狩人、あるいはケモノハンター   作:溶けない氷

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第21話

貴方は前途有望な狩人の卵二人が悍ましく冒涜的な下水道へと出発する様を見送ってやった。

彼らはまぁまぁの訓練を受けた、もっぱら釘b…強化クラブとスタッフスリングだが。

 

『まずスリングでも素手でも何かを投げつけて怯ませるか弱らせてから近づいて殺せ』

『できるだけ近づかずに殺せ、人間の長所は物を投げられることだ』

『火は積極的に使え、動物は基本的に火を恐れる。

松明は太くて長い棒を使えば強力な棍棒にもなるし、先を尖らせれば杭になる。(古狩人並』

『空間の広さを常に把握して武器の遠心力が活かせる場所で殺せ。

出来ないなら逃げろ』

『紐やロープはどんな時も使いようだ

足元に張れば相手を転ばせるし、降りたり登るときにも役立つ。

必ず持っておけ』

『状態回復の薬やポーションは必ず持っておけ』

(そういえば何故ポーションとかは飲み薬なのだろう…しかも割れやすいガラス瓶

 

『自分はゴブリン並に非力だと考えろ。

だが非力な人間でも人は殺せる。人がオーガやトロルを殺せるように』

『対等に戦うなど考えるな、一方的に殺せ』

『道具を惜しむな、命を惜しんで殺せ』

『卑怯という言葉は忘れ、冷静に殺せ』

『敵を憎め、獣を憎め、憎んで冷酷に殺せ』

 

狩人の考えは徹底追尾いかに効率よく獲物を殺せるかだ。

このあたりがゴブリンをいかに効率よく殺せるかのみ考えてきたゴブリンスレイヤーと似ている。彼らにみっちりと殺しの業を指示し続けた。

最後に貴方は彼らに火炎瓶を10個与えた。

投げてよし、スリングで打ち出しても良しの大量破壊兵器だ。

…瓶は大きさがあるので投石紐で投げるのは無理だったので投石棒を採用したのもこれが理由である。

古代から城攻めの投石機は火薬や油が詰まった爆弾を発射していたし、別に目新しいことはない。

「はい…殺します、喜んで…ありがとうございます狩人さん」

「ええ、殺しましょう。ほら行きましょう剣士。

…いっぱいいっぱい殺しましょう」

 

剣士も聖女も『あぉ楽しみだなぁ、いひひひひ』『ええ楽しみねぇ、うふふふふ』

など楽しそうな声をしながら武器を持って歩いていく。

 

二人の有望な若者は昏い目をして嬉々として殺しに行った、良い兆候だ。

聖女と剣士はそれぞれ釘b…強化クラブを持ち、血に染めることだろう。

良い冒険者とは狩に優れ、無慈悲で、血に酔っているべきだ。

彼らは良い冒険者になるだろう。

少なくとも貴方はそうだし、ゴブリンスレイヤーも優しい所があるがゴブリンに対してはそうだ。貴方は又しても良い助言者の役割を果たしてしまった、きっと教育者としての才能があるのだ。

 

彼らの冒険に昏い血の加護があらんことを…

 

…貴方は彼らへの教練を終えて練習場のそばの石垣に腰を下ろし、しばし考え事をしていた。

貴方の向こう側では粗末なフードとマントに身を包んだ人物がいる…

フードを深く被り誰にも見られたくないようだ…

控えめに言っても不審な人物である、しかし貴方も今の格好を見れば人の事はそんなに偉そうな事は言えない。

チラと目があった、黒い瞳に黒い髪をした少女だ。

伏目がちで何かに怯えているように見える。

貴方は持ち前の親切心と好奇心を発揮して彼女に話しかけた。

 

「あ…す、すみません。あの…みんなの練習を見てたんです…」

おどおどとした調子が憐憫を誘う、冒険者志望の子供だろうか?

 

「…いえ、いいんです。もう冒険者なんて…」

グゥと少女から音がした。

貴方は彼女に買ってきたサンドウィッチを差し出した。

 

「そんな、いただけませんよ!」

貴方は自分自身は飢えていないから心配するなと伝えた。

 

「う…すみません、実は一昨日から何も食べてなくて」

彼女は食事にむしゃぶりついた、とても良い食べっぷりだ。

 

「あ、すみません。私は『武闘家』です…

あ、でも冒険者はやってないんですけど…

冒険者をやってたんですけど、引退して…

今は街に何か仕事を見つけにきたんです…」

何か良い仕事は見つかったかた訪ねた。

 

「いえ、やっぱり冒険者として受けないとなかなか無いですね…」

 

聞けば日雇い労働も冒険者組合経由で募集しているというが

彼女にはどうしてもギルドに顔を出したくない理由があるらしい。

 

「狩人さんは…不思議な人ですね、何だかお父さんみたいです」

 

貴方はもうお父さんと呼ばれる歳だろうか?

いやまだ余裕がある、せめてお兄さんと呼んでほしいのではないだろうか?

ボソボソと弱気な声で話す少女だ。

 

「あ、…いいえ。はは、おかしいですよね。

何で冒険者がギルドに行くのが嫌かって…」

 

旅姿は薄汚れ、汗と垢と埃が混じった臭気を漂わせている。

お世辞にも年頃の少女がしていい格好ではない。

ちゃんと宿か下宿の世話になっているのだろうか

 

「いえ、宿なら…すみません、とってません。

ずっと野宿してます…」

 

嘘がつけない少女だ…そして貴方は思い出した。

女神官やゴブリンスレイヤーとの話だ、貴方がこの町のギルドに来る前の話だというが…

もしかして女神官と一緒に冒険に出た少女ではないだろうか?

 

「っ!…そ、それは…」

 

貴方は彼女に何をする気にしても今の状態はあまりにも見兼ねる。

まずは休息を取った方が良いと勧めた。

それが嫌なら貴方からお金を借りてでも宿を取るべきだ、さもないと浮浪罪でしょっ引かれかねない。

嫌なら警史を呼んで面倒を見てもらうしかない、そういう決まりだ。

 

「う…わかりました、お邪魔します」

貴方は少女を連れてやってきた。

城壁の外で貴方が借りている家だ、そこそこの広さのある家だったが場所が墓地のすぐ近くということで安かった。

どこか狩人の隠れ家に似た、とても安らぐ家だ。

 

「…私の仲間だった魔術師がここに眠ってるんです」

 

どうやら彼女の冒険仲間の一人がここで眠っているらしい…

貴方は彼女に風呂に入って汚れを落とし、食事を摂るように指示した。

その間、貴方は工房仕事に精を出すだろう。

それにしても無防備な少女だ、年頃の娘ともあろうものが男の家に上がりこむなど…

 

「いいんです…評判は聞きました、モンスターを殺すことしか興味がないって。

それに狩人さんは知ってるんですよね、私がゴブリンどもに…

村のみんなも腫れ物に触るように接してましたから…

もう娼館に身売りでもしようかと思ってたところなんです…

でもゴブリンの中古なんて誰も触るのも嫌ですよね…」

 

不憫な少女だ、まだ幼いというのに…

とにかく身綺麗にして栄養を取らなければいけない、全てはそれからだ。

貴方は数々の犠牲者を悼みその苦しみを考えて胸の内で獣への憎しみを再び激しく燃やす。

 

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