あの大規模ゴブリン襲撃事件から数日が経った。
「…結婚してくれ…大事にする…」
「…うん!」
こうしてゴブリンスレイヤーは結婚する事になったらしい。
プロポーズの言葉は非常に短いが、これで了承されたというのだから
二人の仲の良さが伺えるではないか。
牛飼娘の少女時代は終わりを告げ、妻としての人生が始まるだろう…
そして後十ヶ月ほどしたら牧場に跡継ぎが生まれるらしい。
良い事だ。
貴方は彼に貴方と彼の子供達が大きくなったら結婚させようかと提案した。
そうなれば法的にも牧場の後継は牛飼娘の子供ということになる。
正確にいうと彼と貴方の子供が結婚するときに貴方の子供に牧場の所有権を持参金にして持たせればいい。
どちらにせよ彼女の孫の世代には完全に彼女の一族の物になるではないか。
珍しく彼は苦笑している。
「気が早いことだ…まぁ、彼女に相談する。
俺としては本人達がよければ構わない…」
貴方は今ギルドの受付にいる、なぜか手を繋いだり体の距離が近い男女ペアの新米冒険者の割合が非常に多い。
そして死んだ目をしたような受付嬢の姿がなぜか痛々しい。
きっと十ヶ月後にはベビーブームだろう、という話が街のあちこちから聞こえる。
そして新米冒険者の冒険者脱落率が高くなった。
…皆大量に手に入れた報奨金と貴方からの融資でそれぞれの稼業を持つようになってしまったからだ。
冒険者自体はやめてはいないが、
本業を持ちその合間に時間が空いていたら冒険者稼業をするというパターンが非常に多くなった。
例の新米戦士と新米聖女はあの後結局自分たちの借りている宿で酒の力を借りて夫婦の契りを交わしてしまった。
手を握り合って実に微笑ましい若夫婦ではないか。
貴方はギルド経由で彼らに金を貸してやった。
…彼らは牧場から馬を買い、馬借を始めるらしい。
なるほど、冒険者上がりの稼業としては堅実だ。
全ては今や実質的に妻の聖女の考えだった、思うに夫は妻にあれで一生頭が上がらないだろう。
珍しいことでもないが。
「俺は装備をいいのを買って、冒険者を続けたかったんだけど…」
「何言ってんのよ!あんな死にそうな目にあって!
この子のためにも地に足ついた仕事につく!そう決めたでしょ!」
まったくもって正論である。
「それにしてもお金まで貸してもらって…本当にありがとうございます」
別に構わない、貴方の店で馬をローンで買ってもらったと考えれば悪くはない。
それに二人とも可愛らしい貴方の後輩だし、
次世代の狩人の候補者を作ってくれるというのなら支援したとしても将来的には元が取れる。
ぜひ仲睦まじい夫婦になって6人くらい子供を産んで欲しいものだ。
…これだけ将来的に出産が旺盛になると保育園や幼稚園の需要が出るかもしれない。
そういうことに関しては女神官の方が良さそうだ。
それにしても彼女にも良い人はいないのだろうか?
もう15だしそろそろ結婚・出産しても良い年齢だろうに。
いくら孤児だとはいえあの器量で優秀な奇跡持ちなのだから引く手数多だとは思うのだが?
ところで相変わらずゴブリンロードは街中で絶対に動かせない状況で地面に張り付け拷問状態だ。
体内深くに喰い込み埋まった鉛玉はいかなる魔法・奇跡を用いても取り出すことは不可能に近い。
体内に侵入・木っ端微塵になった鉛を取り出すことは可能だが、大規模な切開で出血死は間違いない。
鉛中毒で中毒死するだろう、楽に死なれたのでは困る。
「苦しませろ、それでいい」
ロードにとっては胴鎧が災いとなった、今日も血を吐きながら呪いの声を天に向けている。
貴方は多くの不動産を買収し、事業を拡張した。
思うに冒険者の冒険があまりにも張りにかけるのは経験・装備の不足が原因だろう。
経験に関してはゴブリンスレイヤーのように先達の知恵と経験を借りるという選択肢があるが、
装備に関してはどうしようもない。
特に消耗品のポーションなどがそうだ。
ギルドでよく募集している薬草採取クエストで採取された薬草を原料にポーションを製造するらしい。
ちなみに薬草採取は黒曜…ゴブリン退治や下水道のどぶさらいより危険らしい。
森には危険なモンスターもいるし、薬草を見分ける知識も必要なのだから当然か。
なら、黒曜級以上が護衛して知識を仕込んだ白磁に採取するという分業体制を取ればいいのでは?
既にそうしている所もあるらしいのでやはり白磁がゴブリン退治くらいしか受けられないというのは間違いでは?
貴方はそう思った。
貴方はポーションの大量生産を行いたいという若い錬金術師がいる事をギルドの受付嬢から聞いた。
「そういう依頼がありましたよ、何でも協力してくれそうな人がいたら紹介してくれって…」
『依頼:ポーション製造に関わる相談
もっと多くの冒険者さんにポーションを使ってもらいたいです!
ポーションをもっと多く、安価に作れる方法について興味があって出資して良いって人を探してます!』
何故掲示板に張り出していないのだろうか?
いやわかる、これは冒険者が受けられるようなものではない。
出資金は大きすぎて個人でどうにかなるものではないし、
出せるのは商人かギルドだが海のものとも山のものとも知れない出資金を出そうという人間がいる筈もない。
惜しいことだ、もしも本当なら才能がある人間が金とコネの無さゆえに朽ちていく。
別に珍しいことでもあるまい。
貴方は依頼主の素性について受付嬢に尋ねた。
「そうですね、かなり優秀ですよ。
冒険者としても優秀で錬金術でも薬剤の調合で有名です」
別に問題はなさそうだし興味が出た。
貴方は依頼を受け、その錬金術師にギルドの応接室で面会した。
…
錬金術師は青年だった。
貴方に熱心にポーションについて説明してくれた。
要するに小鍋で作るより大鍋で作った方が手間暇かからず大量に作れるのでずっと安価にできるらしい。
誰でも思いつくと思うが何故そんな単純な事を誰もやらないのだろうか。
一つあたりの単価が安くなったとはいえ10倍作れば利益はずっと大きくなるだろうに。
「まぁ誰でも思いつきますよね…でもここだけの話、
つまりそうならないのはそうなると困る人達がいるって事なんですよ。
それに大きくなると温度調整とか品質管理とか…
あと単に失敗した時の損失が大きくなるとかで薬品ギルドからは敬遠されてますね。
それと高価なエーテル液ですけど、
これが大量に仕入れるのが無理だから少量ずつしか作れないってのが最大の理由なんです!
エーテル液さえ潤沢に手に入ればみんなポーションをもっと作れると思うんですよ!」
…現状では様々な業者がポーションを製造しているが、品質の保証についてはないも同然。
ギルドに卸している業者のはしっかりしているが、少数の業者が独占しているために高価なのだという。
流石に高級なエリクシール級が高価なのは仕方ないとはいえ
毒消しや基本的な体力回復ポーションまで金貨1枚以上の値段がするのは問題だろうに。
貴方は現状で価格を半額とはいかずとも3割くらいは安くならないかと思った。
「そう!一番高くつくのは媒体のエーテル液ですよ。
何しろ都から輸送しないといけないんで高くついて仕方ありません。
うーん、大きな蒸留器さえあればここでも媒体を作れると思うんですけど。
薬草よりエーテル液の費用がポーション製造過程で費用の多くを占めてるからできると思います。
ただ中央がエーテル液の製造を独占してるから大型蒸留器を注文しても断られちゃうんですよ!」
なるほど、儲かる産業は独占したい。
別に珍しい話でもないし新しくもない。
…そして新規参入する人間が絶えないのも自然の理である。
それにしても蒸留器か…つまり蒸留酒製造機でもある。
なるほど、酒と金は切っても切れない筈だ。
特に酒税、これほどうまい税金は無い。
ところでこっそり作ると密造酒ならぬ密造エーテル液になるのか?
蒸留酒といえばあの鉱人導師だな…相談してみるか。
貴方自身は酒も女も賭博も必要悪として容認するが、麻薬はダメだ。
偉い人も言っている。
『ヤクは汚すぎる商売だ、政治家も役人の友人たちも手を出したと知ったら離れていく』
そう麻薬、駄目、絶対。
国王「蒸留酒は高額課税よー」バリバリ
スコットランド人「だが断る」
狩人「密造酒は我が民族の伝統やろ、やらなあかん(使命感」