終にナザリックへと挑む暴君のお話   作:柴田豊丸

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蛮王介入

 

 王国戦士長ガゼフ・ストロノーフと麾下の戦士たちの命は、今まさに潰えようとしていた。

 

 周辺国家最強と謳われたガゼフも、度重なる受傷、敵の集中攻撃によって満身創痍。骨を覆った強靭な筋肉は鉛と化したかのように重く、視界は狭まり、刻一刻と失われていく血は危険域だ。

 身体がその様であるから、その身体を守るべく身を覆っていた防具は更に悲惨だ。鎧の装甲板はひしゃげ、刺突によって穴が開いている。手にした重厚な剣もへこたれ、まともな切れ味は期待できない。

 

 背後の部下たちに至っては、最早立っている者がいない。今や村人は虐殺され家々は焼け落ちたカルネ村に至るまで、部下たちは三十人はいた。同じく襲撃された村々の生き残りを護送するのに元より少なかった数は尚減り、疲労は日々重なり、それでも国と民を守る為に意志を曲げず付いてきてくれたガゼフの誇りたる部下たち──背後で倒れ伏す彼らの内、今は何人命があるか。

 

 このままでは全滅である。元より無理な任務だった。味方の筈の者らに足を引っ張られ、明らかに罠であろう状況に投じられて──それでも王国の民を救う為、王国の地を汚す者共を討伐する為に駆けた。駆けて結果──今この状況だ。

 

「無駄な足掻きを止め、そこで大人しく横になれ。せめてもの情けに苦痛なく殺してやる」

 

 唯一頬の傷以外特徴の無い顔。ガラス玉の様な目。今では其処に嘲笑の色が浮かんでいる。ガゼフを包囲抹殺するべく狩りに勤しんでいた連中──六色聖典のどれか、その指揮官たる男だ。

 

「俺は王国戦士長! この国を愛し、守護する者! 王国の地を汚す貴様らに、負ける訳にはいくかぁああ!」

 

 ガゼフの咆哮も、その男の顔色に波風を立てる事は叶わなかった。

 

 既に幾度か言葉を交わした。向こうからすれば、任務をほぼ達成し、確実に殺す事が出来るからこその行いだろう。

 

 互いの主張は平行線だ。ガゼフも指揮官たる男も、主張は曲げない。己が正しいと信じているのだ──『信じている』という言葉の意味こそ、両者では異なったが。

 

 男は笑う。ガゼフを愚かだと嘲笑う。高々辺境の寒村幾つかと其処に住まう民の何百人──ガゼフ・ストロノーフ一人の命と比べて圧倒的に劣る者の為に、此方の罠に飛び込んできたと。

 

 ガゼフとその部下たちが愚劣な判断の下に動いた結果、法国の偽装部隊があえて生かした数人の村人たち──つい先ほど焼き滅ぼされた村の者も合計して精々が十数人だろう。助かったのはそれだけだ。

 

 対応を後手に回して数百人の村人をむざむざ殺され、そして今まさに値千金のガゼフ・ストロノーフとその部下たちは全滅。其処までして生かせたのは十数人。指揮官たる男、ニグンからすれば余りに馬鹿げている。

 

 全ては王国の数世代に渡る堕落が招いた結果だ。だがそれにしても、目の前のガゼフ・ストロノーフにまともな損得計算の頭があるのならば、国を真に愛するのならば、未来においてより多くを救うために数百数千程度の村人などは見捨てるべきだったのだ。

 

 万の凡人と比較しても尚、ガゼフ・ストロノーフという武力には遥かに勝る価値があるのだから。

 

 男は更に嘲笑の色を深め、しかしほんの僅かな他の気持ちも込めて最後の言葉を送った。

 

「……天使たちよ、ガゼフ・ストロノーフを殺せ」

 

 立っているのも不思議な状態であるガゼフに、多数の天使が迫る。ガゼフの目はそれでも死んでいない。寸前にまで迫った確実な死を前に、まだ抗う気なのだ。

 

 ──愚かな。

 

 幾度も幾度も吐いた言葉を心中でニグンは重ねる。

 

 王国が法国の思惑を外れず、人類の希望の地としてありさえすれば、目の前の男は異種族に対する大戦力の一人として、神の戦士として共に戦う未来すら有り得たかもしれないのだ。

 

 王国の腐敗、人類の足を引っ張る所業が為、こうして道を違えた者を葬らねばならない。人類に余裕など無いというのに。

 

 正しき神の恩寵を理解せぬ不信心者共め、と心で吐き捨てる。最早ニグンの中で、数秒後に迫ったガゼフ・ストロノーフの死、任務の達成は確定している。それでも、死体を拝むまでは気を抜かない。

 

 だから──迫る天使たちがガゼフを串刺しにするその寸前、天空から降り立った異形の存在に、その行いに驚愕した。

 

 天より飛来したその小さな異形は剣の一振りで群がる六体の天使たちを全て斬り殺し、そして傲然とのたまったのだ。

 

「私は人族の敵対者たる蛮族の王、フィーネ・ロート・アルプトラオムである。全ての強者たる人族、その命は我が剣の誉れとして散る定め。同族同士で無駄に散らす事まかりならん!」

 

 

 

 ●

 

 

 

 恐ろしく美しい人間の少女──に似た外見を持つ化け物だった。

 

 腰下まで伸ばした豊かな髪は猛火の如き赤。竜にも似た瞳も同じ。十二、三歳ほどの少女としてなら不自然でない程度の低い身長で、その身を包む戦闘用と思しき衣服とマントも赤なら、肩に担いだクレイモアも赤だ。剣身の中心は色が薄く、刃に向かって赤が濃くなっていて、柄頭と鍔に紅の玉石が光る。

 

 幼い顔付きはされど、見る者全てが平伏したくなるような美を湛えている。あどけなく笑うのならばただ単に可愛らしく、その笑顔の為に老若男女が身を捧げるだろう、幼くして既に絶世の美貌────変な形の眉毛が目立つが──実力と経験を併せ持ち、類稀なる信仰心も備えた陽光聖典の隊員たちで無かったら、戦闘の最中だったとしてもその美しさに目を奪われたかもしれない。

しかし、神々の創り給うた造作とすら思える顔に浮かぶ表情は猛々しく傲慢で、牙を剥いた笑顔は攻撃的だ。

 

 そして、その身が単なる容姿に恵まれた人間ではない証──両側頭部で渦巻き、先端が天を指す巨大な紅角。背中から広がるのは紅蓮の竜翼。

 

「……失った天使たちを再召喚しろ!」

 

 ニグンは部下たちに呼びかけ、そして現れた天使たちと残りの天使たちを自分たちの傍、前方に配する。その背後で自分たちは若干の距離を取る。

 

 先程の剣による一撃は、一度に六体もの炎の上位天使を殺した──少なくともガゼフ・ストロノーフ並みの高い戦闘力を持つ、人間に似た姿の異形。王を名乗る存在。名も姿も記憶に引っ掛かるものはないが、どのように対応するにしろ万全の警戒が必要だ。

 

 人類に敵対すると宣言した異種族──見逃す事などあり得ない、己が役目を思えば殺さねばならない。しかしそれは必ずしも今この場でという意味ではない。

 

 現在部下や自分たちはガゼフ・ストロノーフとその部下たちを殺す為に多少リソースを消耗している。今一度、どのような装備と能力を持っているか分からないガゼフ並みの一撃を放つ異形種の討伐は、業腹だが厳しいと判断せざるを得ない。

 

 ──何故ガゼフ・ストロノーフを助けた? 奴の顔を見れば既知の相手では無いのは明白、ならば本人の言う通りの理由か? 人間の子供に似た姿、角と翼──種族は悪魔か? 伝承や創作にならば時折いる汚らわしき混血児? ──情報が必要だ。

 

 視線の先、外見だけは美しい化け物が口を開いた。状況を判じかねている背後のガゼフ・ストロノーフをちらりと見てから、

 

「お前たちは強いな。軟弱な弱者が多数を占める人族の中で、その武威は傑出したものだろう。両者とも褒めてやる」

 

 遥か上からの目線だが、意外な事に口から出たのは賞賛の言葉。ニグンは心中で驕り高ぶる異種族が、と苛立つが表には出さない。まだ化け物──フィーネ・ロート・アルプトラオムの言葉は続いている。

 

「如何なる理由で争っているかは知らん。だが、その類稀なる武力は同族に向けるものでは無いだろう。私の様な敵に、人族の天敵たる蛮族にこそ向けられるべきだ」

 

 自分の発言に自分で頷きながら、化け物は大真面目にそう言った。

 

「……争いをやめろ、とでもいうつもりか?」

「その通りだ。人族同士で争ってどうする? 本来の敵たる私たちと関係の無い所で、種族としての力が弱まるばかりだろう」

 

 化け物が人間に平和を説くときた。ますます異常な展開である。標的たるガゼフは今なお虫の息で、あとほんの一押しというほど弱った姿で其処にいると言うのに──間の化け物が邪魔だ。

 

「そ」

「群れの指揮官たる魔法詠唱者よ。人類の滅ぼし手たる私が現れたという情報を携え、国に帰るが良い」

「お」

「私、フィーネ・ロート・アルプトラオムは蛮王の名において全ての人族に対し宣戦を布告する。人族共よ、今は無事で返してやる。しかし、いずれ戦場で見えた時には容赦しないぞ。戦士たる誇りと勇気を持って私に挑むと良い。栄誉ある死をくれてやる」

 

 さあ早く帰れとばかりに顎をしゃくる化け物。背後に庇う形になっているガゼフ・ストロノーフに対してもお前も帰れと言い立てている。ガゼフは気力を振り絞って二、三言葉を返した様だが、化け物は全く聞いていない。

 

 ニグンはこの時になって自分の失敗を思い知った。仮にも言葉を話すからには意思疎通によって情報を引き出せるという勘違いだ。

 

 目の前の化け物は言葉を喋る能力があるが、意思疎通の能力は無く会話は成立しない。ふざけた言い分にそれでも返答してやろうとしたニグンを遮る辺り、一方的な宣告であり端から此方の言葉を聞く気は無いと見える。

 

「ニグン隊長!」

 

 傍らから小さく、しかし鋭い声。部下の一人だ。この状況、そしてあの化け物の言動である。細かく言われずともニグンには部下の言いたい事がはっきりと分かった。

 

 人類に対して明確な敵意を持つ、しかも最低でも英雄に近い実力を持つ異種族。更に言えば最早達成寸前まで来ている任務を邪魔する存在。

 

 ──悩む事は無い、死に掛けのガゼフとあのモンスターを討つべきです、とこの部下は言っているのだ。

 

 ニグンも心情で言えば全く同じ気持ちだ。あのような化け物は神の名の下に討ち滅ばねばならない。それこそが六色聖典の本懐である。

 

 しかし、より大きな視点に立てば別の対処も検討すべきだった。

 

 本来このような任務は陽光聖典のやる事では無いのだ。一騎当千の力を持つ者を討伐する任務には英雄級のみが集う部隊である漆黒聖典が望ましい。ガゼフ・ストロノーフ討伐の時点ですら、亜人集落の殲滅などを主任務とする陽光聖典には畑違いな仕事だった。

 

 目の前のモンスターが示して見せた能力は武技を使用したガゼフ・ストロノーフと同じく、一度に六体の天使を切り捨てるもの。それだけ見ると、ガゼフと同時にその部下をも包囲殲滅して見せた陽光聖典の力を持ってすれば、不可能ではない。

 

 しかし、剣に関してガゼフと同等の行いをやってのけたモンスターが、実はそれ以上に強かったら? それは大いにあり得る想定だった。元より人間種より肉体的な能力に優れた種族は多い。そうした優れた身体能力を種族的に持っている者たちは技術的な訓練をしない傾向にあったが、中には力の劣る種族と同じ様に鍛錬を重ね戦士としての技量にも優れた存在はいる。

 

 そうしたモンスターは非常に厄介だ。人間と同じ努力をした身体能力に優れた種族であるなら、元の能力の高さ分だけ同じ技量の人間の戦士よりずっと強敵なのである。

 

 そして目の前のモンスターは未知の種族。特徴的に悪魔かとも思えるが、裏付ける証拠は全くなく、情報は皆無。未知の敵に対してなんら情報を持たないまま挑みかかるのは愚かしいとしか言えない行為である。なすすべなく死ぬ羽目になってもなんら不思議ではない。

 

 例えば、刺突武器に対して高い耐性を持つモンスターに刺突武器しか持たない状態で戦いを挑んでしまうという失敗を犯せば、打撃や斬撃の攻撃手段さえ持ち合わせていれば難なく勝てたにもかかわらず敗北してしまう、という結果に至るやもしれないのだから。

 

 幾多の亜人集落を焼き滅ぼし、数えきれないほどの異種族を葬ってきたニグンからすれば、そうした討滅すべき敵に対する知識は必須のものだ。亜人種や異形種の能力のばらつきは人間種の比ではない。だから冒険者等という兵士とは違う対モンスター専門の傭兵が成り立つのだ。

 

 上空から戦いを見ていて、それでもこうして包囲の只中に一人で割って入ってきた以上、モンスター側にも何らかの成算はあったと見るべきだ。相手が自信過剰な馬鹿でしかないという推測は油断が過ぎる。

 

 それに、平凡な農民数百数千と比べてガゼフ一人の方が価値が高いという話は、陽光聖典にだって当て嵌まる。

 

 強い信仰心、肉体的精神的な強靭さ、一流と言える魔法の腕。陽光聖典はその一人一人が狭き門を潜り抜けた選ばれし存在だ。此処に至るまでの訓練、そして全身を包む装備には多額の国費が掛かっている。一人死ぬだけでも大きな損害なのである。

 

 もし、目の前のモンスターが予想外の強敵で、交戦した結果多数の死傷者を出してしまったら?

 陽光聖典の隊員ならば全員が蘇生に耐えるだろうが、実力は大きく低下する。力を取り戻すまでは予備隊員がその穴を埋めるだろうが──最大動員数は大きく下がってしまう。

 

 ガゼフ殺しもそうだが、本来ならば漆黒聖典の役目だろう。もし真に陽光聖典の働きが必要な状況が訪れた時、部隊がその様では力足りず、人類は大きな損害を被るかもしれない。

 

 それこそ、此処で化け物を見逃した場合よりも大きな損害を。

 

 隊長たるニグンはそうした可能性も考慮して部隊の行動を決断しなければいけないのだ。陽光聖典が怯懦を晒して神に背き、人類が衰退するなどあってはならないが、猪武者と化して命を賭すべきではない時に無駄に死ぬ事も許されない。

 

 命を賭して敵を討つ覚悟、己の命を捨てて人類を救う覚悟は隊員全員が持っている。必要とされた時、ニグンも隊員も己の持てる全てを掛けて異種族を殺すだろう。

 だが、その様な行いは『必要な時』のみ実行すべきなのだ。人類の貴重な戦力であり、人類の明日を左右する存在とも言える陽光聖典は、命の無駄遣いは避けねばならない。

 

 例え一時、敵に背を向ける結果になろうとも。

 このまま引く事が出来ないのは最もだが、場合によっては妥協してやらなくもない。例えば、そう──

 

「……もし我々がお前の言う通り大人しく撤退した場合──お前はガゼフ・ストロノーフをどうする?」

「ニグン隊長!?」

 

 部下の内ニグンの判断に理解が追い付かなかったのだろう数人が叫ぶが、ニグンはそれを黙殺した。選ばれし英才であっても一隊員でしかない者の立場と考えでは、そういう反応もするだろう。

 

 様々な思考を重ねた上でのニグンの言葉に対して、フィーネ・ロート・アルプトラオムの返答は瞬時だった。

 

「部下たちと共に癒して主人の下へ帰らせる。先の宣戦布告を伝えて貰わねばならないからな。実力的にはさほどでもないが、この男の部下たちは倒れる瞬間まで臆せず戦い抜いた。一人として無様に泣き喚く者、逃げ出そうとする者はいなかった」

 

 変わらず攻撃的な笑みで口調は傲慢そのものだが、ニグンの目から見てもその賛辞はお世辞や皮肉では無く、心のからのものだった。

 

「かくあれかしと言える、戦士の鑑だ。ガゼフとやらと同じく、こんな辺境で朽ちさせるのは惜しい。私と戦場で出会う日までは生きていてもらわねばな」

「──チッ!」

 

 ニグンは舌を打った。

 

 それは流石に受け入れられない。ここまで追い詰めたガゼフ・ストロノーフと、既に倒れた戦士達まで生きて王都に帰らせたのでは、此処まで賭けた手間暇と人命は完全に無駄になってしまう。

 

 ニグンが事の次第を上に報告する時、『ガゼフ・ストロノーフは殺せず化け物からは逃げてきました』という事になってしまう。王国くんだりまでハイキングに出かけ別動隊が無辜の人命を散らしに散らし、陽光聖典は目的を達成できず逃げ帰ってきたという事になるのだ。

 

 勿論その完膚なきまでの大失敗の責任を取るのは隊長であるニグンである。フィーネ・ロート・アルプトラオムという不明の脅威を理由に挙げた所で、その情報が一切無いのでは上層部を納得させられない。

 

 法国の上層部はその志は清く能力は高いが、だからこそ、成功寸前まで行ったのにも関わらず全てを台無しにして帰ってきた者には相応の処分をするだろう。フィーネ・ロート・アルプトラオムという不明の脅威とて、『ガゼフ・ストロノーフとその戦士団』を葬る寸前までいった以上、『ガゼフ並みが一人であったなら倒せた可能性もある』と言われればそれまでだ。

 

 ニグンのフィーネの戦力に対する思考は当然の警戒だが、逆に最初の一撃が特別かつ限界で実はそれほど強くないという可能性だって、実際に確かめるまでは同等に存在する可能性だ。

 

 ガゼフ・ストロノーフは殺さねばならない。フィーネを一時見逃すというのは任務達成あっての判断だ。

 

「──それは受け入れがたい言葉だ。だがしかし、我々とて無駄に死にたい訳ではない。そうだな、例えば──」

 

 ニグンは無駄な交渉する様な言葉を掛けて相手の注意を引きつつ、後ろ手に手指で部下に指示を出す。歴戦の部下たちだ、その信号を見逃す様な事は無い。

 

 ──ストロノーフは正真正銘の死に体。気力だけで立って剣こそ構えているが、まともに声も出せないでいるのがその証拠。あと一押しで決着が付く。あのモンスターについてもこちらの攻撃にどう対処するかを見れば情報を得られる。不意を打てば──。

 

 例えガゼフ・ストロノーフより遥かに強い戦士であるという最悪の予想が当たっても、手傷は追わせられるだろう。その手傷の程によって撤退か、そのまま殲滅か決めればよい。

 

 本当の本当にいざとなれば切り札もある、とニグンが判断した。

 

 心にもない事を口では喋りながら、ニグンは部下に分かるように背中で広げた手、その指を一本ずつ折っていく。四、三、二、一、──。

 

「──今だ」

 

 全隊員が一斉に天使を突進させ、フィーネ・ロート・アルプトラオムとガゼフ・ストロノーフを諸共包囲しながら剣を突き出す。如何に優れた戦士であろうと、全周全天から数十という数に一斉攻撃されれば捌き切れない。ガゼフ・ストロノーフの惨状がその証拠だ。

 

 もしあのモンスターがガゼフより強かった所で、背後にいるガゼフをあくまでも守り、生かして返すという目的を捨てないなら負傷は必死だ。自分の身を守る為にガゼフを捨てるならそれで此方は任務完了である──。

 

 などとと考えていた陽光聖典隊長ニグン・グリッド・ルーインの眼前で、不可視の斬撃にて全天使たちが光の粒子となって散った。

 




約九万文字かけてカルネ村に至る展開の遅さ。
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