貴方は狩りに優れ、無慈悲で、血に酔っている。
良い狩人だ。
長く明けぬヤーナムの獣狩りの夜が貴方の全てだ。
貴方は人を狩った、獣を狩った、上位者を狩った。
動くものことごとく狩り尽くした。
神秘者を狩った、医療者を狩った、穢らわしい獣も、気色悪いナメクジも狩った。
墓守を狩り、旧主の番犬を狩り、女王を狩った。
だが貴方は未だに悪夢に囚われ、そして目覚めぬ。
最後には月の魔物を狩った、だがそれだけだ。
獣狩りの夜は続き、獣が絶えることは無い。
そして貴方はやがて決心するだろう、無限にある貴方が手を伸ばしうる世界には未だ狩られぬ獣がいると。
聖杯は始まりに過ぎぬ、さぁ蒼ざめた血を求めよ。
狩りを全うするのだ。
貴方は別の悪夢にやってきた。
未だ偽りの太陽は赤々と大地を照らし、しかして獣の跳梁は止むことがない。
狩人よ、さぁ獣狩りの夜を始めよう。
貴方は冒険者ギルドにやってきた、この冒険者ギルドという所は民からの要望を受けた狩人もどきが様々な依頼をこなすように斡旋してくれるという場所だ。
あなたがいた頃のヤーナムにはこのような場所は無かった。
かつてはあったのかもしれないが、まともな人間が最早絶えたあの街でこのような行政システムが機能するはずもない。
だが嘗ては効率的な獣狩りをサポートする工房や教会機能の一部として似たようなものがあったやもしれぬ。
狩人もどきと言ったのは別に他意があっての事ではない。
単に冒険者という狩人のような者たちの中にはあまりにも幼かったり、準備が明らかに整っていないものが散見されるからだ。
彼らの大半は白磁という冒険者の最下級で駆け出し狩人といった所であろうか。
もっとも、あなたもヤーナムで目覚めた直後は素手と普段着で戦っていたのだから彼ら以下であった。
「文字の読み書きはできますか?」
身なりの整った受付嬢が貴方に聞いてくる。
貴方はこの世界の文字が読めない、ゆえに代筆を頼んだ。
啓蒙が高くともできないことはあるものだ。
硬貨はヤーナムで転がっていた金貨、どの道獣狩りの夜に商いをするものなどいる筈もない。
故に道標以上のことはなかった。
未だ夜は明けぬとはいえ、貯め込んでおいた甲斐はあったという事だ。
「金貨?珍しい種類ですね、外国の?…まぁ純金で重量があれば相応の値段で使えますけど
でも手数料はかかりますが、使い勝手を考えれば両替をおすすめしますよ」
貴方は両替を勧められた、登録料と代筆料に為替手数料を引いたお釣りを銀貨と銅貨で受け取る。金など狩人にとってはどうでもいい、遍く遺志を手に入れるのだ。
今から貴方は白磁級冒険者の『狩人』だ。
獣はどこだ、獣狩りの夜を始めよう。
ヤーナムならば、どこもかしこも獣ばかりだお前もどうせそうなる。
なのでこのような苦労はしないのだが、ここでは勝手が違うらしい。
貴方は受付嬢から依頼の方法について聞いた。
「そこの掲示板にありますよ、でも今の時期じゃ白磁級にはゴブリン退治かどぶさらい、下水道のネズミ駆除くらいしか無いので…」
下水道とは恐ろしい所だ。
下水道とはどこもかしこも死体で溢れかえり、その亡骸を啄む膨れ上がった太った烏、子牛ほどのネズミ、蠢く獣になりそこないの死体、そして思い出すだけでも悍ましい人喰い豚。
そんな恐ろしい所を駆け出しに勧めるとは,恐ろしい町だ。
「最初の方はネズミ退治をおすすめしてますよ。
暗所で生物を殺すことにまずは慣れないといけないので」
だが貴方は問題ないと伝えた、下水道の巨大ネズミ退治は慣れていると伝えた。
とはいえルールはルールだ、貴方が今の所受けることが出来る依頼はゴブリン退治か、下水道のネズミ退治とどぶさらいくらいだ。
面倒だ、適当に歩いていれば通りすがりに魔神とやらが出てこないものか。
そうやって貴方はゴブリン退治の依頼を受けることにした。
村外れの街道に小規模なゴブリンの群れが出没し家畜の鶏が盗まれるという事件があったらしい。「この依頼を受けるんですか?でもお一人じゃ…」
受付嬢が言葉を濁らせる、確かに実績も何もない新人の初仕事では不安になるかもしれない。
だが貴方は狩人だ、必ずや獣を皆殺しにすると約束した。
「いえ、そういう事を言ってるんじゃなくてですね!
いいですか、ゴブリンというのは確かにモンスターの中では最弱とも言われていますが
群れを成して連中が得意な閉所で襲ってこられたらとても厄介なんですよ。
現に新人冒険者がこの前二人死亡する案件まで発生しているんですよ!」
貴方は受付嬢から説明を受けた。
「女性の身としては説明するのは不愉快なんですが…
四人パーティーで2名死亡、さらに一名は女性だったのが災いして…その…」
ゴブリンとやらは獣のくせに獣欲のままに女性を慰みものにするのだと説明してくれた。
「今は引退して故郷に帰られたそうですけど…とにかく!例えゴブリンであっても甘く見ないでください!ましてや白磁級なら尚更ですよ」
わかった、甘くは見ない。
貴方はゴブリンを見かけても決して油断せずに狩ると約束した。
…
貴方は例の依頼のあった村までやって来た。
どことなくヘムウィックを思い出させるが、幸いにして高笑いをあげるクソババァが火炎瓶や刃物で貴方を出迎えることはない。
依頼によればまずは被害確認のためにも村長の家へ行けということだったが…
貴方は村の中に入っていった。
実に長閑な村だ、落とし穴も吊り丸太も櫓から撃ってくる村人もいない。
不気味なことこの上ない。
しかし何かがあったらしく、村から血相を変えた村人らしき初老の人物がこちらを視認するとかけてくる。
「ああ!あんた冒険者かねぇ!?助けてくれぇ、悪さするゴブリンどもが今度はうちの山羊を攫っちまった!冒険者がいないことに気づいたのか、味をしめて最近は毎晩のようにやってくるだぁ!怪我人まで出たし、このままじゃオラ達冬を越せなくなっちまう!」
どうやら状況は思ったよりも悪化したらしい。
貴方は村長に話を聞いた。
最初は村の穀物や干し肉といった守りの弱い保存食が狙われたが
次は鶏、羊と段々と犯行が大胆になっていったらしい。
昨晩は見回りしていた村の若者二人が5匹以上のゴブリンに怪我を負わされたようだ。
若者らが大声で叫ぶと武器になりそうな農具を持った村の衆が駆けつけたが
その時には既に若者らは大怪我を負わされていた。
貴方はその若者たちが殺したというゴブリンの死体を見せてもらった。
身長は120から130、手足は細く緑色の体表。
ヤーナムの獣と化した人間よりもなお醜悪な面構え。
話には聞いていた通りだが獣の病より酷いものがあるとは思ってもいなかった。
いや、女を拐い積極的に繁殖しようというのだからこれは正に流行病以外の何ものでもない。
「ああ、もう暗いから奴らがまたやってくるだ!
頼む!この村を守って欲しいだよ!ゴブリンどもは女を慰みものにするんだぁ!」
…ああ、あの夜から何一つ変わってはいない。
何一つ変えられはしなかったのだ。
貴方は村人らに守りやすい場所に財産、女子どもを集めて避難しておけと命令した。
下手に動き回られて死んでもらっては困る。
獣どもよ、覚悟するがいい。
夜の帳が降りる時、狩人もまた戻って来たぞ。
貴方は使者たちにメッセージを残した。
特に意味はなくとも、ただそれだけで狩人はこの悪夢に心折れぬ覚悟がある。
『獣狩りの夜が始まる』
すると他次元の狩人に貴方のメッセージが届いたらしく評価される。
ただそれだけで貴方は一人ではないと確信し、そして足元に誰かが書き残したメッセージが多数浮かび上がる。
『数に注意しろ そして 小鬼を許しはしない』
『この先小さい敵に注意しろ そして 炎が有効だ』
『素早い攻撃が有効だ だから チェーンガンをバックから出しなよ』
『大きな敵 そして パリィが有効だ』
大凡の敵の行動を読んだ貴方は迎撃の準備をする。
そういえば貴方の狩はあくまでも攻めであり、このように守りの経験は無かった。
貴方はゴブリンが現れる方向に息を潜めて待ち受ける事にした。
暫く息を潜め、物陰で待つと夜の帳が降りると共に嫌な匂いが風に混じる。
ヤーナムではよく嗅いだ匂い、饐えた汗の匂い、腐った魚のような匂い、獣の匂い。
血の匂い。
「gua?」「Gugagagaga!」
獣どもが何やら騒いでいる、どうせ大した意味などない。
5,6,7と続いて更にぞろぞろと10,二十とやってくる。
どうやらいつの間にかあちこちのゴブリンが集合し、徒党を組んで村を襲う事に決めたらしい。
「guaa?」
どうやらゴブリンどもは貴方が仕掛けものに気付いた。
ゴブリンの死体と血酒を貴方は仕掛けておいた。
死体は血酒を片手に持ったようになっており、ゴブリンどももなぜ?とは思ったようだがその瓶が酒だということはすぐに気づいたらしい。
「guhee」
1匹のゴブリンがにたりと醜い顔を歪めて瓶に手をかける。
この1匹は酒を盗もうとしたが間抜けにも農夫にでもやられてここで息絶えたとでも思ったのか。
モンスターのくせに酒癖の悪さは一丁前である。
だがゴブリンが酒瓶を手から取るとそれにつられてゴブリンに仕掛けてあった罠も発動する。
『仕掛け爆弾』そして『火炎瓶』
酒瓶にくくりつけてあった紐がトリガーとなって死体に仕掛けてあった爆弾が炸裂、殺傷力を高めるためにくくりつけておいた火炎瓶と共に四方八方に鉄とガラスと燃え盛ったタールをばら撒く。
「guaaa!」「gugeee」
『この先、罠が有効だ だから 死体を思い出せ』
貴方は名も知らぬ他次元の狩人に評価で感謝を捧げ、罠で混乱したゴブリン達の背後に青い秘薬を飲んで回り込むと殺意と共にチェーン・・ではなくてガトリング砲の弾幕を浴びせる。
毎分200発の弾丸の嵐が密集していたゴブリン達に襲い掛かる。
「Gugyaaaa」「Gihiaga!」
命中すれば肉を裂き、骨を砕きどこに当たっても致命的な一撃になる。
醜い悲鳴とともに弾丸の前に次々と倒れていくゴブリン達。
必死に足を引きずり逃げようとするも、貴方が見逃すはずはなくすぐに追いついては弾丸の節約も兼ねて爆発金槌で叩き潰される。
焦げた肉と血が飛び散り、なんともいえぬ香りが漂う。
炎の匂い、それこそが獣と病を浄化する唯一の方法だ。
獣を燃やせば…心も少しは暖かくなる…
貴方は存分に狩り、殺したが、ここにいるゴブリンが全てではないことも知っている。
この近くには恐らくはあのゴブリンの集団がねぐらとする場所があるのだろう。
皆殺しにしなければならない。
冒険者ギルドはゴブリン5,6匹の討伐で良いと言っていたが
そんな生半可な狩りなど狩人に期待する方がおかしい。
「獣は皆殺しだ」