狩人、あるいはケモノハンター   作:溶けない氷

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第3話

貴方の冒険者ギルドへの狩りの報告から数日…

貴方は東へ西へ手近なモンスターを片っ端から狩った。

狩人の灯りは今のところはこの町一つにしかない、気づけば貴方は狩人の隠れ家からこの町で目覚めた。

夢で目覚め、冒険者ギルドという悪夢で目覚め冒険という名の悪夢に向かいそして安らかなる夢を見る。

それの繰り返しだ、なんとも皮肉が効いている。

実に満足な狩りだ、場違いにも貴方の狩りに何を思ったのか時々は村人が贈り物と称して農作物や時には村娘を貴方に嫁がせようとしてくる。

ゴブリンスレイヤーは薄汚い格好だと周りの冒険者から嘲られるらしい。

雑魚狙いのセコイ奴、銀級のくせに初心者の獲物狙い。

初心者なんだろ、新人が中古の有り合わせ装備を買ってきたのかよ。

もっぱら死体から武器装備道具素材まで剥ぎ取って間に合わせた貴方よりは大分まともだと思うのだが?

そして貴方の行動は彼よりも目立つことはないだろう。

「あのですねぇ…狩人さん!いい加減にしてください!いつもいつもいつもいつもいつも

!一体いつになったら血塗れの格好のままギルドにこないでっていう私のお願いを聞いてくれるんですかぁぁぁぁぁ!」

受付嬢は少し怒っていた、正直にいうとブチギレである。

貴方は受付嬢にちゃんと伝えた。

大丈夫だ問題ない。狩衣装とは血に塗れることを想定した作りである。

故に血は払っただけで9割がたは落ちる。

「その残り1割を落としてこようっていう発想がないんですか!?」

ない、そんなことより『獣狩り』だ。

「うわ…あれが例の頭おかしい狩人かよ…」

「いつも血塗れだって?」

「この間なんか、トロルの内臓引っこ抜いてたって…」

「道端を血塗れ内臓まみれで歩いてたって…やだ…」

ふむ…実に微笑ましい反応だな。

ヤーナムでは皆が皆貴方を、

『呪われた獣め!くたばってしまえ!』(普通だとか

『余所者が!失せやがれ!』(普通とか

『死ね!』(普通

とか罵声を浴びせながら全身全霊で殺しに来たのでこういう暖かい声援は照れてしまうな。

貴方はいつの間にか黒曜級から更に鋼鉄級に昇格したが…どうでもいい

1日にたった5、60程度の獣狩りで満足できるはずもない。

故に貴方はもっと存分に狩り、殺さねばならない。

「聞いてるんですか!?これ以上そんな血腥い格好でうろつくようなら掃除料金を報酬から引かせてもらいますからね!」

ふむ…成る程…要するに掃除代金を払ってもらいたいだけなのか…

それならそうと早く言ってくれればよかったのに。

貴方はそれなら問題解決だなと受付嬢に伝えた。

「あああああああああああぁぁ!」

頭を掻き毟りながら見目麗しい受付嬢は突っ伏した。

大丈夫かね?鎮静剤(人血)いる?

貴方が依頼成功について伝えると、貴方を中心に人垣は割れていく。

貴方はギルドの椅子に座り、しばし考え事をした。

このまま手当たり次第に獣狩りを続けるべきか?と

時季が巡れば獣も変わる、貴方はより強く恐ろしい獣を狩るべきかもしれない。

人々の脅威となる生物はゴブリンだけではない、だが野生のモンスター(ここでは獣の事をこう呼ぶ)の中で直接的かつ統計学的に言えば最も損害が大きいのはゴブリンだ。

なぜあのような弱い獣で大きな損害が出るかと言えばまず数の多さ、ついで危機感の無さによる対応のまずさ、そして他の獣と違い人を積極的に襲う習性。

国家が求めるべきは一人の勇者か1万の民兵か…

広く薄く守る事を求めれば民兵だが、武装した民兵がどういう行動に出るかはアメリカ独立戦争を見ればわかる。

民とは無力であるべき。由らしむべし知らしむべからず。

要するに政治というわけだ、くだらない。

狩人に人の世の論理は通用しない、狩人は狩るからこそ狩人だ。

それ以上でもそれ以下でもない、やはり片っ端から狩るべきだ。

助言者の言葉には素直に従うがいい。

今は何も分からないだろうが、難しく考えることはない。

貴方は、ただ獣を狩ればよい。それが、結局は貴方の目的にかなうのだから。

貴方は再びオルゴールの音を聴く。

メルゴーの子守唄は貴方に獣への憎しみを駆り立てる。

ギルドにオルゴール特有の物悲しい子守唄が広がり、冒険者たちもそのどこか優しく悲しい音色に耳を傾ける。

オルゴールに刻まれたあの少女の母親の名前、そしてその無残な最期と神父の悲し身を思うたびに貴方の獣への憎しみがまた強くなる。

『哀れな家族 だから 獣を許しはしない』

貴方が音色と共に物思いに耽っているとあの男と少女がやってきた。

「あ、狩人さん。こんにちは…えっと…不思議だけどいい曲ですね」

聖職者の少女はオルゴールに興味津々だ。

貴方は好きなだけ聞いていればいいと少女に伝えた。

…なぜだろうか、あの少女の面影が被る。

もしかしたらあの教区長もこの少女のような人だったのかもしれない。

オルゴールのシリンダーが回りピンが音を奏でる様子を少女は見つめながら聞き入っている。

すると男、ゴブリンスレイヤー は貴方の席の前に座って貴方とアイテムの交換を始める。

「約束の物だ…まぁ…大分苦労した…」

ゴブリンスレイヤー は貴方に瓶に入ったアイテム『女聖職者の小水』を渡した。

…ゴブリンどもは女性…特に若い少女の小水の匂いに釣られる習性があるので…その…

知らない人から見れば完全に変態二人である。

貴方はこちらを見ずにオルゴールに集中している女聖職者に申し訳なかった。

…女聖職者は気づいたのか顔を真っ赤にしてオルゴールに集中するふりをしている。

…貴方はゴブリンスレイヤー に彼が求めるアイテムを渡した。

携帯ランタン、火炎瓶、油壺、そして発火ヤスリに獣狩りの松明の為の調整された松脂。

貴方はなぜ火炎放射器や銃を必要としないのか聞いたことがある。

 

「銃は…あの武器はあまりにも大きな音を出しすぎる。

連中に警戒され一度に出て来られれば数で押し負けるし弾数にも発射速度にも制限がある。

確かに便利だがゴブリン狩りには決して最適な武器では無い。

火炎放射器にしても同様、もし俺が殺られて奪われればゴブリンどもの手に渡り人々の脅威になりかねない。

だから使えばなくなる消耗品でいい。

火炎瓶は確実に着火して広範囲に飛び散り、重度の火傷を負わせられるのだから幅広く使える。

油壺にしても長時間確実に燃える上に消火しにくいから巣を簡単に焼き払える、いい道具だ」

 

貴方は感心した、狩人といえば基本的に自分勝手な狂人の群れである。

そしてゴブリンスレイヤー がこんなに饒舌に喋るのは初めてでは?と感心した。

 

「いいのか?言ってはなんだがかなり高価な品なのだろう?」

 

なるほど、あのアイテムが単なる少女の小水とでは釣り合わないのではと考えているのか。

実際に、この世界では油の値段は結構高いらしい。

だが貴方は彼に気にする必要はないと伝えた。

ゴブリンスレイヤー の持つゴブリンに関する情報や知識もまた狩人にとっては貴重な武器であるし、同業者へのサービスという意味もある。

 

「そうか」

 

この瓶の中身は想像以上に価値があるし(いろんな意味で)火炎瓶にしてもそこまで高価なものではない。

 

これほどまでに他人…人々の事を考える狩人など滅多にいないのではないか?

やはり貴方の目に狂いはなかった、例え英雄の称号を得られずとも彼には狩の中で心折れぬ強さがある。

「邪魔をしたな、俺は報告したら他の消耗品の買い付けに行く」

すると女聖職者もはっと立ち上がり彼に声をかけた。

「あ、あの!私も行きますから」

「いやいい。買う物は決まっている、ゴブリンの依頼は今の所はまだ無いようだから休んでいるといい」

女聖職者はシュンとして座り込む、どうやら思ったよりも疲れているようだ。

ゴブリンスレイヤーは依頼成功を受付嬢に伝えると明らかに営業外スマイルで受け入れられ彼は見送られて出て行った。

なぜ私と彼とではこうも受付嬢の反応が違うのだろうか。

「あ…えっと…」

貴方は女聖職者とテーブルを挟んで二人きりになった。

通常ならばここから話が弾むのだろうが何もない。

女聖職者は気まずそうにしているだけだ。

「えっと、いい天気ですね」

そうか。この反応である

(地母神様!お助けを!)

女聖職者の悲痛な助けを受け取った肝心の地母神様は自分のお気に入りの可愛い信徒が邪神の幼子の目の前という状況に半狂乱である。

悪い男に引っかかりそうな娘を心配する母親の気分であった。

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