貴方はゴブリンに陵辱の限りを尽くされた女性に近づいていく。
冒険者の骸で出来た十字架に貼り付けられ何も覆うものが無い身体は白い肌と無数の傷、そして小鬼の穢らわしい腐臭漂う体液にまみれ無惨そのものだ。
狩人よ、貴公は狩りに優れ無慈悲で血に酔っている。
あなたは彼女の苦しみも恐怖も共に持って行くべきだろう。
彼女の苦痛を貴方のものとし、より無慈悲になるがいい。
所詮は血塗られた狩人、貴方の犠牲と狂気を世界の贄にするがいい。
この世界の上位者は人を苦しめ狂わせ汚辱の中に落とし込むことに愉悦を感じる狂った連中だ。
神々を殺し、狩り尽くす。
貴方の狂気の旅路の贄が捧げられている。
「う、ああ。
お願いです、もう許してください」
貴方は彼女に触れようとした、かつて教区長の残した頭蓋から啓蒙を得たように。
かねて血を恐れよ。
だがここにいるのは残骸になってなお生きることを望む人だった。
とても弱く脆く、でもとても強く美しいものに貴方には感じられた。
貴方は唐突に何かを思い出す。
『どこ行っちゃったのかな、お母さん。
ホントおっちょこちょいだよね。
大切なオルゴール忘れるなんて』
・・・
貴方は骸の十字架からそっと少女の戒めを解いて抱き下ろす。
「ああ、どなた。やっと来てくれたんですね。
私を助けにきてくれる人がいると信じてました」
貴方は何故ここまで人を救うことに執心するのだろうか。
きっとヤーナムでの経験が貴方を変えた。
何かに心を痛めることで貴方は血に酔っている狩人よりも上位者の赤子よりももっと真に上位の何かになれると感じているのだ。
「私はもう夜に怯えることに疲れました。
貴方のような人が私を救いにきてくれる。
神様にお祈りが通じたのですね。
お願いします、もう私の側を離れないでいてください」
貴方は何も答えない。
何かを約束するには貴方はあまりにも多くの間違いを犯している。
「何故です?
貴方も私を助けてはくれないのですか?
もう夜に怯えて過ごすことには耐えられないんです。
お願いします、私を助けてください」
貴方の腕の中で少女は泣きじゃくる。
・・・
貴方は出来る限り優しく彼女を抱き上げると悪夢の中心から離れようとする。
だがこの悪夢の世界は貴方の物ではない。
彼女の悪夢を狩る事が出来るのは彼女だけだ。
貴方がいつも通りに狩ったとしても彼女の恐怖と悪夢が尽きることはない。
上位者が聞いてあきれる、少女のお願い事一つ叶えられないのだ。
やはり貴方は狩人だ、獣を狩る事が出来ても人を救うことに関しては話にならない。
だが、貴方は出来る限りの優しさと冷静さで彼女に語りかける。
夢の世界でなら・・・
貴方は彼女に鐘を渡した。
《狩人呼びの鐘》
地下の迷宮から発見された。その鐘の音は世界に共鳴する。 最初の狩人はこれを特別な信号として使い別世界の狩り人と共闘したという。
今や夜に戻った狩人は貴方が最後だ。
最後の狩人よ、務めを果たせ。
青ざめた血の探索はまだ始まったばかりだ。
「何でしょう、とても温かくてとても優しい・・・
私、こんなに安心できたのは随分久しぶりの気がします」
少女よ、昼に光として生き夜に怯えるのか。
夜に呼べ、夜の帳が降りるときには狩り人達も戻るのだから。
「ああ、呼べば来てくださるのですね」
狩りは貴方の務めだ、獣狩りは貴方が負うべき業。
少女は鐘を大切そうに両手でしっかりと抱えている。
「獣狩りの狩人様、お待ちしております」
やがて彼女の姿が淡い光に包まれて消えていく。
彼女の目覚めの時だ。
一時の目覚めだが、彼女も忘れてしまうだろう。
だが鐘が何を意味するか、それは昼の彼女も忘れはしないだろう。
夢は現実なのだから。
悪臭と汚辱の世界が薄れつつある、貴方にとっても目覚めの時だ。
《剣の乙女の鐘》
古ぼけた奇妙な銀の鐘
一見すればガラクタに過ぎない。
だがある乙女は終生この鐘を肌身より手離す事はなかった。
その意味を知るのは彼女の子孫の中でも限られているという。
遺志を継ぐ者達さえ知っていればそれでよい。
そういうことも世間にはある。