ある妖精弓手の視点
私はあいつが大嫌いだ。
初印象は最悪も最悪、血の匂いをプンプンさせて汚いなりで女の子の隣に立つなんてありえない。
いつも黒ずくめだし、使う武器はどれも野蛮で凶悪だし、無口だし、陰気だし、血腥いし。
旅の間も…食べ物は肉料理ばっかだし、冒険者になった理由は血がーとかわけわかんないし。
おまけにいつもボーッとしてるし。
ドワーフより嫌いになれる奴がいるなんて正直思ってもいなかったわよ!
そのくせ冒険でモンスター退治となると嬉々として血に塗れに行くし。
特に最悪なのがあいつとの最初の冒険でされた事、あいつ私を血塗れにしたのよ!
それもよりによってゴブリンの血で!あームカつく!
…まぁそれを除けば実際のところ、私の故郷を狙ってたゴブリンどもとオーガをやっつけてくれた事には感謝してるけどね。
…まぁあのオーガをグチャグチャのミンチにしたり、『やったんだー』とか叫んでたりは
ぶっちゃけキモい、引く。
おまけに真っ赤なトマト状態でも御構い無しにエルフの馬車に乗ろうとしたりとか何考えてんのよ!?
…まぁあいつも大物を殺すことにかけて手練れみたいだし、
悪魔の軍勢と戦うにもあいつの助けは必要。
だからあいつのいう狩りにも付き合ってやるけどね。
あいつには絶対に冒険させてやるわ、そんで絶対泣かす!!
そんな事を女神官とギルドのテーブルの上でくっちゃべっていると、あいつがやってきた。
今は普通の服を着ている、なんでもあいつが最初に着てた『異邦の服』だとか。
「なんだ、普通の服も着れるじゃない。
あんたそうしてると冒険者には見えないわよね」
あいつの狩衣装はあんまりにも汚いから神殿のクリーニングに出した。
もちろん私の服のついでで。(代金はあいつ持ちだけど)
結構凝った作りの服らしく実は私の服より時間も金もかかるらしい、狩人のくせに生意気ね!
狩人は脱いだら色も白いし、只人の戦士にしてはひょろひょろしてるし正直強そうには見えない。
眼鏡をかけてローブを着たら多分魔術師のひよっこといっても通じる。
オーガを倒した功績で今はもう銅級にまで昇進してるけど。
狩人はそんな私に御構い無しに女神官に近寄ると銃の練習を始めるぞと言ってきた。
「ちょっ!狩人!待ちなさいよ!」
狩人は受付嬢に裏の練習場を借りるぞと言って金を払う。
「はいどうぞ、やっぱり清潔にしてた方がいいですよ。
今度出入りする時は血塗れでない普通の常識的で理知的な格好で来てくださいね。
さもないと練習場もなぜか予約されてたり、討伐依頼の承認も余計に時間がかかるかもしれませんよ?
あっそれと妖精弓手さん、その節はお世話になりました」
おおっと…受付嬢の笑顔が暗くて怖いぞ。
その節というのは当然洗わせる事だ、っていうかこいつ血塗れ肉片がついた武器も持ち込んでたし。
…まぁ今は口うるさく注意して脅して宥めて最低でもオルクボルグ並みには清潔になったからいいけど。
「いいの、いいの。
そもそもこいつが悪いし、この馬鹿には私の分のも払ってもらったしね!」
狩人は不服そうな顔をするけどあたし達は気にせず会話する。
「はい、練習場を1時間貸切ですね。
今日も女神官さんの射撃練習ですか?」
ところが意外な事に狩人は今回は二人だと答えた。
ガチャ、というギルドの扉が開く音でオルクボルグが入ってきた。
「待ったか?」
「あ、ゴブリンスレイヤー さん!」
思ったんだけど、受付嬢ってオルクボルグには凄くいい笑顔するよね。
恋する乙女ってやつ?
「いつもの帽子はないのか?」
でもこいつゴブリンの事と狩人と話すときは早口になるわよね。狩人は苦笑して、今クリーニング中だって答えた。
「そうか、考えたが、帽子の中に金属板を仕込み防御力と視界と音を確保するという考え…
悪くない、だがやはり俺は慣れたこのフルフェイスヘルメットでいい」
オルクボルグは狩人に視界と音を確保するために頭部装備の改良について話し合ってたらしい。
狩人はオルクボルグに箱に入れた何か長いものを渡した。
杖?随分不恰好な杖。
「何よオルクボルグ、魔法でも習うつもり?」
「いや、銃だ。狩人に頼んだ」
銃、火の秘薬で鉛礫を飛ばす只人の武器。
弓と違って煩いし重いし命中率も悪い、それに形からしてカッコ悪い。
「何よ狩人、あんた鍛冶もするの?こりゃドワーフも顔負けね」
狩人によると正確には狩人の故郷の銃を元にこの町の鍛冶屋に打ってもらったらしい。
『ゴブリンスレイヤーはゴブリン狩りの散弾銃を手に入れた!』
狩人はオルクボルグに何だか説明してる、
『距離減衰が激しいから…』『弾丸の拡散が…』とか
「遠くから当てたいなら弓矢を使えばいいじゃない。
それなのにわざわざ高い火の秘薬を使って近くの相手にしか効果ないんじゃ意味ないわよ」
「咄嗟の事態では弓は構える時間がかかる」
こいつ…徹底的にゴブリン狩りしかしないつもりね…
…そういやこいつ銅級なりたてのくせにかなり金払いいいわよね。
珍しい銃に火の秘薬もガンガン使ってるし、装備も右手のアレを除けば綺麗な彫金が施されてるし。
あの陰気な狩装備だって凝ってるし、案外どっかの金持ちのボンボンだったりするわけ?
オルクボルグと女神官がギルドの裏で銃の練習をするっていうから私も見に来たけど
「えい!この!」
5m先の的にも当てるのが一杯一杯の女神官に、撃った後はショートソードで斬りかかる練習をしているオルクボルグ。
狩人に聞いてみると、それでほぼ正しい使い方だとか。
「何よ、それじゃ飛び道具の意味がほぼ無いじゃない」
そういうと狩人は銃は飛び道具でもあるけど能動的な盾だとかどうとか言い始める。
何よそれ、わけわかんない。
盾が欲しいなら盾を持てばいいじゃない。
盾の代わりに飛び道具とか矛盾してるでしょ。
やっぱ私にはこいつの考えてることなんかわからない。
最初に見た時から変わらない。
…暫く練習するとギルドの依頼を私たちで見に行った。
オルクボルグは相変わらず、
「ゴブリンだ」
「はい!すぐ支度しますね」
女神官はあいも変わらず嬉々としてゴブリン退治に同行するらしい。
「銃は指差すように撃つ、銃は指差すように撃つ、銃は指差すように撃つ、」
…射撃のコツをぶつぶつと呟いてちょっと怖い。
『獣狩りだ…』
このバカは相変わらずバカの一つ覚えみたいに獣獣言ってるし。
『…お前のエルフの村に近いが…来るか?』
「はぁ当たり前でしょ、あんたみたいななりたて銅級冒険者に大事な私の村のみんなの安全を任せっぱなしにする程無謀じゃないの」
あ!こいつ笑いやがった!
ムゥ!絶対に泣かせてやるんだから覚悟しときなさいよ!
「獣か」
『ゴブリン狩りは尊い業、貴公に暗い血の加護あれ』
それとやめなさいよ、その変な祝福!
ほんと!こいつ大嫌い!
妖精「嫌い嫌い!大嫌い!」
狩人「…」
鉱人「仲ええのう、あいつら」
蜥蜴「仲良きことは素晴らしきかな」