルバが秘蔵してたもんでな、コクピット周りは使う用がねーからごっそり抜かれちまってたんだ...だからこいつを利用する。」

 

おやっさんが外したそれは阿頼耶識(あらやしき)システムと呼ばれるシステムである。

 

「モビルワーカーのシステムで動くの?」

 

「ああ、システム自体は元々あったものを使う....ほれ、一応目を通しておけ。」

 

おやっさんは三日月に説明書らしきものを渡すが、三日月は読めないからと、受け取らなかった。

 

「あーそうだったな....まぁ、欲しいのは阿頼耶識のインターフェイスの部分だけだ、大戦時代のモビルスーツは大体このシステムが━━」

 

「阿頼耶識?....それは成長期の子供にしか定着しない特殊なナノマシンを使用する危険で人道に反したシステムだと━━━」

 

「ナノマシンによって脳の空間認識を司る器官を擬似的に再形成し、それを通じて概念を切り....この場合、モビルスーツの情報を脳で処理できるようにするシステムだ。」

 

クーデリアが否定しようとした阿頼耶識システムをおやっさんが出来る限り詳しく説明し、クーデリアを無理矢理納得させる。

 

「いいよ。」

 

「よし。」

 

三日月はモビルスーツのシートを外し、インターフェイスを接続できるようにする。

 

「こんなものが無けりゃあ、学も無ぇこいつらがこんなものを動かせる訳ねぇーだろ。」

 

「ですが!」

 

「クーデリア。」

 

突然、クーデリアを呼ぶ声が真横から聞こえる。

 

「さっきぶり。」

 

振り向くとそこにはミカゲが立っている。

 

「まぁ、そう言わないでくれ....これが無かったら、俺達は今頃全員死んでるんだからさ。」

 

「でも!」

 

クーデリアは納得がいかないのかまたもミカゲに食らいつく。

 

「ハァ.....仕方ない。」

 

ミカゲは嫌々ながら上着を脱ぐ。

 

「クーデリア、見てみろ。」

 

ミカゲは背中をクーデリアに見せる。

 

「.......!!!」

 

ミカゲの頚椎にあたる部分には阿頼耶識のインターフェイスを接続できるようにするための管が取り付けられている、それも三日月のものと比較するとおよそ"二倍"の量である。

 

「此処にいる俺達は全員"これ"を付けられている....でなけりゃ俺達は本当に行き場を失う。」

 

そう言って脱いだ上着を着直す。

 

「別に俺は阿頼耶識システムを"認めろ"と言いたい訳じゃない.....ただ、"受け入れろ"と言ってるんだ。」

 

「わ、私は.......」

 

クーデリアはミカゲの言葉にそれ以上何も言えず、ただ黙っていた。

 

「それとおやっさん、"こっち"の整備は終わった。」

 

ミカゲは隣の"黒い"モビルスーツを指差しながら答える。

 

「おう、なら後は燃料を入れてくれ。」

 

「了解。」

 

ミカゲは燃料が入ったタンクを取りに走っていく。

 

その様子を見終わった後、三日月に話を戻す。

 

「けどな三日月、モビルスーツからの情報のフィードバックはモビルワーカーの比じゃねぇ。....下手したらおめぇの脳神経も━━」

 

「いいよ、元々対して使ってないし。」

 

三日月はあっけらかんとして答えた。

 

「おめぇなぁ....」

 

おやっさんは少し呆れた様子で三日月を心配している。どうやら他の大人達とは何処か違う様子だ。

 

「何で?....そんなに簡単に....自分の命が大切ではないのですか!?」

 

やはりまだ認める事は出来ないでいる様子のクーデリアが口を開く。

 

「大切に決まってるでしょ...俺の命も、皆の命も。」

 

三日月はそう答える。

 

「ああ。三日月の言うとおり、俺にとってもそうだ。」

 

そこにミカゲもやってくる。

 

「あんたは何も知らないだろうがな、俺達にはこれしかないんだ.....おやっさん、そっちが終わったらこっちも頼む。」

 

「おう。」

 

「私は.....」

 

クーデリアはもう、何も言わなかった。

 

━━━━━━━━━

 

三日月が白いモビルスーツ "バルバトス"を動かし、三番ゲートから出ていった後、

 

「次は俺の番だ、頼むぜおやっさん。」

 

「おう、といってもこっちは外骨格フレームが持ってかれてるだけで殆ど持ってきた頃と変わらねぇ...阿頼耶識システムのインターフェイスも付いたままだ。」

 

次は黒いモビルスーツにミカゲが搭乗する番である。

 

「起動するぞ。」

 

起動するとコックピットのモニターには『GANDAM Frame BERSERK』と表示される。

 

「ガンダムフレーム ベルセルクか.....面白れぇ...!狂戦士の名を冠する機体とはな。」

 

ミカゲは嬉しそうに笑いながら座席に座り、インターフェイスを接続する。

 

「ぐ、ぐおおおおおおお!!!」

 

接続した途端、ミカゲが苦しそうに悶え始め鼻から血を流す。

 

「ミカゲ!」

 

おやっさんが心配そうにミカゲに声を掛けるが、

 

「大、丈夫だ。.....このくらい、一軍と社長(あのゴミクズ共)から受けた暴力に比べたら......痛くも痒くもねぇ!」

 

明らかに強がりである...だがそれでもオルガやビスケット、三日月達を守るために自分が戦わなければならないと思い、こうしてミカゲは苦しんでいる。

 

「三番...ゲートは開いてるか?」

 

「は、はい!まだ開いてます。」

 

「なら、直ぐに出られるようにしてくれ。」

 

ミカゲの指示に従い、三番ゲートに黒いモビルスーツ ベルセルクをゲートから射出する。

 

「よし、後は敵の位置を....!!」

 

ミカゲが見たもの、それは二体のグレイズに翻弄されるバルバトスの姿であった。

 

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バルバトスは二体のグレイズを相手に奮闘し、

 

 

「くっそ、まだ身体が....。」

 

どうやら初めて操作するバルバトスに苦戦しているようだ。

 

当然そんな敵の隙を狙わない敵ではない。

 

「貰った!」

 

ゲイレールが剣を振り上げたその時、

 

突如として剣がグレイズの目の前にあった地面に刺さった。

 

「よぉ、待たせたな三日月。」

 

「ミカゲ...!?」

 

三日月は戸惑ってしまった。それもその筈、まさかもう一機のモビルスーツにミカゲが乗ってくるとは思いもよらなかったからだ。

 

「俺が来たからにはもう安心だ、早いとこ全滅させちまおうぜ!」

 

「....分かった。」

 

(相変わらずの塩対応.....まぁ、三日月らしいと言えばらしいが。)

 

ベルセルクは投げた剣を掴み取るとゲイレールに向けて剣先を向けた。

 

「やってやろうじゃねぇか!!!!」

 

ベルセルクが敵に突っ込んでいく。

 

剣をまるで棒切れを振り回すかのようにゲイレールに向かって切りつける。

 

「オラオラァ!!どうしたぁ!掛かってこいよ!」

 

ベルセルクでゲイレールを煽るミカゲ。

 

「貴様!言わせておけば!」

 

煽られたゲイレールが怒り狂ってベルセルクに襲いかかろうとする。だが、

 

「ぐあっ!」

 

その隙を突いて、三日月の操るバルバトスのメイスによって頭部のフレームを外される。

 

突如、土煙がベルセルクとゲイレールの眼前で発生し、ベルセルクは動きを止めた。

 

「くっ.....何も見えない....!」

 

土煙が晴れると目の前にゲイレールは居らず、遠くに撤退していく二機の機体が確認できる。

 

「逃がすか...!」

 

バルバトスは追い討ちをかけようとしてスラスターを展開するが、

 

「?.....起動しない?」

 

どうやら整備の際、スラスターの燃料を入れ忘れたようでガス欠になったようだ。

 

「......逃げられたか。」

 

仕方ないと言わんばかりにミカゲはベルセルクの動きを止めた。

 

━━━━━━━━━━━━

 

「この野郎!」

 

一軍の奴らが戻ってきた後、オルガ達六人は呼び出され、その内の一人、ハエダに殴られていた。

 

(コイツら....自分達は逃げた癖に、俺らを殴るのか...!!)

 

ミカゲは血が滲む程に拳を握りしめ、顔を背けながら怒りを必死で押さえ付け、ただひたすら終わるのを待った。

 

━━━━━━━━━━━

 

そしてハエダの気が済み、オルガが血塗れでその場に倒れる。

 

「オルガ!!」

 

ミカゲが駆け寄り、傷の手当てを行う。

 

「くっそ、あいつら許さねぇ!!」

 

シノが怒りを剥き出しにして拳を作る。

 

「そうだな、許せねぇな...ちょうどいいのかもな。」

 

ふと、オルガが意味深なことを口にした。

 

━━━━━━━━━━━

 

その暫く後、物置と化したスペースにて

 

「ただ、私はそれを確かめてからでないと帰れません。」

 

クーデリアが付き人のフミタンと何かを話している最中のようであった。

 

するとそこに、

 

「~♪」

 

口笛を吹きながらミカゲが現れ、高く積まれた木箱を上から取り、何処かへ持っていこうとしていた。

 

「ミカゲ!?」

 

「ん?...あぁなんだ、クーデリアか......何でこんなところに?.....というか、帰ってなかったんだ。」

 

キョトンとした様子でミカゲはそう呟いた。

 

「先程は守って頂き、有り難う御座いました!」

 

クーデリアはミカゲに対して感謝の言葉を投げ掛ける。

 

「....別に、俺だけがあんたを守った訳じゃない。...礼なら今回のMVPである三日月とオルガにするんだな。」

 

ミカゲはまるで今は話したくないと言わんばかりにその場を立ち去ろうとする。

 

「....でも、私のせいで大勢の方達が━━」

 

クーデリアがそう口にした瞬間、

 

「止めろ...!」

 

怒りと殺意が篭った言葉でクーデリアの言葉を遮るミカゲ。

 

「あんたの為に皆が死んだ?.....自惚れてんじゃねぇよ。」

 

ミカゲの言葉には、明らかな怒りが込められていた。

 

「あんたが何者だろうと関係無いが、俺の仲間を馬鹿にしてんのか?だからそんな事が言えるんだろ?」

 

「ち、違っ...私は━━━」

 

ミカゲの憤りに対して戸惑ってしまうクーデリア。

 

「.....まぁいい、どうせ死んだ奴らはもう帰ってこない。」

 

最後にそう呟くとそのまま何処かへと行ってしまった。

 

ミカゲの放たれた言葉には、怒りだけでなく寂しさと悲しみが込められていたような感じであった。

 

━━━━━━━━━━━

 

その日の夕方、

 

ミカゲはオルガ達に呼び出されていた。

 

「来たぞ。」

 

「来たか、ミカゲ....これで全員か。」

 

「いや、三日月がまだ来てない。」

 

その場にはミカゲ、オルガ、ビスケット、シノ、ユージンの五人が集まっており、何かを話し合う為にミカゲは呼び出されたのだろうと考えていた。

 

「さて、お前ら...このままあいつらにいい顔させたままでいいと思うか?」

 

ふとオルガが全員に尋ねた。

 

「良い訳ねぇだろ!....あいつら何時も何時もいい気になりやがって。」

 

オルガの問いかけに対してシノが怒った様子で答えた。

 

「なら、俺に考えがある.....あーでも、三日月が反対したらお前らには悪いがこの計画は無効になる。」

 

「「はぁ!?」」

 

シノとユージンが此処まで来てか!といった様子でオルガに抗議する。

 

「心配すんな、あいつは俺の言うことに反対はしないさ。」

 

果たしてオルガの策とはどんなものなのか...

 

━━━━━━━━━━━

 

その日の夜、

 

ビスケットが一軍に料理を配膳していると、

 

「オイ!俺のは具が少ないじゃねぇか!」

 

またもや因縁をつけては暴力に訴えるハエダ。

 

ビスケットは蹴られた衝撃でそのまま部屋の外に出ていく。

 

そしてこれが彼らがCGSとしては最後の晩餐になるとは誰も予想はしていなかった。

 

━━━━━━━━━━━━

 

皆が寝静まった頃、

 

「....ん?なんだこれは?」

 

ハエダが目を覚ますとそこには縛られた一軍の奴らが見えた。

 

「お目覚めかい?...無能共。」

 

扉を開けて最初に入ってきたのはミカゲであった。

 

「おはようございます。」

 

次に入ってきたのはオルガであった。

 

そしてそこからゾロゾロと三日月やビスケット達も集まってきだした。

 

「薬入りの飯の味はいかがでしたか?」

 

オルガが挑発するように言う。

 

「薬だァ?.....餓鬼が何の真似だ!」

 

ハエダが挑発に乗り、オルガを恫喝する。

 

「まぁ、ハッキリさせたいんですよ......誰がここの一番かってことを。」

 

「ハァァ!?」

 

「餓鬼共!貴様ら一体誰を相手にしてるとを━━」

 

「ロクな指揮もせず、これだけの被害を出した無能をですよ。」

 

オルガが怒りの篭った言葉でハエダに言い放つ。

 

「ふっ...ふざけるな!」

 

ハエダは忌々しそうにしてオルガの目の前で唾を吐き捨てる。

 

それに対してオルガは、

 

「ぐはっ!!」

 

ハエダを蹴った。それもその筈、今まで散々殴られ蹴られてきたのだ、そして今まで蓄積された怒りが今、解放されたのである。

 

「わ、分かった....分かったから、取り敢えずこいつをとれ、そうすれば、」

 

「そうすれば...何だ?...散々やってくれたな餓鬼共、って言って殴るんだろ...今までみたいにな!」

 

ミカゲがハエダの顔に向かって蹴りを入れた...するとプチッ、と何かが潰れる音が響いた。

 

「ギャアアアア!!!目が....俺の目がぁぁぁ!!!」

 

見るとハエダの左目が無くなり、必死で痛みを身体全体で表現している。

 

「どうやら、自分の今の立場が分かって無いみたいだな。...というかミカゲ、お前...」

 

「どうせ言うこと聞きゃしねぇんだからよ......こうした方がいいだろ?」

 

「...まぁ、いいか。」

 

オルガは何か言いたげだったが、今まで自分達の為に尽力してくれたミカゲに、もはや何も言うまいと思うのだった。

 

ハエダがミカゲを見ると、その顔は普段の彼の物ではなく...例えるならば地獄の閻魔のごとき表情となり、ハエダを見据えていた。

 

「どうやら自分達が置かれている立場ってものが分かってないらしいな......仕方ない。」

 

ミカゲは三日月を近くに来るように指示する。

 

「何?ミカゲ。」

 

「拳銃貸せ。」

 

ハエダはミカゲの言葉を聞き、自分がこれからどうなるのかを嫌でも悟った。

 

「?.....いいけど、何する気?」

 

「ま、待ってくれ、頼む!」

 

「決まってんだろ。」

 

ミカゲはハエダの静止の言葉を無視して銃口を向けると、

 

「こうすんだよ。」

 

冷たく言葉を発してそのまま撃ち、ハエダを殺した。

 

弾はハエダの頭部、場所で言うと額の位地を貫通しており即死であった。

 

「て、テメェ!!!」

 

金髪の男が掴みかかろうとするも、

 

ドンッ!と再度、銃口から火花が飛び散り、今度は奴の足に銃口を突き付けるとミカゲは奴に見向きもせず、撃った。

 

「あああああ!!!....あ、足がぁぁぁぁ!!!」

 

撃たれた男が悲鳴を上げ、のたうちまわる。

 

「ガタガタうるせぇぞ!....てめぇらも俺らに同じ事をしてきただろ?...だからこれは、てめぇらに対して俺からの制裁だ。」

 

一呼吸おき、ミカゲは拘束した彼らを見据えて再び言葉を発する。

 

「さぁ選べ、オルガを社長としたこの会社で再び働くか....それともここを出ていくか...二つに一つだ。」

 

ミカゲが選択肢を挙げる。一応これは、今以上に自分達に被害が及ばない要にするためでもある。

 

「ふざけんな!...ガッ!!」

 

ミカゲに反発した男は、何とか立ち上がってミカゲに向かっていくも、その場で射殺される。

 

「あ、因みにどちらも選ばなかった場合は、そいつみたいに惨たらしく殺すから。」

 

ニッコリと笑いながら男達に笑いかける。

 

「そこまでだ。」

 

ミカゲの企みを静止するためにオルガがミカゲから拳銃を取り上げる。

 

「ミカゲ、やりすぎだ....」

 

「....悪い。」

 

流石にやり過ぎたと反省しているのか、オルガの後ろに下がった。

 

「わ、私は出ていく...!」

 

CGSの経理担当であるデクスター・キュラスターがミカゲ達の態度に恐怖し、そう告げたが、

 

「あの、経理担当のデクスターさんですね。」

 

ビスケットが彼に待ったをかける。

 

「貴方には、もう少しだけ残って貰いたいんですが...」

 

「えぇ...」

 

デクスターは、明らかに嫌そうな顔をして項垂れた。

 

この時の事を、後にミカゲは語る。

 

あの時引いた引き金は、どんな物よりも軽かったと....

 

━━━━━━━━━━━━

 

「オイオルガ!お前、辞めてく奴らに退職金払ったって!?」

 

後日、ユージンがオルガを問い詰めるために社長室に乗り込んできた。

 

「俺たちはこれからクリーンな会社をやってくんだ、変な噂とか立てられちゃ困るんでな。」

 

「そうそう、俺たちは新しくなった会社でやっていくんだ。」

 

「...って、何でコイツがここにいるんだ!?」

 

ユージンの指差した方向には、壱番隊の一人 トド・ミルコネンが立っていた。

 

「これから宜しくな。」

 

「....」

 

ユージンはトドの態度に何かありそうな気がしたが、そこで思考を中断した。因みに、ミカゲはと共に今後元CGSを運営していく為に残った資金を遣り繰りした場合の計算を行っているらしい。

 

「計算結果が出たぞ。」

 

ミカゲの一言でオルガ達が彼に注目する。

 

「少ないな...」

 

そこにはデクスターとミカゲが一軍達の退職金やMW(モビルワーカー)の修理維持費を差し引いた金額分の結果が出ていた。

 

「仕方ない。殆どはマルバのクズが持っていったからな...奴から巻き上げられればもう少しやっていけると思うが...生憎、奴の所在は掴めないままだ...」

 

今後この会社を運営していく為にこの問題をまず一番に解決する必要があるのだがいい解決策が浮かばない。いや、浮かばないというより、正攻法(・・・)では難しいと考えており、どうしたものか...と頭を悩ませるのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「失敗しただと!?」

 

今回の作戦の失敗を聞き、司令官であるコーラルが怒鳴る。

 

『指揮官であるオーリス・ステンジャが死亡、三割の兵とグレイズ一機を失い止むを得ず撤退を━━』

 

「ふざけるな!!」

 

更に損害状況を聞かされて机を叩き、クランクを再度怒鳴る。

 

「独立運動の旗頭であるクーデリアが戦死を遂げ、火星は今以上の混乱に陥り、地球への憎しみを強くする。そういう手筈だったのに...」

 

『相手は...子供でした...』

 

クランクは動揺しているのか、声が震えていた。

 

「子供?雁首揃えてガキ共にしてやられたと?」

 

『子供を...少年兵を相手に戦争など出来ません!彼らが自らの意志で戦っているとは思えない!!』

 

クランクはミカゲ達を戦うべき相手ではなく、守るべき存在であるとコーラルに力説するが、

 

「甘い事を抜かすな相手が子供だろうと関係ない!!一人残らず駆除しろこれは命令だ!!絶対に失敗は許されんぞ!!」

 

そう言ってコーラルは通信を切った。クランクは軍人としての自分と本心の間でやるせなさを感じ、自分ではどうすることも出来ないと歯噛みするしかなかった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「......」

 

格納庫内にて、ミカゲはカタカタとパソコンを打ちながら何かの作業を行っていた。

 

「ガンダムフレーム....約300年前に起こった厄災戦末期に作られた機体の総称....現在は23機が存在を確認済み...か。」

 

どうやら三日月が起動し、操ったモビルスーツについて調べていたようだ。

 

「その中には、あのバルバトスは含まれてないんだろうな。」

 

うーん...と今度は別の問題で頭を悩ませるミカゲ。

 

「俺のベルセルクもガンダムフレームなんだよな...でも、この検索結果の名称内にベルセルクの名前は含まれていない....ガンダムフレームの偽物?...だとしてもあれはガンダムフレームのバルバトスと同じエイハブリアクターが二つ、横一列に接続されている....もしくは、更に過去に造られたモビルスーツ?例えば、厄災戦中期頃...とかか?」

 

厄災戦とは、約300年前に勃発したとされている惑星間規模の戦争のことである。 その戦争が起こった結果、規模が大きすぎた為、地球圏の統治機構は崩壊し、月は荒廃してしまった。

 

しかし、現在地球圏を支配しているギャラルホルンが発したヴィーンゴールヴ宣言により戦争は終結し、現在は四大勢力と呼ばれている貴族達が拮抗状態になっていることで平和が確立されている...らしい。

 

「取り敢えずスラスターの燃料は補充完了。あとは、機動力だな。」

 

グレイズと戦ったあの時、グレイズよりかも軽やかに動いたが、それでもミカゲには、動きが遅いと感じた。

 

「下手すれば、バルバトスに劣る程だ。」

 

脚部の装甲か?と考えたが、あの時の事を思い出して気付いた。

 

「!そうか...武器だ!」

 

慌ててベルセルクのコクピットに入り、起動するミカゲ。

 

「やっぱり...!」

 

モニターには専用装備 『ドラゴンスレイヤー』と描かれた分厚い大剣のシルエットが浮かんでいた。

 

「こいつの質量がありすぎたせいでベルセルクは重かったんだ。」

 

だとすればどうすべきか?、ミカゲはモビルスーツの装甲に使われている素材 ナノラミネートアーマーの性質を思い出す。

 

簡単に言えば、ビーム兵器が全く通用しない金属のことである。

 

他の宇宙世紀ならばビームサーベルやヒートホークなどのビーム兵器があるが、この世界では質量を持った兵器や武装でないと、このナノラミネートアーマーを破壊することは出来ない。

 

対して、このドラゴンスレイヤーは分厚く重い。まるで鉄の塊のような大剣である。

 

「極力、装甲は薄くしないと...なんだけど、せめて肩partsくらいは欲しいな。」

 

この武器はベルセルク専用装備と銘打ってる以上、三日月のバルバトスでも扱いが困難であろう。それはミカゲも理解していた。

 

だからこそ、戦いに於いて機動力を確保しながら専用装備を使う方法を模索する。

 

するとその時、

 

『敵襲、敵襲━━━!!!』

 

けたたましい警告音と共に敵襲の知らせがミカゲに届く。

 

「!急がないと...!!!」

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

同時刻、

 

『我はギャラルホルン実働部隊所属 クランク・ゼント!そちらの代表と一対一の勝負を望む!』

 

襲撃してきたグレイズのパイロットの一人であるクランクが一騎打ちの決闘を申し込みにきたようだ。

 

『こちらが勝った場合、クーデリア・藍那・バーンスタインを引き渡してもらう。その代わり今回の一件は全て水に流すと約束しよう。』

 

「三日月?」

 

グレイズに近付いていく三日月、彼に並ぶようにして立つオルガ。

 

「やってくれるか?...ミカ」

 

「いいよ。」

 

三日月がバルバトスに乗ろうと、格納庫に向かい━━━

 

「いいや。」

 

二人の背後から声がした。

 

「「!!」」

 

「此処は俺がやる。」

 

「ミカゲ...!」

 

「向こうはこっちの代表と戦いたがっている...なら、年長者である俺が適任だ。」

 

「...でも、」

 

何か言いたげなオルガ。しかし、

 

「じゃあ三日月にやらせるか?...俺よりも年下の奴に...人を殺した責任を負わせるのか!!!」

 

「......」

 

ミカゲの目は、怒りに満ちていた。仲間を一人失い、ミカゲは決意した。"もう二度と仲間を失いたくない"と。その為なら、自分はどんな悪行にも手を染めよう。そう決意した。

 

「...だからこそ、俺が...適任なんだ...頼む、オルガ...!」

 

先程とは異なり、弱々しくオルガに頭を下げたミカゲ。

 

「ミカゲ...お前...」

 

もはや何も言うまいと、オルガは決めた。

 

「...分かった。ミカゲ、頼む。」

 

「...任せろ!」

 

空元気とも捉えられそうなミカゲの態度の変わりよう。

 

そして、

 

『待たせたな、俺が代表だ。』

 

ミカゲはベルセルクに乗り、グレイズの元へと現れる。

 

今、此処で決戦の火蓋が切られようとしていた━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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