不死殺し 作:ユルト
八度の妄執と九度目の転機
灰の積もり積もった、廃墟の都市。その中を一人の騎士姿の男が立ち竦む。
いや、正確には道が分からない訳でないのだから立ち竦んでいる訳ではない。ただ、彼の目の前に選択肢があり、それをどうするのかを悩んでいるのだ。
最初の火の炉、そう呼ばれている。既に本来の主たる、グウィン王はおらず、後は篝火を灯すか否か。それを彼の不死人が選択するのみ。
「これで最後となるのだろうか…。私としては終わって欲しいものだが…」
結局、私は篝火に火を灯す事に決めた。
「最初は真実を知らず、フラムトの言葉とただ使命を達成しようと火を継いだ。二度目は真実を知り、絶望したまま火を継ぐことを拒否した。それ以降はどうだったか…」
何度も繰り返し、殺され、殺す。そんな世界に嫌気が差さなかったわけではない。だが、歩みは止まらず、気が付けばここまで来てしまう。
二度目は贖罪だった。自身の太陽を探しているというあのバケツ頭の太陽の騎士、自分の何気ない一言で病み村へ向かい亡者となった呪術師。
如何にか、彼らを救う事は出来ないのかそんな気持ちから二度目は始まった。
だが、それが四度、五度となるとどうだ。もはや、何の為に繰り返し火を継ぐのかすらあやふやになり始める。
確かに自分にはまだ理性がある、だが何度も繰り返し殺し、殺される自分とそこらにいる亡者と一体何が違うというのだ。
やれることは全てやった。これ以上は
自分は
最早、私は
彼のバケツ頭の太陽の騎士がこのどうしようもない世界で眩しく見えた。この救いのない世界で、彼は私に道を示してくれた人の一人だったからだ。
私は太陽神ではなく、自身の太陽を探し続ける彼の姿に神を見て、祈りを捧げていたのかもしれない。
「だが、もうこれで最後なのだろう?何故だろうな…神などもう信じないと決めたのにな」
八度目の世界。繰り返すほど、強くなる敵たち。そんな中、私は感じていた『これ以上自分に出来ることは無い』と。ある意味、これは『お告げ』だなと
「では、最後の火継ぎといこうか」
私は螺旋状の剣が刺さった篝へ手を翳す。すると、火は翳していた手へ燃え移り、私を薪のように燃やしながら火の勢いを強めていく。手の次は腕、腕の次は胴、最後は全身を火が包み込む。
こうして、私の最期の旅路は終わりを迎えるはずだった。
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神々はダイスを振る。死ぬも生きるも賽子の目次第。しかし、何度も同じようなシナリオでは少し刺激が欲しくなる。
▶サプリメントが追加されました。
そう、これはきっと神々の
さあ、今宵の邂逅は不死人を幸福へと導く
それも結局、賽の目次第。
この世界で彼はどのような
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ギルドの受付、そこで二人の女性冒険者と受付嬢が話し合っていた。二人の冒険者は装備からすると恐らく戦士と神官といったところか。
二人の首には鋼鉄のプレート、駆け出しではないがまだまだ油断は出来ない。クエストに慣れ始め、油断するこの頃も死亡率が高い時期だろう。
何事も気のゆるみ始めた時期が一番危険だ。
「新たに発見された謎の建造物の探索ですか…」
「私たちには少し荷が重い気がしますね…もう少し上のランクの方たちが受けるべきではありませんか?」
この二人にはその油断などなく、自身の
「それなのですが、最近、噂になっている未知の遺跡の調査。高ランクの冒険者さん達はそちらに付きっきりでして…」
「あぁ……未知の遺跡が発見されたり、モンスターが湧き出ているんでしたね…」
「ここ周辺は大丈夫だと思っていたのですが…」
「高ランク冒険者が留守の間に未知の遺跡が発見されたと?」
「はい……」
そう、ここ数ヶ月前に未知の遺跡が発見された。ただ遺跡が発見されただけなら、大儲けだがそこまで話は美味しくない。
勿論、そこにはモンスターもいる訳で中々遺跡調査も進んではいないようだ。
「だったら、尚更私たちみたいな低ランクの冒険者では無理ですよ…」
「それなのですが…その建造物の周辺にはモンスターがいないらしく。周辺の村の子供たちが探索したそうなんですよ…」
「なんて危険な事を…」
受付嬢の言葉に神官は呆れ顔で返事する。
夢見がちな子供でもない限り、未知の領域の危険性など理解出来るはずだ。例え、小さなゴブリンの巣だろうとも、相手に有利な地形というのは命に繋がる問題となる。
恐らく、好奇心に負けて行ったのだろうが無事でよかったと剣士は安堵する。
「それで村の人達からは本当に安全なのか確認して欲しいと
「う~ん……どうしようか?」
「受けてもいいと思うけど、偵察ってお世辞にも私たち向きじゃないよね。
受付で悩む三人。二人としては村人達の不安を取り除いてあげたいけど、自分達の
受付嬢としても、提案はしてみたもののあやふやな情報で未来有望な冒険者を危険地帯に送りたくはない。
そんな、沈黙を破ったのは背後から声を掛けてきた別の一党だった。
「では、私たちと一緒にというのはどうですか?」
二人が背後に振り向くと女2人、男2人の一党がいた。構成は盾持ち、魔法、格闘家、戦士だろう。彼らの首には二人の一つしたの等級である黒曜のプレートを掲げている。
「六人なら周囲の安全を確認しながら偵察くらいなら出来ると思います」
「まあ、結局偵察向きな奴はいないが4人や2人だけで行くよりは6人で行った方がましだろうからな」
「目が増えれば……それだけ危険も減る……」
「ああ、閉所でもない限りは人数は多いに越したことは無いな!」
確かに別々に受けるよりも一時的にでも一党を組んで、向かった方が安全で確実だろう。
「えぇっと…それでは6人で偵察依頼を受けるという事でよろしいでしょうか?」
「そうね…私はそれでいいわ」
「うん、私もいいよ」
二人も受付嬢の言葉に同意し、依頼が承諾される。さあ、冒険の始まりだ。
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「………………………一体、何日たった……」
そう呟く。それも仕方ないだろう。彼此、この北の不死院の牢獄に閉じ込められて一週間は過ぎ去ろうとしている。
最初、目が覚めた時は『ああ、またここに戻ってきたのか』と絶望した。結局、このループからは抜けられないのかと。
しかし、二つばかりおかしなことがあった。一つは自身の手に握っているのが愛武器である
それはまだいい。二度目の世界からこのお気に入りの鎧である上級騎士鎧を着たまま、ここに放り込まれていたのだから。その類だろうと一人納得する。
問題はいつまで経っても、あの騎士が来ないのだ。
私が火を継ぐ事となった、あの地獄のような世界を生き抜く目的となった人物。彼がいつになっても来ない。いつもなら、彼が放り込んだ死体にある鍵でこの牢を出るのにだ。
「っち!ダメか…」
カンッ小気味いい音を立てて剣は鉄格子に弾かれる。いつだってそうだ、そういう
「だいぶ前に人間の声がしたから、何者かはいるはずだ…。その声もここ数日は聞いてないが…」
一週間の絶食、只の人間ならば衰弱していくだろうが不死人とは便利なものだ、空腹感を感じない。火継ぎの旅でも飲み食いを空腹を満たすためという理由から行ったことは無い。
口にするのはいつもエストや状態異常を解除する草類、
「クソっ!残る手段は壁を登るくらいだな」
そう言って、壁に手を掛け始めると上から声がする。そこそこの人数なのだろうか?男と女の声と複数の足音。だが、助けだとは限らない。ダークレイスや
だが、声を掛けない事には始まらない。このチャンスを逃したら、こんなところで一生を過ごすことになるのかもしれないのだから。
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不死人は賽を振る。判定は成功だ。冒険者達は彼の声を聞き取り、彼の下へ向かうだろう。
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「ねぇ…今、人の声聞こえなかった?」
そう、女格闘家が言うと他の五人もそれに同意する。確かに男性と思われる声が耳に届いた。つまり、この建造物内に人がいるのだ。
「まさか、村の人?」
「いや、さっき立ち寄った村では誰もいなくなってないらしい。もしかしたら、別の村や通りかかりの人間がいるかもしれないが…」
「ここで話してても仕方ないから、とにかく場所へ向かいましょ。困ってるのかもしれないし!」
六人は声の下へ駆けていく、さあさあ
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徐々に近づく足音。はてさて、来るのは敵か味方か…。そんな私の思考を遮ったのは、
「大丈夫ですか!?お怪我はありませんか!?」
聖職者だろうか?白いローブを来た少女が私へ問いかけくる。少し、あのソルロンドの聖女を彷彿とさせる。
「ああ…怪我などはない。だが、ここから出るには鍵が必要なんだ。周囲に鍵を持っている死体はないか?すまないが鍵を渡して欲しい」
「鍵ですか?…………ありました!これですか?」
「ああ、それをこちらへ投げてくれないか?」
白いローブの少女は言葉に従って、私へ鍵を投げ渡す。少しは疑わないのだろうか?牢屋に入っている不死人など通常なら放置だろうなと助けて貰った身でありながら失礼なことを考える。
「あの~」
「ん?」
「貴方はギルドで依頼を受けた冒険者ですか?プレートを掲げてないみたいですけど…」
「ギルド?冒険者?一体何だそれは?」
「え?」
「え?」
話が噛み合わない。そもそも、この男女たちは何故北の不死院などという何の価値もない場所へ来たのだろう。ここへ好んで来るような者は変人だろう。
………一瞬脳裏に裸、素手でデーモン相手にボクシングをする不死人の映像が流れたが気のせいだ。
「えーっと…つまり、旅人さんですか?」
「旅人…そうとも言えなくはないな」
私の生きる目的はずっと火継ぎの旅だったのだから。旅人のようなものだろう。
「私たちも降りた方がいいでしょうか?」
「いや、ここの構造は把握している。合流したいというのなら先に広場がある、そこで合流しよう」
「わかりました!そちらもお気を付けくださいね」
「ああ、感謝する」
その言葉を境に足音は遠のく、広場を探しに行ったのだろう。それにしても不思議な少女だった。彼女が今までの騎士の代わりなのだろう。
「さて、久々の変化だ。未知とは恐ろしいものだ。だが、新たな出会いというのもいいものだな」
私はこの変化に少し期待を膨らませながら、慣れた通路を歩いていく。
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「なあ、さっきの鎧の人おかしくないか?」
「ええ、そうね。怪しい」
「そうでしょうか?いい人そうではありましたが?」
男戦士と女魔法使いがそういう。それに女神官が反応する。
「だってよ、この建造物は発見されたばかりなのに『ここの構造は把握している』っておかしいだろ?」
「それに装備も旅人とは言えないでしょ、完全に騎士だったわ。彼を解放したのは早計だったかもしれないわね」
「うぅ…そうかもしれませんが…」
「まぁまぁ、相手は一人だし。もし敵対関係になっても6対1だ。数が圧倒的に不利な状況で、襲ってはこないでしょ」
「私たちにできるのは…最低限の警戒をすること…」
「そうそう、むしろ本当に構造を把握してるなら人助けついでに偵察も出来て一石二鳥よ!」
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6人は和気あいあいと歩いている。だが、気を抜いていてはいけない。神の賽とは時として理不尽に振られるものだ。
特に崩れそうな足場で不注意な状態何ていうのは、これはこれは賽を振りたくなるというもの。
今回のダイスの目はどうなった?と神々は覗き込む。
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先頭を歩く、4人一党とそのすぐ後ろを歩く2人。不意に二人のすぐ下の足場がグラリと揺れる。
「しまった!」 「え!?」
女戦士は気付くが時すでに遅し、女神官の方は不意の事故に対応出来ない。こうして、二人は崩れた足場の下へ落ちたのだった。
後半へ続く
豆知識:不死人は数を揃えて、棒で叩き続ければ死ぬ