貴方は200以上のゴブリンを狩ったことでここ数日は満腹だった。
いわゆる箸休めというやつだ。
だがそれではいけない、狩りに出よう。
獣を殺そう、懐かしい汚濁に浸かろう。
獣を狩殺さねば貴方は弱くなる。
…ギルドに入ると、貴方の良く見知った顔が並んでいる。
金貨10万枚程度、国王にとっては大した額ではないだろう。
戦をするのにこの程度では2、3日も持てば良い方だ。
下手をしたら1日と持つまい。
夜になったので、貴方はギルドにやって来た。
「良いなー俺も勇者と一緒に冒険したかったなー」
「まだそんなこと言って、あんたじゃどう足掻いても無理だったでしょ。
そんな夢みたいなこと言ってないで明日の荷運びのこと考える!」
あの新米戦士はまだそんな事を言っている。
だがわかるよ、夢破れたからこそ夢は甘いものだ。
皆がギルドで情報集め兼宴会をしている。
馬借は荷運びの依頼を受け、錬金術師はポーション作成依頼を受ける。
ちょっとした道具や設備さえあれば依頼の幅も質も大きく広がる。
人と道具は切っても切れない関係だ。
それにしても冒険者とは宴が好きなのだな。
ここでヤーナムなら薪を積んで獣を燃やしている陰気なオブジェが追加されるところだったが。
やはり人間はこうあるべきだ、ヤーナム民とて好き好んで獣に成り果てたわけではあるまいが。
「あっ聞いた?勇者が魔神の手下を…」
「そんな事はどうでも良い…」
「ゴブリン退治だ」
…もう無茶はしないのでは無かったのかな?
彼は相変わらずぶっきらぼうだが、物言いは随分と柔らかくなった。
これは要するにできるならついて来てほしいという意思表示だ。
「来るのか来ないのか、好きにしろ」
「あんたねぇ…」
「…分かってたつもりでしたけど、本当の意味で理解しました。
貴方の行動にいちいち驚いていたら身が持たないということが。
あの良いですか!前にも言いましたけど、選択肢があるようで無いのは相談とは言いません!」
どうやらゴブリンスレイヤーがいつも通りゴブリンをスレイしに行くので彼らについて来てほしいらしい。
報酬は金貨一袋だ。
ゴブリン退治の依頼としては破格らしいが、水の街まで遠征しなければならないらしい。
簡単と言われる仕事で破格…騙して悪いが…。
貴方はとても嫌な予感がした、そして悪い事を考えた後には悪い事は間違いなく起きる。
街までは馬車で移動するらしいが…。
貴方は水の街については知らない
「ああ、狩人は行ったことないの?水路があるおかげで商品も食材も豊富な街よ!」
水路…か。水、水落ち、漁村!うっ、頭が!
恐ろしそうなところだという感想を貴方は抱いた。
妖精弓手は軽い目眩を起こした貴方に胡散臭げな目を向ける。
「…何を考えたかは知らないけど、絶対違うわよ…。
どーせ私たちが行かないって言ったら、一人で行くんでしょ!」
しかし彼の答えは意外なものだった。
「…なら他を当たる」
「あら意外?てっきり一人で行くーとか言い出すと思ったわ」
「…ああ、それも考えたが成功率と確実性を考えればサポートがいた方が望ましい」
要するについて来てほしいという事だ。
素直でない男だ、恥ずかしがり屋なのだろう。
「まぁ結婚式を控えてカミキリ丸もかなり柔らかくなったということじゃな」
「んー良き傾向でありましょうな」
皆もかなり乗り気だ。
内心では皆、彼のことが好きなのだ。
わかるよ、彼は良いやつだからな。
女神官は彼の身を本当に案じているために彼に強く警告した。
「分かりました…けど良いですか!絶対に無茶はダメですよ!
危なくなったら即撤退!傷は確実に治す!約束ですからね!」
「分かった」
彼は意外と素直だ。
「それと、ゴブリンは確実に全滅させること!
それと火も水も毒も…まぁちょっとなら使って良いけど大々的には無し!
それと、事が済んだら私たちと冒険に行く事!あ、狩人もよ!」
「そうなのか?…考えておく…。
狩人はどうする?無理なら別に良い…」
彼は貴方に凄くついて来てほしいと言外に言っている。
貴方は水の都に興味がある、そこでなら獣狩りに役立つ何かを発見できるかもしれないので
ゴブリンスレイヤーの獣狩りに同行すると伝えた。
貴方もなんだかんだ言って彼には甘い、凄く甘い。
貴方は彼が危険を排除するためにはどんな手段でも構わず使うと確信した。
彼は狩りに優れ、無慈悲だ。
だがまだ血には酔っていない、それでも人として使命感と決意が補うだろう。
真に良い狩人だ。
「やった!」
「意外と二人とも素直ですよね」
貴方達6人は水の街へのゴブリン遠征に参加するという話が決まった。
やはり獣狩りか、いつ出発する?貴方も同行する。
「朝一番の馬車を予約しておいた、6人だ」
既に日は暮れ夜になっている
貴方方は各々が朝食を済ませた後に、貸し切った朝一番の馬車に西の街の馬車駅で集合して出発する計画だ。
…夜に獣狩りに行かないとは…貴方も随分と昼の世界に馴染みつつある。
「そんじゃ、帰って寝て体力を回復しますか!
ほら!そうと決まったら狩人も帰る帰る!」
貴方方は各々が自分の寝床で休むことになった。
「なんじゃい、金床は狩人ととうとう同衾かい。
狩人や、気ぃつけるんじゃぞい。
こいつはガサツだからのぉ、寝床から蹴落とされんようにせんとなぁ!」
鉱人導師は貴方方に暖かい言葉をかけてくれる。
彼はおどけているが、貴方方
「なっ違うし!こいつの奥さんが私の友達なだけで…下宿してるだけだし!」
「なっ!?狩人やい…お前さん既婚者だったのか?」
いや、まだ正式に籍は入れていない。
家に一緒に住んでて帰ったら食事を用意していて
夜の営みをして子供もできたらしいが。
「…まぁ確かにその歳で独身は無いとは思っとたがのう…」
「ですが意外ですなぁ、拙僧は狩人殿の結婚生活が想像もつきませんで…。
あいや、これは失礼」
蜥蜴僧侶は謝るが、気にしないでくれ。
貴方自身とてまだ人としての結婚がどういうものか理解したとはとても言えない。
「んむぅそれはそうでしょうな。
誰でも初めては戸惑うもの、ましてや結婚のような人生の大事なら尚更。
力及ばずながら、拙僧は狩人殿の幸運を祈っておりますぞ」
何か違う気がするが合っている気もする。
「…そうか、狩人に子供が出来たことは知らなかったのか…」
ゴブリンスレイヤーは皆に彼に子供まで出来たことは話されて知っていたと伝えた。
「なんじゃい、そんならそうと言ってくれたら良かったのに」
「ああ、俺の子供と彼の子供を将来結婚させようという話だったからな」
これには全員が驚愕した。
「えぇー!ご、ゴブリンスレイヤーさん!もうそこまで話を!?
幾ら何でも先の事考えすぎでしょ!狩人さんも!」
「そうなのか?」
「そうです!」
女神官はまさか生まれてもいない子供の許嫁話が進んでいるとは思わなかった。
「二人とも、結婚式はまだですよね!
でしたら絶対に地母神教会でしましょう!
司祭様にも私からお伝えしますので是非地母神様に信仰心を見せてくださいね!
きっと子宝に恵まれますから!」
…言外に寄進を求められた気がする…。
「あ、そう言えば狩人さんの奥さんって誰なんです?」
貴方以外では彼女に会った妖精弓手が答えた、貴方の口からは言いにくい。
「んー?あそっか、まだ伝えてなかったっけ?
えっとね、こうポニーテールで黒髪黒目のかなり可愛い子よ。
人間の年はあんまわかんないけど、見た目女神官と同じくらいかなー
あんな小さな子と夫婦だなんて実際犯罪よね」
「えっ…」
途端、女神官が昏い目をする。
「狩人さん、それって…」
…貴方は答えない、それが答えだ。
「そんな…私…どんな顔してあの人に会えば良いんですか…。
こんなのって…無理ですよ」
場の雰囲気が途端に重く、暗いものになる。
こればかりは本人同士でしか分かり合えない。
だが貴方は女神官にようやくフォローの言葉をかける。
気にするな…とはとても言えない。
過去を忘れろなどと軽く言えもしない。
彼女は強く生きている、それだけは間違いないと女神官に伝えた。
「…はい、そうですか。
そうですよね、私は…あの人達の犠牲のおかげでこうして生きてられるんです…。
だから、あの人達の分まで…ありがとうございます狩人さん。
私、少し気が楽になった気がします」
…
「ゴブリンスレイヤーさん、狩人さん…。
ゴブリン…やっつけましょうね…」
「当然だ、ゴブリンは皆殺しだ」
だが彼の皆殺しの意味は少し変わったような気がする。
彼も父親になりつつあるという事だ。
貴方と妖精弓手はギルドからの帰り道で言葉を交わした。
「…あの子がやられた時にあの女神官ちゃんもいたんだね…。
言わなかったじゃん」
いう必要はなかった、それに言ったからどうなるというのだ。
余計な詮索は人をより傷つけるだけだ、そうは思わないのか?
「全く…あんたとオルクボルグがやたら馬合うのってやっぱ似た者同士だからだわ。
どっちも変人!」
貴方もそれは良く言われる。
さらにいうともっとキツイ罵り言葉も良く飛んできた。
ここでは精々が『血塗れ野郎』程度なので忘れてしまったのだろうか?
それに事実なので反論の必要もない。
ヤーナム…あの悪夢も遠い昔のような出来事の気がする。
まるで覚めない悪夢のようだったが、ヤーナムの全ては貴方に染み付いて消えない。
「…あの子、大事にしなさいよ。
私もなんとか頑張るから」
妖精弓手、彼女は口が悪いように聞こえる。
だが実際のところ、とても優しい心の持ち主だ。
剣の乙女「あら?月の香り?不思議な人…」