「二日分くらいは余裕出てきたか?」
自然に囲まれた自宅に帰って来てから、紫遊は即日払いの給料を仕舞いながらそう呟いた。
今居る家屋は以前からにとりが制作して、先日完成したばかりの物件だ。
始め、それほど多くは要求を出していなかったはずなのだが、完成した物件は思いの外広く、住み心地も悪くは無かった。
だけど少し謎がある。この物件の間取りに少々疑問が出る。居間や台所、寝室や収納部屋など部屋が分かれていて最低限は揃っていたりはするのだが、それでは部屋のスペースが余っているはずなのだ。外から見てみれば分かるだろう。居間が位置している場所の隣に変な出っ張りがある。居間が端ではないはずだからこそ、謎に思う。
「おぉ、戻っていたのか」
「にとりか。確認なんだがこれで完成なんだよな?」
「ああ、そうだ。良い出来だろ?」
いやまあ確かに住み心地は悪くないけどさ…。
考えすぎなのだろうか?設計ミス…というのは流石になさそうだし、配線とかそこらを一か所に固めているだけなのだろう。…配線を使うようなものはあまりないけど。
「さてと…」
などと思いながら座り込んで、ちゃぶ台の上によく使っているデッキを広げる。そして懐からも数枚のカードを取り出す。この数枚のカードは紫流風の次の日に拾ったカードの他、実は持っていたらしい束(デッキと呼べる程の数は無い)を合わせたものだ。何故これらを取り出したのかというとデッキ調整の為だ。今のデッキは未完成でまだまだ改良の余地はあるからな。
「前々から思ってたが、紫遊のデッキには決定打と為りうるようなモンスターとかは居ないんだな? 『コード・トーカー』モンスターも十分使えるけどもエースってのとは違うようだし」
デッキを広げていると覗き見てきたにとりがそう言った。
「まあ、発展途上ってところだからな。これからだよ」
そう言いながら紫遊はデッキ内容を弄り始めた。触るのはメインデッキのみ。EXデッキに入るようなカードはこの束には入ったないからな。となると魔法や罠を中心として触ることになるか。今の『サイバース』デッキ的に他の種族を入れすぎると動き辛くなるだろうからな。
「まあ頑張れ」
足音が離れていく。そういえば結局にとりは何をしに来たのかとにとりの方を見た。すると、にとりは帰るでもなく出口とは別の方向へと静かに歩いていき、居間の端へと行っては壁を触り、
「おいおいおい! どうなってんだよ!」
にとりが入っていった付近の壁を触ると、確かに何かの入り口があった。軽くでは動かないが力を少し込めて押すと壁がキィィ…という音を立てて回り、中へと入ることが出来た。此処だけ絡繰り屋敷かっ。
中へと入って行くと、そこは他の部屋とは別の明かりで照らされており、謎の機械が数個程置かれていた。
「なんだ此処…こんなのは訊いてないぞ?」
「お? 勝手に入ってくるとはどういう了見だい?」
「了見もなにも俺の家のはずなんだが、何仕込んでんだよ……」
にとりは謎の機械の前を陣取りながらこちらを見てきた。
それもすぐに向き直って機械を触り始めた。近づいてその機械の画面を見ていると何かのメーターや波が表示されていた。
「なんだこれ?」
「何って、
「観測機?」
疑問に思ってにとりに訊いてみたところ、この機械はデータストームの出現に伴う空気の変化を感じ取ってある程度予測することが出来るらしい。といってもデータストームはそんな前から前兆があるわけでもないので、分かるのは当日ぐらいらしい。
この機械は最近作ったわけではなく、前々から計画していたものらしい。それを改良に改良を重ねてより性能を向上させて、この場に秘密裏に運び込んでいたとのことだ。
「ちなみに今夜がてら次の風が来るはずだ。それもでかいやつがな」
「でかい? いつもと違うのか?」
「こいつによると、最近の紫流風の平均出力よりも結構上を示している」
「そんなのが来て大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないか? あれは意識してるように被害が少ないところを流れている傾向があるからな」
そうなのか。それならその辺は気にしないでもいいのだろう。
でも気になりはするなぁ。
「ちと、調査に行ってくる。規模を把握しておくのも必要だろうし」
今夜ならそろそろ出現する頃だろう。
にとりに理由を言い残して、途中にしていたデッキを回収して紫遊は一人で外へと向かって行った。にとりが居座っていることにはこの際放っておこう。鍵が開いていて誰も居ないよりかはマシだろう。
探してみると山の中を通るように確かにデータストームが出現していた。眺めてみたが、それほどデカいという印象は受けない。幅のことを言っていたなら普段とあまり変わらない気がする。場所に関しても隙間を通り抜けるように進んでいるし高い位置で吹き続いている。となると流れに違いがあるのか?
「実際に乗ってみるか?」
体験した方が早いとばかりに紫遊はDボードを呼び出し、其れに乗って風の上へと出る。そして波に落ちる。
「うおっ!? いつもよりも流れが速いな!」
今回のデータストームはある意味規模がデカいといえばデカいか…。
普段よりも流れが速い上に、荒い波があってバランスを取るには少しコツがいるな。…よし、少しは慣れてきたぞ。
「にしても前触れも無く強い風が吹くなんてなんかあるのか?
……そういえば前に魔理沙がなんか言ってた気がするな。たまに強いのも吹くとかだったっけ? ならこれは異常とかではないのか…」
『まぁ、それも自然現象と同じようなものだからな』
「ほあっ!?」
一人で飛んでいるはずなのに突然にとりの声が聴こえて、危うくバランスを崩しかけてなんとか堪え切った。何処から声がしたのかと探してみると声は紫遊の決闘盤から出ていた。
「お前、いつの間に通信機能なんて仕込んだんだよ!」
『いいだろ盟友。
それに安心したまえ、これは盟友の家の装置としか繋がってないから』
つまり誰かが家に居ればこうして通信してくることか? 騒がしいわ。
それと機能で思い出したが――
「ところでにとり、あのスキル構築プログラムはあの後どうしたんだ?」
「ああ、それなら販売に移しているところだ」
やっぱり売る気だったのか。
まぁスピードデュエルが広まり始めれば、必須とまではいかないと思うが、それなりに欲しがる奴は居そうだもんな。そこで金を取るかどうかで迷うが。
「移してるってことは、まだ買った奴は居ないのか?」
「居るぞ。数人な。技術協力者である盟友にも少しは分け前渡す予定だから期待しておくといいぞ」
…くれると言うのなら貰っておくか。
さて、それなりに把握はしたしそろそろ戻るか。下手に一人で動くと迷うからな未だに。戻れなくなる。
紫遊はそう思い至って風向きに逆らって戻ろうかとした時、行こうとした方向から声が聞こえた。
「其処の者、何者か!」
声のした瞬間、来た道を確認すると誰も居なか―――と思ったら下からDボードに乗ってデータストーム上に乗っかって来た。
「不審な奴…この風はお前の仕わあああ!?」
なんか風に流されてるんだが大丈夫かアレ……
「ぁぁ……其処の者!この風はお前の仕業なのか!」
あ、リテイクした。
「どうやったらそう見えるんだよ…」
「怪しい格好、風を乗りこなしている姿、なにより人間がこんなところに居ることがおかしい!」
どんな理由だ…。
此方からしたらそっちの方が変わった格好をしているけどな。前に会った天狗に似た格好の割にアレとは違って耳とか尻尾とか人ではないことが分かるものがあるし。なんか犬っぽい。あと白い。
「止まりなさい!止まらぬのなら
そう言って相手は決闘盤を構える。Dボードに乗っているから、だろうなと思ったが決闘者であったようだ。説明しようにもああいうタイプは話を聞かないんだろうなぁ…。仕方がない。
「そっちがその気なら受けてやるよ」
そう言って互いに速度を上げる。
「スピード――――「デュエル!!」」
紫遊 VS 椛
LP4000 LP4000
『この声……まさか?』
決闘は次回。