狩人、あるいはケモノハンター   作:溶けない氷

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…狩人よ、光の糸を見たことがあるかね?
とても細く儚い。だがそれは、血と獣の香りの中で、ただ私のよすがだった
真実それが何ものかなど、決して知りたくはなかったのだ


第45話

「これはいかんな、一網打尽にされてしまいますぞ」

「毒気で死ぬとも限らんが、ろくなことにはならんじゃろうな」

「駄目!他に出口は見当たんない!」

僧侶、導師、弓手の3人は毒気を流し込まれた密室からの脱出方法を考えあちこち調べている。。

狩人の密室からの脱出方法は常に一つ、殺して開ける。

だがここには殺すべき相手は存在しない、あるいは扉を叩き壊してもいいだろう。

 

「ど、どうしましょうゴブリンスレイヤーさん!

私は解毒の奇跡を授かっては…」

 

彼は女神官をはじめとする全員に布で包んだ炭を渡した。

活性炭で毒ガスを中和しようと言うのだろうか。

「これ、炭ですか?」

「それと狩人の布だ、毒気を多少は防ぐ。

手持ちの薬草も包んでいれろ、早くしろ死ぬぞ」

 

貴方達は布で口と鼻を覆い、毒気を防ぐことに成功した。

多少息苦しく感じるが、直接毒気を吸い込むよりはマシだろう。

彼は更に道具を取り出した。

「石灰と火山の土だ 

混ぜて穴を塞げ」

「お!コンクリートか!

まさかセメントまで用意するとは、ここまであんなに重いものを用意するとは

「速乾とはいかんがな」

「なーに!風化の術は心得があるわい」

やはり鉱人導師は建築に長けた民族のドワーフらしくセメントの心得があるらしい。

ここは地下だ、探せば水もそこらにあるだろう。

「私が穴を塞いで回る!ドワーフ!術かけて!」

だが貴方はドワーフが術をかける前にやることがあると妖精弓手に伝えた。

「…この際やんなさい!…正直やらせたく無い気もするけど」

 

貴方は装備した毒でも火でも水でも銃火器でもないそれを取り出した。

穢らわしいゴブリン、すなわち汚物の分際でこの神秘に見えるとは幸運だ。

ロスマリヌスのノズルに水銀弾と血を媒介に装填する。

ロスマリヌス

『医療教会の上層、「聖歌隊」が用いる特殊銃器

血の混じった水銀弾を特殊な触媒とし、神秘の霧を放射し続ける

歌声と共にある神秘の霧は、すなわち星の恩寵である

「美しい娘よ、泣いているのだろうか?」』

ゴブリンどもは穴から貴方方に向けて袋に詰めた毒気を注ぎ込んでいるらしい。

であるならば逆もまた可能である。

貴方は穴から外に向けて星の恩寵を注ぎ込んだ。

「Gugyaaaa!」

瞬間、壁の外側から絶叫が聞こえてくる。

…そこには蕩けた銀色の液体に成り果てたゴブリンだったものが広がり

更に毒気の袋を注ぐものがいなくなったことで逆流した毒気により

死体になったゴブリンどもの醜い死体があった。

ゴブリンは醜い、生き様も死体も。

だが汚物とはいえ最後に美しい娘の神秘に見えたゴブリンどもは

正しくなくとも幸運だったろう。

 

「美しい娘よ、泣いているのだろうか?」

 

「…何をしたのかは今は聞かないであげるわ」

平らな娘よ、穿かないのか?

 

「ウェザリング!」

 

導師は速乾の魔法を使い、セメントで毒の漏れ出す穴を塞いでいく。

だがその間も貴方方には別の用意をしなければならない。

「して次はどんな手を打つおつもりですかな?」

「扉の前に石櫃を1つ動かして阻塞にする。

毒気が治れば奴ら、突っ込んでくるぞ」

蜥蜴僧侶、ゴブリンスレイヤー、女神官の3人が石櫃を押して扉を抑える。

 

「こっちも穴を塞ぎおえたわ」

「とはいえ、術は品切れだわい」

「なら武器をとれ」

貴方方は武器を構え、ゴブリンどもが扉を破って突入してくるのを待ち受ける。

外から中に開く構造上、つっかえ棒がわりの石櫃が置かれているのなら扉を破るしかない。

貴方方はそこからゴブリンどもに遠距離武器で迎撃する作戦だ。

貴方も扉の側面に立ち、突入してきた小鬼どもを側面から叩く位置に移動した。

「拙僧も竜牙兵を呼びますかな?」

「わ、私もプロテクションを!」

「頼む」

貴方は女神官の聖壁を案外頼りにしている、獣の膂力の前にも2、3発は耐えられる強固な壁だ。

貴方の女神官への信頼は厚い、だが過信するなかれ。

貴方はゴブリンスレイヤーに毒メスを渡した。

貴方が上の街で手に入れたナイフにヤーナムの毒を塗ったものだ。

獣狩りに毒が用いられることは少ない、獣相手には冗長に過ぎるのだろう。

「助かる」

剣を投げるよりはマシだろう、投げナイフなら既に持っていることだし。

貴方方はそれぞれ武器を構えて敵を待ち構える。

「…表、静かになった」

「毒が逆流して何匹かは死んだろう」

美しい娘の歌声が聞こえないだろうか?

するとドンドンドンと太鼓の音が聞こえてくる。

!するとゴブリンどもが何かで木の扉を叩くと扉に穴が開いた!

ゴブリンどもの膂力でも穴が開くとは、腐っていたのだろうか?

あれなら貴方が叩き斬っても簡単に切り裂けたかもしれない。

次々と顔を出すゴブリンどもに向かって貴方、ゴブリンスレイヤー 、妖精弓手、女神官、鉱人導師はそれぞれの得物で遠距離攻撃を加えていく。

銃弾、矢、石飛礫が雨嵐と扉の裂け目を抜けようとしたゴブリンに襲いかかり次々と死体を生産していく。

「次から次へとキリが無いわね」

矢を三発同時につがえ、別々の標的に命中させながら弓手が愚痴る。

「全く、耳長は相変わらず文句が多いわい!

そら、これで8つ!」

「甘いわね、私は12よ!」

 

次から次へと湧き出てくるゴブリンの大群。

一体どこからこれだけの数が湧き出てきたのやら。

「プロテクションだ、そろそろ支えきれなくなってきた」

「は!はい!」

ゴブリンスレイヤー が指示を出し、女神官が皆を聖壁でガードする。

次の瞬間、部屋の扉も石櫃も跳ね飛ばして巨体が姿を現した!

「ホブ…いやチャンピオンか」

だがどうやらそれだけでは無いようだ、凄まじい腐臭がゴブリンチャンピオンの後ろから漂ってくる!

「Gua!?」

ワラワラと湧いて出てきたゴブリンどもを無視して更に3匹の巨体が貴方方の前に姿を現した。

貴方は久しぶりに世界の悪意を感じ、悪意と狂気に感謝の念を捧げた。

ここは墓、ならば墓守がいてもおかしくはあるまい。

なんの不思議もない。

守り人の長と奴に付き従う2体の残酷な守り人が貴方方とゴブリン双方に無差別に襲いかかってきた!

「んな!?なんなのよあいつら!」

「わしが知るわけないじゃろ!少なくとも味方じゃないわな!」

貴方はあの3体は貴方が受け持つので残りのゴブリン掃討に専念してくれと頼んだ。

慣れた相手だ。

「わかった」

ゴブリンスレイヤーは貴方に3対の相手を託した。

今や部屋にはゴブリンどもと貴方方、そして3体の守り人の乱戦状態となった。

貴方もこのような状況は非常に厄介だ。

ゴブリンどもも後方から更に自分たちにまで襲いかかってくる連中までは予想だにしていなかったようだが女のいる貴方方の方が組み易しと見たのか襲いかかってくる。

ならば貴方のやることは…

貴方は右へ左へとステップしながら守り人の攻撃をゴブリンを盾にしてかわすことにした。

守り人の怪力で振られた武器がそこらへんをうろついているゴブリンどもに命中し、残骸がそこらへんに飛び散る!

普段ならば問題ないが、今はそこらへんにいるゴブリンが攻撃してくる障害物兼守り人への障害となり内臓攻撃が狙いにくい。

「ったく!数が多い!おまけに変なのまで出て来たし!」

「文句言ってもしゃーねーぞ!まだ行けっかの?」

「なん…とか…です!」

 

聖壁で遠距離攻撃をする3人は守られているが、あまり時間はかけられない。

貴方は一気に勝負に出ることにした!

貴方は間合いを取るのではなく一気に踏み込み、最も殺しやすい部分である鉈の守り人に狙いを定めた。

ステップで長と散弾銃を避けあるいはゴブリンを盾にして接近した貴方は振りかぶってくる鉈持ちにここぞというパリィを仕掛けた。

パリィ、銃を使った狩人の基本技術であり相手の体勢を崩す。

そこから更に狩人ならではの技へと繋げる。

内臓攻撃、脳裏に刻んだカレル文字により強化され更に返り血により狩人の生きる意志を回復させる。

貴方は右手を瞬間、獣手へと変化させ相手の中に突っ込み腸を断った!

周囲に内臓と血が噴出し血生臭い匂いが立ち込める!

まずは1匹。

だが次の瞬間、向こう側でゴブリンチャンピオンと戦っていた彼らの悲鳴が貴方の耳に入る。

…貴方は弱くなったのかもしれない、以前なら彼らが死のうと死ぬまいと意にもかけなかったろう。

「いやーっ!」

「プロテクションが!」

「なんたることか!」

「落ち着いて!集中を…キャァ!!」

「耳長娘!この小鬼ばらが!離れんか」

向こうでは彼らの体勢が崩され、全滅の危機に瀕している。

だからどうしたというのだ、死などあまりにも貴方は見慣れているはずだった。

一瞬、時間にすればほんのコンマ数秒だったろう。

だが狩人にとってはあまりにも致命的な瞬間、貴方は彼らに意識を向けてしまった。貴方に攻撃が直撃した!

守り人の長による攻撃が直撃し、貴方は吹き飛ばされた!

凄まじい衝撃で貴方は大量の血を流し、意識を手放しかける。

意識の彼方では女神官が苦悶の悲鳴をあげている、どうやらゴブリンチャンピオンに傷を負わされたらしい。

『ここでまた夢へと戻るのかね狩人よ』

どこか懐かしい、聞いたような声がする。

『私がかつて願ったように、君こそ、教会の名誉ある剣なのだろう?』

いやそんなことは無い、貴方はただの獣狩りだ。

彼のようにはなれない。

『受け取りたまえ、とても細く儚い。

だが、血と獣の香りの中で、ただ私のよすがだった…』

 

ああ、ずっと、ずっと側にいてくれたのか

我が師

導きの月光よ

聖剣の狩人を導いたように今一度貴方をほんの少し導いてくれるだろう。

貴方はいつの間にか剣を持っている。

それは秘匿されるべき深宇宙的神秘の産物やもしれぬ。

 

 

『月光の聖剣

かつてルドウイークが見出した神秘の剣

青い月の光を纏い、そして宇宙の深淵を宿すとき

大刃は暗い光波を迸らせる

「聖剣のルドウイーク」を象徴する武器であるが

その大刃を実際に目にした者は少ない

それは彼だけの、密かに秘する導きだったのだ』

 

失せろ獣ども、貴方の側の人々から失せるがいい。

貴方は月光の聖剣と共に再び立ち上がった。

貴方は折れぬ、ただ狩の中でならば、




おお、そうか…それは、よかった…
嘲りと罵倒、それでも私は成し得たのだな
ありがとう。これでゆっくりと眠れる
暗い夜に、しかし確かに、月光を見たのだと
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