「あーお腹減った」
「辛抱せい、耳長。かみきり丸が食事するまで儂等も断食の誓いじゃ」
ゴブリンスレイヤーが奇跡により窮地を脱していれば良いのだが。
だが例え彼が倒れても、かれの遺志を継ぐ者はあの牛飼いの女性の中にいる。
辛い遺志だろう、子供が背負うべき遺志だろうか?
もしも貴方がその遺志を断ち切れるなら、悲劇の環を断ち切れるなら。
きっと貴方の呪われた獣狩りの業も少しは報われる。
そう考えれば彼の遺志はあなたが継ぐべきだろう。
貴方は神殿へと辿り着いた 。
寝室の前であの大司教があなた方を待っていた。
心なしか彼女の表情は、いつもと比べて柔らかく明るい。およそヤーナムではあなたが決してみかけなかった表情だ。
「ああ、皆様方。あのお方ならもう大丈夫ですよ」
あなた方5人は、その知らせを聞いて喜んだ。
どうやら奇跡の効果があったらしい。
彼が亡くなっていては、どのような結果になっていようとあなたにとっては負けだった。
彼らもそうだろう。
生き延びる、それが狩り。
夢を見ぬもの、彼らにとっての勝利。
あなたは良い。あなたは呪われている。永久に、呪われている。
それゆえに悪夢を見る。悪夢を見ている。
あなたにとって全てはただ一夜の悪夢に過ぎない。
あなたは目覚めた彼と話をした。彼は反省している。
無謀な行動によって重要なメンバーの一人である彼女を危険にさらし、そして彼ら全員を危険にさらしてしまった。
あなたは指摘した。その中には彼自身も含まれるべきだと。一人でもかければ作戦は成功しない。
彼はそれを基より重々承知すべきだった。
無論あなたが一撃を受けたことも、あなたにとっては反省すべき点だろう。
生きているからこそ反省できる。
生きているからこそ獣を狩ることができる。
どうやら彼と女神官は、今日は休息を1日とるようだ。
他の3人は再び地下水道へと向かう。
あなたも彼らと同行するつもりだった 。
しかしあなたも重傷を負ったということで、今日1日は休みを取るように指示されてしまった。
この程度あなたにとってはかすり傷ですらないというのに。
あなたは輸血の技によって全く回復したと伝えた。しかし、それでもあなたのようなタイプの人間は仕事以外の場での経験も必要だと、ドワーフに押し止められてしまった。
あなたは了承し、彼と女神官、そして女武闘家とも街に出ることを了承した。
あなたにとっては非常に稀な経験だ。
しかし彼ら3人だけでどうにかなるのだろうか?
あなたは彼らの心配をした。
かつてのあなたなら、まずあり得ないことだ 。
あなたは妖精弓手から反論を受けてしまった。
「何言ってるのよ、私たち3人は銀級なのよ。
先輩冒険者が後輩を気遣ってあげているんだから、
遠慮せずに行ってきなさいよ。後輩のくせに、先輩3人の心配なんてホント生意気なんだから」
あなたは窘められてしまった。
なるほど、冒険者としては彼らの方が経験豊富な先輩だ。
彼らの言うことには一理ある。
死に慣れているあなたは経験こそ豊富だが、生きて勝つという経験では彼らには遠く及ばない。
すべては悪夢だった、そう言い切れることのなんと便利で、そして人としてはこれ以上ないほど不完全なことか。
彼は優しい男だ。
彼女とその仲間二人を助けられなかったことを、心から悔やみ、後悔している。
心を痛めている。
かつて、あのヤーナムであなたも同じような経験をした。
やはりあなたと彼は似ているのだろう。
似た者同士で気が合うと噂されていた、それは事実だ。
だが彼は狩人ではなく戦士だろう。
もしや、彼のような者がいたら、あの獣狩りの夜。
その様子はもう少し違っただろうか?
だが、仮定は無意味だ。過ぎたことを考えてみても、時間を巻き戻すことはできない。
たとえあなたが上位者であっても。
あなた方が話し合い今後の予定を決めていると、剣の乙女があなたに話があるらしい。
「よろしいでしょうか?獣狩りの方」
あなたは彼女から恩義を受けた。
あなたの仲間を救ってもらった。ゆえにあなたは彼女の話を聞く義務があるだろう。
ちなみに女武道家は少し嫉妬した。
彼女にとっては、妊娠した新妻の目の前で父親が他の女と浮気している。
そう見えているらしい。
「なぜでしょう。私の夢の中に、あの方、そしてあなたが出てきたのです。不思議ですね。まだ会って少しだというのに」
彼女の胸から、古ぼけた銀の鐘が下がっている。
「何時からでしょうか。あなたがいつのまにかくださった、この鐘。これをつけていると安心できるんです」
ふふっと彼女は柔らかく微笑んだ。
確かにこの女性には魅力がある。
本人がそれを自覚していないが。
女武道家と同じ小鬼に慰み者にされたことで女性としての自信を喪っているのだろうか。
すると女武道家が突然大声で話しかけてきた。
なぜか、彼女の赤子のことをやたらと強調してくる。
「あっそうだ狩人さん?この後で私達の赤ちゃんの服を見に行きません?
赤ちゃんに必要なものをみておきたいんですよ!」
不思議なことだ。女武道家が赤子のことを気にかけている。
ではとあなたは大司教に別れを告げた。
人並みの生活などあなたに許されるはずはない。
しかし一人の女性が望むならそのために尽力するのも、
まあいいではないか。