「ん…は、はぁ…はっはっはっ…
聖女ぉ、俺もう限界。
もう駄目ぇ」
「ん、もうバテたの?ほら頑張りなさいよぉ。剣士、おっ男でしょぉ、はぁはぁ
女の私がまだ余裕あるのに情けなく無いの?ゼェゼェ」
草原で新人剣士と新人聖女の男女二人が喘いでいる。
周りを見渡せば新人達は人目も憚らずに同じような状況だ。
二人とも顔は赤く、全身汗まみれで肌に下着が張り付いている。
二人の共同作業のたびに打ち付けられた木材はギシギシと軋み、呻き音をたてている。
その度に息は荒く、脈も早く打つ。
「お、重い〜!こんなに重いなんて〜」
「ぶつくさ言ってないで引きなさいよ!私も手伝ってあげてるんだからね!」
狩人は新人達の給金の安さを哀れに思い一人金貨2枚という高値で街から牧場までへの物資の輸送という仕事を発注した。
いつもの相場の10倍以上にまで輸送費が膨れ上がったが、戦時なので仕方ない。
馬も馬車も足りない、なら冒険者に荷車を押させればいいだろ!
「俺の方が重いんだから変わってくれよー」
「嫌よ、か弱い女の子が押してあげてるのよ。
感謝しなさい。あーもう、こんなの冒険者じゃないわ!
ただのポーターじゃない!」
だったら押せばいいだろ!
とはいえ命がけで汚く臭い下水道を這いずり回って一日金貨一枚になるかならないかの新人にとって命を落とすリスクが低い荷物運びのポーターや荷馬護衛は人気の仕事でもある。
ちなみに殆どの中堅冒険者より馬借の方が遥かに高給取りだ。
いくら資本に高価な馬が必要とはいえ、冒険者の地位の低さが伺える。
なので堅実な貯金した元冒険者が金を借りて馬借などの事業を始めることもある。
というか貯金するほど堅実な人間は比較的低リスクな割に収入が安定するので大抵はそうする。
遅かれ早かれ冒険者で食って行くのは茨の道であると新人は思い知ることになる。
町中の建材、釘、大工道具を買い漁って牧場にありったけの資材をありったけの輸送手段で送る。
牧場の建物と建物の間に壁を作る。
建物の外壁を木材で補強する。
狭い場所はわざと低めの柵を作って敵を誘い込む迎撃地点にする。
「すまない…」
ゴブリンスレイヤーは資材を出してくれた貴方に感謝する。
だがこの防御策は半分は彼の成果でもある。
彼は日頃から柵を作り、点検していた。
お陰で壁を設置する労力は柵に立てかけて杭や支えで補強すれば良い程度。
工事期間も最小限で済んだ。
彼がゴブリンの偵察隊を早めに発見し、報告した。
お陰で防御を整える時間が出来た。
彼とその幼馴染が牧場の経営者を説得してくれた、
お陰ですんなりと建物を補強したり、壁を作ることが出来た。
もしも彼がいなかったら防御はとっくに諦めて無理矢理にでも牧場の人も物も家畜も疎開させ、建物は焼き払っていたろう。
そう、彼がちょっと遠くのゴブリン巣の退治に出かけたとか怪我をして街の病院で治療しているとか。
十分ありうるし、些細な事で可能性はある。
いやそもそも冒険者ギルドも牧場が落ちるまで気づいていなかったかもしれない。
本当に危ない話だ…これからは見回りを増強すべきだろう。
いや、それは領主の責務では?
「…これはどうする?」
周囲では大工やギルドの鍛冶屋の親方の指導の元、新人冒険者に中堅、ベテランまで加わって防御構造物の構築を行っている。
人によってはゴブリン首の報奨金より荷車と大工仕事の方が稼げそうだ。本当に、狩りの依頼とは単にモンスターの首に報奨金をかけてそれで終わりでは済まされない。
工事にも輸送にも人手と金がかかるものだ。
報奨金をかけてそれで終わり、領主様とやらは何を考えているのか。
そんな中、ゴブリンスレイヤーは資材を運んできた大八車を見て何か考えがあるようだ。
まさか大八車は武器になるまい、可燃物を積んでゴブリン巣に突っ込ませるとか?
「いや、それは考えたが走行が安定しなかった。
それに荷車を無駄にすることになる」
したのか…思いついたことがあるとは?。
「大八車の前に釘を打った盾をつけようと思う」
つまり移動が容易な置き盾を作るつもりなのか。
釘は例のように頭を切り落として削って棘にする、体当たりで突き刺したりよじ登るのを防ぐためだ。
「この大楯の壁なら確かにゴブリンの腕力では破壊は難しい…
だがホブやチャンプが棍棒を使えば破壊される恐れもある」
ちなみに壁の上面には頭を切り落とした釘を斜めに打って登りにくいようにしている。
登ろうと足や手をかければ釘が肉に食い込む仕掛けだ。
しかしこれ以上単純に強度を上げようとすれば石か煉瓦で作るしかない。そんな時間はない。
「『砦』の内部に移動大楯を待機させておく。
壁が破られても応急処置にはなるだろう」
壁が破られたら、大八車の前につけたトゲ付き盾の後ろから棒でゴブリンを叩いて迎撃する。
ゴブリンが脅威なのは近づかれるからだ、だから盾で距離を稼ぐ。
特に打撃部が振り下ろされるフレイルは有効だ、体躯に優れているとは言えない女圃人が振り下ろしても頭に当たればホブゴブリンは死ぬ。
だから壁の後ろに台座を設置し、ひたすら壁に取り付こうとするホブゴブリンを叩き殺させる計画を立てた。
高いところから長物で叩く。
ゴブリンにリーチを活かさせず回避や防御が難しい長物で叩く。
フレイル特有の隙の大きさを盾や壁といった障害物でカバーする。
障害物を置き、相手に近寄らせず、相手よりリーチの長い武器で攻撃する。
そして冒険者の連携の指揮を熟練冒険者に取らせる。
全ての策はゴブリンスレイヤーのお陰だった。
金が無いから今まで実行できなかったに過ぎない。
彼は今まで牧場がもしも襲われたらという前提のもとで想像し、準備し、最善を尽くし作戦を練っていた。
貴方は彼の構想に物資を提供したに過ぎない。
「間に合うと思うか?」
…昼夜兼行でギリギリまで工事を粘らせる、工事範囲をギリギリまで絞り込めば襲撃までには間に合うだろう。
周りを見ればゴブリンスレイヤーのパーティー一党も工事に駆り出されている。
皆に水を配る女神官、壁にノコギリで銃眼を開ける妖精弓手。
龍牙兵を召喚して壁を設置する蜥蜴僧侶など各々活躍している。
特に鉱人導師が壁の固定で最も活躍していた。
さすがは鉱人であった。
貴方もノコギリ鉈で木材を荒っぽく切る作業に戻る時だ。
やはり狩人の工房はこのような事態を想定して日常の道具から狩道具を仕立て上げたのだろう。
日頃から使い慣れた道具を武器にし、武器を道具にする。
誠に合理的発想である。